ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

小さき声のカノン ―選択する人々

2015-03-06 23:11:11 | た行

鎌仲ひとみ監督の新作です。


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「小さき声のカノン ―選択する人々」69点★★★★


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“核”をめぐる三部作を経た監督が、
福島の原発事故に向き合ったドキュメンタリー。

福島に留まる決断をした母、移住を決断した母
チェルノブイリ事故後のベラルーシで活動する女性……と
さまざまな立場と方法で、
放射能汚染から子どもを守ろうとする“女”たちの声を集めたドキュメンタリー。


女たちの、というのは
本当に「パパ」の存在がほとんど、1割も出てこないから(笑)


取材対象者に気さくに話しかける監督のフランクさが
そのまま映画の見やすさとなり
声をあげる行動につきまとう、とっつきにくいイメージをすり抜ける。

3.11以降、さまざまなドキュメンタリーがあったけれど
避難したくともできない、リアルな事情が
一番、よくわかった作品かもしれません。

困難な中でも諦めずに
「間違いは正していかなくては」とがんばる
彼女たちの前向きさには心動きます。

あと
ベラルーシの状況がやっぱり興味深かった。

現地の専門家が話した
「チェルノブイリ事故後に甲状腺の検査法やシステム作りなどを
日本人が我々に教えてくれたのに
なぜいま、日本人からそのことで取材を受けているのかわからない」には
ガン、ときた。

なんという
シュールな状況なんだろう。

性差なんかをとやかく言うわけじゃまったくないんですが
男たちの側からこの問題を見たバージョンも
ぜひ見たいと思いました。


★3/7(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「小さき声のカノン ―選択する人々」公式サイト
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ソロモンの偽証 前篇・後篇

2015-03-05 23:51:36 | さ行

やはりあの分厚い原作、前後編となったか・・・。


「ソロモンの偽証 前篇・事件」50点「後篇・裁判」60点★★★


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1989年、クリスマスの朝。

登校した中学2年生の藤野涼子(藤野涼子)は
雪の降り積もった校庭で
クラスメートである柏木卓也(望月歩)の死体を発見する。

警察は早々に「自殺」と結論づけるが
涼子のもとに、一通の告発状が届く。

「柏木君は自殺ではなく、殺されたのです」――。

一体、学校で何が起こったのか?

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宮部みゆき原作×「ふしぎな岬の物語」成島出監督。

事件が起こるまでの前篇(2時間1分)と、
事件を中学生たちが自ら「裁判」する後篇(2時間26分)が
時間差で公開されます。


まず前篇。

展開も場面イメージも
原作にかなり忠実にじっくり(ゆっくり)作った感じ。

主人公の少女は
瞳のゆらぎから、ひとつひとつの演技に
めっちゃ真剣で好印象。

しかし先生役の黒木華さんと
顔立ちや雰囲気がかぶってるのが惜しいなあ……。
監督の好みなのかしら?(苦笑)

それに原作先派としては
もっと密に入り組んでいた物事を
あまり糸を絡めずにさらっと置いた感じがあり、物足りない。

大きな軸が
告発状に関係する少女に置かれていたり
妙にホラー感があったりするのも、好みが分かれそう。


そして後篇。

2時間半ほどのうち、ほぼ1時間40分が学内裁判。

なので
前半よりドラマ性少なく、見た目は渋いんですが
主人公・藤野涼子氏の
最後まで“張りつめきった”引っ張り加減が際立って、拍手。

こうしてトータルすると
子どもたちによる、子どもたちのための決着劇、という趣旨を
果たしているな、と感じました。


ただ
(1)前篇、後篇はせめて連続上映でよかったのでは?
(2)後篇2時間26分はやっぱり長すぎるなあ。裁判に入るまでを、もっと縮めてもよさそう。
……とは思った。

役名でデビューした藤野涼子氏の“訴えかけてくる”瞳は
けっこう忘れられません。
今後、どう成長してくるでしょうね。


★前篇・事件は3/7(土)から、後篇・裁判は4/11(土)から全国で公開。

「ソロモンの偽証」公式サイト
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パリよ、永遠に

2015-03-04 22:57:38 | は行

武器も暴力も脅しもなしで
相手を説得することなんて、できるのか――?

いまこそ、学びたいですね。


「パリよ、永遠に」66点★★★☆


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1944年8月25日、未明のパリ。

敗北目前のヒトラーから「パリ壊滅作戦」を命じられた
ドイツ軍人ディートリヒ・フォン・コルティッツ将軍(ニエル・アレストリュプ)は

その作戦の無意味さを重々承知しながらも
職務を果たすべく、動いていた。

そんな彼の前に現れたのは
パリ生まれのスウェーデン総領事
ラウル・ノルドリンク(アンドレ・デュソリエ)。

パリを守りたい総領事とドイツ将軍の
一夜の駆け引きが始まった――!

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「ブリキの太鼓」、そして近作
「シャトーブリアンからの手紙」の
フォルカー・シュレンドルフ監督作品。


パリを爆破してしまえ!というヒトラーから
パリを守った人物のお話で

「パリは燃えているか」に描かれたエピソードでもあり
知っている方は知っている。

そんな歴史の重要な一幕を
二人の主要人物のたった一晩の対話で見せるという、
究極に静かで、洗練されたネゴシエーション劇。

武器ではなく、脅しでなく、
対話だけで相手の心を動かし、説得し、
危機を回避することなど、本当にできるのか……?!

歴史の結末はわかっていても
超ハラハラします。

渋みありまくりな俳優二人の演技といい
見応えあるんですが
いかんせん、映像の動きが少なく
しかも画面が夜で、少々眠気が・・・・・・(あわわ。すいません

とにかく
大人の映画です。


★3/7(土)からBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

「パリよ、永遠に」公式サイト
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妻への家路

2015-03-02 23:53:04 | た行

スピルバーグが号泣、とのこと。
うん、確かに好きそう。


「妻への家路」69点★★★★


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1974年、中国。

ダンサーを夢見る10代の丹丹(チェン・ホウエン)は
主役を演じるべく、練習に明け暮れる日々。

彼女には文化大革命で逮捕された父(チェン・ダオミン)がいるが
3歳で別れたきりだ。

ある日、丹丹と母(コン・リー)に
父が脱走したことが知らされる。

「見つけたら即、通報せよ」と言われ、母の心は揺れるが
丹丹は父に別の感情を抱き――。

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チャン・イーモウ監督×コン・リー主演。
強力タッグによる作品。

観ながら
高倉健氏主演の「単騎、千里を走る。」(05年)を思い出したんですが
脚本が同じ人だった。なるほど。

切なくて哀しいけれど、
思い続ける愛の深さがじんわり染みる、いい話でした。

文革によって引き裂かれた夫婦に起きた
あまりにも悲しい運命に泣ける。


しかしな~
父親もあそこで、妻に別の駅を指定すれば
娘と当局を巻けたのになあとか(苦笑)

映画としての“展開”のおもしろさには
もっと工夫ができたのかなあ、と
そこがちょっと惜しかったかな。


★3/6(金)からTOHOシネマズ・シャンテほか全国順次公開。

「妻への家路」公式サイト
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