山のあれこれ

山の楽しみのあれこれを紹介していきたいと思います。

「山で…」その1より  山里でのこと

2008-07-14 | 山想
 山に入るとき、山から下って来たとき、必ずといってよいほど、村や町のはずれの民家の軒先を通っていく。
 
 明け方、鶏が時を作る。まだ朝靄が谷間の家々を覆っている。まだ、シーンとして清々しい朝だ。早起きの犬にけたたましく吠えたてられる。それでも僕は知らんぷりしてスタスタと通り抜ける。ある集落では、庭先や畑に家族が出ていた。その前を通る。見知らぬ者をジーっと見る目、チラッと見る目、好奇心の目、背ける目、 仕事の手を止めての笑みには軽く会釈を返すが。大抵足早やに歩き去る。できるだけ姿を消したくて、す早く通り抜けたくて。

 山の中腹まで耕した段々畑がある。やっと、藪をかき分けて、そこに躍り出た僕。体中草の実やら何やらで、みっともない姿、汗だくで赤い顔をして息を弾ませている。畑のあぜ道から集落の一本道へ小走りで下る。村人の好奇心の目が注がれる。どこにいったんか、どこから来た?ひどい格好して? でも、朝の僕とは違う、その日の目的をやり終えた為からか、むしろ、誇らしげに足が弾む。

そんなとき誰かに、声を掛けられたりしたらニコニコ顔で靴の中の痛い足のことや、バスの時刻のことなんか忘れて、話しこんでしまうに違いない。
 夕暮れの朱色の干し柿が金色に輝いている軒先に、ニコっと挨拶しながら通り過ぎる。
(1971.5.23記)
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