ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス

2019-05-18 15:11:44 | な行

フレデリック・ワイズマン監督、

今回は3時間25分!(笑)

 

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「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」70点★★★★

 

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ドキュメンタリーの巨匠、フレデリック・ワイズマン監督の

41作目となる作品。

 

世界中の図書館員の憧れ、という

<知の殿堂>、ニューヨーク公共図書館を追ったもので

上映時間は205分・・・つまり3時間25分!

 

いくら広大で美しい図書館とはいえ

そんなに描くことあるの?と思うけど、

いやいや、

実にさまざまなネタがあることに驚きます。

 

まず

著名人を呼んでの講演会やトークショーあり、

(エルヴィス・コステロやパティ・スミスも登場!)

ピアノコンサートなんかもある。

 

コールセンターに詰める図書館司書たちが

めちゃくちゃ高度な問い合わせに

知識を総動員して、本を探す様子に感嘆するし、

 

デジタル化のために本を撮影する仕事や

返却本のよりわけシステムなど裏側も映る。

 

美しい建築様式、その空間を利用しての

図書館ディナ―パーティ-、なんて催しもあるんですねえ。

 

 

さらに各地域にある「分館」が

紹介されるのもおもしろくて

 

ブロンクス分館では「就職フェア」があったり、

ハーレム地区にある分館ではネット環境を持たない住民のために

モデムの貸し出しが行われていたり。

 

会議では図書館をねぐらにするホームレスにどう対応するか、なんて

問題も話し合われていて

 

へえ~、図書館の仕事ってこんなにあるんだ!と同時に

「図書館」を通じて、ニューヨークのいまが映る、というドキュメンタリーなんです。

 

 

ただ

「ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ」(18年)

場所も広範囲で、出てくる人々も多様で、動的で、寝なかったんですが

今回は会議のシーンも多く、

さすがに、途中、ちょっと眠くなった(笑)。

 

 

それでも

「BANANA FISH」(by吉田秋生)の聖地だし!

見てよかった。

 

そして、ちょっとくらい寝てもいいですが

「場所柄」くれぐれも、お静かに・・・・・・。

 

★5/18(土)から岩波ホールで公開。ほか全国順次公開。

「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」公式サイト

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アメリカン・アニマルズ

2019-05-17 23:14:32 | あ行

 

監督はドキュメンタリー畑の人なのか。

なるほどねー。

 

「アメリカン・アニマルズ」69点★★★★

 

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2004年、米ケンタッキー州。

大学生のウォーレン(エヴァン・ピーターズ)とスペンサー(バリー・コーガン)は

退屈な日常に飽き飽きし

「特別な人間になりたい!」と夢見ていた。

 

そんなある日、二人は大学の図書館に

時価1200万ドル近い貴重な本があることを知る。

 

警備もさほどではない、一介の大学図書館に?

これは・・・・・・

盗んで、大金を手にして、自力で未来を掴むしかねえべ?

 

と、二人は仲間を引き入れ

大胆不敵な強盗計画を実行しようとするのだが――?!

 

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2004年に実際に起こった

大学生による「稀覯本強奪事件」を描いた作品です。

実話が基というので

ふむふむ、と観たのですが

 

 

う~ん、まず単純に

ちょっとイメージとは違った。

 

たとえばカンニング事件を描く「バッド・ジーニアス」(18年)のような、

軽妙かつマジでハラハラ&胸すく犯罪もの・・・・・・ではないんですよね。

 

計画も雑だし(笑)

 

 

ただ、冒頭の「実話基、ではなく、“実話そのもの”」という

テロップはホント。

というのも

実際に事件を起こした本人たちが

ガチで登場するという(すげえ!)。

 

どうやってくどいたんだろう?

証言する家族とかも、本物なんだよね? いや、家族は違うのか?

