ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ワンチャンス

2014-03-20 23:23:02 | わ行

イメージどおりの映画ではあるけれど
やっぱり歌って響くよね~。


「ワンチャンス」70点★★★★


****************************

イギリス、ウェールズに住む
ポール・ポッツ(ジェームズ・コーデン)は

子どものころから、太めでいじめられっ子だった。

成人したいまも、生まれた町で両親と同居し、
携帯ショップで働いている。

しかし、彼にはある特技があった。

それは“歌”。

幼いころからずっと
オペラ歌手を夢見ていたが

工場務めの父(コルム・ミーニイ)には
息子の夢がリアルなものとは思えなかった。

だが、あるときポールにチャンスが巡ってきて――?!

****************************


イギリスのオーディション番組から
人気歌手となった実在人物ポール・ポッツの半生を
「プラダを着た悪魔」のディッド・フランケル監督と
「最高の人生の見つけ方」のジャスティン・ザッカム脚本で描く作品。

ヒューマンドラマの達人の手による
“よい実話”ってことで
間違いナシ、ではありました。


主人公だけでなく、
ポールの彼女となるお嬢さん(アレクサンドラ・ローチ)が
とてもキュートで人柄がよいのが
高得点ポイント。


記事にするなら
「夫婦ストーリー」として取材&構成したいわ、という(笑)。

家族ドラマ、さらに
父と息子のドラマとして、笑いもたっぷりで微笑ましい。

ここぞという時に力を発揮出来ず、
チャンスを不意にしっぱなしの主人公が

さあ、どこで人生最大の“ワンチャンス”を掴むか……?!

現在進行中のドラマでもあることも含め
見どころですね。

実在人物を演じる
ジェームズ・コーデンもやりにくかっただろうけど
自然にこなしているし、

ポール・ポッツ氏による歌も聴きどころ。


まあ、それにしてもスゴイのは
オーディション番組の審査員であり、仕掛け人でもあり
本作の製作でもある
サイモン・コーウェル氏ですねえ。

スーザン・ボイルや、ワン・ダイレクションを生み出し
そのプロデュースを手がけ、
まあ日本でいえばAKBかモー娘。か、というポジションでしょうが

世界レベルの大ヒットを生み出す
先物買いの目と、戦略はさらにスゴイんでしょうね。


さらにもうひとつの見どころは
主人公の父親役のコルム・ミーニイ。

アイルランド出身の演技派で
来週末公開されるアイルランド舞台の映画
「ダブリンの時計職人」に主演してる。
こちらも要チェック!


★3/21(金)からTOHOシネマズ有楽町ほか全国で公開。

「ワンチャンス」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オーバー・ザ・ブルースカイ

2014-03-18 20:57:20 | あ行


今週は高得点ウィーク!


「オーバー・ザ・ブルースカイ」76点★★★★


*************************

アメリカに憧れるベルギー在住の
ブルーグラス・ミュージシャン、デディエ(ヨハン・ヘルデンベルグ)と
全身にタトゥーを入れた
タトゥー・アーティストのエリーゼ(ヴェルル・バーテンス)は

町で出会い、激しい恋に落ちる。

やがてエリーゼは歌の才能を開花させ、
二人は同じステージに立つようになる。

結婚し、娘も生まれ、
幸せだった彼らだったが――。

*************************

本国ベルギーで大ヒット、
各国映画祭で大絶賛!という作品。


ポスターの印象から「イケイケ映画?」と思われた方、
冒頭からの展開にけっこう驚くかもしれない。

冒頭シーンは小児病棟。
彼らの幼い娘が病気になるところから
物語が始まるのだ。

そして映画は
夫婦の火花を散らすような熱い恋があった過去と
二人の関係が引き裂かれつつある現在とを
行ったり来たりして進んでいく。


全体に悲劇といえば悲劇なんだけど、

過去シーンの生き生きとした生の輝きが
すごく素敵で

「喪失を以って、生を知る」鑑賞後感は決して悪くない。


心情と呼応し寄り添う音楽の使い方も
実に気持ちがいいのですわ。
(ブルーグラス、という音楽。実はカントリーに似て、違うものだそう。
詳細は来週発売の『週刊朝日』ツウの一見にて!)

