![]() | ターン―Turn 価格:¥ 1,785(税込) 発売日:1997-08 |
「時と人」三部作の二作目。交通事故をきっかけに、繰り返される同じ一日。ただ記憶だけが継続し、他は全てリセットされて引き戻される。
時の牢獄の151日目。電話が鳴る。その奇蹟によって物語は次の段階へと進む。電話によって結ばれた、まだ逢ったことのない二人。
10章立てのうち5、6章を除いて二人称によって語られる物語である。不可思議な話を会話調で巧みに構成した手腕は見事だ。孤独に対して、過剰に思い入れずに物語を展開させるにはこの綱渡りのような描写が必要だったということだろう。
子供の頃から語りかけられていた不思議な声の相手との運命のような出逢い。逢うことは出来なくとも、表現者としての共通点から繰り広げられる感情の交錯は心地良い。
それだけに、この時の牢獄に突然現れた柿崎の存在に強い違和感を覚えた。確かに、「君」がそこを抜け出し、元の世界へと回帰するには何らかのきっかけが必要だった。SF的な手法を取らずにそれを成すには、分かりやすい出来事が必要なのは理解できるが、この安直な仕掛けはこの物語を台無しにしてしまった。
唐突な出現もさることながら、物語の展開に都合の良さばかりが目立つキャラクターで、何のひねりもない。退場の仕方も同様に、伏線も無ければ、いかにも都合良く消え去った。
ただでさえ現実とはかけ離れた物語なのに、こんな展開を持ち込むと、作者の魅力である些細な日常の積み重ねという手法が霞んでしまう。柿崎の登場以前と以後で作品の雰囲気が全く異なってしまったように感じられた。
運命の出逢いのような恋愛主義的な発想自体にかなり辟易していたものの、それでも悪い出来ではなかっただけに、いかに結末へと至るのか非常に楽しみにしていた。それがこのような結果でがっかりした。『スキップ』は結末に違和感を覚えた。本書は結末こそ悪くはないが、そこに至る過程に不満を残した。共にSF的な仕掛けを取り入れているが、それを生かせなかったと感じる。三部作最後の『リセット』がこれまでの懸念を吹き飛ばすような作品であって欲しいと思うが、果たして……。(☆)
これまでに読んだ北村薫の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)
『空飛ぶ馬』(☆☆☆☆☆)
『夜の蝉』(☆☆☆☆☆)
『秋の花』(☆☆☆☆☆☆)
『六の宮の姫君』(☆☆☆☆☆)
『朝霧』(☆☆☆☆☆☆)
『スキップ』(☆☆☆)