日本が、経済覇権を握りうる理由の1つが、製造業の強みです。
近代的な市場経済が形成されて以降の経済覇権の変遷を見ると、大きな特徴があります。
それは、覇権国家は、強い製造業とともに興隆し、製造業の弱体化とともに衰退するということです。
過去3代にわたる世界覇権国家、オランダ、イギリス、アメリカは、例外なく、製造業が世界最強となった時に、覇権を握り、製造業が弱体化したときに覇権を失いました。
製造業の弱体化には、1つの典型的なパターンがあります。
技術革新によって、付加価値を高めるのではなく、労賃の安い地域への移転によって、ラクをして高い利益率を確保しようとする経営者が、増えてくることです。
オランダもイギリスも、このパターンで弱体化しました。 都市から郊外へ、郊外から農村部へ、そして、自国内から、労賃の安い海外へと、工場を移転するようになり、その結果、技術革新が止まりました。
そして今、今度は、アメリカが、同じ経路をたどり、製造業の黄昏を迎えました。
日本の場合は、どうでしょうか? 過去40年間の大阪圏は、工業(場)等制限法の被害が、最も深刻な都市圏でした。
しかし、この工業(場)等制限法が撤廃され、工場立地に関する厳しい制限というハンデが消えたことによって、大阪圏は、製造業の拡大において、名古屋圏、東京圏より、大きなポテンシャルを持つようになりました。
規制撤廃直後の2003~04年度、大阪圏の工場着工は、年率30%の伸びを示しました。 大阪圏の工場立地は、件数・面積とも2008~09年でさえ、高水準を維持し、日本の製造業の拠点としてのポテンシャルが、完全に復活したことを示唆しています。
つまり、日本の都市圏は、製造業を、その圏内に残すことに成功したのです。
東京・大阪という日本の2大都市圏では、通勤・通学客の約半数が、鉄道を利用しており、そのために、朝夕のラッシュ時にも、道路網は、通勤・通学の自家用車に占領されません。
また、業務用車両の道路走行に時間制限が課せられることも少なく、大都市圏の工場であっても、ラッシュ時の資材搬入や製品の搬出が可能だったからです。
一方、基本的に、車社会化した欧米では、製造業を大都市圏に残せませんでした。
1970年代以降、欧米先進国では、大都市圏の急速な脱工場化が進みました。 この空洞化の最大の理由は、予測確度の低い新製品や新技術を導入することよりも、計算の立てやすい、労賃節減に傾斜した経営を選んだことでした。
欧米都市圏では、資材や製品の搬出・搬入に時間の予測がつかないほど、閑散時と繁忙時では、道路輸送の所要時間が違うことも、その大きな要因でした。