英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

2015~16 順位戦C級1組最終局 ……≪この投了図は、ないんじゃない?≫と思ったが…「その9」

2016-06-17 23:39:47 | 将棋

………すべては、この投了図から始まった(こんなに長くなるとは思いませんでした)。

「その1」「その2」「その3」「その4」「その5」「その6」「その7」「その8」の続きです。

「その1」からの引用】
 最終局を前に、昇級争いは8勝1敗の中村太地六段(2位)、斎藤慎太郎六段(9位)、北島忠雄七段(31位)と7勝2敗の船江恒平五段(6位)の4棋士に絞られていた。記述した順に有力で、50歳の北島七段がここまで8勝1敗は“大健闘”だが、中村六段と斎藤六段の両棋士に勝たれてしまうと、北島七段は勝っても昇級ならずという状況であった。
 しかし、午後8時7分という早い時刻の決着で、昇級枠のひとつがあっさりと決定してしまった。
 早い投了時刻もさることながら、本格的な戦いが繰り広げられることもなく、銀桂両取りの飛車打ちが炸裂しての42手の投了は、あまりにも不甲斐ないと感じた。これでは、天運を信じて必死に戦っている北島七段が気の毒だ……
 そういう怒りに近い感情で記事を書き始めたが、そんな短絡的なものではなかった。
【引用終わり】


 これが、このシリーズを書き始めた動機であった。
 全局通してのまとめをする必要があるが、その前に、最終局については、「その1」で簡単にしか触れていないので、もう少し詳しく観てみよう。

 ▲9七角と浦野八段が趣向を見せた第1図。

 『将棋世界』2016年5月号の順位戦レポート記事(国沢健一氏)によると、この趣向は過去に4局あって、そのうち3局は桐山九段で、残りの1局は浦野八段とのこと。
 これに対する中村太六段△4二玉が妥協しない最強の応手だ。

 玉が先手の角筋に入り怖いので、前例は△4二銀が多いとのこと。ただ、中継サイトの解説によると、「2005年の第64期順位戦B級2組8回戦、▲桐山清澄九段-△佐藤秀司六段戦(段位は対局当時)で、佐藤六段が△4二玉を指しており、以下は▲3八銀△3四歩▲3六飛△3三金▲2七銀△1四歩▲2六飛△9四歩▲1六銀△3二銀▲2五銀△1三角(参考図)と進んでいる」とある。

 この局面についての解説はなかったので私なりに考えてみた。
 すぐに▲1四銀は△3五角があるので、▲5六飛として△5二金と受けさせて▲1四銀とする手はありそうだ。しかし、以下△2二角▲2五銀△2四歩▲3六銀が想定されるが、先手は歩をせしめたものの、手損が大きく先手の飛車は窮屈で、角頭も飛車がいなくなると攻められてしまう。先手に苦労が多そうな将棋であろう。

 さて、△4二玉(第2図)で最も警戒を要するのは▲5六歩。
(以下は上述の『将棋世界』の記事を参考)
 ▲5六歩以下、△3四歩▲5五歩△同角に▲5四歩が嫌味だ。

 「以下、△4四角が5三を受けながら飛車取りで味よく見えるが、▲5六飛の切り返しが厳しく、△5二金と受けても▲5三歩成△同金▲同角成△同角▲同飛成△同玉▲7一角の王手飛車でそれまで」(『将棋世界』より)

 「変化図で正しい受けは△6四角。以下▲同角△同歩▲5五角△4四角▲同角△同歩▲5五角△4三玉と進めば、▲6四角には△5四玉!で凌ぎきれる」(『将棋世界』より)

 また、△4二玉(第2図)に、▲5六歩△3四歩の時、▲3六飛と変化する手もあるとのこと。
 「以下、△3三金▲5五歩△4四金▲5四歩△同金▲3四飛△6四歩▲2四歩△同歩▲5四飛△同歩▲6四角△3二玉▲5三角成△8六歩が一例だが、これも後手が指せそう」(『将棋世界』より)


 昼食休憩を挟んで1時間14分(実時間は約2時間)の考慮で、浦野八段は▲6八銀と着手。
 しかし、中村六段の次の手を見て後悔することになった。

 △9四歩!
 この手によって先手の動きが難しくなってしまった。飛車の横利きが消えると、△9五歩と突かれてしまう。

 第1図(13手目)の▲9七角に1時間6分、△4二玉に対する▲6八銀(15手目)に1時間14分の考慮を費やしての苦境。経験のある形で成算を持って挑んだはずだが……
 「もしかすると(△4二玉の局面が)すでにおかしいのかもしれない。もう少しなんとかなると思ったんやけど……」(『将棋世界』記事の浦野八段の弁)

 ………う~ん、少し情けないかなぁ(特に△4二玉を軽視していた点)。しかし、浦野八段の指し手などを見ると、それだけで氏を責める気にはなれない(特に、順位戦一年間の浦野八段の将棋を振り返った現在は)。
 浦野八段は既に降級が決定しているが、昇級を争っている中村八段に対して、プライドを持って対峙し、用意の作戦をぶつけたのではないだろうか?
 しかし、20分の考慮で指された△4二玉。……王道の一手。浦野八段はいろいろ読んで感心してしまった。相手の指した手を客観的に認める(感心)するのは悪いことではない。しかし、浦野八段は、感心し過ぎてしまった。そして……▲6八銀を指してしまった。

 ▲6八銀の後も、浦野八段の闘志は衰えず、苦慮を重ね、苦心の陣立てを組む。
 しかし、それを打ち砕く中村六段の指し手。

 △5四歩▲同歩△同金▲5五歩△6四金。
 4三の守りの金を6四の前線に繰り出す。

 狙いは飛車の圧迫(捕獲)。(△5四歩に▲同歩が素直すぎたかもしれない)
 浦野八段は▲9七角と耐えるが、中村六段は構わず△8六歩。(△4三銀~△3一角から△7五銀を狙う手もある)

 ▲8六同歩は△7五銀、また、▲8六同角には△8八歩があるので、▲8六同飛と取るが、△8六同飛▲同歩に△2六飛が銀桂両取りが掛かって、浦野八段、投了。


 終局時刻は20時7分。消費時間は▲浦野5時間4分、△中村3時間2分。
 △4二玉~△9四歩~△5四歩~△8六歩と王道の手で勝利を掴んだ中村六段がB級2組へ昇級を決めた。

「その10」に続く。
コメント
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