ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

草原の河

2017-04-25 23:55:04 | さ行

日本で初めて
チベット人監督による劇場公開映画。


「草原の河」70点★★★★


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チベットの草原で牧畜民として暮らす
6歳の少女ヤンチェン・ラモ。

父親のグルは、自身の父親と確執があり
それによって村のなかでもちょっと浮いた存在だ。

そんななかヤンチェンは
母に赤ちゃんができたことを知る。

ヤンチェンの心に、不安と苛立ちが
広がっていく――。


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1973年生まれの
チベット人監督、ソンタルジャの作品。

草原に暮らす一家を描き
起こる出来事は極めてシンプルなんだけど
雄大な風景と、そのなかでの牧畜民の暮らしぶり、そして少女の成長に
普遍の魅力があります。

それに
俳優たちの「顔」が実に素敵なんですねえ。

特に終始、すねて不機嫌顔な少女ヤンチェン・ラモが
まるで奈良美智さんの絵のようで(笑)

ヤンチェンもお父さん役のグルも
監督の親戚で、演技は素人なのだそう。

いやあ、いい役者を探してきたものです。
お父さん役グルもカッコイイ。

それにしても
この広い広い草原のなかで
若き父グルが抱える父親との確執も
生まれてくる赤ん坊にヤキモチを焼くヤンチェンの悩みも
人間って
なんとちっぽけなものだろう――と思わずにいられない。

そしてどんな世界でも
子どもも嘘をつくけど、大人も嘘をつく。
「そんなのお互いさまだよと」と草原の風が
笑って包み込んでくれる。

そんな感じでした。

プレス資料にある星 泉先生(東京外語大)の解説によると
父グルとその父との確執の背景には
文化大革命があるとのこと。

僧侶だったグルの父は文革で還俗し、結婚し、グルを授かったけど
時代が変わったことで再び僧院に戻り、家族と距離を持った。
それで父と息子のあいだに、距離が生まれた・・・と解読できるそうです。

チベットの歴史背景も考えると
さらに深いですね。


★4/29(土)から岩波ホールで公開。ほか全国順次公開。

「草原の河」公式サイト
コメント
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