習近平の中国――百年の夢と現実 (岩波新書) | |
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●米国の力の漸減、中国の力の漸増 日本の立ち位置は(3)
中国の現状、および今後について、今回コラムのシリーズ(1)、(2)で述べたことをまとめた処から、次に重要になる、米国の凋落の可能性等を論じたい。そういう意味で、昨日のコラム内容を連続性を持たせる為ように再掲しておく。既読の方は読み飛ばしていただきたい。
≪現在の習近平の実験国家、中国を本当に理解するのは、ほとんど不可能に近い。
識者ぶった連中の間でも、意見は分かれる。
そのほとんどが、個人的感情論に基づく観察眼で、現在の中国を観察するのだから、読者の側もリテラシーが求められる。現実の中国を目で確かめると云っても不可能に近い。
ひと言添えれば、これだけ急速に、経済成長を成し遂げ、近代化に向かう中国には、潜在的リスクはつきものと考えていいだろう。
アメリカの傘の下で経済成長を成し遂げた日本の何倍も、危険を孕んでいるのは事実だ。
習近平も、その危険は承知しているだろうが、市場原理主義を受け入れた以上、メリットと同時にデメリットも抱えることは、百も承知だと考えられる。
習近平にしてみれば、これだけ雨後の筍と起業されるのだから、それらの企業が玉石混交だと認識している。
しかし、“下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる”ではないが、新規起業の半分が成長すれば、それだけで充分に国家経済が成長する原動力になる。
大雑把だが、14億人の市場を自国に抱えているのだから、スケールメリットと最大限使おうとしている。
中国の経済統計の瑕疵を指摘するレポートは多い。
たしかに、公式経済指標の10倍のリスクはあるかもしれないが、それをカバーする産業全体の新陳代謝があれば、経済成長率が一時3%台に落ち込もうと、成長が維持されていれば問題ないと考えているのではないだろうか。
GDP世界第二位なのだから、特に慌てる必要はない。いずれは、米国に追いつき、追い越すことは容易だと、考えている可能性が濃厚だ。
また、経済政策等の修正も、独裁制なので、有無を言わさず強行性があることも強みだ。無論、大間違いするリスクも孕んではいるが……。
ただ、なんといっても、国家が若い。4千年の紆余曲折の歴史はあるが、現在の中華人民共和国そのものは、建国が1949年なので、まだ70年しか経っていない国家だ。
つまり、まだ国家に活力、人民に渇望感や成長への貪欲さが残っている。
中国共産党一党独裁国家の経済は長く低迷していた。日本からのODA支援を、ごく最近まで受けていたと云うことが嘘のように、一気に吹き上がった感がある。
中国の抬頭が明確になったのは、市場原理主義によるグローバリゼーションが大きな起点になっているのは事実だ。
米国経済を牽引したシカゴ派の市場原理主義経済学が、市場を求めて世界を彷徨った結果が、グローバル経済だとすれば、この世界経済のグローバル化で、恩恵を受けた最大の国が中国だった。
社会主義と市場原理主義的経済のドッキングは、目からうろこだ。
米国自身が、意図したかどうか別にして、グローバル経済の過程が、今の中国経済を強くした。
彼らは日本が辿ったと同様に、下請け組み立て工業から、ノウハウを蓄積、自主製品の開発に辿りつき、且つ、米国を抜く勢いを見せている。
この実験国家が、成功するかどうか、実際は、世界各国が見守っている可能性も大いにある。
EUやロシアなどは、次の100年は中国が成長の果実を味わうに違いないと、中国市場向けの製品開発に余念がない。
市場原理主義は自由主義とセットかと思っていたら、社会主義との相性もいい。
むしろ、社会主義と市場原理主義の方が、相性がいいくらいなのだ。
見せかけの民主的国家体制で、四苦八苦して、帳尻を合わせながら市場原理主義経済を取り入れている国から見れば、中国のそれは、脱法行為、良いとこ取りに見えてくる。
しかし、その中国が成功するとなると、民主主義国家の経済と社会主義国家の経済モデルが、あらためて問われることもあり得るわけで、中国の実験的経済行為は、非常に興味深い。
