角頭をカバーするため、第3図より清水女流二冠は△4三銀と上がる。が、この手は石橋女流王位が待ち構えていた手だった。
そもそも、第3図の後手の金銀は逆形。序盤早々の△4二金がその因だ。その逆形の解消も兼ねて銀を上がったわけだが、この瞬間、後手陣の玉・角・金・銀は非常にバランスが悪い。そこを石橋女流王位にもろに突かれる事になる。清水女流二冠も欠陥に気づいていたのなら金を上がっただろう。金を上がった瞬間は、すそがスースーする感じがするが、6一の金を寄せていけばよい。
さて、△4三銀に石橋女流王位、キラリと目が光らせて駒音高く銀を打ちつけた(かどうかは知らない)。この場合、駒音高くと言うより、「ズドーン」とか「グュアキッ」とか重量感のある響きかもしれない。
▲2四銀!(第4図)。
歩頭の銀打!矢倉戦で歩頭の桂はよく見られるが、銀は珍しい。記憶は定かではないが、佐藤棋王×羽生名人戦において、3五の銀を後手の2三の歩と先手の2五の歩の間に出る変化が出たことはあるが、本局の場合は持ち駒の銀である。強烈な一着だ。
△4三銀と上がったところなので、2三の地点が薄く受けにくい。清水女流二冠、苦慮に沈む。
これまでの考慮時間が清水女流二冠の苦悩を物語っている。△5五銀に27分、△8五金に13分、予定変更の△4四歩に21分、さらに修正の△4三銀に6分と、苦心したにもかかわらず、ハンマーパンチを食らってしまい、この△3二玉に40分。本局最長の考慮時間を強いられ、△3二玉。以下▲3三銀成△同金と、角銀交換を甘受する。駒損の上、後手を引いての3三金型の悪形。被害を最小限にとどめるための辛抱だ。この精神力が清水女流二冠の清水女流二冠たる由縁だ。
私なら第4図より△2四同銀▲同歩△4五歩▲2三歩成△4四角と意地を張って散るだろう。
この辛抱が実を結び、直後の石橋女流王位の攻め急ぎを呼ぶ。角銀交換の△3三同金直後の▲4六歩がそれだ。この手では▲3五歩△同歩▲7七桂と金を追う方が手堅かったらしい(週刊将棋より)。
この後、清水女流二冠が銀を二枚投入して肉薄したのが第5図。