「A級順位戦 プレーオフ2回戦 久保九段×渡辺二冠 その1」
「A級順位戦 プレーオフ2回戦 久保九段×渡辺二冠 その2」の続きです。
第9図より、▲8三銀△8四飛▲7四歩と絡みついたのに対し、△6四歩と受けたのが第10図。
先手の攻めは後手の左美濃(天守閣美濃)の外堀を攻めるにとどまっていて、△6四歩と3七の角道を遮断されてみると、▲7三歩成には△同金で8三の銀取りが残る。また、後手の8八の角が後手陣にも利き、香取りにもなっており、先手が急かされている感がある。
しかし、▲7三歩成△同金に銀を放置して、▲5五角△同角成▲同飛(第11図)と捌かれた局面は、後手の指し手が難しい。
普通は△8三飛と銀を取る手だが、先に7三の桂を取られているので部分的には銀桂交換に過ぎない。確かに、全体では「金+歩3枚」対「桂」の後手の駒得ではあるが、後手の飛車金が取り残されているのが大きい。また、先手からは▲4四桂の両取りも残っている。
そこで、△6六角と急所のラインに角を先着するが、久保九段が▲4四角と打ち返す。
飛車を挟んで互いの角が対峙し、危険がいっぱいだ。
渡辺二冠も△3三銀と強く応じ、久保九段も▲5三飛成と切り返す。
これが問題の局面。
図では△4四角と角を外す手も見えるが、▲7三龍と金を取られて後手が悪そう。なので、実戦は△5三同金▲6六角に△8三飛と手を戻したが、▲5四歩が厳しかった。
△5四同金は▲4三角、また、△4三金とかわすのも▲6一角と打たれて手にされそう。
そこで、△5二金と辛抱したが、5四に拠点を作られたのはあまりに大きかった。
以下▲5三銀△5一歩▲3七桂△6九飛▲5五角打△4三金▲4五桂△6五歩▲3三桂成△同桂▲4四銀と浴びせ倒した。
局後、問題になったのは第13図の局面。
ここで△3九角成!(参考図1)という鬼手があった。▲同玉も▲同金も、△5三金▲同角成のときに王手馬取りの筋(参考図2)が生じる。よって△5三金に先手は▲3三角成と切るよりないが、それなら後手が大きく得をする。関係者から△3九角成を伝えられた渡辺は、「まったく気づかなかったです」と話し、頭の後ろに手を回して何度も「そうか」とつぶやいていた。久保も「全然見えてないです」と苦笑する。【中継解説より】
しかし、△3九角成が必殺手であったかというと、そう簡単ではない。
△3九角成(参考図1)▲同金△5三金に▲6二角(参考図3)と打つ手がある。
以下の手順は一例だが、△5八飛▲4八桂△4四金▲7三角成△8三飛▲同馬△5五角▲3七銀△9九角成▲6一飛△3二銀▲7四馬△5一歩(参考図4)……
もう訳が分からないが、若干先手がよさそう。
となると、やはり久保九段がずっと微差を保っていたのかとなるが、そうとも言えない。
第12図に戻って
中央の飛車角を無視して、△8三飛(参考図5)と銀を取っておく手があったかもしれないのである。
(ニコニコ生放送で佐藤紳哉六段が指摘していたそうだ)
8三の銀よりも▲1一角成と香を取る手が大きそうだが、△2二銀(参考図6)と受けられると意外に手が続かない。
また、参考図5で▲5三飛成も有力だが、平凡に△5三同金▲6六角に△3三銀打(参考図7)と固めておけば後手が勝ちそうだ。
棋力に乏しい私では真相は判らないが、第11図、第12図あたりでは渡辺二冠が逆転していたように思う。
どうなんでしょう?ssayさん、九鬼さん。
プレーオフ決勝、久保九段×行方八段は深夜(午前1時15分)に及ぶ激闘、150手の末、行方八段が勝利し、羽生名人への挑戦権を手にしている。3月5日、10日、16日と3局戦った久保九段、お疲れ様でした。
「A級順位戦 プレーオフ2回戦 久保九段×渡辺二冠 その2」の続きです。
第9図より、▲8三銀△8四飛▲7四歩と絡みついたのに対し、△6四歩と受けたのが第10図。
先手の攻めは後手の左美濃(天守閣美濃)の外堀を攻めるにとどまっていて、△6四歩と3七の角道を遮断されてみると、▲7三歩成には△同金で8三の銀取りが残る。また、後手の8八の角が後手陣にも利き、香取りにもなっており、先手が急かされている感がある。
しかし、▲7三歩成△同金に銀を放置して、▲5五角△同角成▲同飛(第11図)と捌かれた局面は、後手の指し手が難しい。
普通は△8三飛と銀を取る手だが、先に7三の桂を取られているので部分的には銀桂交換に過ぎない。確かに、全体では「金+歩3枚」対「桂」の後手の駒得ではあるが、後手の飛車金が取り残されているのが大きい。また、先手からは▲4四桂の両取りも残っている。
そこで、△6六角と急所のラインに角を先着するが、久保九段が▲4四角と打ち返す。
飛車を挟んで互いの角が対峙し、危険がいっぱいだ。
渡辺二冠も△3三銀と強く応じ、久保九段も▲5三飛成と切り返す。
