アネハズル(姉羽鶴)はヒマラヤを越える―自然界の厳しさとたくましさ―
明けましておめでとうございます!!
日本も世界も、不安定で不透明な時代に入っていて、なんとなく暗い気分になりますが、年頭に当たり、少し元気をもらえる、アネハズル
の話を書きたいと思います。
アネハズルは、体長90センチほどで、ツルの中では最も小さいツルです。
アネハズルは、モンゴルやロシアの中央アジアの草原で繁殖し、インド南西部の越冬地を目指して4000キロの旅をする渡り鳥です。
しかし、インドへ行くためには、平原のモンゴルから高度8000メートル級の山々が連なるヒマラヤ山脈を越えなければなりません。
しかも、その年の春に卵からかえったばかりの雛も、半年後の秋口(10月半ば)にはこの過酷な移動をしなければならないのです。
アネハズルの生態とヒマラヤ越えの実写映像がNHKBSで紹介されました(注1)。
アネハヅルのヒマラヤ越えの映像は、上記のテレビ番組以外でも、もっと簡単に、YouTube でも見ることができます(注2)。
アネハヅルのヒマラヤ越えはとても感動的ですが、それに劣らず、このツルの生態を通して私たちは、自然界の厳しさと、生き残りのため
のたくましさいぇ知恵にも感動します。
今回の映像は、まず、繁殖地モンゴルでの調査記録から始まります。
アネハズルは、背の低い草がまばらに生えているだけの土地に卵を産み落とします。映像で見ると、これでも卵を産み雛を育てるための
巣なのか、と驚くほど粗末な作りです。
通常の鳥は、木の上や、タンチョウズルのように水辺の深い草に覆われて、外部からは見えない場所に巣を作ります。
ところが、アネハズルの“巣”は、私たちがイメージする鳥の巣とは程遠く、周囲から守る何一つない地面の一角です。
ほとんど、卵が地面にむき出しのまま転がっている、という感じです。このような環境では、新しい命に危険がいっぱいです。
まず、卵を産む季節になると、それを知ったカラスが卵を狙って集まってきます。
親鳥は、必死でカラスを追い払いますが、相手は数が多いので、いつも守れるとは限りません。
次に、この草原は、遊牧民の牧草地でもあり、羊や馬が通る時、卵を踏みつぶしてしまうこともあります。
映像では、羊が卵の数センチ横を羊が歩き、もう少しで踏みつぶしそうな様子を映し出しています。
また、馬が数頭近づいて生きたときには、親が羽を広げて威嚇し、追い払いました。
モンゴルの遊牧民の間でアネハズルは、春が来たことを告げる、幸運のシンボルとされ、子どもたちには、卵を触ると馬のアブミ
が切れて怪我をする、と教えています。
さて、ようやく無事に卵からかえることができても、安心できません。
タンチョウズルの親は水辺の魚のように比較的大きな餌を子どもに食べさせますが、草原で子育てをする親は、せいぜいバッタ
や小さな昆虫しか餌はありません。
草原では、姿を隠す木や草がないので、よちよち歩きの雛は鷲や鷹などの猛禽類の格好の餌食となってしまいます。
こうした環境の中でも、何とか生存できてきた理由の一つは、遊牧民が温かく見守ってきたからです。
それにしても、アネハズルは、なぜ、このような悪条件の地を繁殖地に選んだのでしょうか?
