
アルバートは、今までコツコツ貯めてきたお金が半年後には600ポンドになりそうなことから、事業を始めようと考えており、ダブリンの場末にある物件に目をつけて、ここで「A・ノッブス タバコ店」を開きたいと夢見る。そして、店舗の2階を自宅にして、ヒューバートにとってのキャスリーンのような女性と一緒に暮らしたいと思う。
アルバートがその相手にふさわしいと思い、恋心を抱いたのが同じホテルのメイド、ヘレン(ミア・ワシコウスカ、写真右)だった。ヘレンは金髪で巻髪の可憐な女性だったが(写真の実母に似ている)、ホテルの従業員でボイラー技士のジョー・マキンスという若者と恋仲になっている。マキンスは無学だが野心家であり、アルバートがヘレンに恋していることを知ると、
「つきあってやれよ、あいつが貯めこんでいる金をしぼり取って、カモにしてやれ。」
とけしかける。マキンスはスラム街の出身であり、アメリカに渡って成功したいと思っており、そのためにアルバートから金をむしりとろうというのだ。
その頃、チフスが大流行し、ホテル内にも感染者が広まり、アルバートも発病する。快復後、ヒューバートの家を訪ねると、ドアに黒い喪章がかかっており、キャスリーンを亡くしたヒューバートは、「これからどうすれば…。」とうちひしがれている。アルバートが、二人で一緒に暮らさないかともちかけるが、誰もキャスリーンの代わりにはなれないと断られる。
キャスリーンの遺した手作りの服を着て、二人は海岸を歩く。女の服なんて久しぶりと、アルバートは感極まってしまう。ヒューバートはアルバートに、
「自分に正直になるべきだ。あんたは今まで一生懸命働いて、お金を貯めてきた。人生の新しい相手が欲しいなら、自分で探すべきだ」
と忠告する。
その頃、ヘレンが妊娠し、ホテルの女主人、ベイカー夫人がマキンスとヘレンの仲を知って激怒、すぐにクビにしてやるわと息巻く。一方、マキンスはヘレンに、
「無理だ、オレはどうしても父親にはなれない。オレの生き方が全て変わってしまう。」
と打ち明けた結果、二人はホテルの従業員たちも巻き込んで、大げんかになる。アルバートがその中に入って、マキンスを非難したため、マキンスは怒りに駆られてアルバートを突き倒し、アルバートは壁に頭をしたたかに打ち付けてしまう。耳から血を流したまま自室のベッドに運ばれたアルバートは、翌朝冷たくなっているところを発見される。ホテルを定宿にしている医師のホロランが、アルバートの死を確認しようとして、服を脱がせて身体を見、彼が女であったことに初めて気づき、
「どうして、かくも哀れな人生を選んだのか。」
とつぶやく。
感想
この話には後日談があって、ホテルの女主人のベイカー夫人が、アルバートが床下に貯めこんでいた大金の存在に気づき、ネコババしてしまうところには、なんともいえないやりきれなさを覚えた。ベイカー夫人は、その金をホテルの改装資金に当て、ペンキの塗り直しのためにヒューバートが呼ばれる。アルバートが床下に貯金していたことを知っていたヒューバートは、まもなく夫人の着服に気づく。
一方、ヘレンが、マキンスにアメリカに逃げられ、ホテルでただ働きさせられながら、赤ん坊を育てているところも、見ていてたまらない気持ちになった。ただ、ヒューバートに会ったヘレンが、ベイカー夫人のひどさを訴え、
「赤ん坊はいずれ取り上げられる。私もきっとホテルから追い出され、路頭に迷うでしょう。」
と言ったとき、ヒューバートが、
「だったら、そうならないようにしよう。」
とヘレンを勇気づけるところに、かすかな希望が感じられた。
ヘレンは生まれた子に、アルバート・ジョーと名づけており、この子を守るように、二人は力を合わせて生きていくことになるのだろう。(当時、父親のいない子どもは孤児院送りになったため、それを防ぐためには誰かが父親になるしかない。)
本作は大女優のグレン・クローズが1982年に舞台で演じた役を、死ぬまでにもう一度スクリーンで演じたいと願ったことから始まったそうだ。以来、構想約30年、自ら脚本を書き、資金を調達し、ロケハンを行い、俳優をキャスティングして、彼女は自分の夢を実現させた。その結果は、非常に地味で華のない作品に見えるが、とても丁寧に作られ、登場人物の一人一人の人生やその背景も伝わってくる佳作に仕上がっていたように思う。再現された19世紀のダブリンの町並みや、そこで暮らす人々の姿、当時の衣装や調度、言葉遣いで人々の階級や生い立ちを表現している点など、細かい所まで入念に描かれた、深みのある映画だった。
私も今、凄く観たい映画の一つであります。
「アルバート氏の人生」ちかさださんが御覧になったと知って、驚きました~(笑)
二回に渡ってのちかさださんの解説から、具体的なあらすじを知ることが出来ました、(やっぱり面白そう・・)又観賞後の感想、印象的なシーンなども述べられていらっしゃいますので、私としましては大変参考になった次第です(笑)
この度は偶然とは言え・・・
ちかさださん、本当に有難うございました(笑)
アルバート氏を取り巻く人々・・・
人間の本質とは・・・人として…ジェンダーとは・・・
その複雑な人間模様から彼?(彼女)の心の描写を通して様々なものを私達に訴えかける作品かもしれません・・
華やかさは無いものの、余韻を残す素晴しい映画だったのではないでしょうか?・・・
風の靴さんのほうが、この映画の本質をとらえておられるようですね。駄弁を弄んだわりに、たいしたことも伝えられていない文字通りの拙文で恐縮ですが、一人でも多くの人が、この作品を見て、何かを感じてくださればと祈っております。