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大木昌の雑記帳

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メリル・ストリープさんのトランプ氏批判-映画人の健全な精神-

2017-01-14 08:07:37 | 思想・文化
メリル・ストリープさんのトランプ氏批判-映画人の健全な精神-

「ハリウッド外国人映画記者協会」が米国のテレビと映画の優秀作品を選ぶゴールデングローブ賞の授賞式が2017年1月8日、カリフォルニア州
ビバリーヒルズで開かれ、女優メリル・ストリープさんが長年映画界に貢献した人に送られる「セシル・B・デミル生涯功績賞」を受賞しました。

ストリープさんは、6分間の受賞スピーチで、名前こそ出しませんでしたが、明らかにドナルド・トランプ次期米大統領と分かる表現で、彼をを痛烈
に批判しました(注1)。

このスピーチは原文(英語)でも全訳された日本語でも読むことができます(注2)。少し長くなりますが、歴史に残る感動的な内容なので、その大
部分を引用しておきます。

    「ハリウッド外国人映画記者協会」の皆さん、ありがとう。[中略]、ここにいる皆さん、私たち全員はいま、米国社会のなかで最も中傷
    されている層に属しています。だって、ハリウッド、外国人、記者ですよ(注3)。
    それにしても、私たちは何者なんでしょう。ハリウッドとはそもそも何なんでしょう。いろんなところから来た人たちの集まりでしかありま
    せん。
    私はニュージャージーで生まれ育ち、公立学校で教育を受けました。ヴィオラ・デイヴィスはサウスカロライナの小作人の小屋で生ま
    れ、ロード・アイランドのセントラルフォールズで世に出ました。サラ・ポールソンはフロリダで生まれ、ブルックリンでシングルマザー
    に育てられました。サラ・ジェシカ・パーカーはオハイオで8人兄弟のなかで育ちました。
    エイミー・アダムスはイタリアのヴィチェンツァ生まれです。ナタリー・ポートマンはエルサレム生まれです。
    この人たちの出生証明書はどこにあるんでしょう。
    あの美しいルース・ネッガはエチオピアのアディス・アババで生まれ、ロンドンで育ち──あれ、アイルランドだったかしら──今回、
    ヴァージニアの片田舎の女の子役で受賞候補になっています。
    ライアン・ゴズリングは、いい人たちばかりのカナダ人ですし、デヴ・パテルはケニアで生まれ、ロンドンで育ち、今回はタスマニア育ち
    のインド人を演じています。

    そう、ハリウッドにはよそ者と外国人がうじゃうじゃしているんです。その人たちを追い出したら、あとは、アメフトと総合格闘技(マーシ
    ャルアーツ)くらいしか見るものはないですが、それは芸術(アーツ)ではありません。
    しかし、この1年の間に、仰天させられた一つの演技がありました。私の心にはその「釣り針」が深く刺さったままです。[中略]
    それがいい演技だったからではありません。いいところなど何ひとつありませんでした。なのに、それは効果的で、果たすべき役目を
    果たしました。想定された観衆を笑わせ、歯をむき出しにさせたのです。
    我が国で最も尊敬される座に就こうとするその人物が、障害をもつリポーターの真似をした瞬間のことです(注4)。
    特権、権力、抵抗する能力において彼がはるかに勝っている相手に対してです。心打ち砕かれる思いがしました。
    その光景がまだ頭から離れません。映画ではなくて、現実の話だからです。
    このような他者を侮辱する衝動が、公的な舞台に立つ者、権力者によって演じられるならば、人々の生活に浸透することになり、他の
    人も同じことをしていいということになってしまいます。
    軽蔑は軽蔑を招きます。暴力は暴力を呼びます。力ある者が他の人をいじめるためにその立場を利用するとき、私たちはみな負ける
    のです。

    さて、この話が記者につながります。私たちには信念をもった記者が必要です。ペンの力を保ち、どんな暴虐に対しても叱責を怠らな
    い記者たちが──。建国の父祖たちが報道の自由を憲法に制定したゆえんです。
    そういうわけで、裕福で有名な「ハリウッド外国人映画記者協会」とわが映画界の皆さん、私と一緒に「ジャーナリスト保護委員会」の
    支援をお願いします。ジャーナリストたちが前進することが私たちにとって必要だし、彼らが真実を保護するために私たちが必要だか
    らです。

