acc-j茨城 山岳会日記

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八ヶ岳・阿弥陀岳南稜

2002年01月15日 14時30分56秒 | 山行速報(雪山・アイス)

2002/1中旬 八ヶ岳・阿弥陀岳南稜

ココロに響く

雪山の季節がやってきた。 
昨年、人知れず赤城の山でラッセル修行に勤しんでいた時から 来シ-ズンは八ケ岳と決めていた。 
稲子湯から本沢温泉、硫黄岳。癒しの山行が有力だった。 
しかし、私のココロに響いてしまったモノがあった。 
阿弥陀岳・南稜である。 
この計画を思い立った時、にわかに緊張感と不安が私を包み込んだ。 
それ以上に本能が「これだ!」と叫んでいた。

私はいくつかの条件が揃っている事を前提に計画を進める事にした。 
天候の安定はもちろん、雪の締まり具合、予定地までのアクセス状況、 体調の具合はどうかといった所だ。 
運良く山行当日それらの条件は揃っていた。 
さらに幸いな事にしっかりしたトレ-スがついている。 
もはや、計画断念する要素はなかった。


舟山十字路のゲ-トから40分ほど歩いた右手の沢に堰堤があった。 
トレ-スに導かれそこを渡る。 
さらに尾根に向けて急勾配をジグザグに登ると程なく尾根に取り付いた。


急登

しばらくは緩やかな登りを鼻歌まじりに行くも、 そんなひとときはあっという間。直線的な急登に図らずも息が荒くなる。

樹林に覆われた立場山への道は展望がほとんどない反面、 雪の外套を身に纏ったシラビソ達の静かに立ち尽くす様が 荘厳かつ神聖な光景である。

そんな時、私のココロは沸き立ち、重い荷の事も忘れて立ち止まる。 
嬉しさのあまり体中の血が騒ぎ出す。 
皮膚がザワザワと小刻みに震え、頬は微熱を放射する。 
かといってその嬉しさを表現する術はない。 
目の前の光景に私はそこにたたずむほかないのである。 
ただ出来る事といえばいつもより慎重に、深く呼吸をする事だけである。

 

神秘の森

立場山を過ぎると次第に展望が開けてくる。

そこから見る八ケ岳の森は雄大であった。 
冬こそ、その神秘の森が活動を始める時であると思った。

それは陽光が全てに対して平等に降り注いでいることや、 目に映るもの全てが有意義な造形であること、 耳に届くもの全てがやさしい調律であったからに他ならない。

ピ-ク

眼前に阿弥陀岳が現われた。 
進むべき道と共に。

ここから阿弥陀岳本峰までには顕著なピ-クが5つある。 
無名峰・P1・P2・P3・P4。 
遠望する限りどれをとってもキビシそうに見えるが 核心はP3の通過であるらしい。

急な登りを終え、無名峰にてアイゼンを装着し、ピッケルを荷から降ろした。 
P1・2はこれまでとは一転、岩稜と雪のミックスとなるが 左を巻いての通過に不安はない。

P3

P3の基部まで来た。

ひときわ存在感のある岩峰はその威容に息が詰まるほどであった。 
これからの奮闘を予感して休憩をとる。 
そこでバイルとハ-ネス、ヘルメットを装着した。

ここでも岩峰の左を巻いていくがバンドは今までになく狭くなっているので 少しの注意が必要だ。 
問題の核心、ガリ-の取り付きに到着。

フィックスザイルがここを直登する事を語っている。 
胸ほどの高さの岩を乗越し、右手でバイルを打ち込み雪壁登攀は始まった。

雪壁登攀

想像以上の出来事だった。 
登り切った後、しばらくは放心した。

ピッケルとバイルは良い音をたてて気持ちよく雪壁に食い込み、 信頼できる支点となった。 
アイゼンも同様ではあったが確保無しに登るプレッシャ-は 私に計り知れない影響を与えているのも事実であった。

バイルが効く所はまだ良い。 
効きの悪い岩の露出部分の通過には最大限の気を遣った。 
想像を超える斜度、永遠にも思えた距離。 さすがに力が入ってしまったようだ。 
登攀後、私の腕力と握力は著しく低下していた。

 

阿弥陀岳 

P4もやはり左から巻く。 
狭い岩のバンドでホンの数歩、イヤな所がある。 
凹角の岩場をすり抜けると山頂はすぐそこだ。

誰も居やしないだろうと最後のひと登りに「しゃあっ!しゃあっ!」と 声で気合を入れつつ登っていくと単独行者が「何奴?」といった 表情で私を見ていた。 
目が合った瞬間、お互い動きが一瞬、止まった。 
私は恥ずかしさからまるで何もなかったかのように振る舞うしかなかった。

総括

南稜は長大である。 
頂からそれを眺めると長いうねりの末、裾野へと吸い込まれていく。

そんな今日の山行を総括すると、ポイントはやはりP3ガリ-の登攀であろう。 
私にとってはここが全てであった。 
少なからず反省はあった。しかし諸条件が良かったのが幸いした。

折からの好天。山頂ではゆっくりのんびりさせてもらった。 
中央稜や北稜に興味をそそられた。主稜線縦走も面白そうだ。 北八ケ岳の森も魅力的に思えた。そして不意に目頭が熱くなった。 
なぜ山に登るのか、この瞬間なら語れるような気がした。

山は歌う

下りは頃合いを見計らいアイゼンを外し、シリセ-ド。 
脱兎のごとく滑り落ちる。「あはは。こりゃあ快適だ!」 
ピッケルで制動を利かしながら、しばらくシリセ-ドに興じ、 振り返ると先ほどまで立っていた頂はもう見上げる高さになっていた。

見上げながら私は思った。山は歌っているのだと。 
聞こえてくるだろうか。 
風を切り、雪が鳴り、岩は凍え、樹々は無言で語る。 
耳を澄ませば語りべはささやかに心に染みる。

山は歌う。青空と氷雪に包まれて。

 

sak


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