●「Gゼロ」の混乱 G20、唯一の民主国家・日本?
以下は『Gゼロ時代』を論じたイアン・ブレマー氏への朝日新聞のインタビューだ。筆者の知るかぎり、同氏の世界観が特に優れたものとは思わないが、朝日新聞が、彼にインタビューしたことに、何らかの意味があるのかと深読みしてみたが、意図は曖昧なままだった。
ブレマー氏は論の中で、≪日本は「先進国のなかで例外的にポピュリズムの台頭から免れている。きちんと機能している世界最大の民主主義国だ」と評価した≫、この発言を読んだ筆者は、背中に虫が入ってしまったように、如何ともしがたい思いを抱いた。この発言に、朝日新聞は特別な論評を加えず、ありのままに掲載していることには、違和感をおぼえた。先ずは、以下のインタビュー記事2本を読んでいただこう。
≪ イアン・ブレマー氏インタビュー
■「Gゼロの混乱、想像よりひどい」米政治学者ブレマー氏
米政治学者のイアン・ブレマー氏(ユーラシアグループ社長)は朝日新聞などの取材に応じた。米国が保護主義的な行動で国際社会での役割を低下させている現状について「日本にとって非常に悪い状況だ」と分析。日米関係も悪化に向かうと予測した。
ブレマー氏は「世界がリーダー不在の『Gゼロ時代』に入った」と以前から主張してきた。トランプ米大統領が、Gゼロに向かう世界の潮流を加速させたと分析し、「Gゼロのもたらす混乱は想像よりはるかにひどかった」と述べた。
通商問題をめぐる米国の孤立ぶりが際だった6月上旬の主要7カ国首脳会議(G7サミット)については「過去最悪のG7だった」と振り返った。「日本は米国が主導する多国間の制度から利益を得てきたが、その米国が弱まる一方、中国が強力になりつつある」と、日本を取り巻く環境は悪くなりつつあると指摘した。
トランプ氏が「二国間の貿易協定」を求める姿勢を崩さず、日本からの輸入車への高関税措置もちらつかせていることに触れ、日米関係は「今後悪化する」と分析した。
一方で、日本については「先進国のなかで例外的にポピュリズムの台頭から免れている。きちんと機能している世界最大の民主主義国だ」と評価した。中国との軍事的な競争は得策ではないと述べ、ソフトパワーの強化や、インドや東南アジアとの連携が重要だと訴えた。(ワシントン=青山直篤)
■リーダー不在のGゼロ時代「日本こそ指導役に」 米学者
米中の対立が激化し、各地で戦後国際秩序の基盤となってきた民主主義が揺らぐなか、世界の秩序は大きく変わりつつある。米国際政治学者のイアン・ブレマーさんは、リーダーとなる国が存在しない「Gゼロ」を予測した。10月に来日したブレマーさんに世界の現状と日本の役割を聞いた。 ――世界の現状をどう見ますか。
「今は『地政学的不況』下にある。第2次世界大戦以来、経済不況は7年おきくらいに訪れ、我々は経済不況から脱するのにどういう手段があるか、ある程度理解している。2018年も世界が一堂に会し、『我々に違いもあるが、不況は望まない。景気刺激の救済策で連携する必要がある』と声をあげた。だが、地政学的秩序はゆっくり変化し、より危険だ」
「米国が主導した世界秩序が終わり、世界から飛び込んでくるニュースを見れば、米国は同盟国の反対にもかかわらずイラン核合意から離脱し、サウジアラビアはトルコでジャーナリストを殺害。ロシアはあらゆる国にサイバー攻撃し、選挙の妨害を試みる。中国は国際刑事警察機構トップを拘束する。明らかに秩序が崩壊していることを示している。国際機関やリベラル民主主義が弱体化しているのに、リーダーが集まってもそれをどう修復するか議論もしていない」
――トランプ米大統領をはじめ、反グローバリズムをアピールする指導者が増えてきました。
