☆第一次世界大戦前夜、ウィーン社会学会で、シュムペーターは「租税国家の危機」について講演した。本書はその講演録にシュムペーターが加筆・補足したものらしい。
☆世界大戦下で、欧州の国々は国家財政が貧窮していた。特にオーストリアは空前の公債累積。この財政破綻の危機の行方について、戦時経済体制の平時経済体制への切り替えはいかにして可能なのか、つまり租税国家の再資本化はいかにして可能なのかについてシュムペーターは考えを巡らしている。
☆100年も前の話が、今日の金融グローバル危機を脱する方法構築のヒントになるはずもないと思う方もいるかもしれない。しかし、今日のグローバル社会を築いている近代国家の基本構造は、19世紀末以降に確立した欧米・日本諸国と実は変わっていないのである。
☆税金を回収するシステムが近代国家のベースで、官僚機構はその機能を合理的に運営するためのシステムである。国家は常に自らの財政の無限の支出をいかにコントロールするかよりも、いかに無限に税金を回収するかに目が行く。
☆一発税金回収には、戦争が欠かせない。しかし、それは大いなる矛盾もはらむ。いつ果てるともなく戦争は財政を使い尽くす。戦争をやるから財政がひっ迫するのではないのだ。戦争をやらねば税金が回収できない矛盾を近代国家は内包しているのだ。
☆米国発のサブプライム問題。しかし、それはすでに20世紀末から米国で始まっていた住宅バブル。それをあおる金融市場。これらのあたかも無限に金を回収できるかのようなシステムが米国で組み立てられていった。そして9.11。
☆今も続く泥沼のような状態。砂漠に水を撒くような、財政の軍事費への無限の消失。しかし、財政はいくらでも回収できる。と、思っていたのだろう。
☆だが、しかし、24日NYダウはまたまた反落。8378.95ドルに。円は急騰し、輸出企業や製造業は大打撃。日経平均もまた7649円に急落。円が急騰したのは、戦争に直接手を下せない憲法9条と一般市民が外貨で預金したり、オフショアを活用したりする情報を明らかにしない日本の鎖国的金融市場のおかげなのかせいなのか。
☆相対的に日本は安全で、預金力、つまり金がまだ蓄積されているからだ。
☆いずれにしても小さな政府、市場主義をうたってきたブッシュ政権も動かざるを得ない。欧州も日本もそうだ。シュムペーターは自由経済は、危機を乗り越え成功するが、その行方は社会主義だと本書で語るが、この社会主義は、かつてのソ連や東欧、中国共産党のようなシステムではない。あくまでも自由経済、所有権を認めた上で、自由経済をいかに租税国家がコントロール可能にするかという転換を意味する。
☆つまり大きな政府の合理性、正当性、信頼性の構築に切り替わるだろうというのだろう。
☆アメリカの新大統領の流れは民主党のオバマ氏優勢とは、これを意味するのだろう。そういえば、今年のノーベル平和賞は、フィンランドの元大統領マルッティ・アハティサーリ氏だ。それからノーベル経済学の受賞者は、反ブッシュ政権の先鋒ポール・クルーグマン氏じゃないか。
☆ノーベル賞によるスウェーデン・ノルウェーのグローバル危機の脱出戦略?なのか。