ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

「これは面白い。」と思った小説100and more パート2  番外編 『六人の嘘つきな大学生』

2024-02-05 | 物語(ロマン)の愉楽
 30 六人の嘘つきな大学生 浅倉秋成 角川文庫
 
 



 

 今回は番外編です。作者は1989年の11月生まれとのことだから、この「『これは面白い。』と思った小説100and more」で紹介する方の中では、初の平成生まれになるのかな。
 official髭男dismとかking gnuとかYOASOBIとかVaundyとかAdoとか、さいきんの若い世代のつくるポップスの進化は目覚ましいけれど、エンタメ小説の領域においても、似たことが起こっているようですね。純文学のほうは、正直よくわからないけども……。
 発端は、2011(平成23)年、あの東北大震災が起こった年。成長著しいIT企業「スピラリンクス」の就職試験が行われ、その最終選考に、6人の大学生が残る。女性ふたりに男性4人。はじめ彼らには「6人で力を合わせてひとつの課題をやり遂げてください。その結果いかんでは、6人全員の内定もありえます。」と告げられるのだけど、彼らがミーティングを重ね、お互いの人柄や能力を認め合って、「ぜったいに6人で入社しような。」と意気投合しているさなか、とつぜん「選考方法が急遽変更になりました。合格者は1名だけです。最終選考日当日、本社にてグループディスカッションをしていただき、全員でひとりを選出してください。」というメールがとどく。
 そして当日、その最後のグループディスカッションの席上、ある「事件」が起こる……。
 こう書くといかにも、作中で登場人物のひとりが述懐するとおり「ソフトでチープなデスゲーム」を連想してしまいそうだけど、けっしてそんな安っぽい作品ではありません。
 特筆すべきは、本作が、「二転三転(いやもっともっと多いけど)する仕掛けを凝らした極上のミステリ」でありながら、同時に「いまどき珍しい純愛ラブストーリー」でもあること。もとよりその両者は別個のものではなく、ストーリーやトリックや人物描写、さらには作品のテーマそのものと見事に絡みあい、響きあいながら、全編を織りなしているわけですが。
 ざっとネットを見たかぎりでは、称賛の声は数あれど、その「純愛ラブストーリー」の側面に気付いている人がほとんどいないようなので、「もったいないなあ。」と思ってる次第。
 ポイントは、Bパートの主人公が「あの人」に向けてそっと呟く「ありがとう」ですね。この人が本当は誰のことが好きだったのか、それをきちんと見極めたうえで、あの「ありがとう」の真意がわかれば、感動はさらに膨らむでしょう。そうそう。それと、ラストにおける主人公のあの「決断」の意味。そこに込められた作者の皮肉……。
 「就活もの」としては、直木賞をとった朝井リョウさんの『何者』が有名で、あれも佳作なんだろうけど、読後感の重さでいえば、ぼくにとってはこちらのほうがずっと上でした。これほどキャラが「生きて」いる小説は、純文学プロパーでもなかなかないから。ただ本作は、芥川賞はむろん、直木賞をとるようなものでもないんだなあ。その理由を書くとネタバレに抵触するし、いろいろと角が立つので差し控えるけど、ともあれ本作が、ジャンルを超えた一流の「小説」であることは間違いありません。










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