実際に歌ってる主人公たちが
うまくて仰天します。

ほかにも
映像にしまわれた暗示、それを引き立たせるカメラワークも
映画の教科書のように、うまくいってる。


思い返しても鮮烈に蘇るシーンばかりで

たとえば冒頭、
病室で若い母親が
幼い我が子を後ろから抱きしめている場面。

柔らかな光に照らされた二人の顔の角度、髪の色、
目の色までそっくりで
一瞬なんだけど、母娘の絆がそれだけで表され、悲しみの予感が増すんですね。

闘病中の娘が
窓ガラスにぶつかって死んだ鳥を見て動揺するシーンも
幼くして「死」を悟ったその瞬間が映るようで、印象的。

それが後に、
夫婦の決定的に交われない“ある差異”を
浮き彫りにもしたりする。

あの激しく燃えた愛は、どこに行ってしまったのか。
それを描く作品は多々あれど
この映画に描かれるその経緯と理由はけっこう深かったですねえ。


音楽もいいので、ぜひ!

★3/22(土)から渋谷・ユーロースペースほか全国順次公開。

「オーバー・ザ・ブルースカイ」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フルートベール駅で

2014-03-17 23:29:04 | は行

想像を超えて掴まれた。やられた。


「フルートベール駅で」81点★★★★


********************************

2008年の大晦日。

サンシスコのベイエリアに住む
22歳のオスカー(マイケル・B・ジョーダン)は
いつものようにガールフレンドと目覚め
愛娘を保育園に送っていった。

犯罪歴はあるものの、
オスカーは家族を気遣う心優しい青年で、
なんとかいまの人生を変えたいともがいていた。

だがそんな彼にある出来事が起こる――。

********************************


2009年の元旦、
米のフルートベール駅で

黒人青年が鉄道警官に、無意味に発砲された事件。

偶然、同じ駅に居合わせた人たちが
ケータイやiPhoneで撮った事件の画像がネットに公開され
けっこう大きなニュースになったので
知っている人もいるかもしれません。

ワシも、たまたまリアルタイムで知ってましたが
タイトルからはピンとこなかった。
駅名まで知らんしね(苦笑)。


同じような事件はたくさん起こっているのだと思うけど
本事件は
ビデオ画像という多くの「証人」がいるという可視化が
今回の映画化にもつながった。

そうした“市井の目”の力を、改めて感じるような作品でした。


映画は被害者となった青年オスカーの
“最後の一日”を描く形で作られたフィクション。

オスカーが朝から5歳の娘とたわむれ
ガールフレンドとケンカし
母親にメールをする。

そんな“なんでもない一日”を優しく丁寧に見せられると
それが終わってしまう未来を思い、
胸が詰まらずにはいらない。

それって監督の狙い通りだろうし、
こちらも想像したとおりではあるんです。
ですが、

これが、思いがけず、キタ。

だって、隅々まで巧いんだもん。


監督のライアン・クーグラーは若干27歳。

この事件のニュースに衝撃を受け、
映画学校在学中にこの脚本を書き、
それがサンダンスの目にとまったのだそう。

さすがですねえ。

特にうまいのが
野良犬との悲しくとも一瞬のシーン。

あのわずかな出来事に
彼の世界が「カタッ」と、静かに良き方向へと動いた証を
確かに見て取れる。

彼はたったこんな事で動く、
22歳のまだ、ほんの子どもだったのだ、と
痛感させられる場面だった。


実際の事件のときの映像も
効果的に使われていて、

見も知らぬ誰かの物語を
身近に感じることで
誰かの問題が、自分の問題になっていく。

それが映画の力なんだと、
つくづく、しみじみ思った。

しかもわずか85分。
いい映画っす。


★3/21(金・祝)から新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

「フルートベール駅で」公式サイト
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

LIFE!

2014-03-15 21:31:51 | ら行

これはいい!ベン・スティラー、やるじゃん!


