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十二単衣を着た悪魔 |
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幻冬舎 |
内館牧子氏著の作品。
内館氏の作品はこれまでほとんど読んだ事がありませんでした。TVドラマを見るくらい。
これは、図書館で偶然手に取ったモノで、
『59もの会社から内定が出ぬまま二流大学を卒業した伊藤雷。困った事に弟は頭脳も容姿もスポーツも超一流。そんな中、日雇い派遣の仕事で“源氏物語展”の設営を終えた雷は、突然“源氏物語”の世界にトリップしてしまった。そこには、悪魔のような魅力を放つ皇妃・弘徽殿女御と息子の一宮がいた。一宮の弟こそが、何もかも超一流の光源氏。雷は一宮に自分を重ね、この母子のパーソナル陰陽師になる。設営でもらった「あらすじ本」がある限り。先々はすべてわかる。こうして初めて他人に頼られ、平安の世に居場所を見つけた雷だったが・・・』
この帯の文字で、一気に興味が湧きました。
源氏物語は、学生の頃、古文の教科書でさら~っと始まりのあたりをなぞっただけで、まぁ、光源氏という才色兼備の男性皇族の女性遍歴・・・としか印象に無くてね
特に興味も持たずに今日まで来ました。
そんな平安の世に、現代の若者がタイムスリップ。
携帯もエアコンも車も何も無い世界。
それでも、深い夜があり、虫は鳴き、空はひたすら青く・・・。
現代とは違った色がある・・・。
戸惑い、焦り、失望と言う様々な感情で混乱する中、それでも雷は、自分を生かす方法をひねり出すのです。
それが陰陽師。
そりゃぁ、「あらすじ本」があるのだから、そして、それに書かれている事しか予言しないのだから、確かです。
人並み外れた能力を持つと、時の人々に信用されるのも当たり前。
彼は悩み多き弘徽殿女御の個人的な陰陽師として傍近く仕える事になりました。そして、同じに彼女の息子である一宮の事も知るにつけ、現代の世での自分と弟との関係にあまりにも似ていると思うのです。
ずっとずっと物ごころついた時から、出来の良い、それも人並み以上に出来の良い弟と比べられ、その事で劣等感を持っているであろう自分に対して、両親や弟は物凄い気の使いようで。
弟はどんなに素晴らしい成績をとっても、両親から手放しでほめられたことは無いのです。兄の手前・・・。
そんな悶々として来た人生をやり直すには、平安のこの時代が合っているのでは?・・・と、雷は平安の時代で生きて行く覚悟を決めたのです。
まぁ、この設定が面白い。
そして、次々と源氏物語は進んで行きます。
雷の経験をもとに、登場人物の物語には描かれていない裏の感情を描いているので、これが本当に人間くさい。
また、雷は平安の世で、妻を得ます。
決して美人じゃないけど、心の温かい妻です。
ところが、待ちに待った我が子を死産し、妻も同時に亡くなってしまうのです。
この衝撃は、彼にとって物凄く大きなことでした。
こうやって源氏物語の中で、26年を過ごしたある日、突然雷は現代にタイムスリップして戻って来てしまったのです。
ところが、現代は、自分がタイムスリップした時から全く時間は進んでなくて。
自分の意識だけが26年経ってしまっているのです。
現代に慣れるには時間がかかりました。
そんな雷を、両親と弟は、そっと見守り続けます。心配しながら・・・。
立ち直るきっかけは、やはり“源氏物語”でした。
面白くって、一気に読んでしまいました。
だからと言って、本家本元の源氏を読もうという気にはなっていませんが・・・。
ちなみにタイトルの“十二単を着た・・・”と言うのは、筆者がメリル・ストリープの映画「プラダを着た悪魔」を見て、メリル・ストリープと弘徽殿女御とが重なった事に由来するようです。
どこかで目に留まったら読んでみてください。お勧めですよ