●豊かさの基準の変更 日本経済の右肩下がりはとまらない
久々のコラム執筆だ。半月ばかり留守にしたが、遂に死ぬかと思う日々を過ごした。
5年の間に二度目の死闘だから、三度目は駄目かもしれない。
そんなこともあり、真剣に日本の将来について、考えてみた。
この考えは、表立って口にするものはいないが、霞が関官僚らや、日本のエリート層においては、なかば暗黙の了解になっているような気がしてならない。
ただ、この「真実」を口にすることは、日本人のマインドや、日本社会の「空気」において、タブーな真実と云うことになるような気がしてならない。
ここ数年、何度となく死闘を繰り返している筆者は、個人的な資産管理のパラダイムを、大きく切り替えたのは事実だ。
日本が滅びるなどと、大袈裟に表現するつもりはない。
ただ、人口減少が明確になった国家が経済成長を続けることは困難だ。
人口減少と云う、重大な負のファクターを克服する産業構造改革は一切出来ていないし、する気もない。
財政の健全化を口にはするが、財政支出を根本的に変えることは、そう簡単にできることではない。
歳入を増やすために消費増税をしたとしても、累進課税、金融課税に手をつけない限り、根本的歳入の改善は見られない。
結局は袋小路に入り込んだネズミのようなもので、逃げ場はない。事実、真剣に日本経済の突破口を探しても、ほとんど徒労なのである。 :ゆえに、日本人の上から下まで、思考を停止させている。
つまり、多かれ少なかれ、日本人は“今だけ、金だけ、自分だけ”と云う思考経路を持っている。
このような思考、「後は野となれ山となれ」と似た感覚があるわけで、潔くて、無責任なのである。 :しかし、現実問題、社会構造を力づくで変えることは、容易ではない。
変わるべくして変わる時期を待つのが、現実的選択になる :日本人は、理論で説得されたり、行動を促されても、ほとんど動かない。多くの場合、「情動」や「あきらめ」から行動する。
構造的に経済成長が望めない産業に、あいも変わらず資源を投入し続けるのだから、三者連続三振の経済政策にならざるを得ない。 :原発事故が起きた時点でさえ、東京電力解体に動けなかった国である。
旧態依然の産業を捨てることが出来ない国家なのだ。或る意味、人情味豊かな国家であるが、成長を捨てたも同然なのもたしかだ。 :それなのに、現政権は経済成長を政権維持の原動力にしてる。
存在しない経済成長を旗印にするものだから、公表する統計数値は、すべて改竄するしかなくなるわけで、構造的に欺瞞が起きるようになっている。
つまり、ないもの強請りした時点で、嘘をつくと云う選択肢しかなくなったことになる。
ゆえに、役人が忖度で八百長をしていると云うよりも、安倍政権が、霞が関に八百長を強いていると云うのが正しい理解だ。
だが、安倍政権が悪いのは事実だが、ことさらに彼の所為だと言い募るのも、実は問題から遠ざかる。
誰が政治を司ろうと、日本経済は、かなりの確率で衰退していく。移民に手を染めても大同小異。
人口減少は経済成長にとって、致命的敗北要因なので、この要因から逃げることは、不可避な問題なのである。
以下、ビデオニュースドットコムのふたつの番組が共通して、日本経済の根本的問題点を指摘している。
ふたつのコラムが指摘する問題点が克服できるとは思えない以上、日本経済が奈落の底へ落ちる確度は相当なものである。
無論、奈落の底に落ちるのは「経済大国日本」であって、「日本社会」ではない。
ただ、日本社会が経済等云う価値観に縛られている限りにおいては、不幸の連鎖は継続する。
ここは、哲学的な思考に耽るべき時だ。
経済成長神話の呪縛から解放される時、「幸福感」を得られるものは何なのか、プライドが保てる「価値観」はどういうものなのか、早々に真剣に考えるべき時期が来ている。
そうした選択を怠ると、喪失感と劣等感に包まれる日本社会が現出するのは確実だ。
経済に変わる価値観がどのようなものなのか、明確ではないが、内向きな方向性を選ばざるを得ない。
ただし、内向きと云う概念が、マイナスなものかどうか、それは構成された内向き社会の魅力次第であり、必ずしも負の社会とは言えない。
≪アベノミクスとは結局何だったのか
ゲスト:明石順平氏(弁護士)
番組名:マル激トーク・オン・ディマンド 第937回(2019年3月23日)
アベノミクスと呼ばれる経済政策の妥当性をめぐる経済学会界隈の議論は、人口の99.99%を占める経済学の門外漢であるわれわれにとって、今一つ釈然としないところがあった。
