お昼のニュースを見ていると、今日は世界自殺防止デイだと言っていた。
日本は世界で8番か9番目に自殺者が多く、中高年男性に増えているという。
その一例として、自宅の庭で焼身自殺した夫のことでインタビューに答えるモザイクの妻。
夫の勤めていた会社が経営難に陥り早期退職を余儀なくされ、転職したが長時間に渡る立ち仕事で腰を患い仕事が続けられなくなり、消費者金融で生活費を借り、借金がかさみ、比例して酒量が増え依存気味に。
そしてある日夫は、庭で頭から灯油をかぶり火を点けた。
妻がそれを発見したとき真っ黒になった夫はしゃがみ込んだ姿勢のまま口から煙を出していたと言う。
眼球はどこともなく前方に見開き、イのかたちに開いた口の隙間から煙が静かにのぼる。白目と口からのぞく歯の白だけが際立ち、あとは黒いだるまのような姿が頭に浮かんだ。
それと対面した妻が錯乱したり叫んだり電話したり、事態を把握し感情や思考を動かす前に、はたと、灯油とたんぱく質の焼ける不快なにおいの中、夫らしきものを目で捉えた瞬間の短い沈黙を思った。
一瞬、真空のような時間。
物干し竿、プラスチックのじょうろ、煤けたレースのカーテン、垂れたポトス、焦げた夫、リモコン、クッション、コーヒーメーカー、茶碗、溜まった新聞、アイロンシャツ…。
当たり前のような日常の風景の中に、それを支える為に煮詰まり膿み果てた異様な物体が現れる。
見慣れた暮らしのコンポジションを平然と維持すること、生きようとすることで摩耗し、居場所も体も奪い尽くされ、残された家族の記憶には奈落の穴を穿つ。
日常生活を営むことに追い詰められ、生きていることに喜びを感じる隙もなく、生きることを資本主義の枠の中に組み込まない限りどうにも道はないという事実だけがのしかかる。
妻はマイクを向けられて「夫の死を無駄にしない為にも…」というようなコメントしていた。その言葉、私には理解不能の諦め、肯定、無神経さが根を張っているようで、気丈というのとは違うように見えた。
家族は生垣や網戸に焼け跡が残るその家に今も住んでいる。
日本は世界で8番か9番目に自殺者が多く、中高年男性に増えているという。
その一例として、自宅の庭で焼身自殺した夫のことでインタビューに答えるモザイクの妻。
夫の勤めていた会社が経営難に陥り早期退職を余儀なくされ、転職したが長時間に渡る立ち仕事で腰を患い仕事が続けられなくなり、消費者金融で生活費を借り、借金がかさみ、比例して酒量が増え依存気味に。
そしてある日夫は、庭で頭から灯油をかぶり火を点けた。
妻がそれを発見したとき真っ黒になった夫はしゃがみ込んだ姿勢のまま口から煙を出していたと言う。
眼球はどこともなく前方に見開き、イのかたちに開いた口の隙間から煙が静かにのぼる。白目と口からのぞく歯の白だけが際立ち、あとは黒いだるまのような姿が頭に浮かんだ。
それと対面した妻が錯乱したり叫んだり電話したり、事態を把握し感情や思考を動かす前に、はたと、灯油とたんぱく質の焼ける不快なにおいの中、夫らしきものを目で捉えた瞬間の短い沈黙を思った。
一瞬、真空のような時間。
物干し竿、プラスチックのじょうろ、煤けたレースのカーテン、垂れたポトス、焦げた夫、リモコン、クッション、コーヒーメーカー、茶碗、溜まった新聞、アイロンシャツ…。
当たり前のような日常の風景の中に、それを支える為に煮詰まり膿み果てた異様な物体が現れる。
見慣れた暮らしのコンポジションを平然と維持すること、生きようとすることで摩耗し、居場所も体も奪い尽くされ、残された家族の記憶には奈落の穴を穿つ。
日常生活を営むことに追い詰められ、生きていることに喜びを感じる隙もなく、生きることを資本主義の枠の中に組み込まない限りどうにも道はないという事実だけがのしかかる。
妻はマイクを向けられて「夫の死を無駄にしない為にも…」というようなコメントしていた。その言葉、私には理解不能の諦め、肯定、無神経さが根を張っているようで、気丈というのとは違うように見えた。
家族は生垣や網戸に焼け跡が残るその家に今も住んでいる。