蒼穹のぺうげおっと

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終戦のローレライ 感想

2005-04-16 02:53:11 | 小説 感想
ようやく読み終わりました『終戦のローレライ』。大満足です。

既に続けて『川の深さは』を読み始めており、その次にはローレライを貸してくれた職場のお姐さまから『Twelve Y.O.』を借りることも確定(更にそのまま買取計画まで確定)しており、この四半期は完全に福井晴敏作品に没入してしまいそうです。
いや、むしろ喜んで飛び込みたいくらいです。

まずは映画『ローレライ』と小説『終戦のローレライ』について、多くの方が比較されているので、うちでも御多分に漏れずやってみたいと思うのですが、純粋に比較というよりは『ローレライ』というモノを楽しみ尽くすには、という観点で個人的にこのように考えてみました(あくまで自分の想定ですので参考までに)。

■楽しむ順番について
前提としてローレライという作品は映画版と小説版があり、元々は映画版の樋口真嗣監督が『亡国のイージス』に感銘を受けて、映画化を前提に福井晴敏に話を持ちかけたところから始まった、とあります。
ゆえに世界観や設定を同じくした別物語としてそれぞれ進化したと捉えて頂いた方が素直に楽しめるのではないかと思います。

では楽しむ順番ですが、もし小説版をまだ読んでないよ、という方がいらっしゃるならばこれはまず映画『ローレライ』、これから観ることをお勧め致します。

更に福井作品読んだことないぜ、ということならば、もし時間があれば福井晴敏の代表作である『亡国のイージス』を事前に読んでいかれると尚良しというところです。
海と艦を舞台にした作品でもありますし、時代こそ違えども福井作品に通底する理念や雰囲気を味わうにはもってこいです。
つか、そもそも『亡国のイージス』だけでも十分面白いです。
#その前に『Twelve Y.O.』を読めという意見が出るかもしれませんね。管理人未読なんでフォローあると嬉しいです。

そしてその上で小説版『終戦のローレライ』を読んで頂ければ、潜水艦の外部、内部のイメージや、潜水艦対潜水艦、巡洋艦対潜水艦などの艦隊戦、ローレライシステムのイメージ、そして何より抜群のキャスティングによって登場人物のイメージを形作ることができるので、文庫にして4巻という長編を存分に楽しめることになると思います。
#とにかく映画版のキャスティングは非常に良いと思うのです。絹見艦長、浅倉大佐、折笠征人にパウラ、時岡軍医長に岩村機関長あたりは全く違和感ないですよ。

■映画版『ローレライ』
小説版『終戦のローレライ』を読み終わって、映画版『ローレライ』を振り返ると小説版のファンの方からは非常に厳しいコメントが入るのですが、これは仕方ないと思うところもあります。
だからと言って映画版『ローレライ』が駄目かというと全くそういうことは無いと思っていて、むしろあの尺でよくぞここまで仕上げたな、一級のエンターテイメント作品に仕上がっているなと個人的には思うのです。

4巻に渡って濃密に描かれた『終戦のローレライ』を先に読んでしまうと、どうしても映画を観ながら小説との比較をしてしまうと思うので、純粋に映画版を楽しむは正直難しいだろうなと思います。

ゆえに先に映画版を観た方が良いです、と勧める所以なんですが、映画版はテンポとスピード感を非常に大事にしていて、あの短い尺の中できちんとドラマを成立させているというのは素直に素晴らしいと思います。
純粋にエンターテイメント作品と捉えるのが一番良いかなと思いますね。
#福井作品に通底する想いを映画の尺で表現しきるのは無理だと思うので、そこを敢えてオミットしてエンタメ作品に仕上げたのはマーケティング的にも正しいような気がします。

■では小説版『終戦のローレライ』は?
最高です。大満足です。
緊張と感動の連続で、このシーンが素晴らしいなどと紹介しきれないほどたくさんの名場面、名台詞が登場してきます。
映画を観た後に読むとその臨場感と登場人物の顔や表情が脳裏にしっかりと浮かんできます。

