ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

スタートゥインクル☆プリキュア第49話(最終回)「宇宙に描こう!ワタシだけのイマジネーション☆」感想①。

2020-01-26 | プリキュア・シリーズ
 歴代タイトルにおいて「別れ」という主題を初めて前面に打ち出したのは2015年の『Go!プリンセスプリキュア』で、やはりあれは画期であったと思う。10周年記念の翌年で、スタッフにも期するところがあったのだろう。プリキュアさんたちの成長後の姿が描かれたのもあの時が嚆矢だったが、「成長後の姿」とはいってもメンバーのうち3人までは後ろ姿だけの止めカットで、桃キュアの春野はるかでさえ口元までに留まっていた。
 大人になって遠く離れてそれぞれの道を歩んではいても、全員の心はいつも繋がっている。そう示唆されてもいたけれど、とはいえ「再会」のもようが綴られることはなかった。とても潔く、いっそ清々しい終幕だったが、それでも寂寥感は否めなかった。
 ぼくとしては、「ロス」という感覚を初めて味わって、おかげで翌2016年の『魔法つかいプリキュア!』にはどうも乗れないままだった。ほかに私的な事情もあって、結局「まほプリ」は全編の半分ほども見られなかったのだけれど、あとで調べたところによると、ラスト間際でじっくりと時間をかけて、メインキャラ3人の、「別れ」にまつわる悲哀と、「再会」の歓びとがすこぶる丁寧に扱われていたようだ。やはり「Goプリ」のラストについて、「いくら何でもあっさりしすぎてたんじゃないか。」との反省があったのではないか。
 「まほプリ」では、ダブルヒロイン・朝比奈みらいとリコ(人間界での名は十六夜リコ)の成長後の姿がしっかり描かれた。そこも大きな前進だったと思うが、ただし、みらいはまだ女子大生、リコは「魔法学校の教師」ということで、いずれも「社会人」とは言い難い。
 2017年の『キラキラ☆プリキュアアラモード』も、じつはぼくは半分ほどしか見られなかったが、最終話だけは気になったので視聴した。ヒロインの宇佐美いちかはスイーツが大好きで、それが作品のモチーフでもあった。彼女の母・さとみは(NPОに属しているかどうかは明言されぬが)医師であり、「世界中の小さな村を診療のために飛び回っている」設定。いちかはずっと母の不在を淋しく思っていたけれど、いっぽうでは心から慕ってもいた。その最終話では、成長したいちかが、どうやら紛争地域と思しき異国の疲弊した小村で「みんなを笑顔にするため」店を開いてスイーツをふるまっている様子が描かれた。
 現実の生々しさをファンタジーの糖衣でコーティングするこのような手法についてはあるいは意見が分かれるかもしれない。ぼく個人は、平和なニホンで作られる「児童向けファンタジーアニメ」にこういった形で社会との接点を導入するのは有意義だと思う。ともあれここで、成長を遂げ、社会人として活躍するプリキュアが初めて登場した。これもまた大きな前進であろう。
 前作2018年の『HUGっと!プリキュア』は、前半の24話までは熱心に、後半のほうは違和感を覚えながらではあったが、ぼくは全話通して視聴した。ここでは主人公・野乃はなと「はぐたん」、愛崎えみるとルールー・アムール、それぞれ二組の「別れ」が叙された。どちらの別れも悲痛なのだが、ことにまだ小学生で、祖父からの束縛に悩むえみるのほうは深刻で、41話では失語症にまで陥ってしまう。むろん、回復して一回りタフにはなるけれど、それで完全に辛さが払拭されるはずもない。じつにていねいに、周到に、「愛別離苦」が扱われていたと思う。
 その最終49話Aパートで、汽車の形のタイムマシンに乗って、はぐたんやルールーたちは未来へと帰る。こらえきれずに追いすがっても、もちろん追いつくことはできない。いかに心の準備をしていても、悲しいものはやっぱり悲しい。映画史のなかで繰り返し用いられてきたスタイルを使って、存分に別れの悲哀が綴られた。
 Bパートでは、一挙に2030年まで時間が跳ぶ。はなはスーツを着て、町のランドマークとなるほどの立派なビルで社長を務めている(職種は不明)。立ち居振る舞いはあくまでも明るく、社員とともに仲間感覚で邁進しているのが見て取れる。臨月にも関わらず、周囲の忠告を聞かずに出勤していた彼女は、ふいに産気づいて病院に担ぎ込まれる。
 そこにはかつてのプリキュア仲間・女優への道を思い切って産婦人科医を選んだ薬師寺さあやがいる。飛行機を降りたって駆けつけたもうひとりの朋友(とも)・一度は諦めかけたフィギアスケーターへの道を進んで金メダルを得た輝木ほまれと3人で、はなは女の子を産み、「はぐみ」と名付ける(児童向けファンタジーどころか、テレビアニメであそこまで真に迫った出産シーンが描かれること自体珍しいと思う)。そしてそれは、11年前に未来に帰った「はぐたん」との再会でもあった。
 社会人として活躍し、そのうえで、信頼できる朋友や仲間に支えられて「母」となる。これもまたポリティカルには意見の分かれるところかもしれないが、「成長」のモデルとしてはひとつの完成形といえるのではないか。
 いっぽう、おそらくそれと同じ頃、成長してロッカーとして成功している(と思しき)愛崎えみるもまた、幼児の姿で新しく生まれたアンドロイドのルールーと再会を果たす。かつて2人で愛唱した歌を、蘇ったルールーはなぜか覚えていた。本来ならば覚えているはずのない記憶。みんなで過ごした楽しい日々。意識の表面からは抜け落ちても、身体の奥に刻まれたもの、ほんとうに大切なものは、忘れることなどできない。そういうことなんだろう。
 別れ。成長。そして再会。それはあるいは児童向けファンタジーにとってもっとも難しい課題かもしれない。いつまでもファンタジーの中に留まっているわけにはいかない。といって、ファンタジーをすっかり忘れてしまってもいけない。ひとはファンタジーだけでは生きられないが、ファンタジーなしでも生きられない。
 というわけで、『スタートゥインクル☆プリキュア』、平成末から令和にかけての1年間を締めくくる最終話である。


