大木昌の雑記帳

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有機フッ化化合物(PFAS)問題―米軍への忖度が住民の健康と命を脅かす―

2023-05-19 06:10:36 | 健康・医療
有機フッ化化合物(PFAS)問題
 ―米軍への忖度が住民の健康と命を脅かす―

最近、飲料水と人体 に含まれるPFAS(有機フッ化化合物の総称)の濃度が、多摩
地区と沖縄の一部で、基準値を超える高濃度であることが問題となっています。

これは、水や油をはじき、熱に強い特徴があり、自然界ではほぼ分解されません。環境
中や人体に長く残るため、「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」とも呼ばれ
ています。PFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(パーフルオロオクタン
酸)が代表的な物質です。

1950年代以降、こびりつかないフライパンや水をはじく衣類、半導体の製造、大規模火
災時用の泡消火剤などに広く使われてきました。工場排水や米軍基地の泡消火剤の漏出
などで土壌を汚染し、地下水や河川水に入り込んで飲み水として人が摂取している可能
性があります。

とりわけPFOAは人体では腎臓がんや前立腺がん、潰瘍性大腸炎、甲状腺疾患の発症
の他、赤ちゃんの体重減少、コレステロール値の上昇などとの関連が指摘されています。

このため、国際的に規制が進んでいます。すなわち、有害な化学物質を国際的に規制す
るストックホルム条約でPFOSは2009年、PFOAは19年に製造・使用が原則禁止となり
ました。

有害な化学物質を国際的に規制するストックホルム条約でPFOSは2009年、PFOAは19
年に製造・使用が原則禁止となりました。飲料水は各国が安全の目安となる数値を示し
ています。

日本は20年に、毎日2リットルの水を飲んでも健康に影響が生じないレベルとして、水
道管理の暫定目標値をPFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラム(1ナノグ
ラムは1グラムの10億分の1)以下と定めました。

米国はもっと厳しく、米環境保護庁が昨年6月、PFOSを0.02ナノグラム以下、PFOAを
0.004ナノグラム以下とする暫定勧告値を示しました(注1)。

現在、PFASが問題となっていて、市民団体が独自調査や県や米軍に調査を訴えてい
るのは、沖縄の基地周辺と、東京の横田基地東、多摩地区の幾つかの市町村の住民です。

沖縄では、県内のアメリカ軍基地周辺にある小学校の校庭で、アメリカの基準値を上回
るPFASが検出されるなどしています。

市民団体の『宜野湾ちゅら水会』は今年の5月14日には専門家を呼んで、PFAS問
題を考えるシンポジウムを開催しました。

また7月には、国連の下部組織の会合に参加する予定で、米軍基地内への立ち入り調査の
必要性などを訴えるとしています。

他方、東京都では「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」が、米軍横田基地の東
の多摩地域の28市町村に住む551人の分の血液検査の結果を公表した。

これはまだ中間報告ですが、検査した人の5割以上で、血中のPFAS濃度が、米国で
健康被害がでると定める指標を超えていました。

そして、7市(立川市、国分寺氏、小平市、西東京市、府中市、調布市、国立市)では
全国平均と比べて3.4倍も高かったことが分かりました。

こうした調査に立ち会った専門家は、この地域で住民が飲んでいた飲料水が原因である
こと、そして、その飲料水は井戸から汲み上げた水であることが指摘されてきました。

東京都の水道局も以前から事実を把握しており、2019年以降、上記7市の浄水施設でP
FASが確認された井戸、34か所の取水を停止していました。

問題は、それではなぜ、どこからこの地域の井戸水にPFASが混入したのか、という
点です。

これについては、上の分析をした専門家からは、米軍の横田基地である可能性が高いと、
指摘されてきました(注2)

その経緯をもう少し詳しく見てみましょう。

まず、都水道局と環境局、福祉保健局、環境省が公表している05〜22年の井戸水の調査
結果と、井戸が個人所有であることを理由に非公表の調査結果を情報公開請求し、分析
した結果、以下の事実が明らかになりました。

指針値を上回ったのは約1000件。横田基地東側の立川市にある「横田基地モニタリング
井戸」で18年度、これまでの都内最高値となる1リットル当たり1340ナノグラムのPFAS
を検出しました。市内では同1000ナノグラム前後の地点が複数ありました。

