英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

相棒 season17 第3話「辞書の神様」

2018-11-05 23:48:09 | ドラマ・映画
Aタイプ……信念、嗜好、主義を第一に仕事に取り組む者
Bタイプ……思想や主義を挟まず、ただ業績を上げることを第一とする者


辞書『千言万辞』の編集主幹・大鷹(森本レオ)……Aタイプ。しかも極端で、辞書作り(言葉集め)に没頭し、他のモノすべてを犠牲にしてきた。
被害者の編集者・中西(天野浩成)……Bタイプ。売れるものを作るための努力は惜しまないが、仕事へロマンを持つ者に対して蔑視さえする。

 多くの人間は、その偏り方は様々だがA~Bの間に位置する。
 国島教授(森田順平)は一見、Bタイプ寄りだが、実は、大鷹の生き方に共感し、協力、支援していた。
 出版社の編集長・和田(酒向芳)も辞書への愛着を見せながらも業務を優先させているように見えたが、辞書への思いは人一倍深く、その思いが犯行に及んでしまった。
 
 今話は、刑事ドラマとしてはイマイチ(イマイチ以下)だったが、上記4人の思想や信念が絡み合った人間ドラマとしては面白かった。

 ただ、人間ドラマに於いても疑問点がいくつか……
1.殺害動機、和田の心理について
 「あんなものを辞書とは呼ばない、絶対に。
  いくら売れているからと言って、王道(『文礼堂国語辞典』)が消えて、亜流(『千言万辞』)が残るなんて有り得ないんだ」

 この台詞が、和田の心理の根本を表している。
 右京の分析≪和田は正しい言葉を伝えることを使命だと考えてきた≫通り、きちんと言葉を定義する『文礼堂国語辞典』こそ王道で、大鷹の主観によって、皮肉的に言葉を定義している『千言万辞』が嫌いだった(中西も和田の心を見抜いていた…後述)。
 なので、確かに、≪『千言万辞』を潰して、『文礼堂国語辞典』を復活させる≫が目的(動機)であるが、和田に殺意を芽生えさせたのは、中西の
「分国(文礼堂国語辞典)、復活したって、どうせ売れないだろうし。誰が買うんだあんなモノ」
「本なんて売れりゃ、何でもいいじゃないすかぁ。俺は早く結果出して、営業戻れりゃいいんだから」

の言葉であったように思う。
 
2.脚本家が拘った“常識”について
常識……平凡でつまらない価値観。新しいものを拒む頭の古い考え。
今これを読んで不快に感じているあなたのこと。

 ≪和田はこれを、自分への当てつけと捉えていて、今回の犯行に至る根底の心理だった≫と右京は解釈
 確かに、“平凡でつまらない価値観”=『文礼堂国語辞典』、“新しいものを拒む頭の古い考え”=和田と指摘されているように当てはめることができ、脚本のうまさを感じた。

 しかし、よく分からなかったのは、大鷹の呟き
「情けねえ…こんな負け方。常識なんかに…(負けた)」
 右京も、「常識に負ける」と大鷹の呟きを拾い上げて反芻した(しかし、右京はこの件に関しては、放置してしまっていた)

 この“常識に負けた”というのはどういう意味だったのか?
 和田の台詞に当てはめると、≪“常識”(文礼堂国語辞典)に“新しいもの”(千言万辞)が負けた≫、あるいは、≪“常識”(和田)に“新しいもの”(自分)が負けた≫という解釈ができるが、アルツハイマーが進行していた大鷹がそこまで考えられるとは思えない。
 となると、≪“常識”(主幹を下ろされたくないというつまらないプライド)に、自分が負けて殺人を犯してしまった≫という意味か?しかし、これも、大鷹がそこまで分析できると考え難い。

3.大鷹の信念(ライフワーク)と一致しない『千言万辞』
 大鷹の≪言葉に憑りつかれた≫かのような言葉集めに没頭している様や、“電話に出る”“電話を取る”など表現の違いに深く興味を示し質問する様など、言葉への探究心は異常に感じられる。
 しかし、この言葉への執着心や探究心と、『千言万辞』の皮肉的定義やロマンチックな表現と合致しないように感じる。
 大鷹が辞書を作るとしたら、言葉元来の意味と、意味や使用法の変遷を網羅した解説書になるような気がする。


些細な疑問点などがいくつか
①大鷹の病院脱走シーンは必要だったのか?
・右京の人間本能の“左回り法則”理論の披露の為?
・「常識に負ける」の台詞を出す為?

②大ざっぱな殺害計画と分かりにくい推理・推論
・「呼び出しに電話を使った」とか付箋の色の違い云々について右京たちが推理めいたことを言っていたが、よく分からなかったし、説得力が弱かった(私の理解不足かも)
・大鷹のアルツハイマーを利用して、大鷹が殺人を犯したと思い込ませたが、和田が大鷹に指示してメモさせたのならトリックとして納得できるが、和田と別れた路上で和田の言葉を思い出してメモするのは無理がある

③台詞が聞き取りにくい
・役に没頭し過ぎた森本さんの台詞が聞き取れない箇所がいくつかあった。
・反町さんの台詞も聞き取りにくい箇所があった
・和田と中西がもめたシーンで、効果音と重なって、聞き取れなかった台詞があった

④大鷹が癇癪を起こして苦しんでいるのを横目に、教授のメモ帳を冷静にチェックするふたり
 ちょっと冷たいのでは?