特に小説版の美味しいところとしてフリッツ・S・エブナーの存在があると思います。
彼が征人を中心に絹見艦長、そして田口と不器用に心を通わせて、妹を送り出す心境へと変化していく彼の姿は、福井作品に共通する思いが詰まっていて、「変化」や「理解」の有り様はその象徴と言っても過言ではないと思います。
#またこれが福井作品には必ず女性受けするキャラが登場するのですが、フリッツはまさにそうだと思います。
#福井作品は結構ヘビーなのに女性の支持者が多いのも頷けるところです。

■福井作品には「捨てキャラ」がいない
福井作品は物凄くキャラが立っている、ゆえに「捨てキャラ」なるものが殆ど存在しない。
だからこそ4巻という長編に仕上がったと思うのですが、各年代、(思想的、あるいは組織の)各ポジションに代表的なキャラを登場させ、最期の最期まで描ききる、そういう作風なんですよ。

だからこそ感動してしまうのですが、第5章で「椰子の実」の歌を背景にそれぞれの登場人物のドラマを帰結させていくところなんかは、もう涙くしては読めないところでした。
#小松にも最期を用意しているというのがほんとに感心してしまいましたよ。
そして終章まるごと使って描かれるエピローグ、その中で歌を表現して描かれる現在に至るまでの世の中の物語、万感の想いを胸に本を閉じることができました。

■僕はこういう読み方をしました
感動するシーンや、名台詞は非常にたくさんあって紹介しきれないのですが、福井作品の読み方として僕はこんな風に感じているんです。
作品の中に大きな流れが3つあると思っていて、そのうち2つは最後の1つを輝かせるために問題提起という形で描きこまれているのかなと。

1.様々な主義・主張の裏側にある不条理と諦観の念
福井作品では色んな立場の人間が登場し、その背景として国や組織の主義、主張を声高に叫び、またその不条理、矛盾を理解しつつも世界はまわらざるを得ないという諦観の念を持った人たちなどを登場させることで世界観を描写しています。
この辺の矛盾や不条理を描いたのが1つめの流れ。

2.自分の住んでる国ってどうよ?
世の中には矛盾や不条理ってたくさんあるけれど、それを意識したことある?
自分が住んでる国について考えたことある?
今、日本ってどうなっちゃってるか考えてみないか?
1つ目の流れで描かれる不条理や矛盾は福井作品の世界観を構成するとともに、この2つ目の流れを問題提起するために描かれていると思います。
もうちょっと日本という国について考えてみようよ、というのが2つ目の流れ。

3.でも結局は人の心なんだよ、大事なのは
激しい戦闘シーンや、克明な状況描写、様々な主義・主張に問題提起。
いろんな要素が福井作品を構成しているんですが、しかしそれらは結局のところそういった「しがらみ」を打破できるのは人の情熱であったり、理解し合う心なんだよ、その辺は理屈抜きなんだよ、というが最後の3つめの流れだと思うんです。
ここを描きたいからこそ、不条理・矛盾を描く必要があるし、諦観の念を描く必要があるんだと思うんです。
本当にたくさんの感動シーンがあるのですが、その中で妙に心に留まった文がありました。
それは他の感動シーンに比べたら取るに足らないところかもしれないのですが。

(時岡軍医長がローレライとパウラの精神状態の因果関係を推測したシーンで)

心には心---そんなものであって欲しい。
これからどれほど科学技術が進んだとしても。

(第4巻P93 絹見艦長の呟きより)

福井作品の肝はここにあると思うし、だからこそ熱くなれるし、また何度も泣けてしまうところなのかなと。
これは『亡国のイージス』の感想でも同じことを思っているので、やはり福井作品に通底するところなんじゃないかと思うんですよね。

■というわけで
この作品では何回泣きそうになったか分かりません(笑)。
小説版『終戦のローレライ』、男女問わずお勧めです。


終戦のローレライ 4
価格:¥730 (税込)


4冊まとめて購入がお勧めです。
亡国のイージスもかなり面白いですよ。