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韓国南部農村住居では伝統的な男女の住み分け、夏冬の住み分けが増改築・新築であいまいに

2017年05月12日 | studywork

1996「韓国南部の農村住居の空間構成と現代化」  日本建築学会近畿大会
                             
1.はじめに 
 韓国では風水の考え方を重視し、自然の摂理に順応して住空間が形成されてきた1)。また、風土条件に適したオンドルとマルが住空間を特徴づけてきた。しかし、近代化の中で新しい技術を導入した住み方が普及し、住空間構成や生活様式が変容しはじめている2)。洛洞マウルでは、現在でも伝統的な農村住居が多くみられるが、近年、徐々に伝統的な住居が改善されており、新しい住み方を導入した住空間が模索されている。
 本稿は韓国慶尚南道固城郡九萬面・洛洞マウルの農村住居を対象に、部屋呼称、部屋の並び、住み方を資料として、農村住居の基本的な平面構成と住み方を求めるとともに、住み方の現代化傾向について検討する。

2.農村住居の平面構成

 1)モムチェの平面構成:モムチェを構成する平均部屋数は6部屋である。この平均部屋数と部屋呼称を対応させ、平面を構成する基本的な部屋を取り上げると、クンバン、チャグンバン、デチョン、ジョンジ、ジョンジバン、モクヨクタンがあげられる(表1)。これら6部屋の並び方より基本的な平面構成をとらえる。前稿で取り上げたように、デムンから一番奥にジョンジ、ジョンジの隣にクンバン、チャグンバンの順で一列に並び、クンバンとチャグンバンのマダン側にデチョンが並ぶ。この並び方を基本にジョンジの裏(マダンと反対側)にジョンジバンまたはモクヨクタンが並ぶ事例、デムンより最も奥にモクヨクタンが並ぶ事例、クンバンとチャグンバンのあいだにアンチョンが並ぶ事例などがみられる。ジョンジの裏にモクヨクタンのある事例はジョンジバンを改善した事例であり、また、モクヨクタンをジョンジに隣接して設ける事例はジョンジバンとジョンジを1部屋にして床上化し、ジョンジバンに隣接してモクヨクタンを設けた事例であり、いずれもジョンジの裏にジョンジバンが並ぶ平面構成であった。また、アンチョンをもつ事例は宗家であり、祭祀のためにアンチョンが設けられている。一方、新築されたモムチェの平面構成は、ヒョンクァンを入るとコシルがあり、コシルの裏側にプオクが、コシルを挟んでチャグンバン、クンバンが並び、プオクを挟んでモクヨクタンとタヨンドシルが並ぶ平面構成をみせる。
 以上より、モムチェの平面構成は、ジョンジ、クンバン、チャグンバンを一列に配し、デチョンをマダン側に設け、ジョンジバンをジョンジの裏に配する並び方を基本とする(図1)。この平面構成は文献1)2)にみられる韓国の一列型の住居に類似するが、南部地方型1)の平面構成とは異なる傾向をみせる。また、新築された場合、クンバンやチャグンバンなど類似する部屋もみられるが、部屋の並びは基本的な平面構成と異なる。

 2)サランチェの平面構成:サランチェの構成をみると、サランバンとサランデチョンで構成されているサランチェは宗家だけであり、他の事例のサランチェはソマグやデムンにサランバン(1部屋)が付設している場合が多い。これは宗家や両班の住居とは異なる農村住居の特徴であるといえる。

3.農村住居の住み方
 1)モムチェの住み方:前述の基本的な平面構成と対応させてモムチェの住み方をみる。クンバンでは夫婦の就寝や女の客の宿泊、冬の団らん・食事・接客が行われ、チャグンバンでは子どもの就寝や男の客の宿泊、デチョンでは夏の食事・団らん・接客が行われている。ジョンジは炊事と冬の入浴に、ジョンジバンは物置に利用されている。一方、モクヨクタンやジョンジバンなどを増改築した住居では、クンバンでは夫婦の就寝や団らん・女の客泊が、チャグンバンでは子どもの就寝や男の客泊が、デチョンでは男女を問わず夏の接客が主として行われ、床上化したジョンジは炊事のほか、夏冬を問わず食事や団らん・接客(男女)に利用されている。また、新築した住居では、クンバンでは夫婦の就寝、夏冬の団らんや接客(男女)、冬の食事が行われ、チャグンバンでは男女を問わず接客や客泊が、コシルでは夏冬の接客(男女)や団らんが、プオクでは炊事や夏の食事が営まれる。
 以上より、クンバンは夫婦の就寝や冬の団らん・食事・接客、女の客泊、チャグンバンは子どもの就寝や男の客泊、デチョンは夏の食事・団らん・接客、ジョンジは炊事と冬の入浴、ジョンジバンは物置に利用されるなど、儒教思想に基づく男女の住み分けや、風土に適した夏冬のオンドルとマルでの住み分けを基本とする。一方、増改築あるいは新築された住居では、男女あるいは夏冬の基本的な住み方が曖昧になるなど住空間の現代化にともなう住み方の変化がうかがえる。

 2)サランチェの住み方:宗家のサランチェは、主人など男性家族の生活の場として現在でも使われている。しかし、他の事例のサランチェは以前は主人の就寝などにも利用されていたが、農空間に付設しているためか、主として物置や唐辛子の乾燥場、ソマグとして利用される傾向が高い。

4.おわりに

 洛洞マウルの農村住居・モムチェの平面構成は、これまでの研究でみられた一列型配置に類似する一方、韓国南部にみられる南部地方型とは異なる平面構成をみせる。すなわち、ジョンジ、クンバン、チャグンバンを一列に配し、マダン側にデチョン、ジョンジの裏にジョンジバンの並びを基本とする。
 住み方は、クンバン・チャグンバンで男女の住み分け、デチョン・クンバンで夏冬の住み分けを行うなど、儒教思想あるいは風土に適した住み方を基本とするが、増改築や新築による住空間の現代化にともない、男女あるいは夏冬の住み分けが曖昧になる傾向をもつ。
 サランチェは宗家や両班ではみられない農空間に付設したサランバンがみられ、主に物置や唐辛子の乾燥の場として利用されるなど農村住居の特徴がみられる。

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