それは、こんな悪条件の下で、子どもの繁殖と養育をしようとする鳥は他にいないからなのです。
アネハズルは厳しい冬をモンゴルで越すことはできませんので、南のインドまで移動します。
春に卵からかえった雛も、半年後の秋には体も親鳥に近い大きさに成長しますが、まだ、体力は大人のツルほどはありません。
それでも、生き延びるために、4000キロ離れたインドを目指して、ヒマラヤを越えなければならないのです。
モンゴルの草原に冷たい風が吹き始めると、アネハズルはそろそろ移動の時が来たことを知ります。
そして、最低気温が0(零)度を下回った時、アネハズルの群れは一斉に飛び立ちます。
途中で、ヒマラヤを越えるための体力を付けるために、ヒマラヤ山中に点在する集落の周辺で、収穫が終わった麦畑に立ち寄り、
麦の落穂をお腹いっぱい食べます。
そして、準備ができたアネハズルから飛び立ちます。映像で見ると、数十羽のアネハズルがV字型の編隊を組み、その尖った方
を前にしてで飛んでいます。
いくつものV字型の集団が幾重にも、後から後から続いています。
V字型に編隊を組むのは、前方の鳥のおかげで空気抵抗が少なくなって、後続の鳥の体力を温存できるからです。
これは、自転車競技なので、チームの中でも風よけになる選手を前に走らせるのと同じです。
しかし、これでは先頭や前を飛ぶ鳥の負担が大きいので、適当な距離を飛ぶと順次、後ろのツルが先頭部に交代しているのが映像
で確認できます。
本能といえばそれまでですが、自然界の知恵とたくましさに感動します。
こうして先頭集団は、ヒマラヤの高い山脈を乗り越えるための最後の休憩地にたどり着き、体を高く運んでくれる上昇気流を待ちます。
そのうち、途中で餌を補充するために時間がかかった若鳥たちも順次、休憩地に到着します。
体力のある大人のツルたちは、強風と闘いながら、何回か挑戦し、上昇気流をうまくつかまえてたくましくヒマラヤを越えてゆきます。
しかし、若鳥クループは、強風に勝てず、挑戦しては跳ね返され、手前の川原で一旦、休憩をして体力の温存を図ります。
そして、いよいよ、眼前に壁のようにそそり立つヒマラヤの氷壁に突進しては、押し戻されてしまいます。
現地の人たちがアネハズルを「風の鳥」と呼ぶのは、こうした光景を見きたからでしょう。
それを待ち構えるように、ヒマラヤ越えの季節がくると、ワシやタカ、ハヤブサなどの猛禽類が、ヒマラヤ越え目前のアネハズルの集合
地点で待ち構え、体力をなくしたツルを襲います。
捕えたアネハズルの肉をくわえて、ワシが、おそらく子どもたちに与えるため、飛び去ってゆきます。これも、また自然の摂理なのです。
映像では、こうした過酷な自然条件に立ち向かい、ようやく上昇気流をつかまえて、一気に6000メートルまで上昇して、何とか無事に
インドの避寒地へたどり着く姿を映し出しています。
アネハズルは、超高空を飛ぶので、空気は地上の三分の一しかありません。その中で風に立ち向かい突破するために必要な酸素を取
り込むために、肺の他に気嚢と呼ばれる、いわば第二の肺を持っています。
専門家によると、アネハズルが逆風を突破できるのは、その体の大きさが関係している、という。
もし、今のサイズより小さいと力不足となり、タンチョウズル(1.2メートルほど)のように大きいと風の抵抗が大きすぎて、ヒマラヤを越える
ことができません。
この点、アネハズルは、体力と風の抵抗とがヒマラヤ越えを可能にする絶妙なバランスを備えています。
最後に、途中で1,2回休むとはいえ、4000キロという長距離を飛ぶためには、気嚢の存在だけでは不可能です。
アネハズルの飛翔を詳しく見ると、常に羽を動かしているわけではなく、気流を利用して羽を動かさず滑空状態と、羽を動かして飛んでい
る状態とを交互に繰り返していることがわかります。
自然界には温度も、餌も、巣作りにも、安全面でも理想的な場所はそれほど多くありません。条件が良ければ良いほど、そのような場所は、
まず、生存競争に勝てる強い生物によって占拠されてしまいます。
しかし、条件が悪いということは、競争相手が少ないということでもあります。
アネハズルは、恐らく何百万年もかけて、不利な条件に適応してきたのでしょう。いのちの世界の雄大な時の流れを感じます。
(注1)NHKBS2 『ワイルドライフ:アネハズル驚異のヒマラヤ越えを追う』(2016年10月25日)
(注2) youtube https://www.youtube.com/watch?v=7nl-AQm_PN8 でみることができます。
大木昌の Twitter https://twitter.com/oki50093319
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初めて、成田山新勝寺に初もうでに行きました。(平成29年元旦)

成田山新勝寺の初もうで。本殿前の広場。

本殿から階段の人を臨む

いよいよ本殿へ。入場制限が行われて、順次参拝場所まで行きます。
明けましておめでとうございます!!
