福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

輪読

2006-12-03 23:17:00 | 微生物から学ぶ

研究室では、毎週木曜日の朝8時から輪読を行っています。今年のテキストは、南デンマーク大学(旧オーデンセ大学)のCanfieldらの水界地球微生物学です。

Canfield01D.E. Canfield, B.Thamdrup and E. Kristensen.
Aquatic Geomicrobiolgy
Elsevier

最近の知見をふんだんに取り入れながら、基礎的な事項も体系的にまとめた良書です。ただし、至る所に細かい誤りがありますので、注意深く読み進める必要があります。

先週の輪読会では、光合成細菌の項でした。その中で、Norbert Pfennig(ノルベルト・ペニッヒ)の研究が紹介されています。

Pfennig先生(1925.7.8~)はドイツの微生物学者で、光合成細菌の生理生態学研究で大きな功績を残された方です。彼がゲッチンゲン大学微生物学研究所で光合成細菌Pfennig199002の研究を始めた頃、純粋培養菌がありませんでした。そこで、光合成細菌の生息場所や化学反応からヒントを得て、完全合成培地で集積培養した後、アガーシェイク法(融解させた寒天培地に集積培養液を混釈して菌のコロニーを形成させる方法)で数多くの光合成細菌の単離培養に成功したのです。その結果、光合成細菌の生理・生化学的研究が発展することができました。

微生物学の分野で顕著な業績をあげた研究者には、Annual Reviews of Microbiologyの編集長から「微生物学にかかわる自叙伝」の執筆の招待状が届きます。Pfennig先生はコンスタンツ大学をリタイアした後、下記の『自叙伝』を記しています。

Norbert Pfennig
Reflections of a microbiologist, or how to learn from the microbes
Annual Reviews of Microbiology, 1993. 47:1-29.

先週の輪読会の後、久しぶりにPfennig先生の『自叙伝』が読みたくなり、早速オンラインでダウンロードしました(便利な世の中ですね)。

1925年にカッセルで誕生したPfennig先生は、幼少の頃から池の中にすんでいるプランクトンの顕微鏡観察に熱中するのです。その後、1991年までの『自叙伝』の冒頭では、こんなことが記されています。

「これまでの人生の中で、私は人から学んだだけでなく、微生物からも多くのことを学んで来た」

「微生物から学ぶ」。これがPfennig先生の研究者として姿勢です。『自叙伝』には、他に学ぶべきことが多く、しばらくPfennig先生と向き合ってみようかと思います。


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