一国二制度にせよ、斬新な考えを平気で行える中国人の行動や思考様式は、虚栄と虚構に明け暮れる、エセ民主主義国家より、数段活力に満ちている。
アッと驚く映像の多くも、トンデモナイ中国を見る。平気でモノマネをして意に介さない。
このような行為は、西側諸国の文化においては、許し難いものだが、彼らは概ね平気なのだ。
このような問題は、現在中国も修正中ではあるが、厳粛に対応しているとは言いがたい。
まぁ、歴史的に考えれば、金も払わずに、漢字を伝えられ、仏教を伝授して貰ったことを考えれば、わが国もパクリをしたわけで、歴史認識があれば、現下に、あしざまに中国をパクリ国家と言いきれない(笑)。
それはさておき、いま重要なことは、もし仮に中国が、このままの勢いで成長し、米国に追いつき追い越したとき、日本は、どのような立ち位置になろう。
そこが重大な問題だ。米国への義理立てをしていても、米国が保護主義的であり続けた場合、安倍自民が推進する「TPP」に中国を入れるのか、「AIIB」や「一帯一路」に加わるのか、「日米同盟」の枠を超えて、中国に接近するのか、非常に悩ましい想定問答になる。明日は、ここから、想定問答を考えていこうと思う。 ≫
*続けて、米国の凋落云々に目を移そう。
なんと言っても、現在のところ、世界の覇権国がアメリカであることに異を唱える人は少ないだろう。
まず現在、世界の覇権国はアメリカという前提で話を進める。ここでは、おもに経済問題に絞って考えてみる。
エコノミストたちの意見を見るかぎり、2019年もアメリカ経済は堅調に推移するという意見が90%を占めている。
トランプがどれほど暴れようとも、米国経済は今年も2.7%程度の成長が見込まれる。
対中経済戦争の影響は、筆者よりも、相当に過小評価している意見が多い。
GDPそのもが多きことから、総体として影響を吸収するのかもしれない。こぜりあい程度の戦闘やNYダウの暴落などのリスクは、現時点の経済分析には含まれていない。
スティングリッツ博士の中期的展望のコラムでは、1兆ドル減税効果は一時しのぎで、1兆ドルの財政赤字が残るだけで、世界一の格差社会を変えることは出来ない。
2019年、対中貿易戦争は、現在見えている程度の制裁のやりあいなら、影響は少ないだろうが、長期化したり、拡大化した場合、その影響は米国経済に重大な影響を及ぼす。
トランプの扇動政治時代が終わっても、米国の格差社会の解消は一向に進まず、さらに悪化する要因が多い。
民主党の政権に代わっても、現在の金融市場主義経済が続く限り、格差は激しさを増して行き、覇権国の政権が、常に不安定という時代が到来する。
このような格差の拡大は、一般消費者の購買力を劇的に減らすことになるので、最終的には消費指数に異変が起きる。そのことを、米国の企業は知っているから、特に設備投資する気はなく、自社株買いに血道を上げる。
こうした構造的経済の落ち込みは、どのような経済政策も効果が期待できな時期が来る。
同盟国に、武器を押し売りするのにも限界があるわけで、いつの日か、或いはすでに、その武器や砲弾の消費好循環を求める力が抬頭する。
しかし、現実に、ロシアや中国を相手に、戦争が起こせるとは思えない。911で判ったように、米国人は、自国が攻撃されることに、驚くほど臆病な人たちのようだ。
自国の軍隊が、他国に出向き、多くの市民を巻き込んで戦闘することには、ロボットのように殺戮を繰り返せるのだが、自国が攻撃されると、三叉神経痛の痛みに罹患したように騒ぎだす。
つまり、自国にミサイルを飛ばせる国とは戦闘を交えないと云うのが不文律なのだから、巷間が噂するほど、米中、米露の開戦は可能性ゼロに近い。
そうなると、米国の覇権国の価値は、軍事力の量の問題ではなく、ミサイルや核兵器を所有しているかどうかにかかわるので、米軍事力は、核保有国への抑止力になるが、攻撃力にはならない。
つまり、米国の覇権は、概ねドル基軸政策と、米国金融資本による覇権に限られると分析が可能だ。
長期計画の設備投資や研究開発が、米国の経営者にとっての興味ではなく、四半期ごとの利益で評価される経営者が存在する限り、早晩、一帯一路の計画経済と市場原理主義経済で右往左往活発に動き回る中国経済が勝利をおさめる確率は高くなる。
