ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

メキシカン・スーツケース <ロバート・キャパ>とスペイン内戦の真実

2013-08-19 21:31:20 | ま行

誠実で、歴史的に貴重なドキュメンタリーです。


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「メキシカン・スーツケース <ロバート・キャパ>とスペイン内戦の真実」73点★★★★


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ロバート・キャパ、その恋人だったゲルダ・タロー、
仲間のデヴィッド・シーモア“シム”の3人の写真家が
1936年にはじまったスペイン内戦を撮ったネガ。

70年間行方不明だったそれが、2007年にメキシコで見つかる。

“メキシカン・スーツケース”と呼ばれるようになった
そのネガをめぐるドキュメンタリーです。

観る前は
キャパたち写真家を追いかけたり、
貴重なネガの行方を追いかけたりするミステリー仕立てなのかしらんとか
思ってたんです。

しかーし、これが違った。

スペイン内戦という歴史の記録に比重を置いていて、
でも、そこが実によいんですよ。

内戦の悲惨さ、亡命者たちの絶望、
そしてメキシコが彼らに救いの手を差しのべたこと……などなど

その場にいた3人の写真家の功績に多大な敬意を払いつつ
まさに彼らがカメラを向け、伝えようとした
市井の人々の戦争の記録を描いている。

これぞ
写真家の遺志を継ぐものだ、と思います。

タローやシムの写真が
キャパの名で世に出ていたことなども描かれて、
折しも今年2月に沢木耕太郎さんが『キャパの十字架』を上梓し、
解明したタイミングでもあり、興味深いです。


しかしなによりワシが感銘を受けたのは、
キャパの暗室技師であり
“メキシカン・スーツケース”を作った人物の存在。

カリスマ写真家の影でネガを完璧に分類し、世に残した
“究極の裏方”の存在とその功績を
明らかにしたことは刮目です。リスペクトする!

そして本作には
「賢者は歴史から学ぶ。学ばねば、同じことを繰り返してしまう」という
メッセージが込められていると感じます。

動乱収まらぬ世に向けた過去からの声。
胸に刻むべし、ですね。


★8/24(土)から新宿シネマカリテほか全国順次公開。

「メキシカン・スーツケース <ロバート・キャパ>とスペイン内戦の真実」公式サイト
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スター・トレック イントゥ・ダークネス

2013-08-16 21:49:04 | さ行

IMAX、やっぱりすごいわ。


「スター・トレック イントゥ・ダークネス」3D版73点★★★★


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西暦2259年。

ロンドンで宇宙艦隊データ基地が爆破された。

事件の犯人は艦隊士官のハリソン(ベネディクト・カンバーバッチ)と判明。

艦隊本部に収集された
USSエンタープライズ号のカーク(クリス・パイン)とスポック(ザッカリー・クイント)は
そこでさらなる襲撃に遭遇してしまう。

地球最大の危機をもたらす
ハリソンの目的は、一体何なのか――?!

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J.J.エイブラムス監督が
「スター・トレック」(09年)に続いて作った作品。

全米での評判がめっちゃよくて
Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト=映画批評家によるレビューサイト)でも高評価。

さらに悪役ベネディクト・カンバーバッチが異常なまでの(笑)大人気!と、
かなり盛り上がってる夏映画です。

で、実際どうなのか。

IMAXで観たんですが、
うん、すごいわ。まず映像が。

冒頭から「おおっ」とくる飛び出す映像で
アトラクションとしても、乗り込む価値あり。
ぜひIMAX3D版で、おすすめします。

加えて
ストーリーもしっかりしてるし、
相次ぐピンチ展開も、盛り上げどころを外さない。

主役なはずのクリス・パインより
堂々と“その他”が目立っているのも
「空気わかってるじゃん!いいじゃん!」って感じ(笑)
まあクリス・パインがいるからこそ
スポック役のザッカリー・クイントが光るんですけどね。

カンバーバッチ旋風のなか、
ワシとしては、スポックのヒューマンな部分の描写が
本作のツボでした。

スタトレって、どうも歴史があるイメージで
「いまいち、乗り込みにくい……」って思う人がいる気がするんですが、

なんにも知らなくても
全然問題ないですよ。

もし上映中に、会場が「おおっ」と沸くシーンとかがあったら
帰ってから、こっそりググってみましょう。


★8/16(金)から先行上映。8/23(金)から全国で公開。

「スター・トレック イントゥ・ダークネス」公式サイト
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トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~

2013-08-15 21:27:52 | た行

酷い……。
だからこそ「これじゃいかん!」を強く感じます。

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「トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~」73点★★★★


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「そして、私たちは愛に帰る」「ソウル・キッチン」の
ファティ・アキン監督が

巨大なゴミ捨て場にされた
トルコの小さな村の悲劇を記録し続けたドキュメンタリー。

監督の祖父母がこの村の出身だったそうで、
05年に初めてこの村を訪れ、
その美しさに感嘆していたら

「ここに巨大ゴミ処理場ができるんだよ……」と聞かされて、
それ以降、カメラを回し続けた記録なんだそうです。


村の状況は、
酷い!とにかく酷い!につきます。

ゴミ処理場に反対した市長は政府に訴えられ
「標的の村」と同じ手口じゃん!)
あっ、という間もなく処理場が、稼働をはじめてしまう。

処理場っていったって
巨大な穴にゴミを投げ込んでいくだけなので、
猛烈な悪臭が漂い汚水が川に流れ込んでいく。

ゴミをあさる野犬は500頭にもなり(可哀想だ……)
大量の鳥たちのフンが、名産の茶葉に降り注いで収穫も台なし。

住民たちは必死に抗議をするんだけど

なにより酷いのが
視察にくる知事やら役人やらが
みな惨状を前に「でも、何処かに捨てなきゃならないから」って言うことですよ。

それってすなわちゴミだけじゃなく
日本の基地問題も、原発問題だって同じなわけです。

「誰かが犠牲にならなきゃいけないから」という
政府や権力の思考のありかたに問題がある!

