ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

『スター☆トゥインクルプリキュア』第47話「フワを救え!消えゆく宇宙と大いなる闇!」考察。①

2020-01-12 | プリキュア・シリーズ


(ひか&ララ)×カパ


えれ×テン


ユニ×アイ


まど×ガル


プルンス氏とノットレイダーたち


 内容紹介のほうは、ひとまず上掲の尊い4(+1)枚の画像を以てこれに代えることとしまして、サブカル&神話マニアの立場から、(旧)へびつかい座のプリンセスさんの意図するところを考察します。


 蛇神というのはほぼすべての民族の神話にあらわれますが、1月6日の記事「蛇神必ずしも邪神に非ず。」で述べたとおり、もともと「禍々しきもの」といった意味合いはありません。
 総じて蛇は、「原初の根源的な宇宙の力」をあらわします。そこから「再生を司るもの」にもなる。ギリシア神話の名医アスクレピオスはその力を借りて死者をすら蘇らせてしまう。そこで冥界の王ハデスがゼウスに苦情を言い、人間同士の相互扶助を快く思わないゼウスが雷霆で彼を殺める。のちにそれを反省し、天界にあげて神々の列に加え、星座にした。それが本来の「へびつかい座」です。


 本作『スタートゥインクル☆プリキュア』は、ほかの12星座ともどもこの「へびつかい座」に「女神」の姿を与え、さらに日本古来のヒュドラ(多頭蛇)である八岐大蛇のイメージを重ね合わせて、魅力的なキャラを造形しました。これまでプリキュアたちの前に立ちはだかってきた敵がみな改心して和解を果たした今、本作における最後の「悪」(つまりはラスボスですね)の役割を担うものとして、申し分のない存在感でしょう。




 もちろん、今作のスタッフは、彼女に「ウロボロスの蛇」のイメージを重ねることも怠りません。




ウロボロスの蛇とは……

ウィキペディアより


ウロボロス (ouroboros, uroboros) は、古代の象徴の1つで、己の尾を噛んで環となったヘビもしくは竜を図案化したもの。


語源は、「尾を飲み込む(蛇)」の意の「古代ギリシア語: (δρακων)ουροβóρος」(〈ドラコーン・〉ウーロボロス)。その後は、同じく「尾を飲み込む蛇」の意の「ギリシア語: ουροβόρος όφις」(ウロヴォロス・オフィス)と表現する。


◎象徴的意味
ウロボロスには、1匹が輪になって自分で自分を食むタイプと、2匹が輪になって相食むタイプがある。2匹のタイプの場合、1匹は何も無い素のままの姿だが(王冠を被っているタイプもあり)、もう1匹は1つの王冠と1対の翼と1対の肢がある。


ヘビは、脱皮して大きく成長するさまや、長期の飢餓状態にも耐える強い生命力などから、「死と再生」「不老不死」などの象徴とされる。そのヘビがみずからの尾を食べることで、始まりも終わりも無い完全なものとしての象徴的意味が備わった。


古代後期のアレクサンドリアなどヘレニズム文化圏では、世界創造が全であり一であるといった思想や、完全性、世界の霊などを表した。
錬金術では、相反するもの(陰陽など)の統一を象徴するものとして用いられた。
カール・グスタフ・ユングは、人間精神(プシケ)の元型を象徴するものとした。
他にも、循環性(悪循環・永劫回帰)、永続性(永遠・円運動・死と再生・破壊と創造)、始原性(宇宙の根源)、無限性(不老不死)、完全性(全知全能)など、意味するものは広く、多くの文化・宗教において用いられてきた。


◎歴史
ウロボロスのイメージは、アステカ、古代中国、ネイティブ・アメリカンなどの文化にも見受けられる。


中国では、新石器時代の北方紅山(ホンシャン)文明(紀元前4700年 - 紀元前2900年)の遺構から、青色蛇紋石で作られた「猪竜(ズーロン)」または「玉猪竜(ユーズーロン)」と呼ばれる人工遺物が発掘されている。これは、ブタのような頭とヘビの胴体を持ち、みずからの尾をくわえた姿をしている。


今日見られるウロボロスの起源となる、みずからの尾をくわえたヘビ(または竜)の図の原形は、紀元前1600年頃の古代エジプト文明にまでさかのぼる。エジプト神話で、太陽神ラー(レー)の夜の航海を守護する神、メヘンがこれに当たり、ラーの航海を妨害するアペプからラーを守るため、ウロボロスの様にラーを取り囲んでいる。これがフェニキアを経て古代ギリシアに伝わり、哲学者らによって「ウロボロス」の名を与えられた。


◎宗教とのかかわり


ヒンドゥー教での自らの尾をくわえる竜
北欧神話では、ミッドガルドを取り巻き、みずからの尾をくわえて眠る「ヨルムンガンド」が登場する。詳細は当該項目参照。
キリスト教や一部のグノーシス主義では、ウロボロスは物質世界の限界を象徴するものとされた。これは、環状の姿は内側と外側とを生み出し、そこに境界があるととらえたため。また、みずからの身を糧とすることが、世俗的であるとされた。ハンガリーやルーマニアのユニテリアン教会では、教会堂の棟飾りにウロボロスが用いられている。
ヒンドゥー教では、世界は4頭のゾウに支えられており、そのゾウは巨大なリクガメに支えられ、さらにそのリクガメを、みずからの尾をくわえた竜が取り巻いているとされている。
トルテカ文明・アステカ文明では、ケツァルコアトルがみずからの尾を噛んでいる姿で描かれているものがある。






