
あらすじ
19世紀のアイルランド、ダブリン。主人公のアルバート(グレン・クローズ)はモリソンズ・ホテルでウェイターとして働いている初老の男。彼は職場では、「気配りのきく人」として評判がよく、堅実につつましく暮らしている。チップもその日にいくらもらったかをきちんと記録し、大事に自室の床下に貯めこんでいる。寝る前には、母親の写真を眺めてから眠る、そんな彼の平凡な生活に、ある日危機が訪れる。
ホテルの壁の塗り替えにやってきたペンキ職人、ヒューバート・ペイジを、部屋に泊めてやってくれと、ホテルの女主人のマーガレット・ベイカーに頼まれたのだ。
アルバートには、人に言えない秘密があった。彼は実は女性だったが、若い頃、生活のために男性として生きていくことを決意し、男装して偽りつつ、ウェイターとして各地のホテルを渡り歩いてきたのだ。
アルバートは、ヒューバートと同じベッドで寝るはめになり、女であることは隠したまま一晩なんとかやりすごそうとするが、ヒューバートが持ち込んだ蚤(のみ)が胸元に入ってしまい、かゆくてたまらずに下着になって蚤を取り出そうとしているところを見つかってしまう。
「女だったのか…」
誰にもこのことは言わないでくれと懇願するアルバートに、ヒューバートは秘密を守ることを約束する。
だが、ヒューバートにも秘密があったことが、後に彼の口から明らかになる。実は彼も女であり、昔、夫の暴力に耐えかねて、夫の所持品を持って家を出た。その後は元夫の服を着て男として働き、今はキャスリーンという女性と結婚して共に暮らしているという。
ある日、ヒューバートの家を訪れると、二人は幸せそうに暮らしており、アルバートは自分もお金がもう少し貯まったら、こんな生活をしたいと思う。また、
「あんたの話を聞いてなかったな」
とヒューバートに言われて、アルバートは自分の生い立ちを語る。
アルバートは、私生児として生まれ、養母は実母の写真を与えただけで、何も語ってはくれなかったが、どうやら上流階級の女性だったらしい。実母からは秘かに養育費が渡されていたらしく、アルバートは修道院で育ったが、その後、実母が亡くなるとそれも途絶え、スラム街で暮らすようになった。その頃、5人の男に押さえつけられ、乱暴されたつらい経験がある。養母も死んでからは男として生きることを決意し、フリーメーソンズ・ホールでウェイターを募集していたのに応募し、採用された。その後、ロンドン、リヴァプール、マンチェスターなどの各地の重要な店でウェイターをし、そして今のモリソンズ・ホテルにやって来たのだという。