ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

そこのみにて光輝く

2014-04-18 16:57:07 | さ行

やばい、綾野剛がいい!

「そこのみにて光輝く」72点★★★★


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北の町。

達夫(綾野剛)はある出来事をきっかけに仕事を辞め、
無為な日々を過ごしていた。

ある日、達夫はパチンコ店で
人なつっこい拓児(菅田将暉)と知り合い、彼の家に招かれる。

貧しい家のなかでは
寝たきりの父と、雑な母親、姉の千夏(池脇千鶴)が
身を寄せ合うように暮らしていた。

達夫は一瞬で千夏に惹かれるが、
千夏はつらい現実を背負っており――。

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何度も芥川賞候補になったものの賞に恵まれず、
1990年に41歳で命を絶った
不遇の小説家・佐藤泰志。

映画「海炭市叙景」の原作者として知られ、
先ごろドキュメンタリー「書くことの重さ」も公開され、

いまの時代、再び脚光を浴びている彼の
“最高傑作”とされる小説を
呉美保監督が映画化した作品です。


もっとどん底に重いかなとイメージしていたんだけど
そうでもなく、

女性目線のよさがあるというか、
呉監督がとても丁寧に優しい手で登場人物たちを描くので
彼らに愛情を持てるんですね。

でも社会の底の風景は確かにあるし、
喉にひりつくような絶望も感じる。

うまい具合に、書き手それぞれの特性で
ひとつの物語を橋渡したような、

原作モノの映画化としては理想の展開ですな。


全体的に池脇千鶴演じる
不遇なヒロインに寄った作りでもあり、

ゆえに綾野剛氏が
彼女を救い出そうとする立場になって
すげえカッコイイ(笑)

女性からの「こうしてほしい」願望が上乗せされて
カッコよさが増幅されるのでしょう。
撮り方のうまさもあるけどね。


惹かれ合っていた二人が最初に
互いの気持ちを確かめ合う場面も印象的で

海のなかで、波の間にポツリポツリと浮かぶ二人の頭が
夢中で相手に泳ぎ寄って行く。
とてもいいシーンだったな。

演出にちょっとした仕掛けを施して
「お」とさせる場面もあり。

ラストシーンもとてもよかったす。


★4/19(土)からテアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

「そこのみにて光輝く」公式サイト
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ある過去の行方

2014-04-17 22:28:23 | あ行

「別離」監督の新作。
否が応でも、期待値が!


映画「ある過去の行方」71点★★★★


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テヘランに住むアーマド(アリ・モッサファ)が
4年ぶりに雨のパリにやってくる。

彼は元妻のマリー=アンヌ(ベレニス・ベジョ)と
正式な離婚の手続きをするために来たのだ。

マリー=アンヌはいま付き合っている男(タハール・ラヒム)と
彼の息子、そして自分の連れ子の娘2人と暮らしていたが
家の中の雰囲気はどこか不穏。

そしてアーマドは、長女から
母と、父になるかもしれない男のある秘密を聞かされて――?!

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イラン映画界の超新星アスガー・ファルハディ監督が
初めて舞台を外国に移し、
「アーティスト」の主演女優ベレニス・ベジョや
「預言者」のタハール・ラヒムなどを演者に

よりグローバルな一歩を踏み出した作品です。


「彼女がいた浜辺」や「別離」のように
ハッキリとした面白さの感触は淡いかもしれませんが

でも
誰も悪人ではないのに、
どんどん悪い方に物事が転がるさまや

無意識も含めた「人の心」を
絵に写し取ろうという試みは一貫していて

注意深く観ると
意味と味が深くなる作品だなと。


例えばファーストシーンで
ガラス越しに
なかなか気づかない男女の様子、

いまの彼氏にマリー=アンヌが
さりげなく重ねた手を払われたりするシーンなどなど

よく見ると
さまざまな「深層」が映っていたことに気づくんですねえ。

我々が体験する日常のなかに潜む
男女の“あや”を
ミステリアスに織り上げる手腕は、さすがだなと思います。


実際、ネタとしては
浮気だったり、相手の妻の自殺未遂だったり、
出来事自体は小さいんだけど

それをどんどん、上手い具合に
加速させていくんだよね、ファルハディ監督は。

中盤、少々眠くなったけど
ラストはさすがピリッとしてました。


★4/19(土)からBunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテほか全国順次公開。

「ある過去の行方」公式サイト
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キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー

