17世紀、オランダの呉服商人レーウェンフックは、趣味で自作の顕微鏡でせっせと微生物の観察にいそしみ、スケッチと観察記録を残しました。彼は、科学者としての教育を受けたわけではなく、アマチュア観察者だったのです。もちろん、英語もできなかったとのこと。
しかし、何故彼が多様な微生物の発見者として科学史の記録されることになったのでしょうか?
レーウェンフックはオランダ語で書いた観察記録を英国の王立協会(Royal Society)に送ったのです。その英語訳が紀要に掲載されたため、微生物の存在が科学界に広まったのです。
さて、今から6年前のこと。一人の学生が私のもとにやって来て、変形菌の生態研究を卒業研究として行いたいと。正直、迷いました。なぜなら、私はバクテリアが専門ですので、原生生物の変形菌は専門外。さらに、変形菌の研究そのものが国内外でどのようなレベルで行われているかも、全く理解していませんでした。
随分と悩んだあげく、Aさんの熱意に負けて、「まあ、うまくいくかどうかわかりませんが、とにかく研究を始めましょう!」と言ってしまったのです。
卒業研究、大学院の修士研究、そして博士研究。多くの困難を克服して、とうとうAさんは博士の学位を取得。現在は、学術研究員として当研究室で研究を続けています。
Aさんの研究が、オックスフォード大学動物学教室のカバリエ-スミス教授の目にとまり、今年度から2年間国際共同研究を実施することになりました。王立協会の研究費です。
と言うことで、現在、Aさんとともにオックスフォード大学に来ています。
動物学教室には、かつて、動物学者のチャールズ・エルトン教授が在籍していました。彼の著書「動物の生態学」を、私の大学院時代に何度も読みかえしたを覚えています。
オックスフォード大学でも自然科学系の建物が集まっている地区に動物学教室があります。
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建物内への出入は厳しく管理されていて、部外者が容易に入れないようになっています。
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2階には、ダーウィン・カフェがあり、簡単な食事と喫茶ができます。朝食もフル・イングリッシュ・ブレックファーストがいただけるとのこと。
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この建物の最上階にカバリエ・スミス教授の研究室があります。先生は、原生生物の進化(真核生物の起源、進化と多様性)を研究されて来られました。その研究成果が評価され、2004年度国際生物学賞を受賞されておられます。東京での授賞式では、天皇皇后両陛下とお話をされたとのこと。
カバリエ・スミス教授との研究の打合せは、実に楽しい! 先生は次から次へと生物学的疑問が湧いて来て、それらに答えるのが大変でしたね。しかし、どの質問も鋭い洞察力に満ちたもので、とても参考になりました。気がつけば、4時間もの時が過ぎていました。
Aさんが中心の国際共同研究。6年前、研究を始めた頃からは予想していなかった研究の展開に、Aさんも私も驚いている次第です。この国際共同研究、何としてでも成功させたいものですね、Aさん!
森に行けば、変形菌を見つけることができます。しかし、その多様性や生態はほとんどわかっていません。
機会がありましたら、皆さんも森に出かけてみてください。枯れ葉や切り株の表面に愛らしく変形菌の子実体が形成されているのを容易に観察することができます。
私の故郷の、加茂の山にもきっと!
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