日本も世界も、不安定で不透明な時代に入っていて、なんとなく暗い気分になりますが、年頭に当たり、少し元気をもらえる、アネハズル
の話を書きたいと思います。
アネハズルは、体長90センチほどで、ツルの中では最も小さいツルです。
アネハズルは、モンゴルやロシアの中央アジアの草原で繁殖し、インド南西部の越冬地を目指して4000キロの旅をする渡り鳥です。
しかし、インドへ行くためには、平原のモンゴルから高度8000メートル級の山々が連なるヒマラヤ山脈を越えなければなりません。
しかも、その年の春に卵からかえったばかりの雛も、半年後の秋口(10月半ば)にはこの過酷な移動をしなければならないのです。
アネハズルの生態とヒマラヤ越えの実写映像がNHKBSで紹介されました(注1)。
アネハヅルのヒマラヤ越えの映像は、上記のテレビ番組以外でも、もっと簡単に、YouTube でも見ることができます(注2)。
アネハヅルのヒマラヤ越えはとても感動的ですが、それに劣らず、このツルの生態を通して私たちは、自然界の厳しさと、生き残りのため
のたくましさいぇ知恵にも感動します。
今回の映像は、まず、繁殖地モンゴルでの調査記録から始まります。
アネハズルは、背の低い草がまばらに生えているだけの土地に卵を産み落とします。映像で見ると、これでも卵を産み雛を育てるための
巣なのか、と驚くほど粗末な作りです。
通常の鳥は、木の上や、タンチョウズルのように水辺の深い草に覆われて、外部からは見えない場所に巣を作ります。
ところが、アネハズルの“巣”は、私たちがイメージする鳥の巣とは程遠く、周囲から守る何一つない地面の一角です。
ほとんど、卵が地面にむき出しのまま転がっている、という感じです。このような環境では、新しい命に危険がいっぱいです。
まず、卵を産む季節になると、それを知ったカラスが卵を狙って集まってきます。
親鳥は、必死でカラスを追い払いますが、相手は数が多いので、いつも守れるとは限りません。
次に、この草原は、遊牧民の牧草地でもあり、羊や馬が通る時、卵を踏みつぶしてしまうこともあります。
映像では、羊が卵の数センチ横を羊が歩き、もう少しで踏みつぶしそうな様子を映し出しています。
また、馬が数頭近づいて生きたときには、親が羽を広げて威嚇し、追い払いました。
モンゴルの遊牧民の間でアネハズルは、春が来たことを告げる、幸運のシンボルとされ、子どもたちには、卵を触ると馬のアブミ
が切れて怪我をする、と教えています。
さて、ようやく無事に卵からかえることができても、安心できません。
タンチョウズルの親は水辺の魚のように比較的大きな餌を子どもに食べさせますが、草原で子育てをする親は、せいぜいバッタ
や小さな昆虫しか餌はありません。
草原では、姿を隠す木や草がないので、よちよち歩きの雛は鷲や鷹などの猛禽類の格好の餌食となってしまいます。
こうした環境の中でも、何とか生存できてきた理由の一つは、遊牧民が温かく見守ってきたからです。
それにしても、アネハズルは、なぜ、このような悪条件の地を繁殖地に選んだのでしょうか?
