世相を斬る あいば達也

民主主義や資本主義及びグローバル経済や金融資本主義の異様さについて
定常で質実な国家像を考える

●世界を震撼させる米露のいがみ合い ヒラリー対プーチンと云う悪夢 

2016年08月31日 | 日記
ヒラリー・クリントン ―その政策・信条・人脈― (新潮新書)
クリエーター情報なし
新潮社

 

ヒラリーの野望: 大統領への道と政策 (ちくま新書)
三輪 裕範
筑摩書房


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●世界を震撼させる米露のいがみ合い ヒラリー対プーチンと云う悪夢 

 久々に、ロシアはどうなっているのか、色々と覗いてみた。その発端は、アメリカ大統領選における、トランプ追い落としの“メディア・スクラム”が成立している現実だ。このあからさまなメディア戦略が功を奏す保証はないが、現状分析では、ヒラリークリントンが第45代米大統領になる確率が高いのだろう。ロイター/イプソスの調査では、現時点(8月24日)に“米大統領選挙”が実施された場合、民主党候補のヒラリー・クリントン氏が激戦州のフロリダ州、オハイオ州、バージニア州などを制し、共和党候補のドナルド・トランプ氏を95%の確率で破り当選すると調査結果が示しているそうだ。まあ、削除された、ヒラリーの問題メール“失われた3万通”が、ウィキリークス、乃至はロシア在住のスノーデン氏などから公開されれば、一気に形勢逆転というか、候補辞退まで視野に入る。

 正直、クリントン夫婦が、ウオール街、銀行、軍産複合体、イスラエル・ロビー、モンサント等々、米国、否、世界の権力を欲しい儘にする連中の代理人であり、且つ、戦争好きなのだから、相当に怖い話だ。結果的に、国民よりもマネーに貢献する政治経済を行っているのが、ビル・クリントン以降の、ホワイトハウスの住民の不文律になっている。このことは、半ば公然と理解されている事実だが、アメリカの支配層の人々すべて、及びマスメディアが黙して語らない。それどころか、ヒラリーに敵対するトランプを真昼の公然わいせつのように虐待するのだから、凄い民主主義国家だ。

 ヒラリーは、プーチンロシア大統領を名指しして、「新たなヒトラーだ」とまで公言した。冷戦時代の「キューバ危機」以来の、核戦争の危機を煽ることを平気で口走る超過激な好戦女性だ。民主党でありながら、ネオコンとの結びつきが強く、中国とロシアは、アメリカの覇権維持において、邪魔以外の何者でもないと思い込んでいる。筆者などは、ヒラリーがホワイトハウスの主になった時には、数年以内に、EUとロシアの国境周辺で、NATO軍とロシア軍の戦争の火ぶたを切ると確信している。この時、ロシアは、まだプーチン政権下にあるだろうから、プーチンが白旗をあげることは想像しがたい。

 プーチンは、アメリカ傀儡のNATO軍と足元で戦い続ける愚は犯さないだろう。一定のつき合い交戦はしても、「敵は本能寺にあり」と、米国本土に交戦の舞台を移すことは想像がつく。この時、ロシア国民とアメリカ国民のどちらが失うものが多いのか、そこがポイントだ。日本と中国が交戦した場合にも言えることだが、どちらの国民がより大きな悲鳴を上げるかと云うことだ。米ロの交戦になった場合、互いに核爆弾と大陸間弾道弾(ICBM)保持しているので、互いに発射した数発が、双方で撃ち落とすとしても、幾つかは必ず着弾し、双方に被害をもたらすことは必至だ。

 つまりは、世界核戦争となるリスクは、相当の確立であると思っておた方がいい。無論、そんな確率論で覚悟しろと言われても、何を覚悟して良いのかは、実際問題、坐して死を待つのみだろう。しかし、今の米大統領選の成り行きは、アメリカの権力構造が悉く、ヒラリー大統領を希求している。その目的は、アメリカの、世界のエスタブリッシュメントの総論なのだろうが、そのエスタブリッシュメントの存在も、持続可能な地球があってこそであり、地球上が放射能塗れになっても、マネーを握って離さないと云うのは、笑い話の落ちにもならない。