☆☆☆☆☆



 OP前の導入部、いわゆるアヴァンにて、①スターパレスではしゃぎ回るフワと、ふり回されて手を焼くプルンス氏らの様子が描かれ、それに続いて、②ユニの故郷(ほし)レインボーがアイワーンの発明で元に戻ったこと、③ララの故郷サマーンがAIへの過剰な依存を脱し、より人間味の豊かな社会に移行しつつあるエピソードが綴られる。それともうひとつ、プリンセスたちの会話として、④フワの能力がそう容易くは戻らない、ひょっとしたらずっとこのままかもしれない、ということも。
 これらは作中における「事実」で、前48話のラストを受けての後日談だ。
 OPが明けて、自宅の居間で、ひかるの祖父母がテレビを見ている。テレビからは、アメリカの大統領(女性であり非白人でもある)が「日本で初の有人宇宙旅行」を歓迎するニュースが(同時通訳付きで)流れている。「ほんと長生きするもんだわ。」と祖母がいう。「ひかるはどうした。」と祖父。ひかるの母・輝美が「ああ、ひかるなら……。」と言いながら画面左側からフレームイン。ここではまだ、三人とも顔は映らない。
 このくだりもまた、作中における「事実」で、じっさいに起こっていることだ。
 問題はこのあとである。
 シーンが変わって、あの懐かしい水辺で、ひかる、えれな、まどかが「みんな……元気かなあ……。」としんみりしていると、「フゥゥゥワァァァアアアーッ!」と、あの懐かしい声が響き渡って、とつぜんララのロケットが空から現れ、フワ、ララ、ユニとの再会が呆気なく果たされてしまう。そのご次作の主役キュアグレースさんの顔見世があり、ついで5人揃っての変身~バトル。
 このくだりは、いわばカーテンコール、ないしはエキシビションだ。
 あとでわかるが、このパートはすべて、「日本初の有人ロケット」に乗り込む直前に睡眠をとっているひかるの見ている夢なのだ。ひかるが「スターパンチ」を右手で打つのはそのせいだろうし、ほかにもいろいろ変なところがある。ただし、その夢のなかで語られた、「まどかは留学せず、えれなは父の祖国(メキシコ)に留学をした。」という件だけは事実と思われる。


 近未来っぽい電話の呼び出し音が鳴り響き、作中における「現実」がはじまる。薄暗い部屋のベッドで寝ているひかるのようすがちらっと映り(この時点では視聴者にはまだよくわからないのだが)、画面はふたたび、ひかるの実家の居間へと戻る。
 さきほどのシーンの繰り返し。テレビの中で、アメリカの大統領が、
「日本で初めての有人ロケットの打ち上げを、われわれも喜ばしく思います。」
 それを見ながら、「ほんと長生きするもんだわ。」と祖母。「ひかるはどうした。」と祖父。あらためて輝美が「ああ、ひかるなら、」と言い、「今頃、発射の準備でしょ。」とすぐに後の台詞がつづく。そこでアップになった輝美の顔が、短からぬ歳月の経過を示している。「まったく……連絡すると言ったのに。うーん……。」と祖父。
 居間にはもう一人、父の陽一もいる。ひかるにコールしていたのはこの人だった。
「もしもしぃ……」
「やっと出た。」(CVを務める大塚明夫さんのまろやかな美声がいい。ほんの僅かなやり取りなのに、この一風変わった父親の娘に寄せる思いが伝わってくる)
「ごめん、寝てて。」
「寝てたって……(笑)。もうすぐ宇宙へ行くっていうのに。ひかるらしいなあ。」
「あ……はは……」





「よーし!」



 成長を遂げ、「日本初の有人ロケットの飛行士」となったひかるのアップで、Aパート終了。



コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。