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流出雑記 

鯖の旅2 

2012年04月22日 | Weblog

夫の実家は武道具店をしている。平日なので義父と義母は店にいて、義父は新しい商品の営業に来ている若い男性と話していた。店先の義母のばらは新芽をふいている。花を愛でる歳になったなあと言う義父の牡丹も蕾が膨らんでいた。京都の桜はもう終わりだったけれど、福井は今ちょうど散りはじめ。荷物とお土産に焼いたりんごタルトをバイクから降ろす。義父はお酒が好きだが和洋どっちでも来いの甘党でもある。季節だからいちごにしようかと思ったが、りんごの焼き菓子が好きだと聞いたので紅玉を甘く煮たのを乗せて焼いた。箱の中に梱包材を入れたり、タオルを敷いてクッションにしたり割れない思い付く限りの割れない工夫はしてきたが切るまで無事かわからない。

この日は金沢の方に行く予定をたてていた。私がまだ行ったことがなかったのと、夫は連れて行きたいカレー屋があると言っていた。甘みが強い黒いルーのカレーらしかったが調べてみると定休日だった。金沢カレーなら他の店でもいいが、どうするかと考えて、6年前の春、福井に初めて来たときにふたりで行った駅の近くの喫茶店のカレーをもう一度食べてみることに落ち着く。

ビルの二階にあるCOFFEE INN HALFという喫茶店。壁面にびっしり漫画、もとはおそらく白壁だったのだろうが、日焼けと脂で茶色くなったセピア色の店内。同じくセピア色のメニューには飲み物とパンメニューのほか食べるものはインドカレーのみ。数十年かわらないのだろうと思われる。前に食べたとき確かおいしいと思った記憶はあるが、どういうカレーだったか思い出せなくなっていた。キーマカレーだったような気がする。

6年前、唐突に福井に行こうと言い出して、鈍行を乗り継いで福井まで来たのだった。乗り換えで4、50分改札も無人の何も無い駅に取り残され、畦道を歩いたり桜吹雪に吹かれたりしていた。あのときはまだ結婚するとは思っていなかった。

 運ばれてきたカレーはターメリックライスにスパイスで鶏をほろほろになるまで煮込んだチキンカレーだった。それにウィルキンソンのジンジャエール、これも6年前と同じで、6年前と違ったことは、マスターが運んできた水をひっくり返して床を濡らしたこと。夫は高校生の頃ここで初めて家のカレーじゃないカレーと大人のジンジャエールを知ったのだそう。カレーは程よい酸味と辛味がありおいしかった。

金沢までバイクで行くと1時間半はかかるようだった。夫は朝から運転しっぱなしなので金沢までは電車で行くことにする。

鈍行で行こうとしていたが、普通列車は1時間に一本で、次の電車は40分後だった。仕方ないので特急料金1000いくらか払って10分後に来たしらさぎに乗る。

はじめて降りる金沢駅。駅舎は少し京都駅に似ている。ターミナルからバスに乗って兼六園方面へ。

21世紀美術館。特にこれが見たいと思って来た訳ではなかった。企画展に惹かれなかったので、常設展を見れたらいいかと中に入ったが、展示替え中で見れたのはタレルの四角く天井の空いた部屋と屋外の展示だけだった。タレルの部屋は不思議と外の音から遠くしんとして石棺安置室という感じがした。桜の花びらが何枚か落ちている。吐かれたガムの跡もある。雨の日は四角く降る雨を見れるのだろうか。

 

兼六園周辺をぶらぶら歩く。街の雰囲気は姫路に似ている。金箔ソフトというのがあって近付いてみたが完売だった。伝統工芸の金箔と副産物のあぶらとり紙を売っている。
ひがし茶屋町という石畳の街並みが残る茶屋町に行ってみようかと言いながらあまり時間がない。夕方には福井に戻って皆で夕飯を食べに出ることになっていた。手っ取り早く移動するならタクシーだが、行きの思わぬ特急料金の出費もあったのでどうしようと話していたところ、良いものに巡り合った。

レンタサイクル。街のなかに数カ所駐輪場があって、借りて好きな場所に返せばいい。料金は一台200円。これで行こうと決まり、タッチパネルで二台手続きし、料金はクレジットカードで支払うシステムになっている。

知らない街を自転車で走るのは不慣れなバスの行き先を気にしながらより新鮮でずっと気持ち良い。和菓子屋がよく目にとまる。

ひがし茶屋町は京都でいうと花見小路のようなところ。石畳の道の掃除は行き届いていて、整然と並ぶ木の格子の家々の佇まいはうつくしい。

烏骨鶏ソフトというのを売っている店を見つけた。さっきの金箔ソフトの仇討ちに一本買う。プラス200円で金箔を乗せられたが、乗せなくても一本500円なのでやめておく。烏骨鶏ソフトはオフホワイトでクリームチーズのように濃厚。食べ終わるとそろそろ金沢駅に戻らねばならない頃だった。途中少し九谷焼の店に入る。絵付けの華やかな色柄、隣同士でも越前焼の落ち着きとはまた違う雅さ。でもそれぞれの土地柄を感じ納得させられる。時間があれば絵付け体験でもしたかった。

最終的にホームまでダッシュして電車に間に合った。帰宅ラッシュに巻き込まれる。聞き慣れないイントネーションの女子の会話。途中まで満員だったがしばらくすると席があき、少し眠ると福井に着いた。