 以上、筆者の推論から妄想までを記述したが、現実はどうなるのだろう。まあ、筆者も、60年近く生きてきているので、それほどこの世に未練はないのだが、地球上の半分が放射能汚染すれば、最終的には、人類が滅びることになるのかもしれない。個人的には、そのような地球最大の滅亡ショーを目撃するのも悪くないかな?と思う面もある。好んで、そうなるとは思わないが……。それで思い出したのが、以下のトム・クランシーによる『米露開戦』だ。以下は、新潮社のサイトからの著作紹介である。ひと言つけ加えておけば、クランシーの傾向は、マッチョで正義のアメリカンなので、好感は持てないが、専門的視点も多いので、実戦の真実の一部に触れることは出来る。


≪『米露開戦』(トム・クランシー他)
【ソ連のような大ロシア帝国の建国なるか。ロシアのウクライナ侵攻を予言した巨匠の遺作。 米露開戦1 トム・クランシー/著、マーク・グリーニー/著、田村源二/訳】
ロシア政府はシロヴィキといわれる治安・国防機関の出身者に牛耳られていた。彼らは、特権により私腹を肥やし、メディアを操り、体制批判者の暗殺さえ厭わない。ヴォローディン大統領がその筆頭で、彼はかつてのソ連のような、大ロシア帝国を築こうとしていた。その突破口として目をつけたのが、ウクライナだった――。ロシア軍のウクライナ侵攻を、見事に的中させた巨匠の遺作!
■ 波 2015年2月号より 危ないのは中国よりもロシアだ! 田村源二
トム・クランシーがジャック・ライアン・シリーズでめざしたのは結局のところ「祖国の安全保障にとって脅威となる国や組織との戦いを娯楽小説という形で緻密に描き、今どういう行動が必要なのか読者に楽しみながら考えてもらう」ということだったのだと思う。
二〇一三年一二月に原作が出版されたクランシーの遺作『米露開戦』も、この基本理念をしっかりと踏襲している(クランシーはまことに残念ながら、この作品を書きあげた直後の二〇一三年一〇月に六六 歳で他界してしまった)。
シリーズ最後の三作の執筆に参加してクランシーを大いに助けた俊才マーク・グリーニーは、ハフィントンポスト・アメリカ版のインタヴュー(二〇一四年一二月)で次のように語っている。 「現在、アメリカの安全保障をおびやかす最大の脅威はロシアのプーチン大統領だと思う。イスラム国よりも危ない存在だ。
……最近、中国の脅威、とくにそのサイバー戦能力が問題にされることが多いが、わたしの調査では中国は最終的にはアメリカと協力しなければ国益を守ることができない。だがプーチンの場合、さまざまな理由から、逆にアメリカに対抗しなければ自己の利益をはかれず、中国よりも危険 だ」(筆者の要約)
『米露開戦』のストーリーはまさにそうした分析に基づいて展開される。むろん作中に登場するロシアの大統領はプーチンさんではなく、ヴォローディンという架空の人物だが、明らかに現大統領をモデルにしている。
どちらもKGB出身で、現在ロシアの権力中枢を牛耳るシロヴィキと呼ばれる情報・治安・国防機関出身者たちの頭目であり、メディアをほぼ完全に支配している。作中、ヴォローディン大統領の命令で、イギリスに亡命して反体制活動を繰り広げる元SVR(ロシア対外情報庁)長官が放射性物質ポロニウム210で暗殺されるが、これはあのリトビネンコ中毒死事件にそっくりだ。
そして作中で描かれるロシアによるウクライナへの侵攻が、そのままの形ではないにせよ現実にも起こってしまった。現実世界のウクライナで、反政府勢力による大統領府など政府庁舎の占拠、親露派のヤヌコビッチ大統領の失脚、ロシアによるクリミア併合、東部での政府軍と親露派武装グループとの戦闘……とエスカレートしていったのは、二〇一四年二月以降だから、クランシーはロシアの介入によるウクライナ危機を『米露開戦』で見事に予見したことになる。
だが今回、クランシーが繰り出した瞠目に値する大技は、「KGBの一派が八〇年代半ばにソ連の崩壊を確信し、自分たちのサバイバルのために秘密資金を蓄え、それを非情な暗殺者に護らせた」という設定だろう。なるほど、そうであれば、崩壊後のロシアでなぜシロヴィキがあっというまに権力を独占してしまったのか説明がつく。そしてさらに、それにはロシア・マフィアの力も大きく与かっていた、とクランシーはたたみかける。
佐藤優氏が数年前から「新帝国主義」という言葉を使って二一世紀の国々の生き残り戦略を説明されている。その戦略をいちばんわかりやすい形で実行しはじめているのは、やはりロシアと中国だろう。だからこそ、トム・クランシーは前作『米中開戦』 で中国の脅威に対する戦いをきちんと描き、今回『米露開戦』でウクライナ危機を中心に据えてロシアの脅威を鮮烈に描いて見せたのだ。
クランシーが描くのは、あくまでもアメリカの国益、国民を護る戦いであり、その点を注意する必要があるが、『米中開戦』『米露開戦』の二作は日本の読者にも祖国の安全保障問題を考えるきっかけを与えてくれる貴重な娯楽小説と言えるだろう。
なにしろ日本は、帝国主義的欲望を剥き出しにしはじめているロシアと中国を隣国にもつという地政学的現実にさらされているのだから。 巨星トム・クランシー亡きあと、“面白くてためになる”国際軍事インテリジェンス小説は途絶えてしまうのかと途方に暮れていたところ、俊英マーク・グリーニーがシリーズを継承するという嬉しい知らせが飛び込んできた。
グリーニーはすでにスピンオフ作品のほかに本編の新作も発表し、その敵役となる国はなんと北朝鮮だ。これからも日本の読者はジャック・ライアン・シリーズから目を離せない。≫(たむら・げんじ 翻訳家)  ≫(新潮社)


