ぶらぶら人生

心の呟き

五月晴れ ① お魚が食べたくて

2015-05-24 | 散歩道
 新鮮なお魚が食べたくなった。
 Aレストランに、出かけることにした。
 このところ、家の中にいる時間が長く、存分大気を吸いたい気分もあった。
 一日ぼんやり過ごして、元気も回復。(まだ片付けが終わったわけではないけれど。)

 前回は、予約せずに出かけて、失敗した。
 今日も、日曜日だから、お客が多いかもしれない。
 あらかじめ電話し、確認のうえ出かけた。

 五月晴れの好天である。
 もう若葉の季節は過ぎ、緑が、幾分深くなってきた。
 ウグイスが囀り、ホトトギスも鳴いている。
 空が美しく、海も凪いで穏やかである。
 最高の散歩日和であった。

 相変わらず、お客が多い。
 県外ナンバーの車が、たくさん来ている。
 海辺のレストランは、風景も、ご馳走なのであろう。

 海鮮丼を注文する。
 丼のうえには、魚介が幾種類も、彩りよく載っている。
 食欲旺盛、みな美味しくいただいた。


        

 食事の後は、すぐ帰宅することにし、土田海岸の景は、遠くからカメラに収めた。
 突堤や砂浜で遊ぶ人の姿が見える。
 それでも、田舎の海辺は人が少なく、ひっそりしている。
 その寂寥感が、いい。

        

 以下、レストランのテラスからの眺め。

        

        

  


 食前食後、日本海の景色を眺めた。
 胴体の長い、真鍮色をした平たい船が、西方から高島に近づき、そのまま沖の彼方に消えてしまった。
 カメラには、うまく収まらなかった。

 長田弘の詩集『死者の贈り物』をバッグに入れて出かけた。
 テラスの白い椅子に座って読むには、日差しが強い。

 食後のテーブルで、本を開いた。

       波が走ってきて、砂の上にひろがった。
       白い泡が、白いレース模様のように、
       暗い砂浜に、一瞬、浮かびでて、
       ふいに消えた。また、波が走ってきた。

           … 略 …
       朝の光りにつつまれて、昨日
       死んだ知人が、こちらに向かって歩いてくる。
       そして、何も語らず、
       わたしをそこに置き去りにして、
       わたしの時間を突き抜けて、渚を遠ざかってゆく。
       死者は足あとものこさず去ってゆく。
       どこまでも透きとおってゆく
       無の感覚だけをのこして。

           … 略 …
       貝殻をひろうように、身をかがめて言葉をひろえ。
       ひとのいちばん大事なものは正しさではない

                    「渚を遠ざかってゆく人」より

       先刻までいた。今はいない。
       ひとの一生はただそれだけだと思う。
       ここにいた。もうここにはいない。
       死とはもうここにはいないということである。
       あなたが誰だったか、わたしたちは
       思いだそうともせず、あなたのことを
       いつか忘れてゆくだろう。ほんとうだ。

           … 略 …
       秋、静かな夜が過ぎてゆく。あなたは、
       ここにいた。もうここにはいない。

                    「こんな静かな夜」より

       理由なんかなかった(のかもしれない)。
       背筋をのばして、静かに日々をおくる。
       それだけで十分だった(のかもしれない)。
       その人は、とても歳をとっていた

           … 略 …
       おおきなコントラバスを抱えるように、
       おおきな秘密を抱えていた(のかもしれない)。
       おたがいのことなど、何も知らない。
       それがわたしたちのもちうる唯一の真実だ。
       この世に存在しなかった人のように
       その人は生きたかった(のかもしれない)。
       姿を見なくなったと思ったら、 
       黙って、ある日、世を去っていた。
       こちら側は暗いが、向こう側は明るい。
       闇のなかではない。光りのなかに、
       みんな姿を消す(のかもしれない)。
       糸くずみたいな僅かな記憶だけ、後にのこして。

                    「秘密」より

 続く「イツカ、ムコウデ」詩まで読んで、レストランを出た。
 饒舌な感想を書く必要はないだろう。
 平易な言葉に込められた『死者の贈り物』に、そっと耳を傾ければいいのだ。

 長田弘さんが、亡くなれて20日余りが過ぎる。
 <もうここにはいない>人なのだ。
 が、その詩は残り、読者の心に響き続けるだろう。
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