『千言万事』の定義例
……それを語る時、誰もが少年少女の顔に戻り、生きる喜びとなる。
叶わない事の方が多く、叶えばこの上もなく幸せだが、それがいつしか当たり前となれば、輝きを失う。
叶っても叶わなくても、淡いの思いの残るもの。

常識……平凡でつまらない価値観。新しいものを拒む頭の古い考え。
今これを読んで不快に感じているあなたのこと。

行きがかり……物事が既に進行し、どうにも止められない状態に来ていること。
“これまでの事情、思うところはいろいろあるが、こうなった以上、とことんつき合ってやるしかない”という考えも多分に含まれている

 ちなみに……女性ひとり男性ふたりの音楽グループで代表曲は「ありがとう」……これは、いきものがかり


杉下右京……基本的に我儘で、人を信用せず、“白”であれば“黒だ”と、“あっち”と言えば“こっち”と、事あるごとに突っかかる
つむじ曲がりで、へそ曲がり、偏屈、意固地、ひねくれ者



第1話「ボディ」第2話「ボディ ~二重の罠」

【ストーリー】番組サイトより
右京の“愛読書=辞書”が殺人事件の引き金に!?
特命係vs『言葉に取り憑かれた男』の行方は…


『千言万辞』という辞書を担当する編集者の男性が、メッタ刺しの遺体で発見された。個性的な語釈から、読み物として『千言万辞』を愛読している右京(水谷豊)は、事件に興味を持ち、亘(反町隆史)と共に独自の捜査を開始。
版元の出版社で聞き込みをすると、辞書の原稿は元大学教授の大鷹(森本レオ)という人物が一人で手掛けているのだが、殺された編集者と折り合いが悪く、大鷹をサポートしている国島(森田順平)という大学教授に主幹を切り替える話が持ち上がっていたという。さらに、周辺の人物に事情を聞くと、取り憑かれたように言葉の収集に没頭する大鷹の偏屈ぶりが浮かび上がってくる。
そんな中、編集者の遺体が見つかった公園に、事件当夜、国島が姿を見せていたことが判明して…!?


残忍な刺殺事件の背景には複雑な人間関係が…
辞書の第一人者に秘められた殺意が明らかに!?
特命係が読み解いた事件の意外な真相とは?


ゲスト:森本レオ 森田順平

脚本:神森万里江
監督:権野元

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2 コメント

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謎解きとしては今一つ (marumori)
2018-11-06 21:33:30
英さん、こんばんは。

 今回の脚本を担当した神森万里江氏は『相棒』初脚本ですよね。確かに人間ドラマとしては面白かったですが、謎解きの方は今一つでした。

 犯人は早い段階で見当がついてしまいましたし(「学会では下に見られていた」、「『千言万辞』にはクレームも多い」等、大鷹に対してやたら否定的な発言を連連発していた)、犯人が大鷹に罪を着せた方法も成功確率が低いように思いました。

 それにしても、自分の作る辞書を中西に馬鹿にされたときの犯人の目があまりに怖くて、一瞬その場で殺害に及ぶのかと思いました。

<その他の面白かった点>
〇右京さんの蘊蓄に、伊丹だけ無反応。
〇右京さんと大鷹のやり取りについていけない冠城。
〇冠城と幸子による右京さんイジリ。
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動機の主と従 ()
2018-11-07 18:03:01
marumoriさん、こんばんは。
いつもコメント、ありがとうございます。

>犯人は早い段階で見当がついてしまいましたし(「学会では下に見られていた」、「『千言万辞』にはクレームも多い」等、大鷹に対してやたら否定的な発言を連連発していた)

 なるほどです。
 ただ、私はひねくれているので、上記のセリフはフェイクで、出版や主幹には関係のない動機で、アシスタントの若い女性が真犯人の可能性もあると考えていました。

>自分の作る辞書を中西に馬鹿にされたときの犯人の目があまりに怖くて、一瞬その場で殺害に及ぶのかと思いました。

 理屈的動機としては『千言万辞』を廃刊に追い込むですが、心理的動機は馬鹿にされたことへの怒りでしょう。
 計画的犯行なら、怒りが後押ししたと考えられますが、大鷹のアルツハイマーが廃刊や休刊へ持ち込めないとなり、その直後に馬鹿にされ、殺意が生じたと考えます。動機の主は怒りで、従が廃刊目的が妥当です。
 それにしても、咄嗟に殺害計画を思いつくとは……(まあ、中西は人を怒らせるタイプみたいですから、和田も前々からある程度殺害計画を描いていたのかもしれません。

>右京さんの蘊蓄に、伊丹だけ無反応

 そこが伊丹の良いところですね(笑)
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