 以上、キナ臭い話題は避けたいところだが、現状のプーチン大統領の人事を含む国家体制の再構築的なダイナミックな動きは注目に値する。このダイナミックな動きと、経済制裁疲れを見せ始めたフランス・オランド大統領、アメリカに良いように使われるだけのEU。アメリカ何するものぞと、変に力む安倍首相。現実の外交や、ロシアの内政事情等々を、以下に羅列しておく。上述の筆者の米大統領選の行く末と合わせてお読みになると、結構面白いと云うか、怖い推論が、色々と立てられそうだ。

≪ ロシア大統領が12月訪日=安倍首相と来月2日会談-高官
【モスクワ時事】ロシアのウシャコフ大統領補佐官(外交担当)は30日、記者団に対し、プーチン大統領が12月に訪日する予定だと明らかにした。極東ウラジオストクを訪問する安倍晋三首相との首脳会談が9月2日に行われることも発表した。インタファクス通信が伝えた。
 ロシア側が、大統領訪日の具体的時期に踏み込むのは初めて。経済協力を中心とした日ロ関係の発展に強い意欲を表明するとともに、訪日計画を早期に公表することで、日ロの接近に難色を示す米国をけん制する狙いもあるとみられる。
 補佐官は「訪日日程は既に合意しているが、日本側の了解を得た上で発表する」と説明。その上で「(2日の首脳会談では)平和条約締結問題にも触れられる。ロシア側は交渉を継続する用意がある」と述べた。
 補佐官は2日の日ロ首脳会談について「5月のロシア南部ソチの会談で得られた信頼の具体化を議論するとともに、政治、貿易・経済、エネルギー、文化・交流など2国間協力をめぐって幅広く意見交換する」と説明した。 
  安倍首相は2、3両日、東方経済フォーラム出席のためウラジオストクを訪れ、プーチン大統領と会談する。安倍首相は地元・山口県に大統領を招きたい意向で、今回の会談では訪日計画の詳細や経済協力、懸案の北方領土問題に関して直接話し合うことになりそうだ。 ≫(時事通信)

 



