風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

夢の中の道をあるいている

2023年02月16日 | 「新エッセイ集2023」



なぜか分からないが 夢の中だけにある いつもの道がある しばしば夢の中では その道を歩いている 市場があり商店があり 人も歩いている なぜかパン屋が数軒あり 好みのパンがないか さがしたりするが見つからない 古い家があり 細い路地があり よく出てくる駅がある 見覚えのある道だが その先をたどっても わが家に帰る道がわからない 探しても迷うばかりで そのうちにどんどん 寂しい山奥に入っていく 切り立った崖があり 川が流れている 渡ろうとすると水かさが増して 必死で泳ぐときもあるし 魚を追いかけるときもある 遊んでいるときもあるし その場所から脱出しようと もがいている時もある あまり脈略はない しょせん夢だから 飛ぶことも泳ぐことも 自在なはずだが ただ歩き続ける道があり おなじみの夢の風景があり 夢の中なのに 思いのままに 飛ぶことも泳ぐことも 夢まかせ夢のままで 目覚めたあとは すべて夢の中に そのまま置き去りで あの夢の中の道を 歩いていたのは誰なのか 歩いたり泳いだり 攀じ登ったり駆け降りたり 探したり迷ったりしていた 夢の中だけにいる自分は いま夢から抜け出して 夢を回顧している この自分とは違うのか 夢の中の彼はたいがい若くて 夢の中に現れる知人らも みんな若い姿のままで さらには とっくに死んでるはずの 親や友人が元気でいたり そんな夢の中の自分は 一体全体いつの 何処の誰なのか 夢の中の自分と 現実の日常の自分 夢の中でも夢の外でも ふたりは出会うことはないから 確かめることも出来ない 


『漂って夢の淵へ』



 


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