「四つの理由がある。第一は、先進工業民主主義国で中産階級が置いてきぼりにされている。第二は、特に欧州でそうだが、移民の流入を好まず人口構成が変わるのに反感を持つ。第三は、米国が牽引(けんいん)した戦争にかり出される貧しい人々の反発。最後はソーシャルメディアの発達。自分好みや同意できることのみを提供するアルゴリズムによってニュースや政治情報を得る人々が多くなったことだ。最後の技術やソーシャルメディアはこの5年間で起きたもので、最も影響が大きい。二極化に拍車をかけ、ポピュリズムや過激主義の台頭を生んでいる」
――日本の政治情勢をどう見ていますか。
「Gゼロの唯一の例外は日本。人口減少で1人当たりの所得は悪くない。日本は移民をさほど受け入れず、反移民感情も低い。日本は戦争に反対し、軍を戦地に送らず問題を抱えていない。ソーシャルメディアについても、日本の利用者は人口の39%に過ぎず、大人はあまりそれを好まない。世論調査によれば、日本人はまだ新聞や雑誌を信用しており、ソーシャルメディアを信用していない」
「欧米がリベラル民主主義の危機に直面しているなかで、日本はリベラル民主主義が機能している事例となっている。多様性は共に協力し、相互交流して何かを構築する時には強みになるが、互いに交わらず、別々の場所から情報を得る時、多様性は弱みになる」
「日本は自分たちのモデルを宣伝していないが、危険な状態に突入する可能性がある世界で、それは日本にとっても好機であるばかりか、責任がある。リベラル民主主義が崩壊するなか、日本が国際的に発信しなければ、それは非難に値する。日本がすべきことは多く、IMF(国際通貨基金)やWTO(世界貿易機関)のような国際機関を守るため、さらに活発な指導的役割を果たさなければならない。これまではあまり好まなかったのかもしれないが、日本の外交力で声高に主張すべきだ」
――米中関係をどうみますか。
「米中では二つのことが起きている。これまで米国民が中国を気に留めていなかったような様々な問題で、中国がさらに強力になってきていることと、両国がウィンウィンの関係からゼロサムの競合に軸足を移している。これらが組み合わされると非常に危険だ」
――国際社会で日本はどう振る舞うべきですか。
「安倍晋三首相はトランプ氏に好意を持っているように随分と振る舞っているが、2人の関係はうまくいっていない。日本人は礼儀正しく、争いを避けるのがうまいが、それは実際の友情とかけ離れている。トランプ氏は他国の指導者のことなど気にもかけず、米国の長期的方向性も気にしない。ほとんどの政治家は、ある程度自己陶酔的になるが、彼のレベルは過去の大統領と比べものにならない」
「安倍首相が憲法改正や日本の軍事力構築を推し進めるのは、よい考えではない。日本が不必要に脅威とみられる。多くの米国の外交専門家は来日すると『日本には強力な軍事力が必要だ』と発言するが、それは日本に聞こえのよいことを言っているからで真実ではない。もし日本が賢いのなら、大きなシンガポールのような国になるべきだ。脅威とも見られず、米中双方とうまくやることだ」
「サービスやインフラ、高齢者の健康管理など、日本には中国が必要とする優れた物がたくさんある。米中関係が窮地に陥れば、日本は米国に付かざるを得ず、軍事や技術協力、経済貿易の側面から、その選択の余地はない。(中国に)敵対姿勢を示したいと思わないのなら、米中関係が悪化しないよう望むべきだ」(聞き手・佐藤武嗣、清宮涼)
≫(朝日新聞デジタル)
安倍官邸にも出入りしている同氏の論を、ここまであけすけに朝日が報じるのは何なのだろう?どうしても、考えたくなる。敢えて、ブレマー氏や朝日が、何を言わんとしているのか、彼らの罠に嵌ることで、考えを巡らしてみたいものである(笑)。筆者が気にかかる点は、同氏が好んで使う『リベラル民主主義』と云う言葉だ。世界で起きている社会・政治現象を、個別に見ていけば、その一つひとつから、民主主義の崩壊を読み解くことが出来るのは事実だ。