以上、(1)、(2)、(3)を踏まえ、我が国日本はどのような立ち位置にあるべきか、そろそろ、本気で議論していい時期が来ているのだと思う。
漸減する米国経済と漸増する中国経済、ここの見極めだ。中国嫌いは、中国民族紛争による中国崩壊を期待しているようだが、CIAの戦略に洗脳されているだけだろう。
合理的で論理的判断だけが、その答えではない。感情や歴史や伝統や文化も含まれるし、70年間アメリカナイズした生活環境もある。これらのことを、同等の価値と考えて、議論すべき時が来ている。
しかし、どこの誰がするべき議論なのか、ネット社会の悪口雑言文化では、混乱が増すべきだが、本当に、誰が、どこで、議論するのだろう。
*参考に、ダイアモンドonlineの「スティグリッツ教授が警告」を貼りつけておく。
≪スティグリッツ教授が警告、
■トランプ大統領のひどい経済政策と扇動政治の末路
ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ教授は、2019年はトランプ米政権のひどい経済政策と扇動的な政治姿勢の結果がよりはっきりと見える年だと指摘する。
ドナルド・トランプ米大統領の政権と与党・共和党は2017年末、法人税を1兆ドル減税する法案を強引に議会で通過させた。
この減税による歳入減少分は、所得分布の中位にいる大多数の米国人への増税によって一部相殺される。当初、米国のビジネス界はこの施しに大喜びしたが、2018年には、その喜びはトランプ氏と彼の政策に対する不安に取って代わられるようになった。
1年前、米国のビジネス・金融界のリーダーたちは、際限のない欲望から巨額の財政赤字に対する自身の嫌悪感にフタをした。しかし、今では、2017年の税制改革パッケージが史上最も逆進的で、時宜を得ない税制法案だったということを理解しつつある。
先進国の中で最も格差の大きい国である米国において、何百万もの貧困世帯や未来の世代が、億万長者のための減税のツケを払っていくのである。
また、米国の平均寿命は先進国の中で最も短いのに、この税制法案は健康保険の加入者が1300万人減少するように設計されていた。
この立法措置の結果として、2019年会計年度(2018年10月~2019年9月)の財政赤字は1兆ドルになると米財務省は予測している。これは、景気後退期を除く平時の単年度としては、どの国も経験したことがない巨額の赤字である。
おまけに、約束された設備投資の増加は実現していない。企業は労働者にスズメの涙ほど還元した後、利益のほとんどを自社株の買い戻しと配当に回してきた。
だが、これは格別意外ではない。設備投資が確実性から効果を得るのに対し、トランプ氏は混乱を栄養源にしているのである。
■1兆ドル減税の効果に持続力なし 逆に損失を招く可能性
その上、この税制法案は大急ぎで可決されたため、誤りや矛盾、それに人目を盗んでこっそり盛り込まれた特別の利益に関する抜け穴をたくさん含んでいる。幅広い国民の支持が得られていないため、政治の風向きが変わったらかなりの部分が破棄されるのはほぼ確実で、このことは経営者たちも認識している。
われわれの多くが当時指摘したように、この税制法案は、経済に持続的な推進力を与えることではなく、軍事費の一時的な増額とともに、「シュガーハイ(糖分を多く取った後の興奮状態)」のような一時的な活気を経済に与えることを意図したものだった。
設備投資の即時償却は、その年に支払う税額を減少させるが、次の年からはその効果は剥がれ落ちてしまう。それに、この法律は支払利子の控除額を事実上引き下げるので、最終的には税引き後の資本コストを増大させる。従って、投資を妨げる。なぜなら投資の多くは借金で賄われるからだ。
その一方で、米国の巨額の赤字は何とかして補填しなければならない。米国の貯蓄率の低さからすると、補填資金のほとんどが必然的に外国の貸し手から調達されることになる。これは米国が債務返済のために多額の資金を海外に送るようになるということだ。
