ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ディオールと私

2015-03-12 23:07:39 | た行

これはおもしろかった!

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「ディオールと私」78点★★★★


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2012年。

前任者ジョン・ガリアーノの後
しばし空白だったクリスチャン・ディオールの
アーティステック・ディレクターに就任した
ラフ・シモンズ。

彼の就任初日から、8週間後の初のパリコレ発表までに
密着したドキュメンタリーです。

監督は
「ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ」(2011年)の
フレデリック・チェン。

まず
メゾンの“お針子”さんにかなりスポットが当てられていて、
デザイナーの指示のもと
服が出来上がるまでの工程を見られることが
最高にミラクルでおもしろい。

まあ、なによりも
主人公ラフ・シモンズ氏に魅力があるんですけどね。


人が良さそうで、自信なさげな黒目がちの瞳には
心をくすぐられるわあ(ビーグル犬みたい!)。

さらに
寡黙で内向的な氏の、片腕でありパートナーでもある
ピーター氏(こっちはさしずめアフガンハウンドかな。笑)とのコンビも
実に調和が取れている。

しかし、プライベートなどはほとんど見せず
あくまでも“お仕事ムービー”。

デザインチームの“感性”と、制作チームの“手仕事”がつながる、
その素晴らしさと

それが全員の不眠不休の努力に裏打ちされていることが
とてもよくわかるんですねえ。


ディオール氏の亡霊をうかがわせるシーンなど
ドキュメンタリーの中の演出も巧みだし、

初コレクションまでの集中力やハラハラは
ファッション業界に限らず
“働きマン”のだれにも共感できるものだと思います。


ラフ・シモンズという人は知らなかったのですが
元ジル・サンダーのクリエイティブ・ディレクターで
シンプルを追求するような、ミニマリストだったそう。

その彼が
フェミニンでエレガントで、超ロマンチックな
ディオールの世界に挑戦することになるわけです。

この映画はそうした
「ミニマルとフェミニン」などのニュアンスを
感覚だけでなく、
きちんと言葉で説明する明解さがあって、すごくわかりやすい。

けっこういろんなファッション業界ドキュメンタリーを見てきましたが
プレタポルテとオートクチュールの違いが
ようやくハッキリとわかった気がします。


★3/14(土)からBunkamura ル・シネマほか全国で公開。

「ディオールと私」公式サイト
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ブルックリンの恋人たち

2015-03-11 23:50:01 | は行

映画における音楽の力って
大きいんですねえと改めて。


「ブルックリンの恋人たち」69点★★★★


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モロッコの遊牧民文化を研究している
フラニー(アン・ハサウェイ)のもとに
NYの母から電話がくる。

弟(ベン・ローゼンフィールド)が
交通事故にあったというのだ。

NYに戻った彼女は
昏睡状態の弟を目覚めさせようと
弟の聴いていた音楽を聴き、ライブに行くようになる。

そこでフラニーは
人気ミュージシャン(ジョニー・フリン)に出会うのだが――。


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「プラダを着た悪魔」スタッフが
10年ぶりにアン・ハサウェイとタッグ。

交通事故で意識不明になった弟を
目覚めさせようとする姉(アン・ハサウェイ)が
弟の好きだった音楽から、彼のことを探っていくという話。

先ごろ公開された
「君が生きた証」にちょっとだけかぶる音楽映画です。


アン・ハサウェイはやっぱりチャーミングで
ボーイッシュなショートカットも可愛く
うるうる目に、求心力もある。

なんですが、
これは音楽の好みかもしれない。

彼女の心にズキュンとくる設定の
肝心の曲と、それを歌うミュージシャン(ジョニー・フリン)が
そんなにピンとこないんですよねえ(笑)。


初めて、その音楽が流れてきて「ハッ」と「ピン!」となる
超見せ場の瞬間ってあるじゃないですか。
ブスだった子が、オシャレして、スポットライト浴びて
周りが
「えっ?」となる、あの瞬間と同じ。

そこで
「え?・・・いや、たいしたことない?」ってなると
興ざめじゃないですか(笑)


「君と生きた証」の音楽には
「ハッ」と振り返らせるものがたしかにあったけど

でも、この曲には、そんなに感じなかった。

話も「うーん、やっぱりそうなっちゃう?」な展開があったりね。

悪くないんですが
「はじまりのうた」といい
音楽映画がたまたま続いたんで
ちょっと埋没しちゃったかな。


★3/13(金)からTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国で公開。

「ブルックリンの恋人たち」公式サイト
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イントゥ・ザ・ウッズ

2015-03-10 22:50:07 | あ行

おとぎ話のその後、というのとも
またちょっと違うんだよなー。


「イントゥ・ザ・ウッズ」49点★★☆


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むかしむかし。

子どもが授からないことに悩む
パン屋の夫妻(エミリー・ブラント、ジェームズ・コーデン)は

その理由が
隣に住む魔女(メリル・ストリープ)の呪いだと知る。

魔女から
「4つのアイテムを揃えれば、呪いを解いてやる」と言われた夫妻は
森へ向かうのだが――?!

