今日は彼岸の中日。
時差ボケで現地時間の3時半には眼が覚める。シャワーを浴び、日本からの宿題に取り掛かる。
6時を過ぎれば、おなかがペコペコになる。ここ、マックスプランク海洋微生物学研究所のゲストハウスには、共通のキッチンがある。お湯を沸かし、お茶を飲む。自炊用にレトルトカレーと「ごはん」を日本から持って来たものの、すべてを院生にあげてしまった。お茶だけでは長い一日が持たないので、外へ出てカフェに入る。
スモークサーモンとチーズをのせたパン、珈琲、そして好物のブレーマー・ロテ・グリュッツェ。ドイツ特有の固いライ麦パン。噛めば噛む程、味わいが広がる。最後にデザート。
ブレーマー・ロテ・グリュッツェは、ブレーメンの郷土料理の一つ。ブルーベリー、ラズベリーなどの各種ベリーに砂糖を加えて煮こみ、コーンスターチを加えてとろみをつけ、冷やす。食べる前にバニラソースをかける。この甘酸っぱいデザートが私の好物。
ロテ・グリュッツェには思い出がある。
1994年、ブレーメンで下宿生活を送っていた。ブレーメンでも指折りの閑静な高級住宅地にその下宿があった。大家さんは、アルバース夫人。下宿といっても、玄関は別で、シャワーと簡単なキッチンがついていた。その部屋は、かつて、アルバース婦人の旦那さんのオフィスだった。弁護士業を営んでいたが、私が住み始めるほんの半年前に亡くなられたとのこと。つまり、私が下宿人第一号。
アルバース夫人は、若い頃ロンドンに留学していたこともあり、流暢な英語を話せた。ドイツ語のできない私にはとても都合が良い。右も左も分からない私に、ドイツでの生活のあれこれを息子のように教えてくれた。こんなエピソードがある。アルバース夫人の自家用車はオシャレである。ドイツの自動車と言えば、ベンツ、BMW、フォルクスワーゲンしか知らなかったので、彼女に、「リナルトと言う名の自動車会社もドイツにはあるんですね」と尋ねて見た。そうすると、アルバース夫人は品の良い笑みを浮かべ、「それは、ルノーっていって、フランスの会社よ」。
アルバース夫人には、2人の子供がいる。長女はすでに家を離れて、ボーイフレンドとミュンヘンで暮らしていた。長男は私と同じ歳で、アルバース夫人と一緒に暮らしていた。長男は英語がからっきし話せないのだが、人が良く、時々彼の運転でブレーメン中央駅や空港まで送ってもらった。
アルバース夫人にとっては、東洋人と密に接するのは初めてのこと。きっと大変だったに違いない。私の部屋の掃除もしてもらったし、下着さえも洗ってもらった。本当の息子のように世話を焼いてもらった。
ブレーメン時代は、院生時代同様に研究に集中することができた。そのため、帰宅は決まって遅い。仕事が終わると、研究所から自転車で30分もかかる下宿に戻る。ある日、キッチンにはアルバース夫人の置き手紙があり、「冷蔵庫にロテ・グリュッツェをいれてあるから、食べてね」と。深夜、ひっそりとロテ・グリュッツェをいただいた。アルバース夫人の手作りの味だ。疲れが一気に吹き飛ぶ。それからも、何度も冷蔵庫にロテ・グリュッツェを入れていただいた。
(明日に続く)
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