今から10年後の米国の国民総所得は、この法律がなかった場合に達成されていたと思われる金額をおそらく下回っているだろう。
大きな損失を招く税制改革法に加えて、トランプ政権の貿易政策も市場を動揺させ、サプライチェーンを混乱させている。中国からの原材料に頼っている米国の多くの輸出企業が、生産施設を海外に移転しても何の不思議もない。
トランプ氏の貿易戦争のコストを計算するのは時期尚早だが、この戦争の結果、誰もがより貧しくなると考えて間違いないだろう。
その上、トランプ氏の反移民政策は、エンジニアなどの高技能労働者に依存している企業が研究・生産施設を海外に移転するのを促進している。米国各地で労働力不足が目立つようになるのは、時間の問題だ。
トランプ氏は、グローバル化や金融化、トリクルダウン理論(大企業や富裕層がさらに豊かになれば中小企業や低所得者層にもその恩恵が滴り落ちて波及するという考え方)が約束していたことは実現されていないという事実を利用して、権力の座に就いた。グローバル金融危機と10年にわたる弱々しい成長の後、エリートたちは信用を失っていた。そこで、トランプ氏が登場して責任の所在を指摘したのである。
だが、彼が政治的利益のために利用してきた経済問題は、もちろんそのほとんどが移民や輸入のせいで生じたわけではない。例えば工業分野の雇用喪失は、主として技術の変化によるものだ。ある意味で、われわれは自身の成功の被害者になっているのである。
それでも、政策決定者はこうした変化をもっとうまく管理して、国民所得の伸びが少数の人のものではなく、多くの人のものになるようにできたはずだ。
ビジネスリーダーや資本家は欲に目がくらんでおり、特に共和党は、そんな彼らに望みのものを何でも喜んで与えてきた。その結果、実質賃金(インフレ調整後)は伸び悩んでおり、自動化やグローバル化によって職を追われた人々は置き去りにされてきた。
■ブラジルやハンガリー、イタリアにも伝播 トランプ・ブランドの「フランチャイズ」
トランプ氏の政策の経済的側面はこのようにひどいものだが、彼の政治姿勢はさらにひどい。しかも、残念なことに、人種差別や女性蔑視、ナショナリスト的扇動という「トランプ・ブランド」は、ブラジルやハンガリー、イタリア、トルコなどの国々で「フランチャイズ」を確立している。
これらの国は全て、米国と同様の、もしくはさらにひどい経済問題に見舞われるだろう。
そして、これらの国はすでに、ポピュリスト(大衆迎合主義者)のリーダーたちが栄養源にしている、無礼さが招く現実に直面している。米国では、トランプ氏の発言や行動が邪悪で暴力的な力を解き放っており、その力はすでに制御不能になり始めている。
社会が機能するのは、市民が政府や制度を信頼し、また互いを信頼しているときだけだ。それなのに、トランプ氏の政治姿勢は、信頼を損ない、不和を拡大することを基盤にしている。これはどこまで行ったら終わるのだろう?
米ピッツバーグのシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)で11人のユダヤ教徒が殺害された事件は、米国における「水晶の夜」(1938年11月にドイツで起こったユダヤ人迫害事件)の前触れなのだろうか?
こうした問いに対する答えは分かりようがない。現在の政治の動きがどのように展開するかに多くのことが左右されるだろう。
今日のポピュリストのリーダーたちは、彼らの経済政策の必然的な失敗に支持者たちが幻滅したら、極右の方向にさらにかじを切るかもしれない。
より楽観的なシナリオでは、彼らは自由民主主義の枠の中に連れ戻されるかもしれない。少なくとも、彼ら自身が失望することで強硬姿勢を緩める可能性はあるだろう。
確実に分かっているのは、経済的結果と政治的結果は絡まり合い、互いに補強しているということだ。2019年には、過去2年のひどい経済政策とさらにひどい政治姿勢の結果が、よりはっきりと見えるようになるだろう。 (翻訳/藤井清美)
*本稿は、『週刊ダイヤモンド』12月29日・1月5日新年合併特大号に掲載された寄稿のオンライン・バージョンです。
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