 

と、観ながら混乱もする

フィクション部分とリアルのこの交差は、ちょっとなかったな、という。

監督のバート・レイトン氏は

ドキュメンタリー畑で活躍してきた方だそうで

なるほどね、という感じ。

 

犯行までの運びが退屈なのも

「やるのか?」「マジでやるのか?」「やるだろ?」「ホントにやるのか?」――という

若者たちのリアルな逡巡、であるわけで。

 

実際に犯行は行われたのか?その結果は?――がミソなので

楽しめるとも思いますが

 

多分に、これは

「あんなことしちまった」という振り返りと「その結果」を見せつける

教訓譚だな、との印象になりました。

 

主犯の一人を演じるのが

「聖なる鹿殺し」(18年)

不気味~な青年を演じ、めちゃくちゃ印象を残した

バリー・コーガンで

やっぱいいよね、彼!

 

★5/17(金)から新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で公開。

「アメリカン・アニマルズ」公式サイト

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僕たちは希望という名の列車に乗った

2019-05-14 23:37:12 | は行

若者たちのまっすぐな瞳が、

いまの世の我々を射抜くのです。

 

「僕たちは希望という名の列車に乗った」72点★★★★

 

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1956年、ベルリンの壁が建設される5年前の東ドイツ。

 

東西冷戦下、ソ連軍が駐留する重苦しい社会のなか、

高校の同級生である

労働者階級のテオ(レオナルド・シャイヒャー)と

エリート一家に生まれたクルト(トム・グラメンツ)は

育つ環境は違うものの、固い友情で結ばれていた。

 

あるとき二人は

自国・東ドイツと同じくソ連の影響下におかれたハンガリーで

民衆が自由を求めて蜂起し、

多くの市民が亡くなったことを知る。

 

クルトは高校の教室で仲間たちに

「ハンガリーのために黙祷しよう」と提案し、クラスメイトたちも賛同した。

 

が、そのことが

「国家への反逆」とされ、クルトやテオたちは

厳しい尋問を受けることになる――。

 

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1956年、ベルリンの壁が作られる5年前の東ドイツで

ある行為から「国家に反逆した」とされた

高校生たちの運命を描いた作品。

 

なんと実話が基なんですね。

 

授業前に、ハンガリー蜂起での犠牲者へ黙祷をした高校生たち。

ごく自然に、思いに従って行動した彼らは

しかし「国家への反逆」を問われ、

首謀者を炙り出そうとする大臣の、執拗な圧迫尋問を受けることになる。

 

 

仲間を裏切り、安寧を手にしても、その事実を背負って後の人生を生きるのか。

あるいは信念を貫き、これからの人生を棒に振るのか。

 

 

10代の未来ある若者たちは

あまりに重い選択を迫られるのです。

 

観る我々は

国家の非道に怒髪天を突きながら

彼らの選択の行方をハラハラ見守ることになるわけで。

 

 

国家、そして己と闘った彼らの姿は

圧政の世で、声を上げることにいかなる勇気が必要か、

しかし、それには、ときに大きな犠牲がつきまとうことを

教えてくれている。

 

63年も前の話ですが、いまの世に十分通じてると感じるところが

また恐ろしい。

 

若者たちのまっすぐな瞳は

いまの世を生きる、我々をも射抜いてくるのです。

 

★5/17(金)からBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

「僕たちは希望という名の列車に乗った」公式サイト

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初恋~お父さん、チビがいなくなりました

2019-05-11 14:01:08 | は行

好きだなあ、いいなあ、この感じ。

 

「初恋~お父さん、チビがいなくなりました」72点★★★★

 

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専業主婦の有喜子(倍賞千恵子)は

夫(藤竜也)と、猫のチビと3人暮らし。

 

結婚50年、3人の子どもたちは巣立ち、

無口で頑固な夫とは会話もないが

まあそんなもの、とあきらめ

チビを膝に、韓流ドラマを鑑賞する日々だ。

 

そんなある日、チビがいなくなってしまう。

 

寂しさがマックスになったお母さんは

ある行動に出るのだが――?!