これが問題の局面。
図では△4四角と角を外す手も見えるが、▲7三龍と金を取られて後手が悪そう。なので、実戦は△5三同金▲6六角に△8三飛と手を戻したが、▲5四歩が厳しかった。
△5四同金は▲4三角、また、△4三金とかわすのも▲6一角と打たれて手にされそう。
そこで、△5二金と辛抱したが、5四に拠点を作られたのはあまりに大きかった。
以下▲5三銀△5一歩▲3七桂△6九飛▲5五角打△4三金▲4五桂△6五歩▲3三桂成△同桂▲4四銀と浴びせ倒した。
局後、問題になったのは第13図の局面。
ここで△3九角成!(参考図1)という鬼手があった。▲同玉も▲同金も、△5三金▲同角成のときに王手馬取りの筋(参考図2)が生じる。よって△5三金に先手は▲3三角成と切るよりないが、それなら後手が大きく得をする。関係者から△3九角成を伝えられた渡辺は、「まったく気づかなかったです」と話し、頭の後ろに手を回して何度も「そうか」とつぶやいていた。久保も「全然見えてないです」と苦笑する。【中継解説より】
しかし、△3九角成が必殺手であったかというと、そう簡単ではない。
△3九角成(参考図1)▲同金△5三金に▲6二角(参考図3)と打つ手がある。
以下の手順は一例だが、△5八飛▲4八桂△4四金▲7三角成△8三飛▲同馬△5五角▲3七銀△9九角成▲6一飛△3二銀▲7四馬△5一歩(参考図4)……
もう訳が分からないが、若干先手がよさそう。
となると、やはり久保九段がずっと微差を保っていたのかとなるが、そうとも言えない。
第12図に戻って
中央の飛車角を無視して、△8三飛(参考図5)と銀を取っておく手があったかもしれないのである。
(ニコニコ生放送で佐藤紳哉六段が指摘していたそうだ)
8三の銀よりも▲1一角成と香を取る手が大きそうだが、△2二銀(参考図6)と受けられると意外に手が続かない。
また、参考図5で▲5三飛成も有力だが、平凡に△5三同金▲6六角に△3三銀打(参考図7)と固めておけば後手が勝ちそうだ。
棋力に乏しい私では真相は判らないが、第11図、第12図あたりでは渡辺二冠が逆転していたように思う。
どうなんでしょう?ssayさん、九鬼さん。
プレーオフ決勝、久保九段×行方八段は深夜(午前1時15分)に及ぶ激闘、150手の末、行方八段が勝利し、羽生名人への挑戦権を手にしている。3月5日、10日、16日と3局戦った久保九段、お疲れ様でした。
その1がUPされたときから何度も何度も読み返していました。その1の「渡辺竜王」には「つ、釣られないぞ」と思って我慢していましたが、名指しの「どうなんでしょう?」には光速で釣られざるをえません。ちなみに、今回の14図の下の説明にある△5二「飛」は「金」のミスですね。
それにしても、この記事を書いてくださって、本当にありがとうございました。時間が経過し、王将戦第5局で際どい勝ちを拾って、ようやくこの将棋の内容自体を(低級なりに)冷静に考えられるようになったのですが、確かに12図から銀を取っておく手が成立しそうですね。(ソフトで確認したい・・・。) となると、その可能性を見落としたこと自体が問題になる・・・のでしょうか? ひょっとして、「天守閣美濃は薄い」という固定観念が、1一香を馬で取らせてもまだ戦えることを見落とさせたのでしょうか?
う~ん、悩ましい。でも、こういう悩み方は健全ですし、渡辺明の思考(の陥穽)を分析するのは私にとってとても楽しい。改めて、記事にしてくださってありがとうございました!
そうそう。こうなった以上、名人戦は一緒に羽生名人を応援しますよ!羽生名人から名人位を奪うのは、わが渡辺明なのだ!(ssayさん、早い者勝ちということで。)
棋王戦では渡辺二冠の強さ、充実ぶりを痛感させられてしまいました。なので、名人挑戦権もと思ったのですが、久保九段にやられてしまいました。
この将棋は、序盤の駆け引き、中盤の捻じり合いがものすごく、大熱戦でした。
私もつい力が入りました。当初は、プレーオフ1回戦を少しだけ書いて、その足で2回戦を1日でまとめるはずでしたが、思わぬ長記事となってしまいました。(図面の名前が不自然なのもそのせいです。あとから追加作成した図面が多い)
この将棋、久保九段の名局で、渡辺二冠は玉頭の薄さが気になり続け、ままならない局面が続き、ストレスが溜まり、終盤、折れてしまったように感じました。
その久保九段も、この将棋での消耗が大きく、挑戦者決定戦では、今一つ、読みの精密さ・粘り強さが欠けていたように感じました。
挑戦者の行方八段は、A級に復帰してからは、将棋が安定してきました。終盤に読み抜けや折れてしまうことが多かったのですが、粘り強く競り勝つ将棋が多く、強敵です。油断はできません。
渡辺二冠の名人挑戦をお待ちしています。