夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

蒼太の包丁

2013-02-24 23:30:57 | 『蒼太の包丁』


今、書店に行くと、オヤジ系漫画雑誌の定番『漫画サンデー』の最終号が置いてある。売上部数の低迷から、昨夏より週刊から月2回の発行となっていたが、看板作品の「静かなるドン」(新田たつお)も昨年12月で終了し、廃刊は避けられないと見られていた。

その『マンサン』に連載されていた作品で、「蒼太の包丁」というのがある。北海道・静内出身の北丘蒼太(そうた)という若者が、上京して青春のすべてを日本料理に捧げ、修業に打ち込む物語である。私がよく行く喫茶店にコミックスが置いてあり、読み出したらすっかりハマってしまい、その店にある単行本はすべて読み、時々は『マンサン』でも読んでいた。わりあい人気作であるために、同誌の廃刊後はどこか別の雑誌に移って連載を続けるのではないかと思っていたが、実際は最終号の巻頭カラーで登場し、連載が終結することを知って寂しくなった。

蒼太が第二の故郷・東京で、いずれ自分の店を持ちたいと言っていた目標はどうなるのか、また蒼太が伴侶として選ぶ女性は、さつきと雅美のどちらになるのか、ずっと気になっていたので、先日最終話を読んでみた。

ちなみに、蒼太は高校卒業後に上京して、東京でも五本の指に入る名店といわれる銀座「富み久」の親方・富田久五郎に拾われ、修業に励んで一流の料理人としての経験を積んでいる。蒼太は、弟子入りして間もない頃に出会った親方の娘、さつきを恋し続けている。親方夫婦の引退後、さつきは若女将として修業し、「富み久」の経営についても学んでいるが、年下の料理人の蒼太に、好意以上のものも感じている。



一方、雅美は、蒼太が以前、助(すけ=助っ人)として日本橋の老舗料亭「神かわ」に赴いていた折に出会った女性料理人である。雅美は都立葉明高校(相当の進学校という設定)卒業後に料理専門学校で学び、「神かわ」で修業中に蒼太と知り合い、その真摯な姿勢に惹かれるようになる。その後、「神かわ」の親方が後継者不足から自分の代で店を畳むことを決意すると、雅美は蒼太を追うようにして「富み久」に移ってくる。



「蒼太の包丁」は、蒼太の和食修業と四季折々の料理や食材の紹介がメインの話題であるが、周囲の人間模様もよく描かれており、蒼太が好意を寄せるさつき、蒼太を慕う雅美など、恋愛の要素もあって、なかなかに飽きさせない工夫がなされている。蒼太はずっとさつきを思う気持ちが変わらないように見えるのに、雅美はそのことを知っていながらも、
「人の気持ちって、変わることもあると思うから。」
と言い、
「私は、蒼太さんと一緒に仕事が出来れば、それでいい。」
と自分に言い聞かせて、静かに耐えながら、蒼太にとって自分が必要になったときのために、自身修業に打ち込む。



このマンガを読んでいて、だから私は、ずっと雅美を応援していた。蒼太に対しては、今好きなのはさつきかも知れないけど、経営者になるさつきと、従業員とでは立場も違うし、性格も微妙に合わないように思える。雅美のようにおとなしいが芯が強く、下からしっかり支えてくれる女性の方が合うのではないか、と思っていた。

最終話がどうなったか、というと…。
蒼太は結局、北海道の食材を生かした店をこの東京で出したい、という自分の夢を実現させるために、親方に暇を出してもらうことを申し出、銀座の「富み久」(周辺の再開発のため、新店舗になる)を継ぐさつきとは、別の道を歩むことになる。蒼太の店は、大泉学園の住宅街に、「富み久」の建物を移築した形で、「富み久 カムイ」として、北海道の食材にこだわった居酒屋での出発ということになる。ある日、開店祝いにさつきが親方からの祝儀の品を持って「カムイ」を訪れると、店からまず現れたのは雅美だった。…まだ結婚には至らないが、蒼太の夢を支え続ける決意をした彼女の長年の思い(たぶん、知り合って十年近く経っているはず)が報われたことに、いち読者として、この上なく嬉しい気持ちになった。

私は基本的に俗物なので、マンガも大好きで、生徒以上に真剣に読んでいるが、マンガにもやはり良質なのとそうでないのとがあり、前者が少なく後者が非常に多いことを日々痛感している。「蒼太の包丁」は、その数少ない良作の一つであったと思うので(最近の絵柄はあまり好きでなかったが)、話が大団円を迎えたことを喜びつつも、連載終了には寂しさを禁じ得ない。

〔2/25追記〕
昨日の記事では、雅美は岡山県出身と書いたが、今日確認したら、雅美と蒼太が出会った頃には、都立葉明高校を卒業したと書かれていた。回想シーンでは、雅美は高校時代、都内の家から通学していたようであり、友達と話している会話も標準語である。ただし、最近の号では、雅美は岡山に里帰りしたということになっており、何かひっかかりながらも昨日は岡山県出身と書いてしまった。このへんはどうなっているのだろうか?なお後考を俟つ。

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (souta)
2014-03-20 06:13:24
いい漫画ですよね。
岡山は雅美の親の実家(田舎)ですよ、
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soutaさんへ (ちかさだ)
2014-03-22 01:05:59
コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、雅美は両親が岡山の津山出身で、雅美も子どもの頃は住んでいたんですよね。
私もこの漫画は、今もときどき読んで、いいなあと思っています。
ありがとうございました。
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Unknown (根本高行)
2019-09-10 17:55:17
蒼太の包丁。とても面白いですのね。人情深く、描かれる絵暖かみのある素敵な作品ですよね。ただ、残念なのは本庄先生の描いたさかなが本物では無い事。サバ、イサキ、メジナ、他。天然物ですとセリフを入れた画なのに鯖の縞模様、イサキの魚体、顔つき。メジナの魚体があまりにも似つかない。作家は大変優れている。かなり、研究や勉強、確認をしていると思います。しかし、マンガ家だからと言って適当に描かれるのは悔しくておもいます。魚図鑑を描けという訳では有りませんが折角の良い作品が、台無しになります。
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