しかし、そもそも民主主義と資本主義、敢えて言えば“企業論理(マネー・利潤追求)”は相いれない関係性を持っていることだ。企業の活躍しやすい社会を目指せば目指すほど、その国の政治は民主主義から遠ざかる。それは当然のことだ。マネー・利潤追求、つまり企業には民主的互助的原理は存在しないと云うことだ。日本社会の共通の興味は、ここ何十年も、“景気・雇用・社会保障”に集約されている。前者の二つは企業の活性化を求めたものである。後者の社会保障の充実等々は財源が必要なのだから、歳入の是非にかかっているので、やはり、企業の活性化だ。
つまり、リベラル民主主義体制においても、その大衆が求めているものは、企業活動で得た利益の再配分を期待していることになる。大衆は、民主主義と云う観念のない企業に、リベラル民主主義的行為又は観念を求めていることになる。無論、このような大衆の望みは、ない物ねだりなのだから、実現することは、毛ほどもない。民主主義を維持することと、その大衆が求める諸課題を解決するプロセスには、自己矛盾があるのだから、実現することは、ほぼ皆無なのだ。
企業経営者は、1年ごと或いは四半期ごとの経営成績に一喜一憂する地位であり、少ない資本で、いかに最大限の利潤を出すかが死活問題なのだから、法人税などの社会還元は、限界点まで少なくしようとするわけで、大衆が求めるトリクルダウンとは真逆の行為に始終している。だからと言って、企業経営者が悪だとは言えない。彼らは役割を果たしているに過ぎないのだから。個々の経営者は、自分の行動が民主主義の原理に反しているかどうかなど考えている暇はない。常に、利益の最大化を目指す存在なのだ。そして、リベラル民主主義の論理とは真逆な行動で評価されることさえある存在だと云うことを大衆は忘れている、或いは気づいていないと云うことだろう。
リベラル民主主義と企業活動は、ある点で合意形成可能だが、最終的には破綻の道に突入せざるを得ない関係性を持っている。その調整弁に、政治や行政が存在する理由があるわけだが、最近の安倍政権の動きなどを観察すると、企業(マネー)の性格と、大衆の要望のミスマッチを調整する気はさらさらない姿を露わにしている。アメリカ市場の拡大は望めないので、現状維持に努めるが、低下は確定的だ。それなら、行くべき市場は中国やASEAN市場だ。安倍政権も経団連も、パンツ一枚まとわずに、中国に詣でた。
このような国、日本であるにも関わらず、ブレマー氏が、≪日本は「先進国のなかで例外的にポピュリズムの台頭から免れている。きちんと機能している世界最大の民主主義国だ」と評価した≫と評した理由はわからないが、米国・EUのポピュリズムが最悪なので、相関的にマシだと評したのか、リップサービスなのか、単に無知なのかは判らない。いずれにせよ、企業(マネー)は市場を彷徨うのだが、最終的には行きづまるしかないわけで、こんなチキンレースを、いつまで続けていくのか誰も判っていないのだ。
いや、次なる処方箋が見えないので、このままでは駄目だと思いながらも、惰性でものごとを判断しているのかもしれない。こうして考えていくと、民主主義と資本主義が、経済の成長期には成り立つペアーであったが、低成長時代においては、離婚の危機にあると云う事実を知ることになる。しかし、長年連れ添ったペアーだけに、多くのしがらみがあり、容易にペアー解消には至らない。おそらく、日本も世界も、“普遍的価値観”をチェンジする難題に直面している。筆者は以前から、定常経済における国家観を考える時期が来ていると主張しているが、安倍政権は、まだまだ市場原理主義に則って、世界の市場を彷徨おうとしている。困った政治家だ。
最後になったが、朝日新聞はブレマー氏のインタビューで語られた≪世論調査によれば、日本人はまだ新聞や雑誌を信用しており、ソーシャルメディアを信用していない≫。ここの部分だけ言いたかったのかもしれない(笑)。次回は、新たな“普遍的価値観”否、“固有の価値観”と云うものを考えてみようと思う。