ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ドント・ウォーリー

2019-05-03 13:39:08 | た行

ガス・ヴァン・サント監督が

亡きロビン・ウィリアムズの意志を継いだ作品。

そうか、もうあなたはいないのか(泣)

 

「ドント・ウォーリー」71点★★★★

 

*************************************

 

1980年代、米ポートランド。

金髪をなびかせながら、道路を車椅子で猛スピードでかけていく男がいる。

乗っているのはジョン・キャラハン(ホアキン・フェニックス)。

段差でつまづき、道路に投げ出された彼は

ヘコたれもせずに、大声で叫ぶ――「誰か~!」。

 

キャラハンは1972年、酒浸りだった21歳のとき

交通事故に逢い、首から下が麻痺してしまった。

自暴自棄になり、再びアルコール漬けの日々を送っていた彼だが

 

あることをきっかけに

自分にしか描けない「風刺漫画家」としての道を歩むことになる――。

 

*************************************

 

実在の風刺漫画家ジョン・キャラハンの人生を描いた作品。

ガス・ヴァン・サント監督も実際、80年代のポートランドで彼をよく見かけたそうで

車椅子で暴走してるのも本当なんだそうです。

 

で、映画の序盤は

酒浸りなダメ男・キャラハンのキャラが掴みにくく、ちょっとノリにくいんですが

彼がある瞬間に目覚め、

「問題」の根っこに向き合い、依存を自覚し、

マンガを描き始めてからはスルスルとおもしろくなる。

 

震える手で生み出されるマンガは

彼にしか描けないユーモアに溢れていて

例えば、投げ出された車椅子を前に、馬に乗った保安官たちが

「大丈夫、遠くへは行けまい」――と言い合ってる、とかね。(これが、タイトルの元になってる。笑)

もともと皮肉屋な彼の性格や、世間への観察眼も

風刺漫画に向いていたんですねえ。

 

で、彼の「問題」とは

幼くして母親に捨てられた、という経験。

養子に出された家でも疎外感を持ち続けた彼は

「誰からも必要とされてない、愛されていない」と思い、

その寂しさをごまかすために、酒を飲んでいたんですね。

そのせいで事故にも遭い、ますます自暴自棄になり、酒に溺れていく。

 

そんなループから、どうやって脱出するか。

実話なだけに、その過程はとても興味深い。

 

リハビリ施設でのある女性(ルーニー・マーラ)との出会いや(彼女にもモデルがいるそう)

禁酒会での出会いが大きいけど、

やっぱり、本人自身が「何かに気づく瞬間」「変われるタイミング」って、あるんだろうなあと思う。

ティモシー・シャラメ主演の

「ビューティフル・ボーイ」(公開中)もだけど

こういう実話は苦しいときにありがたいし、心の助けになる。

 

その後、キャラハンが

「人を許す」というステップへと進むくだりはウルっとしますねえ。

ベタに甘くはないけれど、フッとした「やさしさ」がある。

ガス・ヴァン・サント監督らしいと思います。

ラストに出るキャラハン本人の写真にもびっくり。

ホントにハンサムだわ(笑)

 

そして

発売中の「AERA」(4/29-5/6合併号)にて

ガス・ヴァン・サント監督にインタビューさせていただきました。

会えただけでもマジ、感激!(笑)

監督の映画は、なぜここまで多くの人の琴線に触れるのか?

壮大なクエスチョンに「う~ん」と悩みつつ

真摯に答えてくださって、マジ感激!

 

本作と「マイ・プライベート・アイダホ」のある類似点にも

ハッといたしました。

お、ちょうどAERAdot.にもアップされました!

映画と併せてぜひご一読ください~

 

★5/3(金)からヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「ドント・ウォーリー」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする