おとらのブログ

観たもの、見たもの、読んだもの、食べたものについて、ウダウダ、ツラツラ、ヘラヘラ書き綴っています。

TIMELESS 石岡瑛子とその時代

2021-04-04 16:53:30 | 読んだもの
 河尻亨一さんの「TIMELESS 石岡瑛子とその時代」を読みました。ビジュアルページを含めると600ページ近く、本の厚みも3センチを超える大作です。ワタシ、基本、本は通勤電車の中でしか読まないので、文庫じゃない3センチ超の本を毎日持ち歩くのは結構大変でした。って、「じゃあ家でちゃんと読めよ」って自分でも思うのですが、家で読むというクセがついてなくて…。

 この本を読もうと思ったそもそもは、ワタシが「ずっと行きたい」と熱望していた東京都現代美術館(以下、現美と略します)での「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」展なんです。そのオープニングイベントで著者の河尻さんと現美のキュレーターの藪前さんのお二人によるトークショーがあり、それを見て何となく「この本、読まなあかんのかなぁ」と思ったのですが、厚さ3センチを超える大きな本なのでどうしようと迷っていたところ、どうも上京が叶わない様子になってきたので、本だけでも読んでみようかとお買い上げです。

 この現美の瑛子さん(河尻さんも藪前さんも“瑛子さん”と呼んでらしたので、ワタシもそう書かせていただきます)の展覧会、1月の時点で上京を諦めたので、全然ウオッチしてなかったのですが、会期終わりに向けて、いろいろな媒体で取り上げられ入場者が増え、1月末ごろから2月14日の会期終わりまでは当日券を買うのに150分待ちとかになってたそうです。「この人気にあやかって…」と次を期待したいところですが、展覧会は展示品を借りるのにいろいろ権利関係があるようで、特に瑛子さんのは映画製作の資料とか、映画や舞台の衣装とか、通常の絵を展示する展覧会とまたちょっと違うようで大変みたいです(←トークショーで藪前さんがおっしゃっていました)。

 この本、もともとは河尻さんがネットで2015年から不定期に連載されていたものを一冊の本にまとめられました。トークショーでおっしゃっていましたが、初稿はこの倍のボリュームがあったそうです。それを削って削ってこの量に落ち着いたとおっしゃっていました。

 非常に読み応えのあるとても面白い本でした。「展覧会に行きたい!」と何度も言ってたワタシなんですが、実は瑛子さんのことは全くって言っていいくらい、何も知りませんでした。じゃぁ、なぜあんなに「行きたい!」と熱望していたのか?自分でもナゾ?なんですが。たぶん、現美のサイトの予告を見て「資生堂の宣伝部の人」「コッポラといっしょに仕事した人」「アカデミー賞をとった人」というようなワードを見て、何か感じるものがあって「見なきゃ!」って思ったんだと思います。読んでびっくりしたのは、「紅白歌合戦」(審査員として)も「プロフェッショナル仕事の流儀」もご出演で、であればもう少し認識しててもよかったはずなんですが、そのあたりも全くスルーしておりました。

 ただ、まんざらご縁がなくもないんですが…。瑛子さんのお父様がウィリアム・メレル・ヴォーリズとつながりがあったそうで、ヴォーリズさんはワタシの母校の校舎を設計された人でした。それと瑛子さんが1976年に文学座の「ハムレット」の美術監督をされたそうで、「ハムレット」はワタシが生涯で初めて見たお芝居の舞台でした。この程度のことで「ご縁」っちゅうのも勝手な思い込みなんでしょうけれど。

 瑛子さんのキャリアのスタートとなった資生堂には7年しかいらっしゃいませんでした。1961年に入社し68年には退社されています。入社試験で「お茶くみはしません。グラフィックデザイナーとして採用してほしい。お給料は大卒男子と同じ」とおっしゃったそうです。このセリフもびっくりですが、それよりも天下の資生堂でも60年前は女性はお茶くみ要員だったのかということがびっくりでした。あ、ワタシ、資生堂の広告も好きで、銀座の資生堂本社で「資生堂の広告の歴史」みたいな展覧会にも行ったことがあります。前田美波里を起用したサンオイルの広告も見ました。そういえば、テレ東の美術展の番組で瑛子さんの展覧会が取り上げられた時、前田美波里さんも登場されましたが、相変わらずおきれいで格好良かったです。

 資生堂を退社後はご自分の事務所を持たれ、いろいろな広告にかかわっていらっしゃいます。有名なのはパルコと角川書店になるのでしょうか。ワタシなんかはパルコと言えば糸井重里のライトな感じの広告のイメージしかないのですが、その前にかなりメッセージ性の強いトンがった広告を作っていらっしゃるんですね。角川書店のもこちらにグイグイと迫ってきます。この本は、瑛子さんへのインタビューで瑛子さんが語った内容もあるし、その時にいっしょにお仕事された方たちのインタビューもあるし、いろいろな面から当時の仕事の内容や様子が窺い知ることができます。すごいアグレッシブな仕事ぶりです。もちろん才能もありますが、それ以上に瑛子さんの情熱がすごいなぁと思いながら読み進みました。

 1980年代に渡米し、ハリウッドやブロードウェイを舞台に美術や衣装デザインの分野で活躍、グラミー賞やアカデミー賞にも輝きました。ワタシは映画を見ない人なので、この映画のところを読むのはどうかなぁと思っていましたが、それこそ河尻さんが浜村淳よろしく“見てきたように”書いてくださっているので、「へぇ~~~」といちいち感心しながら、納得しながら読めました。映画とかミュージカルとかお好きな方なら、もっとワクワクしながら読めるかもしれません。

 アップルの創始者スティーブ・ジョブズもいっしょに仕事をしたいと熱望していたそうですが、スケジュールが合わずできなかったそうです。瑛子さんとジョブズって、どんなアウトプットになるんでしょうね。見られなかったのは残念です。

 とにかく圧倒されまくりの伝記でした。瑛子さんご出演のテレビ番組も見たことがないので、直接の声って聞いたこともないのですが、本の中から声が聞こえてきそうな、文字だけでは収まりきらないような、叱咤激励されているような本でした。読み終わった時、こういう本、30代前半までに読んでたら、ワタシももう少しヤル気がでたかもしれない、ってちょっと思いました。

 
 つい、勢いで展覧会の図録も買ってしまいました。一般の書店でも購入できます。でも、図録って“買った”ことで満足してしまうんですよね。
コメント
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