福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

学ぶこと

2007-06-30 01:34:07 | 日記・エッセイ・コラム

学ぶことは、生きぬくことである。

今年の3月、ドイツの恩師であるヴィッデル(Widdel)先生にお会いしたときのことです。毎回そうですが、夕方静かになった先生の部屋で、何とはなしに先生との会話が始まります。最初は、私の近況報告、そして先生の近況報告。その後、必ず研究の話題で盛り上がり、将来の展望を語り合います。その間、部屋の明かりをつけていないので、互いの顔がはっきりと見えなくなってくるのです。そこでようやく、部屋の間接照明の出番です。

その日、ふと思い出しように、ヴィッデル先生の恩師であるペニッヒ先生のことが気になり、近況をお聞きすることといたしました。

私がペニッヒ先生に最後にお会いしたのは、1990年先生がコンスタンツ大学を定年退官するときでした。彼の教え子の何人もが、現在の微生物学の分野で世界的に活躍しています。先生は、研究者としても一流ですが、教育者としても一流だと思います。大学院生の適正を素早く判断して、研究テーマを相談して選び、一旦決めたテーマはその学生に任す。常に、学生へのエンカレッジを心がけていたそうです。いわゆる、Open Mind Professorでした。

ペニッヒ先生も82歳となりました。現在、コンスタンツの介護施設にご夫妻で暮らしているそうです。今でも学問への興味や好奇心が衰えておらず、ヴィッデル先生に最近の研究の動向などを問い合わせてくるのだそうです。先生は、幼少の頃、お父さまからプレゼントされた顕微鏡で池にすんでいる微生物を熱中して観察されていたそうです。これがきっかけで、微生物学の道を歩むことになったのです。おそらく、今でもコンスタンツ湖の堆積物を採取して、自室の顕微鏡で糸状性硫黄酸化細菌チオプローカの滑走運動を観察されているに違いありません。そして、「どうして、君はそこにいるのだい? どうしたら、君を純粋培養できるのだい?」とチオプローカと対話しているのかもしれません。

このように、他人に迷惑をかけず、いくつになっても学問への興味や好奇心を失わずに、ご自身の頭で考え続けるペニッヒ先生。そんな先生の姿を思い浮かべただけで、私自身もエンカレッジされます。生きることは学ぶことなのですね。

ペニッヒ先生の一番弟子のヴィッデル先生。ブレーメンの地で、ヴィッデル先生との静かで、希望に溢れた時間。とても贅沢な時間です。時に、JAKOBのKroenungコーヒーを飲みながらの至福の時。こうした経験を大学院生の皆さんにもして欲しいと思っています。


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