これとは別に、2018年には、横田基地東側の立川市にある横田基地で2010年から27年に
かけてPFASを含む泡消火剤が3000リットルも土中に漏洩したことが、イギリス人
ジャーナリストによって報道されました。

この報道がきっかけになったかどうかは定かではありませんが、東京都が2019年以降、
34か所の浄水施設で井戸水からの取水を停止したのも何らかの関係があったかもしれ
ません。

さらに、多摩地域の井戸水に高い濃度のPFASが検出されたことを、NHKが独自の
調査で検証しました。

これはNHK 『クローズアップ現代』「追跡“PFAS汚染”暮らしに迫る化学物質」で放映
(2023年4月10日)されました。なお、この内容は電子版で文字化された記事でも知
ることができます(注3)。

下の図は、横田基地を起点として地下水が西から東の方角に流れていること(これはす
でに知られていた事実です)、そして、その流れ状に、地下水の汲み上げを中止した市
が位置していることを示しています。

   
     出典 下記(注3)

これを見れば、横田基地が多摩地域の地下水に含まれるPFASの流出原であることは
否定しようもありません。

しかし、東京都民の命を預かる小池都知事は、この件に関して、「日米地位協定」を理由
に、基地への立ち入り調査はできないとして消極的です。

地位協定で日本の関係機関は、米軍基地に許可なく立ち入ることはできない。協定で「排
他的使用権」と呼ばれる特権が米軍側に認められているからです。

しかも、アメリカ側は、事故があっても自分の方から通報することはまずありません。た
とえば、米軍嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)から1986年に有害物質のポリ塩化ビフェ
ニール(PCB)が大量に漏出した際、米軍からの通報はなく、その後に米下院の報告書で
発覚したのです。

また、横田基地周辺では1993年の航空燃料漏出事故で地下水が汚染されたが、その後に起
きた約90件の燃料漏出事故が周辺自治体に通報されていなかった。90件の漏出事故につい
て、立ち入り調査もできていません。

問題は、日本側に米軍と粘り強い交渉をする強い意志と勇気がない、という実態です。

実際には、米軍の通報なしでも日本側が調査に入った例もあります。2021年、米軍普天間
飛行場(沖縄県宜野湾市)に国と県が立ち入り、基地内の貯水槽のPFAS汚染水を調べた
事実があります。

この時は、汚染水があるとの情報に基づき、県などが米軍と交渉してこぎ着けたのです。

今年3月の参院特別委員会で、林芳正外相は「米側から通報がない場合でも、米軍施設に源
を発する環境汚染が発生し地域社会の福祉に影響を与えていると信じる合理的理由のある場
合は、立ち入り調査の申請が可能」と答弁しています。

ただ沖縄県の調査は米軍が認めた場所に限られ、この意味では、米軍は都合の悪い場所は隠
し、問題なさそうな場所だけを調査させた、という課題を残しました。

日米地位協定に詳しい沖縄国際大の前泊博盛教授(日米安保論)は、多摩地域のPFAS汚染
について「基本的には日本政府の交渉姿勢の問題。『日米の信頼関係を損ねる』と強く要請
すれば調査はできるのではないか」と指摘しています。

前泊に教授はさらに、都に対しても「データを持っているなら横田基地に説明を求めるべき
だ。このままでは、都民の健康より米軍の権利を優先する『米軍ファースト』だ」と批判し
ています(注4)。

こうした日本側の対応は、他のあらゆる分野で生じています。日本は、相手がアメリカとな
ると、途端に“失語症”になったように、思考停止になり何も言えなくなってしまいます。

それを読み込んだうえで、アメリカ側は、事故が起こっても通報することなく済ませてしま
っています。





(注1)(『東京新聞』電子版2023年3月4日。https://www.tokyo-np.co.jp/article/234458
(注2)(『東京新聞』2023年5月12、16日 朝刊;『東京新聞』電子版 2023年5月12日 https://www.tokyo-np.co.jp/article/249341)。
(注3)https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4767/
(注4)『東京新聞』電子版(2023年5月12日) https://www.tokyonp.co.jp/article/2493
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  初夏を代表する藤の花                                         新緑の中をサイクリングロードが走る
    

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