それは、こんな悪条件の下で、子どもの繁殖と養育をしようとする鳥は他にいないからなのです。
アネハズルは厳しい冬をモンゴルで越すことはできませんので、南のインドまで移動します。
春に卵からかえった雛も、半年後の秋には体も親鳥に近い大きさに成長しますが、まだ、体力は大人のツルほどはありません。
それでも、生き延びるために、4000キロ離れたインドを目指して、ヒマラヤを越えなければならないのです。
モンゴルの草原に冷たい風が吹き始めると、アネハズルはそろそろ移動の時が来たことを知ります。
そして、最低気温が0(零)度を下回った時、アネハズルの群れは一斉に飛び立ちます。
途中で、ヒマラヤを越えるための体力を付けるために、ヒマラヤ山中に点在する集落の周辺で、収穫が終わった麦畑に立ち寄り、
麦の落穂をお腹いっぱい食べます。
そして、準備ができたアネハズルから飛び立ちます。映像で見ると、数十羽のアネハズルがV字型の編隊を組み、その尖った方
を前にしてで飛んでいます。
いくつものV字型の集団が幾重にも、後から後から続いています。
V字型に編隊を組むのは、前方の鳥のおかげで空気抵抗が少なくなって、後続の鳥の体力を温存できるからです。
これは、自転車競技なので、チームの中でも風よけになる選手を前に走らせるのと同じです。
しかし、これでは先頭や前を飛ぶ鳥の負担が大きいので、適当な距離を飛ぶと順次、後ろのツルが先頭部に交代しているのが映像
で確認できます。
本能といえばそれまでですが、自然界の知恵とたくましさに感動します。
こうして先頭集団は、ヒマラヤの高い山脈を乗り越えるための最後の休憩地にたどり着き、体を高く運んでくれる上昇気流を待ちます。
そのうち、途中で餌を補充するために時間がかかった若鳥たちも順次、休憩地に到着します。
体力のある大人のツルたちは、強風と闘いながら、何回か挑戦し、上昇気流をうまくつかまえてたくましくヒマラヤを越えてゆきます。
しかし、若鳥クループは、強風に勝てず、挑戦しては跳ね返され、手前の川原で一旦、休憩をして体力の温存を図ります。
そして、いよいよ、眼前に壁のようにそそり立つヒマラヤの氷壁に突進しては、押し戻されてしまいます。
現地の人たちがアネハズルを「風の鳥」と呼ぶのは、こうした光景を見きたからでしょう。
それを待ち構えるように、ヒマラヤ越えの季節がくると、ワシやタカ、ハヤブサなどの猛禽類が、ヒマラヤ越え目前のアネハズルの集合
地点で待ち構え、体力をなくしたツルを襲います。
捕えたアネハズルの肉をくわえて、ワシが、おそらく子どもたちに与えるため、飛び去ってゆきます。これも、また自然の摂理なのです。
映像では、こうした過酷な自然条件に立ち向かい、ようやく上昇気流をつかまえて、一気に6000メートルまで上昇して、何とか無事に
インドの避寒地へたどり着く姿を映し出しています。
アネハズルは、超高空を飛ぶので、空気は地上の三分の一しかありません。その中で風に立ち向かい突破するために必要な酸素を取
り込むために、肺の他に気嚢と呼ばれる、いわば第二の肺を持っています。
専門家によると、アネハズルが逆風を突破できるのは、その体の大きさが関係している、という。
もし、今のサイズより小さいと力不足となり、タンチョウズル(1.2メートルほど)のように大きいと風の抵抗が大きすぎて、ヒマラヤを越える
ことができません。
この点、アネハズルは、体力と風の抵抗とがヒマラヤ越えを可能にする絶妙なバランスを備えています。
最後に、途中で1,2回休むとはいえ、4000キロという長距離を飛ぶためには、気嚢の存在だけでは不可能です。
アネハズルの飛翔を詳しく見ると、常に羽を動かしているわけではなく、気流を利用して羽を動かさず滑空状態と、羽を動かして飛んでい
る状態とを交互に繰り返していることがわかります。
自然界には温度も、餌も、巣作りにも、安全面でも理想的な場所はそれほど多くありません。条件が良ければ良いほど、そのような場所は、
まず、生存競争に勝てる強い生物によって占拠されてしまいます。
しかし、条件が悪いということは、競争相手が少ないということでもあります。
アネハズルは、恐らく何百万年もかけて、不利な条件に適応してきたのでしょう。いのちの世界の雄大な時の流れを感じます。
(注1)NHKBS2 『ワイルドライフ:アネハズル驚異のヒマラヤ越えを追う』(2016年10月25日)
(注2) youtube https://www.youtube.com/watch?v=7nl-AQm_PN8 でみることができます。
大木昌の Twitter https://twitter.com/oki50093319
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初めて、成田山新勝寺に初もうでに行きました。(平成29年元旦)

成田山新勝寺の初もうで。本殿前の広場。

本殿から階段の人を臨む

いよいよ本殿へ。入場制限が行われて、順次参拝場所まで行きます。