≪ 9月2日のプーチン・安倍首脳会談で平和条約もテーマに
プーチン大統領と安倍首相は9月2日、ウラジオストクの東方経済フォーラムのフィールドでの会談で、平和条約および朝鮮半島情勢について触れる可能性がある。30日、ユーリー・ウシャコフ大統領補佐官が明らかにした。
「首脳会談では朝鮮半島情勢など逼迫した国際問題が話し合われるほか、多方面のフィールドでの相互関係が議題に上げられうる。」 「会談ではまた平和条約のテーマも取り上げられるものと期待されている。ロシア側はこのテーマでの交渉を継続していく構え。」
菅官房長官は29日の記者会見で、9月初めにウラジオストクで実施の安倍首相とロシアのプーチン大統領の会談について、日本は露日関係全般にわたって話し合う見通しであることを明らかにした。  ≫(スプートニク日本)


≪ 「腹心」を相次ぎ更迭…プーチン強権人事の深意
最大の標的は最大手国営石油会社「ロスネフチ」社長か
【 プーチン大統領が断行している一連の人事が臆測を呼んでいる。大統領の出身母体である旧ソ連国家保安委員会(KGB)人脈を中心に、これまで政権を支えてきた「腹心」を次々と更迭しているからだ。その狙いはどこにあるのか。】
 ロシアで最近、プーチン大統領が断行した人事が臆測を呼んでいる。クレムリンの中枢である大統領府を率いるセルゲイ・イワノフ長官(63)を解任したことだ。
 後任の大統領府長官には、若手のテクノクラートであるアントン・ワイノ副長官(44)が昇格した。イワノフ氏は自然保護活動と環境・輸送問題を担当する大統領特別代表に任命され、大統領府の安全保障会議のメンバーにも残る。
 一連の人事は8月12日に発令された。その直前、プーチン大統領はイワノフ、ワイノ両氏を執務室に呼んで3人で会談している。大統領府によれば、要約するとだいたい以下のような会話が交わされた。
プーチン大統領(イワノフ氏に対して)「我々は長い間ともに働き、首尾良く働いてきた。大統領府長官の職務は4年以上に及んでおり、別の職に就きたいという貴兄の要望は理解できる」
プーチン大統領(ワイノ氏に対して)「セルゲイ・ボリソビッチ(イワノフ氏のこと)が後任の大統領府長官にあなたを推薦した。この仕事を引き受けてもらいたい。これまでと同様、大統領府の仕事が効果的で高い専門性を持ち、できるだけ不毛な官僚主義を排し、具体的な成果に満ち、課題を解決する能力をもつようにしてほしい」
イワノフ氏「まずは17年間に及ぶ私の仕事を高く評価して頂いたことに感謝します。大統領府の創設から25年がたちました。私は11代目の長官でしたが、長官在職期間は4年8カ月に及び、歴代で最長となりました」 ワイノ氏「信頼に感謝します。大統領府の主要な任務は、大統領としてのあなたの活動を万全の態勢で支えることだと認識しております」
 会談の発言を素直に受け止めれば、イワノフ氏はかねて激務である長官職の辞職を求め、プーチン大統領が同氏の要望や後任候補の推薦をそのまま聞き入れる形で、今回の人事が発令されたことになる。

 ■対日外交重視との解釈もあるが…
 確かにイワノフ氏をめぐっては2年前の2014年11月、ロシア開発対外経済銀行の副総裁だった長男のアレクサンドル・イワノフ氏が保養先のアラブ首長国連邦(UAE)の海岸で〝溺死〟し、その悲劇から立ち直れない状況が続いていたともいわれる。ちなみにこの長男は05年、モスクワで車を運転中に年金生活者をはねて死亡させる事件を起こしている。ただ、刑事事件にはならずに不問に付された。当時は国防相だった父親が裏で画策したとの噂も流れた。
 年齢や健康上の問題、こうした家族の事情なども踏まえれば、順当な人事といえないこともないわけだが、臆測を呼んでいるのはやはりイワノフ氏がプーチン大統領の長年の「腹心」の一人だからだ。
 両氏は1970年代、旧ソ連国家保安委員会(KGB)のレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)支部で共に勤務して以来の盟友だ。プーチン政権下では国防相、副首相などを歴任した。2008年の大統領選挙では、当選したメドベージェフ氏とともに、プーチン氏が推す有力な後継候補と目されていた。
 それだけに、「腹心」の切り捨てともいえる今回の人事に、関心が集まっているわけだ。しかも、後任の大統領府長官となったワイノ氏はエストニアの タリン生まれで、外交官の出身だ。大統領とはもともと、地域的なつながりも職場のつながりもなかった。ただ、プーチン政権の1期目から大統領の下で働き、プーチン氏が首相時代には首相府、大統領時代には大統領府で主に儀典部門を担ってきた。いわば大統領に忠誠を尽くす実務型の部下といえるだろう。
 ちなみにワイノ氏は、外交官時代に在日ロシア大使館の勤務経験を持つ日本通でもある。このためプーチン大統領が対日外交を重視して大統領府長官に 据えたと期待する向きもあるが、その役割はワイノ氏自身が認識しているように、あくまでも大統領の活動を「下支え」する裏方だ。対日関係とは全く関係がないとみるべきだろう。

 ■支持率低下の中、イメージ刷新が狙いか
 話を戻そう。内情はともかく、大統領は全幅の信頼を置く秘書役ともいえる大統領府長官を大幅に若返りさせ、「一家言がある腹心」から「忠誠を尽くす部下」に交代させたのは確かだ。大統領のフリーハンドが高まることは間違いない。
 周知のようにプーチン大統領は従来、自らの出身母体のKGBと、出身地のサンクトペテルブルク人脈の盟友らを相次ぎ要職に登用し、政権基盤を固めてきた。故エリツィン元大統領に後継指名され、2000年に初めて大統領に就任した当時はまだ知名度も低く、信頼できる人脈も限られていたためだ。
 しかも、こうした腹心らの意見に真摯に耳を傾けたうえで政策を断行するのが、プーチン氏の真骨頂だったとされる。いまでこそ、「強権」「独裁」と いった呼称を添えられることが多いが、側近グループと共に築き上げた「集団統治」がプーチン政権の元来の強みともいえた。大統領も腹心の人事にはことさら配慮し、転職させる場合もそれなりの要職を準備するのが常だった。
 ところが、今回のイワノフ氏の人事はどうみても降格だ。そこで浮上しているのが、大統領は18年の次期大統領選の再選に向け、斬新な印象を国民に植え付けようと、腹心の切り捨てに徐々に動きだしたのではないかという観測だ。プーチン大統領は依然、80%を超える高い支持率を誇っているが、14年春 にウクライナ領だったクリミア半島を併合した直後に比べると、徐々に低下しつつあるのも現実だ。

 


 腹心や旧友を重用してきた弊害として、とくに旧KGB出身者らが国家資産を流用し、私腹を肥やしているのではないかとの疑念は国内で根強い。原油安やウクライナ危機に伴う欧米の経済制裁で国内経済が停滞するなか、腹心の汚職疑惑は次期大統領選の障害になりかねない。そこで人事政策で疑惑の芽をあらかじめ摘み取り、プーチン政権のイメージを刷新しようとしているのではないかというわけだ。

 ■最大の標的はロシア最大手国営石油会社「ロスネフチ」社長
 理由はさておき、旧KGB人脈を中心に、プーチン大統領の旧友や腹心の更迭がここに来て相次いでいるのは事実だ。ロシア鉄道を長年率いてきたウラジミル・ヤクーニン氏が昨年、社長職を解任されたのを皮切りに、今年に入ってからもヴィクトル・イワノフ連邦麻薬流通監督局長官、コンスタンチン・ロモダ ノフスキー連邦移民局長官、エフゲニー・ムロフ連邦警護局長官、アンドレイ・ベリャニノフ連邦税関局長官が相次ぎ更迭された。
 とくにベリャニノフ長官の解任に際しては事前に、自宅への家宅捜索で“発見”された多額のドル、ユーロ、ルーブル紙幣の札束が机上に並べられた映像や写真が大々的に公開された。同氏も旧KGB出身で、プーチン氏とはともにKGB職員として旧東独に勤務していた時代に知り合ったとされる。そんな旧友も「汚職まみれの高官」として見せ物にされたわけだ。
 プーチン大統領が次期大統領選を視野に、腹心の切り捨てで政権の抜本的な刷新に乗り出したのだとすれば、最大の標的になるとみられるのが、ロシア 最大手の国営石油会社「ロスネフチ」を率いるイーゴリ・セチン社長だろう。プーチン氏をサンクトペテルブルク第1副市長時代から支え、大統領の「側近中の側近」といわれる大物だからだ。
 セチン氏については最近、連邦政府が財源不足の穴埋めに計画する有力石油会社「バシネフチ」の民営化問題をめぐって、政権との確執も伝えられる。 政権側が民間企業への株式売却を想定しているのに対し、国営企業のロスネフチも入札に参加させるべきだと強硬に主張しているからだ。
 さらに反政府系の週刊紙「ノーバヤ・ガゼタ」は最近、最低でも1億ドル以上と推定される世界でも有数の超豪華ヨットを、セチン氏の妻が頻繁に利用 しているとして、同氏がこのヨットの所有者ではないかとの疑惑を報じた。汚職疑惑まで取り沙汰されたセチン氏は、引き続き大統領の腹心として中枢に残るのかどうか。同氏の去就は今後のプーチン政権の行方を占う試金石となりそうだ。
 ≫(日経ビジネス>政治経済国際>解析ロシア・池田元博日経編集委員)


 以下は、このプーチン大統領が断行している一連の人事への、非常にネガティブな米国シンクタンクのコラムも序でに掲載しておく。


≪ コラム:「お友達」化するプーチン政権、旧ソ連政治の再来か
・[22日 ロイター] - ロシアは国際的な影響力を強め、敬意を集めようとしているが、この夏、その努力は失敗を重ねた。リオ五輪への参加はドーピング問題で悲惨な状況に陥った。ハッキング疑惑のために米国大統領選でもロシアがやり玉に挙がった。ウクライナとシリアをめぐる軍事的緊張についても心強い兆候は1つもない。
・こうした騒動や対立が、9月18日に迫っているロシアの下院選挙に影を落としている。だが、これこそまさにプーチン大統領が望んでいる状況なのかもしれない。5年前の選挙では、不正行為をめぐる前例のない規模の抗議が発生。プーチン氏は一方的に大統領復帰を決定した。同氏はその後、反体制派の弾圧を続けている。
・だが、選挙運動があいかわらず厳しく締め付けられているにもかかわらず、エリート層内部での競争はますますあからさまに展開されている。ロシアで は「政権交代」が進行している。もっともその政権交代は、選挙を通じてではなく、プーチン氏が発する大統領令によって進められている。こうした不透明なプロセスは、さまざまな陰謀や憶測を呼んでいる。そこに欠落しているのは、有権者にとっての現実的な政治的選択であり、本当の意味での変革のチャンスである。
・ロシアの将来については、数多くの予測が取り沙汰されている。だが、さまざまな動きはあるものの、いくつかのトレンドが明確になりつつある。最も顕著なのは、プーチン体制を築いてきた人々が退場しつつあり、体制内の人々に置き換えられつつあるという点だ。
・わずかな違いかもしれないが、これは決定的に重要である。旧世代が併せ持つ、情報力と都会的な狡猾(こうかつ)さ、そして強靭(きょうじん)さは、競争が激しく、往々にして混沌(こんとん)とした旧ソ連崩壊後の環境で生き残るには不可欠な要素だった。
・対照的に、これに代わろうとしている人々は、相対的に安定していたプーチン時代しか知らず、危機的な時期における能力という点では未知数である。彼らの経験不足が表面化するのはこれからかもしれない。
・プーチン氏自身は、これまでも政権運営のなかで派手な人事を行ってきた。その集大成とも言えるのが、8月12日のイワノフ大統領府長官の解任である。とはいえ、イワノフ長官は面目をひどく損なうことなく退くことができた。ロシア連邦安全保障会議のポストは維持したからである。
・だが、イワノフ長官ほど幸運ではなかった人物もいる。たとえば、ベリヤニノフ連邦税関庁長官は、約90万ドルの現金資産を警察に摘発され、辞任を余儀なくされた。
・こうした解任に加え、それ以外の長年の腹心たちに対してもプーチン氏は距離を置きつつある。国営石油大手ロスネフチ社のイーゴリ・セチン最高経営責任者(CEO)は、同業のバシネフチ社民営化に対する入札を行うことはできないと何度も告げられている。
・だがセチン氏は、この程度のことで諦めはしない。バシネフチ民営化は、主として政治的対立を理由として先日キャンセルされたばかりだ。だがロシア政府は歳入不足にあえいでいるため、政府が保有するロスネフチ株の一部売却についての協議が再開された。セチン氏が断固として反対している案である。
・もう1人、プーチン氏にとって長年の盟友であるクドリン前財務相は、数年にわたって自ら政界から遠ざかっていたが、先日復帰し、ロシア政府のための新経済戦略を起草した。だが、彼の当初案が完成するかしないかのうちに、プーチン氏は代替案を委嘱することを発表。クドリン氏はまた脇役の座に追いやられてしまったのである。
