
堀文子さんの画文集に「狼魚の孤独」と題された絵と文があります。
堀さんが山形県の加茂水族館を訪れたときに目にした「狼魚」のことについて綴られています。
加茂水族館はクラゲの収集で有名ですが、幻想的なクラゲのなかで異彩をはなっていたのがこの「狼魚」でした。
私も数年前に加茂水族館を訪れたのですが、狼魚のことは記憶にありません。今年の5月末に青森の浅虫水族館で狼魚を目にして写真に撮ったのですが水槽のガラスが反射してうまく撮影できませんでした。上の写真はネットから拝借しました。
下が堀さんの画文集に描かれた狼魚です。

堀さんは狼魚のことを「人に好かれる要素の一点もない風格。人に迎合することを拒む奇怪な容貌」と形容し、「可愛い」という形容詞を連発する幼児化が進んだ日本と好かれたいと目の色を変える現代の人々を突き放しています。
私自身、かなり迎合しているところがあり、八方美人的なところがあるので猛省してしまいました。
ところでこの狼魚は「孤独」と記されていますが、これはどちらかというと「寂しさ」というよりも「孤高」に近いと思います。それに対して井伏鱒二の「山椒魚」の方は成長しすぎて棲家の岩屋から出られなくなってしまったので外界から断絶されてしまった孤独感があります。
「老いの孤独」を感じさせるのはレオポール・ショヴォ作、山本夏彦訳の「年を歴た鰐の話」です。
年を取ってリウマチになった鰐は食べ物の魚が取れなくなり自分の曾孫の一匹を頬張ってしまうとか、鰐は蛸を愛しているくせに誘惑に勝てず自己弁護を繰り返しながらその足を一本ずつ食って、食い終わればにがい後悔の涙を流すというストーリーが載っているそうです。
実は私はこの本を手元に持っているわけではないのです。吉行淳之介さんや久世光彦さんが推薦しているので一度読んでみたいと思っているのですが、絶版だということであきらめていました。何しろ久世さんは生前、京都の古書店でこの本があるということを聞いて郵送ではなくわざわざ新幹線に乗って自分で取りにいったということです。
読者の要望が強かったのか復刊されたそうですが、実際に買わずに色々「年を歴た鰐」のことを想像するのも悪くないかもしれないとも思っています。