アベノミクスに批判的な経済学者たちは、金融政策だけで経済成長を実現することなどあり得ないと指摘し、実際に効果があがっていないことがその証左と主張してきたが、もう一方でアベノミクスを支持する経済学者やエコノミストたちは、金融緩和が不十分だから成果があがらないのであって、その理論自体は間違っていないと主張し続けてきた。
そして、そこから先の議論は経済の専門用語が飛び交う難解なものになりがちで、門外漢にとっては空中戦を見せられているような疎外感を禁じ得ないものだったのではないだろうか。
ところがここにきて、まさに経済学の門外漢そのものといっていい、労働法制を専門とする一人の弁護士が、アベノミクスの矛盾点や欺瞞を素人にもわかる平板な言葉で指摘した本が話題を呼んでいる。
弁護士の名前は明石順平氏。彼が2017年に著した「アベノミクスによろしく」がその著書の名前だ。 明石氏は大学も法学部出身で、「経済の素人」を自任する。
その明石氏がアベノミクスのカラクリを彼なりに分析してみた結果、経済学者の説明を待つまでもなく、これがまったくもって無理筋な政策であることがすぐに理解できたという。なぜ日本人の多くがこんなデタラメな政策に、いとも簡単に騙されてしまったのかと驚いたと、明石氏は語る。
アベノミクスとは①大胆な金融緩和、②機動的な公共投資、③構造改革の3本の柱からなる安倍政権の旗印といってもいい経済政策だが、その最大の特徴は①の金融政策にある。景気が良くなると物価が上がるという理論に基づき、人為的に物価をあげれば景気がよくなるという仮説を立てた上で、大胆な金融緩和によって円安を引き起こすことで物価上昇を実現すれば、経済成長が実現できるというものだ。
安倍政権と日銀が目指した前年比2%の物価上昇は6年経った今も終ぞ実現しなかったが、とはいえ実際には物価は確実に上昇してきた。例えば2013年から3年間だけでも物価は4.8%上昇し、そのうち2%分は消費税増税に起因するもの、2.8%は円安に起因するものだった。
しかし、その間、景気は一向によくならなかった。GDPの6割を占める消費が、まったく上向かなかったからだ。
その理由は簡単だと、明石氏は言う。賃金が上がらなかったからだ。
アベノミクスのデタラメさは、名目賃金から物価上昇分を割り引いた実質賃金が、安倍政権発足後コンスタントに下がっていることにさえ気づけば、誰にもわかることだった。「なぜ誰もそれを指摘しなかったのか不思議でならない」と明石氏は言う。
実際、実質賃金が下がり続けた結果、経済の大黒柱である民間の消費支出も下がり続けた。その間、支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は上昇の一途を辿った。アベノミクスによって国民生活は苦しくなる一方だったことが、難しい計算などしなくても、ネット上から入手が可能な公表データだけで簡単に明らかになっていたのだ。
しかも、アベノミクスには、最近になって露呈した統計偽装を彷彿とさせる巧妙なカラクリが、いくつも仕込まれていたと明石氏は言う。
例えば、政府統計では安倍政権発足後、日本のGDPは着実に上昇していることになっている。しかし、実際は2016年末に政府は、「国際基準に準拠する」という理由でGDPの算定方法を変更し、その際に過去のGDPを1994年まで遡って計算し直していた。その結果、どういうわけか安倍政権発足後のGDP値だけが大きく上方修正されるという不可解な修正が行われていたというのだ。
もともと「2008SNA」というGDPを算出する国際的な新基準は、これまでGDPに算入されていなかった研究開発費をGDPに含めるというもので、結果的に各年度のGDP値は概ね20兆円ほど上昇する効果を持つ。しかし、2016年に安倍政権が行った再計算では、これとは別に「その他」という項目が新たに加えられており、「その他」だけで安倍政権発足後、毎年5~6兆円のGDPが「かさ上げ」されていたと明石氏は指摘する。しかも、出版社を通じて「その他」の内訳の公表を内閣府に求めたところ、「様々な項目があり、内訳はない」という回答が返ってきたというのだ。「その他」項目では、安倍政権発足前が毎年3~4兆円程度下方修正され、安倍政権発足後は毎年5~6兆円上方修正されていたことから、安倍政権発足以降のGDPのかさ上げ額は平均で10兆円にものぼると明石氏は指摘する。
もう一つの重要なカラクリは、アベノミクスが一般国民、特に自ら事業を営んでいるわけではない給与所得者や一般の国民が景気を推し量る指標となっている株価と為替レートについて、「恐らく意図的に」(明石氏)、見栄えを良くする施策を実施してきたことだ。経済は複雑で多くの国民が日々、経済ニュースを追いかけているわけではないが、どういうわけか円・ドルの為替レートと日経平均株価だけは、NHKの5分ニュースでも毎日必ずといっていいほど、しかも一日に何度も報じられる。多くの国民がこの2つの指標を、世の中の景気を推し量る目安にしてしまうのは無理もないところだろう。
ところが安倍政権の下では、この2つの指標が公的な強い力によって買い支えられ、つり上げられてきた。日銀はETF(指数連動型上場投資信託受益権)の買い入れ額を大幅に増やしてきたし、年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は国内株式への投資割合を安倍政権発足後、倍以上に増額している。ETFとかGPIFとか言ってもよくわからないが、要するに日銀や政府の公的機関が、数兆円単位で東京市場の株価を買い支えてきたということだ。
先述の通り、為替については、かつてみたこともないような大規模な金融緩和による円安誘導が続いている。
われわれは日々のニュースで、為替は1ドル110円以上の円安が、日経平均は史上最高値の更新が日々、続いていることを耳にタコができるほど聞かされているわけだ。(なぜ日本人の多くが、円安が日本経済の好ましい指標と考えるかについては謎の部分も多いが、迷信も含めてそのような先入観があることは事実だろう。)
明石氏はそこに、一般国民にわかりやすい経済指標だけはしっかりと手当をする安倍政権の政治的意図があったのではないかと推察する。
実際、2012年12月の選挙でアベノミクスを旗印に選挙に勝利して政権を奪還した安倍政権は、それ以来6回の国政選挙のすべてで、「アベノミクスの信を問う」ことで、ことごとく勝利を収めてきた。そしてその間、安倍政権は特定秘密保護法や安保法制、共謀罪等々、過去のどの政権もが成し遂げられなかった大きな政策をことごとく実現してきた。しかし、実際の選挙ではそうした重要な社会政策は常にアベノミクスの後ろに隠されてきた。過去6年にわたり日本の政治はアベノミクスという呪文に騙されてきた結果が、戦後の日本のあり方を根幹から変える一連の重要な政策という形でわれわれに跳ね返ってきているのだ。 また、無理筋な経済政策で幻想を振りまいてきたアベノミクスの副作用や後遺症も、次第に深刻の度合いを増している。そろそろわれわれも目を覚まさないと、未来に大きな禍根を残すことになりかねないのではないか。
国民生活に直結する選挙の争点は難解な経済論争に惑わされず、常識で判断することの重要さを説く明石氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が、アベノミクスの虚像と実像について専門用語を一切抜きで議論した。
*明石 順平(あかし じゅんぺい)弁護士
【1984年和歌山県生まれ。2007年東京都立大法学部卒業。09年法政大学法科大学院卒業。10年弁護士登録。ブラック企業被害対策弁護団所属。著書に『アベノミクスによろしく』、『データが語る日本財政の未来』。】
≫(ビデオニュースドットコム)
https://www.videonews.com/marugeki-talk/937/
≪日本人が知らない日本の「スゴさ」と「ダメさ」
ゲスト:デービット・アトキン氏(小西美術工藝社社長)
番組名:マル激トーク・オン・ディマンド 第934回(2019年3月2日)
デービッド・アトキンソン氏はかつてゴールドマンサックス証券で金融調査部長を務め、90年代の日本の不良債権危機にいち早く警鐘を鳴らしたことで知られる。そのアトキンソン氏は今、小西美術工藝社という漆塗、彩色、錺金具の伝統技術を使って全国の寺社仏閣など国宝・重要文化財の補修を専門に行う会社の代表に就いている。そのかたわら裏千家に入門し茶名「宗真」を拝受するなど、日本の伝統文化への造詣はそこらあたりの日本人よりも遙かに深い。
そのアトキンソン氏にイギリス人の目で見た日本の魅力とダメなところを聞くと、意外なことがわかる。どうもわれわれ日本人は、自分たちがすごいと思っているところが外国人から見ると弱点で、逆に必ずしも自分たちの強さとは思っていないところに、真の強さが潜んでいるようなのだ。
例えば、日本人の多くは、日本が1964年の東京五輪や1970年代の万博を経て、経済大国への道を駆け上がることが可能だったのは、日本人の勤勉さと技術や品質への飽くなきこだわりがあったからだと信じている。
しかし、アトキンソン氏はデータを示しながら、前後の日本の経済成長の原動力はもっぱら人口増にあり、他のどの先進国よりも日本の人口が急激に増えたために、日本は政府が余計なことさえしなければ、普通に世界第二の経済大国になれたと指摘する。
実際、今世界で人口が1億を超える先進国は日本とアメリカだけだが、第二次大戦に突入する段階で日本のGDPは世界第6位で、既に日本には教育、工業力、技術力など先進国としてのインフラがあった。そして、第二次世界大戦の終結時から現在までの間、日本の人口は倍近くに増えたが、当時日本よりもGDPで上位にいたイギリス、フランス、ドイツ、ロシアなどの列強諸国は日本ほど人口が増えなかった。だから、日本はそれらの国を抜いて世界第二の経済大国になったというだけであり、あまり勤勉さだの技術へのこだわりなどを神話化することは得策ではないとアトキンソン氏は言うのだ。
むしろ90年代以降の日本は、過去の輝かしい成功体験と、その成功の原因に対する誤った認識に基づいた誤った自信によって、身動きが取れなくなっていたとアトキンソン氏は見る。
逆に、日本は人口増のおかげで経済規模を大きくする一方で、一人ひとりの生産性や競争力を高めるために必要となる施策をとってこなかった。そのため、規模では世界有数の地位にいながら、「国民一人当たり生産性」は先進国の中では常に下位に甘んじている。
その原因についてアトキンソン氏は、日本は長時間労働や完璧主義、無駄な事務処理といった高度成長期の悪癖を、経済的成功の要因だったと勘違いし、その行動原理をなかなか変えられないからだと指摘する。
また、その成功体験に対する凝り固まった既成概念故に、日本人、とりわけ日本の経営者は一様に頭が固く、リスクを取りたがらない。人口増加局面では、無理にリスクなど取らず、増える人口を上手く管理していけば自然に経済は成長できたたが、人口増が止まり、むしろ人口の減少局面に直面した今、効率を無視した日本流のやり方は自らの首を絞めることになる。
しかし、その一方でアトキンソン氏は、日本人の清潔なところや治安の良さ、住みやすさ、細やかな気配りや器用さ、真面目さといった素養は、日本人の潜在的な能力の高さを示していると言う。日本人は潜在能力は非常に高いが、過去の成功体験に対する間違った認識から、その潜在力を発揮できず、逆に改めるべき点がなかなか改められないというのがアトキンソン氏の見立てだ。
特に日本人、とりわけ日本人経営者のリスクを取ろうとしない姿勢や、極度に面倒なことを嫌う性格が、日本人の潜在力の発揮を妨げているとアトキンソン氏は言う。そして、それこそが、実は日本の経済的成功の残滓だった可能性が高い。つまり、元々先進工業国としてのインフラが整っている日本で人口が急激に増えれば、黙っていても経済規模は大きくなる。その間、経営者がリスクテークをしたり面倒なことをすれば、それはかえって経済成長を邪魔する可能性すらある。こうして、リスクテークをせず、面倒なことも避けようとする経営体質が日本に根付いたとすれば、人口の減少局面に瀕した今、まさにそこから手を付けなければならないのではないかとアトキンソン氏は主張するのだ。
日本の潜在力を引き出すためのウルトラCとして、アトキンソン氏は政府が最低賃金を全国一律で毎年5%引き上げることを提唱する。そうなれば「頭の固い」「リスクテークをいやがる」日本の経営者でも、厭が応にも毎年5%以上の生産性を上げる必要性に駆られることになり、過去の過った成功体験にすがっている場合ではなくなるからだ。 外国人だからこそ見える日本の長所、短所を厳しく指摘するアトキンソン氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
*デービッド・アトキンソン(David Atkinson)小西美術工藝社社長
【1965年イギリス生まれ。87年オックスフォード大学卒業(日本学専攻)。アンダーセンコンサルティング、ソロモンブラザーズを経て、92年ゴールドマン・サックス入社。金融調査室長、マネージングディレクター(取締役)、パートナー(共同経営者)を経て2007年退社。09年小西美術工藝社入社、取締役に就任。10年代表取締役会長、11年より同会長兼社長。著書に『日本人の勝算 人口減少×高齢化×資本主義』、『デービッド・アトキンソン 新・生産性立国論』など。】
≫(ビデオニュースドットコム)
https://www.videonews.com/marugeki-talk/934/