だからこそ、怒りも共有できるし、
観るべき作品だと思います。

しかも問題はまだ
何も解決もしていないそうですから……。酷い!

しかし
ファティ・アキン監督らしいのは
悲惨な風景のなかに、
ちょっとしたユーモアがあったりする点。

働き者の女性たちと働かない男たち(失笑)など
トルコの人々の民族性や暮らしぶりを
垣間見るような楽しさもありました。


★8/17(土)からシアター・イメージフォーラムで公開。ほか全国順次公開。

「トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~」公式サイト
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楽園からの旅人

2013-08-14 20:06:05 | ら行

「ポー川のひかり」のエルマンノ・オルミ監督の新作です!


「楽園からの旅人」67点★★★☆


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イタリアのある街で、
年老いた司祭(マイケル・ロンズデール)の懇願むなしく
古くからある教会堂が取り壊されようとしていた。

涙に暮れる司祭のもとに
その夜、
さまよえる人々が次々にやってくる。

彼らはアフリカから長い旅を経て、
たどり着いた不法移民たちだった――。

司祭は彼らに扉を開くのだが……。

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「ポー川のひかり」以降、
「もう劇映画は撮らない」と言ってたオルミ監督が
新作を撮ってると聞いたときの、あの心踊り感といったらもう!(笑)

で、期待値特大で観ました。

そして、うーむ……。
さすがといえばさすがだし、
ちょっと物足りなくもあった。

メッセージは明確なんだけど、
逆にストレートすぎる感じもあり。

なんといっても背景となるテーマが
「海と大陸」と同じなんですよね。

冒頭、司祭の静かな抵抗と涙もむなしく、
教会が無惨に壊される。

「ポー川」は「聖書の死」からはじまったけど、
今回はズバリ「宗教の死」からはじまっている。

そしてその夜、
沈黙した教会のもとに、
アフリカ系の黒人たちがわらわらとやってくる。

「海と大陸」を観ていると、
彼らが海を渡ってきた不法移民たちだと、すぐにピンとくる。
で、彼らをかくまう司祭と、
通報する司祭の攻防があるという。


「神なき世界で、もっとも尊いものは“心ある人間”だ」というテーマは
崇高にして大賛成であり、素晴らしい。

舞台は教会内部のみで、
演劇を観ているような緊迫感もあります。

無音のテレビ画面も、人物の配置も、
すべてが暗示的で
「行くべき方向」に向いて整っている。

しかし本当に直球で説明は最小限という
複雑さなんで、

どう受け止めるかを
じっくり考えるタイプの作品ですね。

「海と大陸」を例に出しましたが、
もっと言うと
アキ・カウリスマキ監督の
「ル・アーブルの靴みがき」

2010年の「君を想って海をゆく」

みんな、同じテーマを扱ってるんですよね。

つまり
「その状況に耳を貸さねばならない」という
啓発だと思います。


★8/17(土)岩波ホールほか全国順次公開。

「楽園からの旅人」公式サイト

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タイピスト!

2013-08-13 21:56:57 | た行

こんな世界大会が
現実にあったなんてねえ……。


「タイピスト!」70点★★★★


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1950年代、フランスの田舎娘ローズ(デボラ・フランソワ)は
秘書を夢見て、都会へ出てくる。

ローズを面接したルイ(ロマン・デュリス)は
使えなさそうな娘だと追い返す。

が、そのとき
ローズはものすごい早さでタイプを打ち始めた!
それも一本指で……。

ルイはローズに
「タイプライター早打ち大会」に出るよう勧めるのだが――?!

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「アーティスト」「オーケストラ!」をヒットさせた
スタッフが集結したフランス映画。

鬼コーチにしごかれて才能を開花させる
ドジでカメな田舎娘。

そして
好きなのに進展しない、男女のもどかしい恋……
“鬼”がつく鉄板設定で(笑)しっかり楽しませてくれます。

タイピングなんて地味な題材をどう扱うのか?と思ったけど、
そこをファッションやメイク、小道具で楽しませるのは
うまい方法だなあと思いました。


昔っぽい風合いの映像がキュートだし、
名画を思わせるシーンもあったりするし、
プレス資料もカワイイっしょ?



ただタイピング対戦のシーンに
けっこう長く尺をとっており、
(予選→まさかのフランス代表?→え?世界チャンピオン!?と
勝ち進まにゃならんわけです)

111分のうち、最後の30分はいらない感じ。

90分、とかにまとめたら、
もっと小粋だったのにね。


★8/17(土)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「タイピスト!」公式サイト
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