社会派女優として知られているストリープさんは、授賞式の会場にいる俳優や候補者の多くは、小さな町や貧しい家庭の出身、片親に育てられたり、
あるいは様々な国で生まれ育ったアウトサイダーだと紹介しました。

「特権や権力、抵抗する力のすべてにおいて、自分が勝っている相手」の記者を笑い者にした光景を観たとき、ストリープさんの心は少し砕けてしま
った、と言います。それは映画の場面じゃなく現実だったからです。

人に恥をかかせてやろうという本能を、発言力のある権力者が形にしてしまうと、それは全員の生活に浸透してしまいます。こういうことをしていいん
だと、ある意味でほかの人にも許可を与えてしまうからです。

他人への侮辱は、さらなる侮辱を呼びます。暴力は暴力を扇動します。そして権力者が立場を利用して他人をいたぶると、それは私たち全員の敗北
なのだ、とストリープさんは訴えました。

ストリープさんはさらに、「権力を監視し責任を果たさせるよう」報道機関に求め、会場の映画関係者たちにはハリウッドが報道機関を支えなくてはな
らないと強調しました。

1月20日に就任するトランプ氏は、ニューヨーク・タイムズ紙の電話取材に応えて、ストリープさんを「どうせヒラリー・ファンだ」と一蹴してしまいました。

授賞式やストリープさんのスピーチは見ていないが、「リベラル映画関係者」に攻撃されても「驚かない」と答えたという。

トランプ氏は6日には、俳優のアーノルド・シュワルツェネッガー前カリフォルニア州知事も批判し、「視聴率王の私と比べると完敗だな」とこきおろし
ました。

同氏はトランプ氏が司会を務めていたテレビ番組「アプレンティス」の後任司会者に今月就任したが、視聴者数が前回より下回っていたことを指摘し
たのです。

シュワルツェネッガー氏は「視聴率のために努力したのと同じくらい、全国民のために働いてほしい」といさめました(注5)。

私がストリープさんのスピーチに感動したのは、これが政治集会ではなく、映画に関する授賞式でありながら、トランプ氏が障がい者を笑いものにし
たことに対する、純粋に人間としての怒りをはっきりと表明したからです。

もし日本で、似たようなことが政治家や権力をもった人の口から出たら、日本の映画人はどんな反応をするでしょうか?

たとえば沖縄に派遣された大阪府警の機動隊員が、基地建設に反対している人に向かって、「このボケ、土人が」あるは「黙れ、コラ、シナ人」と罵声
を浴びせたことに対して、「それはおかしい」「人道に反する」「差別だ」と抗議する日本の映画人がいるでしょうか?

それにしても、アメリカは大変な人を大統領に選んでしまったな、とつくづく思います。

(注1)この授賞式の全体の模様と解説は、BBCニュース Japan 2017年01月9日 
    http://www.bbc.com/japanese/video-38554395 で見ることができます。
(注2)スピーチの原文(英語の)書き起こしは
    http://www.nytimes.com/2017/01/08/arts/television/meryl-streep-golden-globes-speech.html?smid=pl-share&_r=1で見ることができます。
   また、日本語の全訳は、https://courrier.jp/news/archives/72974/ で見ることができます。
(注3)ここは、トランプ氏が大嫌いな民主党寄りのハリウッドの映画界、この賞自体が「外国人映画記者協会によるものであること、さまざまな地方や民族的背景をもち、
    また、彼を批判するメディアの記者のことを言っています。
(注4)トランプ氏は2015年11月の選挙集会で、腕をけいれんさせながら先天性の障害を持つニューヨーク・タイムズ紙のセルジュ・コバレスキ記者の真似をして、嘲笑したとされることを、指しています。
(注5)日経電子版(2017年1月10日 13:03)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM10H3I_Q7A110C1EAF000/?n_cid=NMAIL002
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大木昌  ツイッター https://twitter.com/oki50093319

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