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「富士日記」 17 (旧)七月廿四日(つづき)、廿五日

(散歩道のニラの花)

早朝、北朝鮮のミサイル発射に驚かされて、一日、悪い寝起きの気分であった。

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「富士日記」の解読を続ける。

やゝ子の刻(とき)も過ぎぬらむと思う頃、ゆばり(尿)せまほしければ、供の男(おのこ)を起して、室の戸を明けさせて、やおら出て空を見れば、星の光、きら/\として、東の方は月白覚えて、海の果てなるべし。横ざまに棚引きたる雲間より、光ほのめげば、手洗いて出るを待つ。
※ 子の刻(ねのとき)- 午前0時ごろ。
※ ゆばり(尿)- 小便。
※ 月白(つきしろ)- 月の出ようとするとき、東の空が白んで明るく見えること。月代。
(原注 悦目抄 ろかい多て 水門も知らぬ 夕闇に 舟漕ぎ出だせ 夜半(よわ)の月白
※ ろかい(櫓櫂)- 舟の櫓と櫂。
※ 覚える(おぼえる)- 思われる。
※ ほのめく(仄めく)- かすかに見える。ちらっと見える。


法師たちも宵に契り置きたれば、驚かするに、とく目覚まして、同じく蹲(うずくま)り居て待つ。かの行者も出でて、何やらむ、いと高らかに唱えて、ずゞ(数珠)押し揉み居たるは、少し姦(かしま)しき心地す。室の外、三、四尺ばかりは平らかにて、下は這い登りし山路なれば、いと危うし。とばかりありて、差し出でたり。
※ 驚かす(おどろかす)- 目をさまさせる。起こす。
※ とばかり - ちょっとの間。しばらくの間。


   二十(はたち)ばかり 重ね上げたる 山の上に
        廿日余りの 月を見るかな

(原注 伊勢物語 その山(富士)は、ここに例えば、日枝の山を二十(はたち)ばかり 重ね上げたらんほどして、云々)

また日の出を見んとて、しばし枕をとる。

廿五日、夜べのごと、光ほのめけば、例の室の外に出でたるに、見ゆる限りの、国々の野も山も、見下せば、押し並べて、陸(くが)地と見ゆるに、雲はこの山の帯の如く、幾重ともなく、綿を打ち散らしたらんように見ゆ。
(原注 白楽天詩 白雲帯に似て山腰に繞(めぐ)り 青苔衣の如く岩肩に掛る)
※ 山腰(さんよう)- 山の中腹と麓との間。
※ 青苔(せいたい)- 緑色のコケ。あおごけ。


さて東南の海面(うみづら)いとなく晴れたるに、八重の塩路の、汐の八百合に、浪を離るゝ日の御影、さらに言葉も及び難し。近頃、肥後の玉山と聞こえし博士の記に、つばらに載せたり。開き見るべし。
※ いとなく(暇無く)- 絶え間がない。
※ 八重の塩路(やえのしおじ)- はるかに遠い海路。非常に長い海路。
※ 百合(ゆり)- 襲かさねの色目の名。表は赤、裏は朽葉くちば色。夏用いる。
※ つばらに(委曲に)- くわしく。詳細に。


   富士の嶺に 振りさけ見れば 青海原
        豊栄登る 天つ日の影

※ 振りさけ見れば(ふりさけみれば)- 遠くを眺めれば。
※ 豊栄登る(とよさかのぼる)- 朝日が美しく輝いてのぼる。
※ 天つ(あまつ)- 天の。天にある。天上界に所属する。
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