2014-04-15 21:40:07 | か行

もうマーベル映画は正直お腹いっぱ~いって
思ってたんですけどね。

「キャプテンアメリカ ウィンター・ソルジャー」72点★★★★


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第二次大戦中に
ひ弱なダメ軍人から“超人”に改造され

70年の眠りから覚め、
再び世界を救ったキャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンズ)。

ヒーロー集団アベンジャーズの一員としても
大活躍したあの戦いから2年。

彼の雇い主である国際平和維持組織シールドは
全人類を監視下に置き、未然にテロなどを防ぐ計画を進めていた。

それを知った彼は
シールドの計画に違和感と疑問を感じる。

そして彼は
女スパイのブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)とともに
組織に追われる身となってしまい――?!

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前作「キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー」より面白かった。
珍しいですねえ、そういうパターン。

話がしっかりしてれば
ヒーローものだっておもしろいのだ!という見本。
ドンパチもアクションも無駄に感じないし。

主人公のキャプテン・アメリカは
第二次大戦中に特殊な薬物投与で
“超人”になり、ヒーローとしてアメリカを助け、
氷漬けでそのままになり70年後の現代に、蘇った・・・という設定。


彼のその“時代錯誤”なキャラ設定が
うまく使われているのが、まずうまい、

彼が70年のギャップを埋めようと
いろいろ勉強したりするのもおかしいし、
(彼のメモ帳に「ベルリンの壁」「スティーブ・ジョブズ」とか書いてある!笑)

そんな彼の生い立ちや純粋さが
国家を守るために国民を監視しようと
暴走するシールドのやり方に疑問を持つという、その動機付けにも役立っている。

「国民監視」話は、SFじゃなく事実だしね。


そんなしっかりした骨格に
しょっぱなのサミュエル・L・ジャクソン演じる長官の大ピンチや
ガチンコのカーアクション

組織内の裏切りや仲間の死
新たな仲間の登場。

敵か味方かわからん
ロバート・レッドフォード演じるシールドの幹部、

マジで殺しにくる容赦ない敵。

さらに
魅力的な強いヒロイン、スカーレット・ヨハンソンの大活躍・・・と
おもしろ要素が集積してくるんです。

“超人ヒーロー”は
すげえ力で敵を倒すだけじゃつまんない。
等身大の人間ドラマと、その背景にある“リアリティ”を伴うことで
こうもおもしろくなるんだな、と

改めて思い知った、という感じ。

単体で見ても楽しめると思いますので
「最近、戦闘ヒーローモノから遠ざかっている・・・」という方にもぜひ!

★4/19(土)から全国で公開。

「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」2D/3D 公式サイト
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チョコレートドーナツ

2014-04-13 23:01:28 | た行

この慈愛に満ちたアラン・カミングの表情、
一生忘れられんよワシ。


「チョコレートドーナツ」78点★★★★


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1979年、カリフォルニア。

弁護士のポール(ギャレット・ディラハント)は
ショーダンサーのルディ(アラン・カミング)に出会い、恋に落ちる。

ルディはある日、アパートの隣室で
母親に見捨てられた
ダウン症の少年マルコ(アイザック・レイヴァ)を見つける。

マルコの境遇を見かねたルディは
彼を保護したいと考え、ポールに相談するのだが……?!

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実際にあった話をモデルにしてもいるそうで
くぅ、切なすぎるぜ……!という映画。

1979年、まだまだゲイに理解のない社会で
ゲイカップルが、
母親に見捨てられたダウン症の少年を引き取り育てようとする。

愛に満ちた彼らといるほうが
実の親といるより断然幸せなはずなのに
しかしそこに、社会の偏見と非寛容が立ちはだかる、という。

悲劇の予感が見える話ではあるんですが、
それでも、グッとくるんですよ。

なんといっても
ルディ役アラン・カミングの慈愛に満ちた表情!