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ロブ・マーシャル監督×ディズニー提供の
実写おとぎ話ミュージカル。

「おとぎ話の、その後」と聞かされてたけど、
正確に言うと、微妙に違う感じ。

まずは
誰もが知ってるシンデレラやジャックと豆の木、赤ずきんなどのお話を、
一応最初から見せるんですね。

で、ラプンツェルのお話のなかの
パン屋夫妻と魔女(アニメでは違う話だった)を
中心に据えてアレンジし、
そこにシンデレラや赤ずきんなどの
定番おとぎ話を絡め、集約させていく。

「マレフィセント」のような
新視点系とも違うし、
アレンジ・リミックス・バージョンという感じかなあ。

役者は実に豪華なんですが
一番残念だったのは
楽曲にもうひとつ魅力がないこと。

シンデレラ役のアナ・ケンドリックはじめ
みな美声を披露しているけど
曲がどれも似たり寄ったりで、一本調子なんですよねえ・・・。

ハッピーエンドのその後も、たしかに終盤に描かれるんだけど
いまいち冴えず
教訓も無理矢理っぽい(苦笑)

期待が高すぎたかもしれません。

ただね
「シンデレラ」のいじわる姉妹の顛末は
「シンデレラ」(4/25公開)のそれよりも
強烈で印象的でした(笑)


★3/14(土)から全国で公開。

「イントゥ・ザ・ウッズ」公式サイト
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博士と彼女のセオリー

2015-03-09 23:03:23 | は行

本家(笑)アカデミー賞の
主演男優賞受賞作!


「博士と彼女のセオリー」69点★★★★


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1963年、イギリス。

ケンブリッジ大学大学院で
理論物理学を研究するスティーヴン・ホーキング(エディ・レッドメイン)は
同じ大学のジェーン(フェリシティ・ジョーンズ)と出会い、恋に落ちる。

が、その後すぐに
ホーキングの身体に異変が起こる。

そして彼は医師から
残酷な宣告を受けることになる――。

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ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病を持ちながら
宇宙の起源の解明に挑む
天才物理学者ホーキング博士と、彼の妻の物語を映画化。

監督は
ドキュメンタリー「マン・オン・ワイヤー」や
「シャドー・ダンサー」のジェームズ・マーシュ氏。

まずは
ホーキング博士役のエディ・レッドメイン、
ゴールデン・グローブ賞&アカデミー賞受賞だけあって
気迫の演技。

誰もが知っている特徴ある人物に扮することは
さぞかし難しい挑戦だったろうと尊敬します。


なのですが、
役者のせいでなく、天才の描き方が
セオリーどおりなのが、ちと平凡。

天才の頭の中のひらめきを
「そうか、わかったぞ!」的に描くのはあまりにありがちというか

その点で
「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者」が描く
「外から見た天才」視点のおもしろみに欠けるんですよねえ。

結局、ワシが映画に重視するのは
“物語力”なんだなあと。
そこを
「主演男優」「脚色」「脚本」(違うんだよね!これ)と
冷静に分類して評価できるアカデミー会員の方々は
それはそれでプロフェッショナルだよなあと
当たり前だけど、思ったりもして。


まあ実のところこの天才の話は
宇宙のはじまりなど研究テーマが壮大で、

何が解明されたのか、
ワシにはよく分からなかったのも大きいんですけどね(苦笑)。

ただ博士の私生活や子どものことなどは
知らなかったので、おもしろく見ました。

しかし
映画始まる前に、隣のおばさまがサラッと言った
「事実であっても、映画のキモなので
ペラッとしゃべってほしくなかったネタバレ
(しかもご自身もいまプレスを読んで知ったくらいの知識の)」がなければ
もっとドラマを楽しめたかも、と思うと
ものすごく残念です。

★3/13(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。


「博士と彼女のセオリー」公式サイト
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イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密

2015-03-07 19:47:38 | あ行

アカデミー賞ぽつお番長主演男優賞は
ぜひカンバーバッチ氏に!(笑)


「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」80点★★★★


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1939年、第二次世界大戦がはじまったイギリス。

大学研究員のアラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)は
政府の機密作戦に参加することになる。

それは
「ドイツ軍の暗号“エニグマ”を解読せよ」というもの。

エニグマの暗号パターンは無限というほどにあり
しかも1日で設定が変えられてしまう。
解読は不可能とされていた。

はたしてチューリングは
エニグマを解読することができるのか――?!


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これは堪能しました!

常人の粋をこえた頭脳で
コンピュータの基礎を作り出した
実在人物アラン・チューリングを描いた作品。

偉人伝などにせず、
しっかり人間ドラマとして作られており
アカデミー賞脚色賞は納得。


それに
演じるベネディクト・カンバーバッチが
天才数学者に髪の毛1本の、その先端までなり切ってる感じで

こちらもつられて
役柄に憑依するようにスクリーンに入り込みました。


もともと
「数学ネタ」とか「天才ネタ」、さらにミステリー要素も入るなんて
超好みなんですが

この作品は
誰も考えもしない域に到達している人物を
いわゆる“凡人(一般の人)”がどう捉えるのかを
一般の人の視線から、丁寧に描いている点が秀逸だと思った。

つまり、
天才が頭を掻きむしって「閃いた!」とわめくようなことではなく、
周囲の「なんなの?この人」という感じが、
すごーくよくわかる(笑)

で、役者がハンパなく役にフィットしているので
天才の頭脳なかでなにが起きているのかを、
つぶさに見ているような感覚になるんですねえ。

で、天才ゆえの苦悩や孤独に
寄り添えた気にもなれる。

解読チームの紅一点、キーラ・ナイトレイの存在も光ってる。

最後まで緩むところなく
描ききった点も素晴らしいと思いました。

ぜひ!


★3/13(金)からTOHOシネマズ みゆき座ほか全国で公開。

「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」公式サイト
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