・こうして旧世代が、ある者は「自発的に」、別の者は屈辱にまみれて退場していくなかで、プーチン氏は彼らの代役として、もっと忠誠心の強い若手官僚を登用している。治安機関出身者が多いが、自分の側近から抜擢する場合もある。カリーニングラード州知事代理とトゥーラ州知事代理は、かつてプーチン氏の身辺警護に当たっていた。新任の大統領府長官であるアントン・ワイノ氏は、プーチン氏の儀典官出身である。
・こうした政権内部の人事抗争のかたわら、ロシアの警察当局と治安機関との公然たる対立がある。ロシア連邦保安局(FSB)は先日、著名な犯罪捜査官を汚職の容疑で逮捕した。これは非常に挑発的な行為である。また、捜査官と検察も、ある有力な企業人の拘留に関して公然と対立している。いわば、米国の中央情報局(CIA)と連邦捜査局(FBI)、それに司法省がニューヨーク・タイムズ紙の1面で故意にお互いをけなし合っているようなものだ。
・こうした複雑な関係は、ロシア政治の研究者にとっては夢のような題材かもしれないが、そこで浮き彫りになっているのは、ロシアにおける国民的な議論には、「本来の政治」というものが驚くほど欠落しているということだ。下院選に向けた運動が続くなかで、その一環として経済政策、政府人事、汚職対策といった問題が議論されるべきなのに、まったく取り上げられない。自由な政治論議というものは、プーチン政権とその取り巻きたちにとって、あまりにも危険なのである。
・さらに、プーチン氏の新たな官僚集団は、プーチン大統領の権力に絶対的に依存している。こうした孤立した集団では、同じような意見が反復されるだけで、率直な議論は生まれない可能性がある。プーチン氏に悪いニュースを伝える人物は、果たして政権内に残っているのだろうか。
・官僚集団から経済プログラム案はいくらでも出てくるだろうが、責任者には、改革を遂行するという明確な使命感が欠けている。改革遂行に必要な大義名分は、大統領からの直接の命令か、選挙の結果から得るしかない。これまでのところ、プーチン氏はそのどちらの道も示していない。
・プーチン氏が登用しているのは自身に忠実な能吏ではあるが、改革者やビジョンの持ち主ではない。クドリン氏の提案に対する冷淡な扱いは、提案を競い合わせたりはするが本質的な構造改革を追求する意欲には欠ける政権を象徴している。
・こうした傾向からは、ロシア政治の停滞が今後も続くことがうかがわれる。そしてそれは恐らく、ロシア経済とプーチン体制にとっては最善のシナリオなのだ。今回の下院選は2011年のように意外な結果をもたらす可能性もまだ残されているが、その見込みはいよいよ薄くなっているようである。
・25年前のソ連崩壊は、「エリート同士の競争は、本当の意味での政治の代わりにはならない」という教訓を決定的に思い知らせたと多くの人は考えている。だが恐らく、ロシアはそれを改めて学ばなければならないのだろう。
*筆者は外交政策の米シンクタンク、ウィルソン・センター・ケナン研究所の副所長。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
 ≫(ロイター:コラム>William E. Pomeranz)

ドナルド・トランプ 劇画化するアメリカと世界の悪夢 (文春新書)
クリエーター情報なし
文藝春秋

 

トランプ大統領とアメリカの真実
副島 隆彦
日本文芸社


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