このうえなく、心を揺さぶられるんですねえ。


ルディがなぜ、マルコをそこまでほっとけなかったのか、
最初はいまいちピンとこなかったけど
時間を経て噛みしめると
だんだん腑に落ちてくる。

理屈じゃねえんだよ!って。

プレス資料に
LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)支援で知られる
山下敏雅弁護士が
「ルディの理屈ではない、素朴で強い感情」という言葉を寄せていますが

ホントそのとおり!と、膝痛くなるほど打ちまくる、みたいな(笑)


ただ
97分なのはいいんですが、
もうちょっと描いてもよかったのでは、と思う部分もある。

3人の幸せな時間の表現のしかたとか

マルコがせがむ、ベッドサイドストーリーを
さわりだけしか話さないとか。

ちょっともったいない気もするんですが
それでも
構築が、構成が、バランスがどうの、という理屈を
アラン・カミングのあの表情が、吹っ飛ばすんだよなあ。

ワシ10代で見た「蜘蛛女のキス」が
おそらく生涯ベスト5に入り続けると思うのですが
このアラン・カミングの表情は
あのウィリアム・ハートに迫るかもしれない、と思いました。


アラン・カミング自身も
現在のパートナーは同性で
市民権運動や性教育に関する活動を積極的に行い
LGBTの理解に努めているそう。素晴らしいですねえ。


邦題もうまいし、
こっちのチラシもナイスだよねえ。


ちなみに現在のアメリカでは
LGBTが里親になるケースは増えており

いまだったら彼らの状況も
違ったかもしれませんが
それでもミシシッピ州とかユタ州では
同性カップルには養子縁組が認められないのだそう。

さらに
LGBTと里親制度を考えるRFC代表の藤めぐみさんによると
「日本での状況は当然まだまだ」とのことで
考えるべきこと多い題材です。


★4/19(土)から銀座シネスイッチほか全国順次公開。

「チョコレートドーナツ」公式サイト
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8月の家族たち

2014-04-12 17:32:15 | は行

このチラシをみて、
「これは喜劇なのか?」と、思いません?

でも、すごいことになりました。


「8月の家族たち」74点★★★★


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オクラホマ州の片田舎で、
三人娘を巣立たせた、初老夫婦が暮らしている。

夫ベバリー(サム・シェパード)は
がんの治療中である妻バイオレット(メリル・ストリープ)の面倒を見ていた。

バイオレットは薬のせいか、性格なのか
攻撃的な態度を取るなど、かなり情緒不安定だ。

そんなある日、コロラド州に住む二人の長女バーバラ(ジュリア・ロバーツ)のもとに
「父が行方不明になった」と連絡が入る。

そしてオクラホマの実家に
家族たちが集まってくるのだが――。

*****************************


前半までは58点くらいかと思った。
でも、すごいことになった。

いやはや、喜怒哀楽の折り詰めで
ラストは、なんだなんだギリシャ悲劇か?という。


家長がいなくなり、バラバラだった一家が集まる。
個性豊かな姉妹やその夫たちがドタバタを繰り広げるのは
まあ、よくあるシチュエーション。

最初はまさにそんな
セオリーどおりに進むのですが

だんだん
いわゆるホームドラマにしては

家族の闇も、関係のひだも、ケンカも
生易しいものではないことになっていく。

一家の家があるオクラホマの
がらーん・・・とした平原の風景そのままに、
家族の間に吹く、埃っぽくくすんだ空っ風のような、
荒んだ空気がハンパないんですわ。

口さがない母親に加え、 娘たちも決して優良ではない。

クリス・クーパーが
「ここの女たちの口の汚さは理解し難い!」と
ブチ切れるのも、よーくわかるわあ。

それに役者もよく揃っている。

ジュリア・ロバーツの夫にユアン・マクレガー、
その娘役にアビゲイル・ブレスリン、

クリス・クーパーの息子に
ベネディクト・カンバーバッチ。

次女役のジュリアン・ニコルソンもいい。

そして、真打ちメリル・ストリープの
まさしく「ヘビのひと睨み」な凄みに
ゾクッと身をすくめるのも悪くない体験です(笑)

死ぬまでに、こういう上質な家族ドラマに、
あといくつ出会えるかなとか、ふと思うような。

ただラストは
2カット前で終わってよかったな。

さあ、どっちへ――?でね。


★4/18(金)からTOHOシネマズシャンテほか全国で公開。

「8月の家族たち」公式サイト
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