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「壺石文」 下 34 (旧)四月十一日、十二日、十三日~、十五日

(庭の百日草にとまるヤマトシジミ)

「壺石文 下」の解読も、明日でいよいよ読み終える。続いて、読む本は、国学者で歌人 の、賀茂季鷹の「富士日記」と決めて、すでに読み始めている。

十一日、こゝを立ちて、五、六里がほど野原を行き/\て、一ノ沢という所に出で、大田原に至りて宿りぬ。
※ 一ノ沢(いちのさわ)- 現、栃木県大田原市市野沢。
※ 大田原(おおたわら)- 現、栃木県大田原市。


十二日、今日も野路、山路を十二、三里も来て、夜になりて日光に至りて宿る。

十三日、昨日、甚(いた)(こう)ぬるげにや、あなひら(は)れて、屈(く)し居たき心地すれば、ひねもす同じ宿りの高殿に臥し居て、物書き遊(すさ)ぶ。
※ 困じる(こうじる)- ひどく疲れる。困憊(こんぱい)する。
※ あなひら(趺)- 足の甲。


十五日、広前に詣づ。岩波たぎち流れて、いと/\清らなる谷川に、丹(に)塗りのおばしま高く架かりたり。片方(かたえ)に、並び架かりたる板橋を渡りて、大なる杉叢(すぎむら)の麗しう立ちたる大路を、やゝ登れば、石の鳥居あり。ただちに入りて、額づきつゝ、仰ぎ見れば、黄金の甍、玉のうつばり、朱(あけ)に緑に、紅に、朝日の光に匂い合いて、眩(まばゆ)かりける広前なりけり。
※ 広前(ひろまえ)- 神の御前。また、神社の前庭。ここでは、日光二荒山神社。
※ たぎつ(滾つ)- 水が激しく流れる。水が逆巻きうねる。
※ おばしま(欄)- てすり。欄干。(「神橋」の欄干を指す)
※ うつばり(梁)- 屋根の重みを支えるための横木。はり。
※ 匂う(におう)- 赤などの色があざやかに照り輝く。


   (あめ)の下に 二つは有らじ 二荒山
        鎮まり居ます 神の玉殿


御門の前を左に折れて こゝかしこを額づき廻(めぐ)るに、いづこも/\朱に緑に、麗しう、おどろ/\しうこそ。御山を下り、谷川を渡りて、やゝ高き山口に入り、小松の林の中道を分けつゝ、左右に折れ/\て、岨路(そばみち)遥かに登り/\て、たむけ(峠)に至れり。いささか平らなる芝生に、柴の庵あり。しもと折り伏せ、仮に設けたる、簀の子だつ物に尻掛けて、とばかり煙吹く。
※ しもと(楉)- 枝の茂った若い木立。
※ とばかり - ちょっとの間。しばらくの間。


なお、少し芝生を登りて見下ろせば、いと木深き谷に、畳なわれる岩村(群)の間を、高く流れ落つる瀧つ瀬有りけり。青葉繁り、苔滑らかにて藍の如く、白波砕け散りて玉の如く、水迸(ほとばし)りて烟の如し。霧降りの瀧とぞ云う。芝生に臥し、面杖(つらづえ)を、煙吹きつゝ、時移るまで眺め居れば、老いたる、若き女、童(わらわ)べなど、一、二人、或は、五、六人づゝ、よう/\に群れ来て、こゝかしこに団居(まどい)して、酒など飲むなるべし。夕づく頃おいに、元越し道を町家に帰りて宿りぬ。
※ 畳なわる(たたなわる)- 幾重にも重なる。また、重なり合って連なる。
※ 霧降りの瀧(きりふりのたき)- 栃木県日光市の、霧降川にある滝。華厳滝、裏見滝とともに日光三名瀑の一つ。
※ 面杖(つらづえ)- ほおづえ。


読書:「犬の証言 ご隠居さん3」野口卓 著
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