 ぼくのほうから付け加えると、「ウロボロスの蛇」は宇宙そのものの成り立ちおよび構造を解くモデルでもあって、村山斉さんの『宇宙は何でできているのか』(幻冬舎新書)の巻頭にも引用されてます。「宇宙という頭が、素粒子という尾を飲み込んでいる。広大な宇宙の果てを見ようと思って追いかけていくと、そこには宇宙が口を開けて待っているというわけです。」
 スタッフはぜったいこの本読んでますよね。




 さて。キリスト教の文脈では、「蛇」はイブをそそのかして知恵の実である林檎を食べさせ、「楽園追放」の原因をつくったものとして忌まれています。唯一不可侵の絶対神を奉じる宗教においては、当の神以外に「原初の根源的な宇宙の力」なんてのを認めるわけにはいかないんですね。
 それで、「蛇」が「禍々しきもの」となり、果ては「悪魔」にまでなってしまう。
 しかし、上記の引用の中にもあった(前にこのブログでも取り上げました)「グノーシス派」では、「蛇=悪魔」は、「人間に知恵を与えたもの」として、むしろ貴ばれました。ゆえにこの派閥は「異端」として厳しい迫害を受けます。




 「蛇=悪魔」は、キリスト教的神話体系において、堕天使ルシファーとも重ね合わされますが、有名な神秘主義者ルドルフ・シュタイナー(1861 文久1 ~ 1925 大正14)は、このルシファーのことを、「悪の二大原理の一つ」と裁断し、「その影響によって人間は能動性と自由意志を獲得したが、同時にそれは悪の契機となった。」と論じています。ほんとうはもっと細かい議論なんですが、ここでは簡単のためにそう要約しておきましょう。








遠目にはやはり十字に見えるようだ。黙示録的なイメージなのだろう




 でも考えてみてください。「絶対者」としての「唯一神」がいて、その下には、ただ唯々諾々とその命じるところに従うだけの「人間たち」がいる、そして他には何もない……という構図だったら、きっと世界は動かぬし、「物語」も動かないのではないでしょうか。そこに「悪魔」が介在してこそ、森羅万象に息が吹き込まれるのではないか……とぼくは思います。




 本作のメインテーマは「イマジネーションの力(=想像力)」なので、すべてがそのキーワード(キーコンセプト)に収斂されますが、言い換えればこれはシュタイナーのいう「能動性と自由意志」でもありましょう。「12星座のプリンセス」たちは宇宙創成のさいにそれを「人間たち(あらゆる知的生命体)」に与えた。しかし、へびつかい座のプリンセスは、それが「歪んだイマジネーション」の源になると、つまりは「憤り」や「悲しみ」や「妬み」、さらには「争い」の源になると言って強く反対し、スターパレスを去ったわけです(あけすけに言ってしまうと、ぼくにはこの方が「まるっきり間違っている」とは思えません)。




 ここが面白いんですね。蛇遣い姫は一見すると紛うことなき「悪魔」に見えますが、じつは人間たちから「想像力≒能動性≒自由意志」を奪い、あまつさえ他の12柱を滅し、ひいては宇宙そのものを虚無に呑ませて破壊し尽し、何もかもをゼロから創り直そうとしている。つまりは、「唯一神」になろうとしているわけです。
 本当に面白い。「現代サブカルの粋を集めて神話を語り直した」ものとして、ぼくにとっては忘れがたい作品となりました。この段階でもう「自分にとってのプリキュアシリーズ最高傑作」に認定したいほどですが、ここはいったん落ち着いて、次週の放映を待ちたいと思います。












2 コメント

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Unknown (もりのさと)
2020-01-13 00:01:45
こんにちは。
遅れましたが、あけましておめでとうございます。引き続き楽しく読んでおります。
短歌は自分の性に合ってるなあ、とよく思います。

eminusさんも書いていらっしゃいますが、『スタプリ』第47話を視聴して、神話のようだなと思いました。
スタープリンセスが宇宙の創造神だったのは驚きましたが(というより、そんなにすごかったの!? とビビりましたが)、年が明けてからスリリングな展開が続いていて、大詰めにふさわしいですね。ラスボスの思想を曲げるのは骨が折れそうですが(そもそも曲げるのか?)、どう収束するのか、楽しみです。

ちょっと……いや、わりと気になったのは、前回、今回で明かされる新事実が多かったことで、スタープリンセスのみなさまはもっと説明してくれ! という感じでした。
あと、第1話に「フワを物みたいに言うな!」というひかるの印象的なセリフがありましたが、プリンセスたちは彼女の爪の垢を煎じて飲んだ方がいいんじゃないでしょうか(笑)。
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フワのこと。 (eminus)
2020-01-13 00:13:41

 おめでとうございます。本年もよろしくです。
 寝る前にちょっと……と思ってブログを開けたら、ちょうどコメントが入っていました。

 たしかに、ここにきて、いささか情報量が多すぎですね。ぼくはむちゃくちゃ愉しんでますが、児童の皆さんに消化できるのかな……。でも名作であり、傑作であるのは間違いないですね。こんな凄い話になるとはまったく思いませんでした。

 そうですね。フワを「器」としか見てないって点では、へびつかいさんも他の12柱も同じですね。ひかるたちとはぜんぜん違う。次週はまさしくそこが焦点になると思いますよ。
 時間があれば、フワにスポットを当てて、今週中にもう一本スタプリの記事が書ければなあと思っています。


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