 

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なんでもない、フツーの話なんですけどね、そこが素敵。

 

倍賞千恵子氏×藤竜也氏の

「いるいる」な昭和すきま風な夫婦が

まったくもって本物のようで、味わい深いったらない。

 

末娘役の市川実日子氏も、とてもいい。

 

深刻になりすぎない、

かといって軽いわけじゃない、

猫も主役の一人だけど、猫映画、ってわけでもない。

 

ちょうどいいあんばいなんです。

 

外出から帰れば、靴下を脱がせてもらい、

口を開けば「お茶!」と一言、みたいなお父さん。

そんなお父さんにも、もう慣れっこで

猫のチビを膝にのせ、韓流ドラマに夢中なお母さん。

 

しかし、ある日、なんとなく夫婦のかすがいだったチビがいなくなり、

お母さんの寂しさ、無為感はマックスに。

 

耐えられなくなったお母さんは――?という展開。

 

ああ、猫一匹と老夫婦、

家に帰れば、いつも「相棒」の再放送(いったい何回見てんだよ・・・・・・

たまに電話で「お父さんがね!」と愚痴ってくる

うちの親も、まさにこれですよ・・・・・・と

困り顔になりつつも、ふっと笑ってしまうような。

 

倍賞さんのお母さんはとてもチャーミングで

藤竜也さんのお父さんも、終始しかめっ面なのに、なんだか愛してしまう。

 

なんでもない日常ドラマって、少なくはないけれど

誰もがこういう味わいを出せるものじゃない。

 

監督の小林聖太郎氏は

「毎日かあさん」(11年)も、とてもよかったし

「ああ、そこ!」というツボを押すのが、上手なんだと思います。

 

そして、今週の「週刊朝日」の「もう一つの自分史」で

藤竜也さんにお話を伺ってきました。

 

ああ、もう素敵すぎて、完全にノックアウト!(笑)

AERAdot.にも記事がアップされております。

映画と併せて、ぜひご一読ください~☆

 

★5/10(金)から全国で公開。

「初恋~お父さん、チビがいなくなりました」公式サイト

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ホワイト・クロウ 伝説のダンサー

2019-05-09 23:50:12 | は行

セルゲイ・ポルーニンが

やっぱり印象、残すよねえ。

 

「ホワイト・クロウ 伝説のダンサー」70点★★★★

 

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1938年、3月。

ウラジオストックに向かうシベリア鉄道のなかで

ルドルフ・ヌレエフは生まれた。

 

6歳のときにバレエ公演を見て開眼した彼は

貧しい暮らしのなか、バレエのレッスンを受け、

その才能を開花させていく。

 

やがてキーロフ・バレエ団に入団し、パリ公演に行った彼は

未知の芸術や文化を貪欲に吸収する。

だが、そんな行動からKGBに目を付けられてしまい――。

 

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「ハリー・ポッター」シリーズの”名前の言えないあの方”でおなじみの(笑)

名優レイフ・ファインズが監督。

(ワシは「ナイロビの蜂」(05年)の大ファンなんですけどね!笑

 

構想20年を経て

1961年にパリで亡命し、世界に衝撃を与えた

ソ連の伝説のダンサー、ルドルフ・ヌレエフの半生を描いた作品です。

 

ヌレエフのことは知らなかったのですが、

映画は、61年の「そのとき」に焦点をあて、

貧しい家庭に生まれた彼が、ソ連バレエ界で頭角を現すまでの鍛錬の日々、

窮屈なソ連を抜けだしてパリ公演に行き、

水槽から放たれた魚のように

狂おしいまでに、自由や文化を吸収するさまを描いている。

 

見ながら、

個人の才能も努力も「国のもの」という状況の苦しさに

「レッド・スパロー」(18年)

を思い出してしまいました。

 

そんななかでひたすらに

自らの高みと、外の世界を渇望したヌレエフ。

 

その

ひたむきで猛烈なパッションを感じつつ

映画のタッチは静かで落ち着いていて

大人な感じなんですよね。

さすが、「名前の言えないあの方」!(ウソウソ)

 

ヌレエフ役を

ウクライナ出身のダンサー、オレグ・イヴェンコが演じていて、ダンスシーンも迫力。

 

さらに同じくウクライナ出身、ドキュメンタリーもヒットした

あのセルゲイ・ポルーニンも、同僚バレリーナ役で出演している。

やっぱり存在感でかいですねえ。

 

映画では深掘りされていない、ヌレエフの一面が

この二人が登場する、ほんのささいなあるシーンの一瞬に映っていて

それもまた、クッ、と来たりするんです。

 

★5/10(金)からTOHOシネマズ シャンテ、シネクイント、新宿武蔵野館ほか全国で公開。

「ホワイト・クロウ 伝説のダンサー」公式サイト

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