Ruby の会

シニアライフ~能楽・ボランティア・旅行・食べ歩き・演劇などを綴っています

狂言「鈍太郎」 と 能「蝉丸」

2012-09-21 | 能楽

 9/16(日)は、「三派能楽鑑賞大会」の日、今年で26回目。宝生、観世、和泉流の三派合同の能楽大会である。高岡文化ホールで行われた。午前中は、素謡、仕舞など各会のお浚い会を兼ねる。高岡市ジュニア芸術・文化プレミアム事業「能楽講座」の受講生の発表もあった。

 午後は、プロの先生方の舞囃子や仕舞。最後に、狂言と能が演じられたが、狂言「鈍太郎」と能「蝉丸」の両方を紹介します。

 狂言「鈍太郎(どんたろう)」:シテ(鈍太郎):野村祐丞 アド(本妻):炭哲男 小アド(愛人):荒井亮吉

 西国へ下り、都を留守にしていた鈍太郎(シテ)が、3年ぶりに帰って来ます。下京に本妻(アド)、上京に愛人がいるが、両方へ手紙一本書いていません。まず、本妻宅を訪ねますが、3年も音信不通だったから帰って来るはずがない、すでに棒使いを夫に持ったからと、戸も開けず追い返します。怒った鈍太郎は、上京の愛人は優しいからと言って訪ねますが、愛人も近所の若い衆がからかっていると思い、すでに長刀使いを夫に持ったと追い返します。
 落胆した鈍太郎は、女二人に捨てられどうしようもないので、出家して諸国行脚に出ると言って、一旦幕内に入ります。
 追い返した男が本当の鈍太郎と気付いた女二人は、出家を止めようと街道で待ち、出家しないでほしいと説得しますが鈍太郎はなかなか承知しません。が、二人が協力して必死に説得し、月の上15日は上京へ、下15日は下京へ行くことに決め、二人の女達に手車をさせて、シテが「これは誰の手車」 女二人が「鈍太郎殿の手車」と囃しながら、舞台を廻り退場します。

 鈍太郎が、あっちへ行ったり、こっちへ来たり、次には二人の女が鈍太郎にああ言ったりこう言ったり、それぞれの思惑が見え見えのやりとりが滑稽。3人の呼吸もピッタリで安心して笑える狂言だった。こんな理屈っぽくない狂言は面白い。

 能「蝉丸」:シテ(逆髪(さかがみ)):大坪喜美雄 ツレ(蝉丸);山崎健 ワキ(廷臣・清貫):苗加登久治 ワキヅレ(輿舁):平木豊男、北島公之 間狂言(博雅三位):荒井亮吉
 大皷:飯島六之佐 小鼓:住駒幸英 笛:瀬賀尚義 地謡:佐野由於 他

 百人一首の「これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関」の作者、蝉丸法師は、醍醐天皇の第4皇子とも言い、盲目で和歌・琵琶に優れ、逢坂山に住み、博雅三位に秘曲を授けたと言われている。昨秋、蒼山会から蝉丸神社を訪ね、国道1号線沿いの関所跡も見たが昔はさぞ山奥だったのだろう。
 
能では、シテは蝉丸の姉、逆髪(さかがみ)で、蝉丸はツレである。  だが、逆髪は「中入り」後の「後場」だけに登場するが、蝉丸は、最初から最後まで出ずっぱりで主役のようであり、題名も「蝉丸」である。いしん

 あらすじなどは、一昨年の金沢定例能のブログで紹介したので↓を、ご覧ください。山崎先生が蝉丸を務められるので、蒼山会から米島さんの車で観に行った時のものです。今回は舞台の雰囲気を味わっていただくために、他の会の写真をお借りしました(同じ演者ではありません)。 

http://blog.goo.ne.jp/67kiyoh/e/c187ca830e965e07b33d651fc91cfa90

 ↓は、輿に乗って逢坂山へ来た蝉丸が輿から降り、廷臣清貫から出家してこの山に留まるように告げられ剃髪したところ。出家を表す”蝉丸頭巾”をかぶっています(’物着’と言い、舞台の上でかぶります)。 

 ↓は、間狂言の博雅三位が哀れに思い、藁屋根の小屋を用意し住まわせるところ。     

 ↓は、中入り後登場する逆髪(蝉丸の姉)。生まれつき髪の毛が逆立ち、子どもからも笑い物になると嘆く。物狂いとなり、放浪の旅の途中、逢坂山へさしかかる。            

 ↓は、琵琶の音色を聴き、もしや蝉丸では?と藁屋を訪ね二人が出会うところ。

  山崎先生の蝉丸は、前回どうよう気品があり哀れ。初めて手にする杖と蓑を持ち泣き伏しながらも、前世の罪を償う運命と受け止める。姉の逆髪もまた同じ。今回は逆髪に注目して観ていたが、我が醜さを嘆きながらも順逆について反問する姿は強く美しい。蝉丸と逆髪が泣く泣く別れる場面は、もの悲しいけれど前向きに歩み出した、とも見ることができる、と思った。