「LIFE!」80点★★★★


****************************

米ニューヨーク。

伝統ある『LIFE』誌で
写真管理の仕事をするウォルター(ベン・スティラー)は
冴えない独身男。

密かに思いを寄せる同僚シェリル(クリステン・ウィグ)に
話しかけることもできないが
空想の世界では
勇ましいヒーローに変身したりしている。

そんなウォルターに大事件が起こった。

『LIFE』が休刊することになり
最終号を飾るネガが行方不明になったのだ!

ウォルターは撮影者の著名カメラマン(ショーン・ペン)を探して
冒険の旅に出ることになるが――?!

****************************


ベン・スティラー監督・製作、主演。
いや~これは、やられました!


まず
歴史ある雑誌『LIFE』を
ストーリーの背景に置いたおもしろさ。

そして
同誌のビジュアルを継承し、リスペクトしているような
映像のセンスが素晴らしい!

プレスもよくできてる!


内容的には

現実から派手に逸脱する空想シーンがあったり
映画のパロディシーンがあったり
けっこう王道なアメリカンコメディなんですが

視覚センスのよさに加えて

数層に重なった要素――
ラブコメ、謎を解きミステリー、冒険譚に、そして
働くすべての人への応援歌――が
見事に絡まり合ってる。


特に注目したいのは
“仕事と人生”の部分。

デジタル化の波の中で休刊する伝統雑誌。
そこで働いていた男が職を失う。

さて、ここからどう生きていくか……?!

って、実に今日的な題材だし
ホント我が事のように感じますわ(涙)


そんな厳しい時代のなかでも
多くの人は、ウォルターのように
表舞台に出なくても、必死に、誠実に働いているのだと。

そして
リストラされても、憂き目にあっても
それまでの「経験」は、
きっと必ずや、あなたの力になるのだと

ウォルターは示してくれてる気がする。


ラストは「プラダを着た悪魔」のごとく
がんばる人すべての人に、元気をくれる感じがしました。


ベン・スティラーで想起するのはどうしても
ドタバタコメディとか
「ナイト・ミュージアム」とかだと思うんですが

今回は試写室でも
「ベン・スティラーに泣かされるとは……!」と
よりいっそう感無量の人が続出したらしいすよ(マジで。笑)


★3/19(水)から全国で公開。

「LIFE!」公式サイト
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ランナウェイ・ブルース

2014-03-14 23:35:09 | ら行

ま、日々いろいろ映画に出会えば、
こんなこともあるさ、という(笑)


「ランナウェイ・ブルース」20点★☆


*************************

米ネバダ州の郊外に生まれた
兄ジェリー・リー(スティーヴン・ドーフ)と
弟フランク(エミール・ハーシュ)。

幼くして、二人きりで生きねばならなくなった兄弟は
辛いときも
空想のうまい弟が物語を語り、
絵のうまい兄が絵を描き、

日々を乗り越えてきた。

だが
大人になってから兄はさまざまな問題を起こし
しかし
弟はどうしても見捨てることができない。

そして、また兄が事件を起こしてしまい――?!

*************************

冒頭、
主人公エミール・ハーシュの語る話が
彼と兄の空想なのか、それとも本筋の話なのか

ちょっと見極めがつきにくい。

そのことに
かなーりイラッとしてしまいました(苦笑)。


テーマも俳優も悪くないんですが
とにかく話の運びがうまくないというか。

ゆえに
ダメ兄に縛られ、酒に逃げる弟(エミール・ハーシュ)への
感情移入も難しいし

悲惨な家庭環境にあるダコタ・ファニングも、
その苦労や汚れもが
残念ながら、まったく外に滲み出でこないという(苦笑)。


ただ
兄弟の空想世界を描く
アニメーションの絵柄はなかなかよかった。

コッポラ監督やオリヴァー・ストーン監督らんとの
コラボで知られるアーティスト、マイク・スミス氏によるものだそう。

あと
弟がようやくまともな、温かい食事を口にするシーンに
呪縛から解かれた開放感や安堵が現れていて
あの場面はよかったなー。


★3/15(土)から公開。

「ランナウェイ・ブルース」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする