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大木昌の雑記帳

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米朝首脳会談(2)―戦略なき日本の哀しさと危機―

2018-06-24 08:39:33 | 国際問題
米朝首脳会談(2)―戦略なき日本の哀しさと危機―

対米依存の限界

米中首脳会談の実現は、はしなくも、安倍外交の長期的視野に立った本当の意味での外交戦略の欠如をさらけ
出してしまいました。

今回の米朝首脳会談が行われる直前まで安倍首相は、「日本は100% アメリカと共にある」、「最大限の
圧力をかけ続ける」と繰り返し発言してきました。

また、外交的な話し合いについては「対話の対話は意味がない」とも語ってきました。

河野外相も、海外で事あるごとに「圧力、圧力」と繰り返してきました。今年1月の外相会合では河野外相が
各国に北朝鮮との外交関係断絶を訴えてもいます。

こうした発言を聞にすると、北朝鮮はいうまでもなく諸外国は、「日本はアメリカの圧力戦略に全面的に付き
従う外交姿勢なんだな」との印象を受けるでしょう。

日本国内でも、圧力一辺倒の安倍政権の姿勢に疑問を感じていた人も多かったと思いますが、北朝鮮による度
重なるミサイルの発射実験や核実験、また進展しない「拉致問題」という現実の前に、やはり北朝鮮に対抗す
るためには、「最大限の圧力」もやむを得ない、というスタンスもやむを得ないのかな、という雰囲気があっ
たと思われます。

ただ、安倍首相が「最大限の圧力」と言う場合、それは国連決議による経済制裁、日本独自の経済制裁という、
これまで続けてきた方法以外には、これといって有効な手段はありません。

現実的には、日本に何かができるわけではないので、「最大限の圧力」とは現実的に何を意味するのか全く分
かりません。

安倍首相が「最大限の圧力」という場合それは恐らく、アメリカ政府の「机の上には全ての選択肢がある。ア
メリカは非核化のために最大限の圧力をかけ続ける」という発言を借りた言葉で、具体的には「斬首作戦」な
ど米韓合同軍事演習や、小型の核兵器を含む軍事的先制攻撃をちらつかせること、つまりアメリカに何かをし
てもらうことを意味しています。つまり、これもアメリカ頼みなのです。

ただ、アメリカは一方で軍事攻撃を示唆しながらも、その裏では昨年よりヨーロッパを舞台に北朝鮮との対話
をずっと続けていたことを忘れてはなりません。

こうした対話の結果、今年の3月8日、首脳会談を呼び掛ける金正恩氏の親書に答えてトランプ氏がそれを受
諾した、とホワイトハウスで発表しました。
これ以後の日本政府のドタバタは目に余る、というより本当に恥ずかしい限りです。

日本政府が急激に出現した新たな事態への対応に慌てふためいていた最中の5月24日、トランプは突如、首
脳会談の中止を発表しました。

するとロシア訪問中の安倍首相は25日、首脳会談の中止を歓迎する、との談話を発表しました。

ところが25日(同日)、トランプ氏は前日の発表をくつがえして、予定通り6月12日に米朝首脳会談を行
う、と発表しました。

すると安倍首相は大慌てでトランプ氏に会いに渡米し、金委員長に拉致問題を解決するよう、伝えてほしいと
頼み込みました。

そして首脳会談の前日、訪問先の札幌市内のホテルで、記者団の取材に応じて、首脳会談を「歓迎したい。核
問題、ミサイル問題、何よりも重要な拉致問題が前進していく機会となることを強く期待したい」と、まるで
手のひら返しの発言をしました。

さらに、トランプ氏が「最大限の圧力」と言う言葉はもう使わないと発言すると安倍首相はまたまた一転して
「日朝平壌宣言に基づき、不幸な過去を清算し国交正常化し、経済協力を行う用意がある、と金委員長との直
接の対話に言及しました(『東京新聞』2018年6月14日)。

アメリカが右と言えば右、左と言えば左、という対米従属の姿勢はあまりも見苦しく情けない姿です。こんな
状態で、果たして拉致問題もうまくゆくのでしょうか?

2001年から02年にかけて、小泉首相(当時)の訪朝の準備交渉を担当した田中均元外務審議官は、
   ごく最近まで、とにかく「圧力、圧力」と言ってきた日本が、突如、「日朝首脳会談」を言い出しても
   そんなに都合よく事が進んでいくとも思われない。本来であれば、最高首脳が首脳会談を口にするとき
   には相手がそれを望み、大方の下ごしらえの見通しが立っているのが普通の外交である。場当たり的と
   しか捉えられかねない対応をするのではなく、核や拉致を含めどう対応していくのかの包括的な戦略を
   見直してほしい(注1)

安倍政権にはしっかりとした外交戦略がないことが大きな問題だ、と指摘しているのです。同感です。

田中氏はさらに、2018年6月24日のTBSの朝の情報番組で、安倍首相は簡単に、自ら日朝首脳会談で交渉する、
「動き出した日朝首脳会談」などの見出しをつくるのは上手だけれど、本当にそうなのか疑問をもつとも言って
います。つまり、それに必要な準備が出来ているとは思えない、と疑問をていしているのです。

さらに田中氏は、そもそも拉致問題は日本の主権に関することなのに、日本が直接交渉する前にアメリカや韓国
に頼むというのは恥ずかしい、と安倍外交の戦略のなさ、というより自主的な外交の欠如を批判しています。

以下に、安倍政権が抱える現状と今後についての問題と、私の考えを述べてみたいと思います。

まず、安倍首相が好んで使う、「日本は100%アメリカと共にある」、という対米従属的発想を捨てなければ
なりません。

日米は抱えている問題も利害も異なることは当然で、100%アメリカと共にあるなどは、あり得ません。まし
て、トランプ大統領は、「アメリカ ファースト」をモットーにしているのです。

安倍首相は、米朝首脳会談の直前に開催されたカナダでのG7(サミット)でも、「プラスチック憲章」に関して
アメリカに追随して反対しました。

さらに、これだけ忠誠心を示していたのにトランプ氏は「私がメキシコ人2500万人を日本に送ればシンゾー
はすぐに退陣だ」などの暴言を吐いています(注2)。

さて、日朝問題に戻って、日本と北朝鮮との間には、幾つもの難題があります。

その第一は拉致問題です。トランプ氏が金氏に拉致問題の件を提起したとき、金氏から「拉致問題は解決済み」
という言葉はなかった、ということから、日本のメディアはこぞって、この点に触れ、北朝鮮は拉致問題の解決
に前向きだ、との記事を載せました。

しかし、考えてみれば分かるように、トランプ大統領から拉致問題の問題を言われて、その場で「拉致問題は解
決済み」などと返事をするはずがありません。私は日本政府もメディアも事態を甘く見過ぎていると感じました。

案の定、対外向けラジオ、平壌放送は6月15日の論評で「日本は既に解決された『拉致問題』を引き続き持ち出し、
自分らの利益を得ようと画策している」と論評しました(注3)。

これで、日本政府の楽観論もいっぺんに吹き飛んでしまいました。

日本にとって拉致問題は、北朝鮮の非核化の問題ともに非常に重要な問題であることは間違いありません。しかし、
この問題の解決なしには国交正常化も経済支援もあり得ない、と言う姿勢を一切変えないと、いつまでたっても物
事は進展しません。

外交というのは、自分たちの要求だけを一方的に相手に押し付けるだけでは進展しません。外交交渉は、相手の主
張もある程度認めつつ最終的に両者にとって納得のゆく落とし所をさぐってゆく、長い忍耐を要する仕事です。

安倍首相も「日朝平壌宣言に基づき」とは言っていますが、他方で、拉致問題の解決なしに国交正常化も経済支援
もない、との姿勢は変えていません。

現実的には田中均氏が言うように、また、2002年の「平壌宣言」(注4)に立ち戻り、国交正常化も、拉致問
題も、核問題も同時に交渉してゆくべきだと思います。

日朝関係に横たわる難題は拉致問題だけではありません。

日本は35年間にわたって朝鮮を植民地支配してきました。全ての交渉に際してまずは、植民地支配への損害と苦
痛にたいする謝罪が大前提です。

これには当然、戦後賠償や、慰安婦問題もかかわってきますが、それらの問題を避けていては国交正常化の対話は
進みません。この際の交渉も簡単ではありません。

北朝鮮の非核化の問題も簡単ではありません。日本が北朝鮮に非核化を求めても、では日本はアメリカの核の傘の
下にいて、他の国に非核化を求めることができるのか、と言われた時、どのように北朝鮮に応えることができるで
しょうか・

しかも、日本はアメリカに追随して、核兵器禁止条約に参加せず、もちろん署名もしなかったのです。

トランプ氏は一方的に、北朝鮮の非核化の費用は日本か韓国が払うだろう、と語っていますが、これを日本は、唯々
諾々と受け入れるのでしょうか?

お金の問題でいえば、トランプ氏は日米会談後の共同記者会見で「安倍首相はつい先ほど、数十億ドル(数千億円)
もの戦闘機や航空機、農産物を追加で買うと言った」ことを暴露したと報道されています(『日刊ゲンダイ』6月
19日号)。

これは、金氏へ拉致問題について日本の要望を伝えた見返り、平たく言えば「口利き料」なのでしょうか?

北朝鮮問題に関連して、日本が「アメリカの財布」にならないよう注視する必要があります。何といっても、こうし
たお金は私たちの税金だからです。

(注1)DIAMOND ONLINE (2018年6月20日)https://diamond.jp/articles/-/172833
(注2)この時の「シンゾー」と言う表現は、親しみを込めた呼び掛けではなく、上から目線で、いかにも馬鹿にし
    ていると思います。ただ、日本のメディアはこの一件を無視したり目立たないように小さく報じただけでした。
    『朝日新聞デジタル』(2018年6月16日)https://www.huffingtonpost.jp/2018/06/16/trump-abe-emigrant_a_23460815/
(注3)『日本経済新聞 デジタル』(2018年6月15日)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31857300V10C18A6EA3000/
(注4)「平壌宣言」の全文は外務省のホームページ https://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_koi/n_korea_02/sengen.html で見ることができる。





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米朝首脳会談(1)―その歴史的意義は?―

2018-06-17 15:42:18 | 国際問題
米朝首脳会談の意義(1)―その歴史的意義は?―

このブログの2018年4月29日の記事は、同月27日に行われた南北朝鮮の首脳会談を、「歴史が動く
場面」と書きました。

しかし、6月12日の米朝首脳会談で私たちは、もう一つの「歴史が動く場面」を目の当たりにすること
になりました。

今回の米朝首脳会談について、「大枠だけで中身のない非核化でアメリカが妥協した」、「結局、トラン
プ大統領は北朝鮮の金正恩委員長にうまくやられた」とか「非核化の検証については、共同宣言では一言
も触れられていない」などなど、メディアでは首脳会談に否定的な評価を下す論調が目立ちます。

これらの評価は、間違ってはいませんが、「全体の文脈のなかで真相に迫る」という視野に欠けており、
このため、今回の首脳会談の歴史的な意義を正しく評価できなくさせてしまう危険性があります。

それでは、今回の首脳会談を戦後の歴史的文脈の中に位置づけると以下の3点が重要です。

①日本による朝鮮の植民地統治(1916-45)が、日本の敗戦によって終わる。
②朝鮮は南の大韓民国(韓国)と北の朝鮮民主主義人民共和国とに分裂
③朝鮮戦争(1950~53年)が終結し、休戦協定が国連軍22カ国(実態はアメリカ)と北朝鮮・中国との
 間で休戦協定が締結される。

ここで、国際法上朝鮮戦争は現在も継続中で、休戦状態にあることを認識する必要があります。

このため南北朝鮮は北緯38度線の休戦ラインを挟んで、現在、世界で唯一残る分断国家となっています。

なお、<韓国は休戦協定に調印していませんので、韓国と北朝鮮も国際法上では戦争状態にあります。

以上の歴史的背景を考えると、今年の4月27日に韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩氏が休戦ラインを
お互いに踏み越えて融和に向けて会談したことは、画期的な歴史的「事件」であったわけです。

敵対関係にあった南北朝鮮が融和に向かい、本当の終戦・平和条約を結べば、韓国を守るという名目で駐
留している在韓米軍が根底からその存在理由と根拠を失います。

もう一つ、文大統領はアメリカ軍による北朝鮮への軍事攻撃の余波で、韓国が北朝鮮から攻撃される事態
を何が何でも避けなければなりませんでした。

この意味で、4月の南北首脳会談は大成功であったと言えます。つまり、この首脳会談でアメリカは軍事
オプションというカードを使いにくくなりました。

また、今年の6月12日に、朝鮮戦争の主要な当事国アメリカの大統領と北朝鮮の金委員長が首脳会談を行う
ということは、南北朝鮮の首脳会談と並んで、あるいは世界史的にも大きな「事件」であったと言えます。

それでは、今回の米朝首脳会談はどんな文脈で実現したのでしょうか?

アメリカ・トランプ氏側には、北朝鮮が原爆と水爆の核開発に成功したのみならず、アメリカ本土まで届
く長距離ミサイルに核弾頭を搭載する技術をも成功させてことで、何とかその核の脅威を取り除かなけれ
ばならない、との国家的課題があった。

さらに、ロシア疑惑によってトランプ大統領に対する弾劾裁判が行われるかも知れないという個人的な問
題があり、何らかの成果を国民に見せて11月に迫っている中間選挙に勝ちたいという強い思いがあります。

今回の首脳会談は、トランプ氏にとって、これらの国家的要請と個人的問題を一挙に解決する絶好の機会
としてとらえていたと思われる。

さらに、もし、今回の首脳会談がきっかけとなって、戦後の大統領の中で誰も成し遂げられなかった朝鮮
戦争の終結への道筋をつけることができれば、ノーベル賞も全くの架空の話ではなくなります。

他方、北朝鮮の金委員長の側には、アメリカによる軍事攻撃の脅威を取り除き、それによって金体制の維
持をアメリカに保証させ、さらに北朝鮮の経済を苦しめている経済制裁を解除させることが、達成すべき
最大の目的でした。

ただし、北朝鮮とすれば、たとえ非核化を実現しても、本当に体制維持が保障されるのか、という不安は
残ります。

リビアのカダフィ氏のように、核を放棄した途端にアメリカその他の国の軍事攻撃を受け、最終的にはア
メリカに支持された民衆によって殺されてしまいました

リビアの二の舞を踏まないためには、体制維持を担保する何らかの方策が必要です。

そこで、金氏は、一方で中国と短期間に二度も中国を訪れ習近平中国共産党中央委員会総書記主席と会談
し、両国の緊密な連携をアピールしました。

その一方で、金委員長は、トランプとの会談を直前に控えた5月31日、ラブロフ・ロシアの外相と平壌
で会談しています。

つまり、北朝鮮は、中国とロシアという二大国が後ろ盾にあることを内外に示したことにより、アメリカ
による軍事攻撃を封じ、体制維持を二重・三重に確かなものにしようとしてきましたし、実際、これは大
きな意味を持ちました。

結論として、上に書いたように両者の思惑が一致して首脳会談が実現しと言えるでしょう。

以上の米朝首脳会談の文脈を念頭において、両国で文書として交わされた共同宣言を見てみましょう。そ
の要点は、前文と4項目から成っています。

「全文」トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証を与えることを約束し、金委員長は朝鮮半島の完全非核化
への確固で揺るぎない約束を再確認した。

確認した4点とは以下の通り。
1 米朝は平和と繁栄のため、新たに米朝関係を確立することを約束する。
2 米朝は朝鮮半島において持続的で安定した平和体制を築く努力をする
3 2018年4月27日の「板門店宣言」を再確認する再確認し、朝鮮半島における完全非核化に向けて努力す
  ることを約束する。
4 米朝は(朝鮮戦争の米国人)捕虜や行方不明兵士の遺骨収集を約束する。

共同宣言に明文化はされませんでしたが、当日の夕方に行われた記者会見で、トランプ氏は二つの重要な
発言をしています。

一つは、この夏にも予定されている米韓合同軍事演習を中止することです(注1)。その理由として、米韓
合同軍事演習は巨額の費用がかかる「戦争ゲーム」であり、今は、「北朝鮮に軍事的脅威をちらつかせる時
ではない」と語っています。

もう一つは、「朝鮮戦争は間もなく終わる」という見通しです。これは世界史を変えるかもしれない重大な
問題なので、別の機会に回したいと思います。

以上が、米朝首脳会談の文脈で、トランプ氏側の意図と北朝鮮が抱える問題と金氏側の交渉目標です。

ところで、首脳会談直後のアメリカや日本における反応は、一様に消極的、ないしは否定的でした。

その大きな理由は、「非核化」の中身について、完全で非可逆的で検証可能を条件としてながらも、共同宣
言では「検証可能な」(verifiable)という文言がないこと、いつごろまでにどんな手順で非核化を行うか
の具体性がない、ということです。

たしかに、検証の方法や時期についてはどこにも触れられていません。この点を記者会見で質問されるとト、
ランプ氏は、金委員長は帰国後すぐにその準備にとりかかるだろう、と答えています。

会談全般を通して、アメリカの議会はどちらかと言えば、成果に懐疑的ですが、一般の国民は、何はともあ
れ核戦争の脅威が去ったという意味で、55%が肯定的に評価しています。
して、弱まりつつあった支持率もじ半数以上の米国民は

不十分な点は多々ありますが、私は、今回の首脳会談は成功で意味があったと考えています。

第一に、朝鮮戦争後65年間も法的には戦争状態にあった米朝の首脳が直接会って話し合った、という事実
は、今後の極東における平和にとって、非常に良かったと思います。

第二に、半年前までは、アメリカは「斬首作戦」などという強迫的な名前の軍事演習をし、核実験と米国ま
で届くミサイルの開発を行ってきた両国の首脳があったことで、さし当りの戦争の危機を回避した意味は大
きいとおもいます。

第三に、検証の細部が詰められていない、との批判もありますが、両首脳が一対一で話し合った時間は、通
訳を通してわずか実質38分でした。この短時間に、細部を詰めるというのは、現実的で意味がありません。

今の段階では共通の目標や理念を確認し合い、大枠を決めることが精一杯で、それはとても大事なことです。

さらに、トランプ氏には事前に、非核化の細部にこだわると、会談そのものが壊れてしまうので、そこには
踏み込まないように、とのアドバイスがあったようです。

実際、非核化の検証というのは簡単ではなく、年月にして10~15年、費用は220兆円ほどかかると試
算されています。そのようなことを最初の会談で詰めることは不可能です。

今回の首脳会談で、得をしたのは北朝鮮だけで、アメリカは情報するだけだった、と主張する人がいますが、
それは必ずしも正しいとは思いません。

アメリカは、北朝鮮からの核の脅威を取り除くことができたし、演習の度に動かす艦船、航空機、陸上部隊
の巨額の経費も節約できる。

トランプ氏個人にとっては、国民の過半数が会談を評価しているので、11月の中間選挙に関して有利に作用
することが期待されます。

北朝鮮に時間稼ぎを許してしまった、と主張する論者もいますが、これも的を射た見解とは言えません。

なぜなら、金委員長がここまで積極的に米朝会談を臨んだのは、一刻も早く経済制裁を解いて経済を立て直し、
国民の生活を安定させなければならない、という切羽詰まった崖っぷちに立たされているからです。

アメリカの軍事的攻撃で体制が崩壊させられる脅威も大きいとは思いますが、これ以上国民の生活を貧困状態
にしておくことは、国民の不満が爆発し内部から体制崩壊が起こる危険性もおおきいのです。

いずれにしても、今夏の首脳会談は、世界の緊張を少しでも緩和したとことは大いに評価すべきです。

次回は、今回の首脳会談によって、日本がどのような状況に立たされ、今後どんな課題が待ち構えているかを
検討してみたいと思います。


(注1)これは後に、金氏が5月に中国で習氏にあった時、習氏が要請したことが分りました『朝日新聞 デジタル』(2018日6月17日)
  https://www.asahi.com/articles/DA3S13543996.html?ref=nmail_20180617mo

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なかなか珍しい白百合の群落  花言葉は「純潔」                                 アジサイは花の種類も色も多種多様です。花言葉は「移り気」「家族団らん」

  



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南北首脳会談(2)―「蚊帳の外」に追いやられた日本政府―

2018-05-06 06:32:29 | 国際問題
南北首脳会談(2)―「蚊帳の外」に追いやられた日本政府―

2018年5月27日に南北朝鮮の休戦ライの板門店で行われた、南北首脳会談について、前回の記事で、
歴史が動いた日と高く評価しました。

この会談では、南北朝鮮の休戦協定を年内に平和協定に変えること、南北朝鮮の敵対的軍事行動を行
わないこと、そして、北朝鮮の非核化が確認されました。

この会談の成果に関して、これまでも、そして今でも北朝鮮に対する「圧力 圧力」を言い続けてい
る日本政府は、表面的には一応「大きな前進」と一応評価しながらも、北朝鮮の非核化や拉致問題の
解決に向けた道筋が見えたとは言えない、懐疑的な反応でした。

政府がこの会談に冷淡であるのはこれまでの経緯を考えれば当然かもしれないが、日本のメディアも
かなり冷淡な扱いでした。

ジャーナリストの青木理氏は、「政権が煽る勇ましい反北朝鮮ムードに、メディアも毒されていた」
と批判しています。

すなわち、南北融和の機運が高まりつつあった今年始め、政権に近い社ばかりでなく」『毎日新聞社』
は社説で、「北朝鮮の機嫌をとるような韓国の姿勢には違和感を覚える」(1月19日)と、韓国の文大
統領に批判的でした。

朝日新聞も同様に、北朝鮮の態度変化を「北朝鮮の特異な『くせ球』というべき」(1月5日)、金正
恩氏に疑いの目を向けていた。

それでは、会談後の論調はどうだったのだろうか?

『朝日新聞』(28日朝刊)は、社説では一応、この会談を「平和の定着につなげたい」と書いています
が、一面では、最大の焦点である「非核化」の具体策が示されていない点を強調しています。

また、『毎日新聞』(28日朝刊)の一面の見出しは「半島の非核化 目標」とし、最大の焦点である非
核化は「目標」にすぎないこと、このため具体的な方策が示されていないこと、を強調しています。

また同紙のこの日の社説でも、非核化の問題は「原則的な合意にとどまった」と会談の中身に懐疑的な
論調でした。

政権寄りの『読売新聞』(28日)に至っては、見出しが「具体策なし」、です。

こうして見ると、日本のメディアは総じて、南北会談の最大の焦点が「非核化」であるとの立場から、
その成果に懐疑的な評価を下していることが分ります。

こうした評価がいかに的外れであるかは前回の記事で書いたとおりですが、もう一度確認のため書いて
おきます。

まず第一に、今回の首脳会談は、あくまでも南北朝鮮の統一と平和体制の構築が最大の目的であり、
非核化が最大の焦点ではありません。

ついでに言えば、国境を接している北朝鮮が韓国に対して核兵器を使うことは、あり得ません(使え
ば、北朝鮮も放射能に汚染されるので)。

「板門店宣言」の全文を読めばわかるように、「非核化」に触れたのは最後の部分だけです。全体の
80%は統一と平和構築の問題です。

第二に、非核化の問題は米朝の問題で、韓国は当事者能力を欠いています。それでも「宣言」の最後
に触れたのは、あくまでも米朝会談が良好に進む、そのための橋渡しとして韓国がこの問題を含めた
だけです。

第三に、私が最も不可解なのは、日本はアメリカの核の傘の下にいて、さらに言えば、唯一の被爆国
でありながら国連の核兵器禁止条約の議論にも参加せず、結果としてこれに反対さえしている事です。

もし、日本政府やメディアが北朝鮮の「非核化」を主張するなら、まず最初にアメリカの核の傘から
抜け出す必要があり、国際的舞台では「核兵器禁止条約」に賛成することです。

自分はアメリカの核兵器の力を借りながら、北朝鮮に一方的に非核化を要求するのは理性もバランス
も欠いています。

実際問題、現在まで、もっとも脅威となってきたのはアメリカの核兵器で、ベトナム戦争でも北朝鮮
に対しても、核兵器の使用を具体的に検討してきた経緯があります。

日本政府とメディアは、こうした自己矛盾に平気でいられることが信じられません。政府もメディア
も、もう少し自分の立場を冷静に見つめ、理性的に考えて欲しいと思います。

譬えて言えば日本は、銃を持った屈強な男の陰に身を潜めて、他の人に「銃を捨てろ」と言っている
のと同じです。

拉致問題 日本にとって拉致問題は北朝鮮との間に存在する見解決の重大な問題です

が、これはあくまでも、日本と北朝鮮との二国間で解決すべき問題です。

しかし、安倍政権は拉致問題の解決をトランプに懇願したり、韓国の文大統領に口添えをお願いした
りしていますが、これは全くの筋違いです。

2002年9月17日に、当時の小泉首相と金正日朝鮮民主主義人民共和国国防委員長との間で合意さ
れた「平壌宣言」には、北朝鮮は拉致問題が北朝鮮によって行われたことを認め、項目五で、北朝鮮
は拉致者に関する調査を行い、その報告をすると同時に、帰国させることがか書かれています(注1)

この「宣言」から16年、日本は北朝鮮との間で解決のためにどのような努力をしてきたでしょうか?

青木理氏もいうように、安倍首相は、「北朝鮮への強行姿勢を“売り物”に政界の階段を駆け上がった」、
そして「拉致問題の解決」は当初から訴えた最大公約でした(『週刊現代』2918年5月5日、12日合併号、
147ページ) 。

しかし、現政権の姿勢では事態が進展することは期待できません。そこでトランプ大統領と文大統領
に泣きついた、というのが実情です。これは、明らかに外交の失敗です。

ところで、今回の南北首脳会談に関して、日本がまったくの「蚊帳の外」になっていることも、重大な
安倍外交の失敗です。

安倍首相は、ことあえるごとに北朝鮮に対する「最高度の圧力」を言い続けています。

これは、アメリカのトランプ大統領が、「あらゆる選択肢は机の上にある」「最高度の圧力」をかけ続
ける。と繰り返し述べてきたことを真に受けてきたからでしょう。

確かにアメリカは強行な軍事的手段をちらつかせ、金委員長の「斬首作戦」まで検討していたようです。

この「圧力」に関しては安倍首相とトランプ大統領の言葉に相違はありません。しかし、この二人には
決定的に違う点があります。

アメリカは一方で、軍事的行動を背景に「圧力」を言い続けてきましたが、他方で、昨年から北朝鮮と
の外交交渉をスイスや北欧の国でひそかに続けていたのです。「圧力」と「対話」が外交常識です。

これにたいして安倍首相は、アメリカの背後から「圧力」を叫ぶだけで「対話」の努力は全くしてきま
せんでした。

世界を見わたすとと、選択肢として北朝鮮への軍事攻撃を含むとするアメリカの主張を支持しているの
は、主要国では日本だけです。

朝鮮中央通信は4月28日、「最大限の圧力」を掲げる日本の方針について、「日本は大勢に逆行すれ
ばするほど、地域外に永遠に押し出される」と強調しており、『労働新聞』(電子版)も29日付で、
「大勢から押し出された哀れな島国の連中のヒステリー」と酷評しています(注2)。

当初から、日本の頭越しに米朝が直接話し合状況を一部では危惧していましたが、誰も、まさか、5月
末から6月にかけて、米朝会談が実現する、などとは想像すらしていませんでした。

日本が「蚊帳の外」であることを示す典型的な例は、ポンペイオ(当時のCIA長官、現国務大臣)が、
3月末から4月初めに北朝鮮を訪問し、2日間にわたって会談したことについて、安倍首相が自慢するほ
ど親密な関係と深化した「日米同盟」がありながらも、日本政府にはまったく知らされていなかった
ことです。

そして、米朝関係だけでなく、南北首脳会談についても、安倍政権は、ここまで深く急速に融和に向か
うとは考え
ていませんでしたし、その歴意的意義についてはまったく理解していません。

トランプ氏は27日に開催された南北首脳会談について「多くの素晴らしいことが起きた」と前向きに
評価し(注3)、また、両首脳の対面を「歴史的瞬間」「われわれは朝鮮半藤の人いとの幸運を祈る」
とのコメントをだしています(注4)。

朝鮮問題の専門家、武貞秀士(拓殖大学大学院特任教授)は、今回の南北首脳会談は100%成功であ
り、これから平和構築にとって、非常に重要な会談であったことを認めています。そして、こうした状
況の変化を過小評価する日本政府の姿勢にたいして、このままでは、日本は本当に「蚊帳の外」に置か
れたたままになってしまうことを警告しています(注5)。

敵対しているからこそ話し合いが必要で、「圧力」では根本的な解決に至らないことを安倍政権も知る
べきでしょう。これは、外交の基本です。

前出の青木氏の、“バカの一つ覚えで「圧力」を叫ぶだけでの現首相は、そろそろ目を覚ますべきだ”
と書いていますが、その通りだと思います。

また、五十嵐氏の「歴史的な南北会談のカヤの外でただ見守るしかない安倍政権」という表現が、事の
真実をズバリと言い当てています(注6)。


(注1)「平壌宣言」の全文は、外務省のホームページから見ることができる。
    http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_koi/n_korea_02/sengen.html
(注2) 『朝日新聞』デジタル(2018年4月30日05時00分) 
      https://digital.asahi.com/articles/DA3S13474686.html?rm=150
(注3)毎日新聞 毎日新聞2018年4月28日 10時51分(最終更新 4月28日 12時52分)
https://mainichi.jp/articles/20180428/k00/00e/030/262000c?fm=mnm
(注4)Nifty News 2018年04月27日 11時56分
https://news.nifty.com/article/world/korea/12211-021688/
(注5)『日経ビジネス ONLINE』(2018年5月1日)
    http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/230558/042700023/?n_cid=nbpnbo_mlpum
(注6)BLOGOS 2018年04月28日 15:29 http://blogos.com/article/293785/


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南北首脳会談(1)―歴史が動く場面に立ち合う―

2018-04-29 14:50:18 | 国際問題
南北首脳会談(1)―歴史が動く場面に立ち合う―

2018年4月27日という日は、後から振り返ってみれば、世界史が一つ、コトリと動いた重要な1日
として記録されることになるでしょう。

この日の南北首脳会談の様子をずっとテレビで見ていて、歴史が動く決定的な場面を目撃し立ち合ってい
る、と実感していました。

こうした場面に立ち会うことは、一生のうちでも、そう何回も経験できることではありません。この意味
でも、私にとって灌漑深いものでした。

今回の会談を一言で言えば、文在寅韓国大統領・金正恩北朝鮮労働党委員長の共同脚本、文大統領監督・
演出・主演、金委員長共演、ということになります。

文大統領のきめ細かい演出は、まさに一世一代の大勝負、といった感があり、しかも細部に至るまで完璧
でした。

加えて、金委員長が、軍事境界線を越えて韓国側に渡った後、「北にはいつ渡れるでしょうか」という言
葉を受けて間髪を入れず金委員長が、「それなら今越えましょう」と言い、手を取って2人でもう一度休
戦ラインを越えて北朝鮮側に入りました。

これは、文大統領の脚本にも演出にもなかった、金委員長のとっさのアドリブですが、この時、プレスセ
ンターに詰めていた3000人の内外のメディア関係者からは、驚きと感動の声が上がりました。

金委員長は、なかなかの役者です。

さて、今回の首脳会談の意義と成果は何だったのでしょうか?

まず、今回の会談にたいしては、文大統領のなみなみならない熱意と粘り強い努力のたまものであり、高
く評価されるべきです。

今回の会談が実現し南北両国の融和が急速に進んだことにより、今年の初めまでアメリカによる武力行使
があるかも知れない、という緊張状態にありましたが、少なくとも当面は回避されました。これは、今回
の会談の非常に大きな成果です。

次に、「板門店宣言」において、「完全な非核化を通して核のない朝鮮半島を実現するという共通目標を
確認した」という一項が入っていることです。

これに対して、日本や海外メディアの一部には、いつ、どのような手順で非核化をするのかが示されてい
ないので、北朝鮮を信用できない、という論調があります。

はっきり言えば、このような指摘は的外れです。

というのは、これらの問題は、米朝会談で詰められるテーマであり、韓国は、ある意味で当時者能力がな
いので、この会談で明示することはそもそもできないのです。

それでも、文大統領が金委員長に、「完全な非核化」という文言を盛り込ませ、口頭ではなく文書に明記
し、署名まで持っていったことはとても重要な成果です。

これによって、文大統領は、彼の肩に負わされた米朝会談の橋渡し役を立派に果たしたことになります。

そして金委員長は、先手を打って、北朝鮮は非核化の用意がある、ということを国際社会に向かって発信
することにより、アメリカに軍事攻撃を防いでいるのです。

なぜなら、北朝鮮が非核化を言っているのに、交渉を始める前に軍事行動に出れば、国際的に非難される
のはアメリカだからです。

そして、北朝鮮が長い間呼び掛けていた米朝の直接対話が実現したのです。

ここにも、金委員長の国際感覚の鋭さというか、緻密な分析に基づく戦略の巧みさがうかがえます。

金委員長は、決してバカではなく、何をするのか分からない指導者でもない、ということが国際社会に印
象付けることになりました。

この会談に先立って、ポンペオ元CIA長官が密かに北朝鮮に赴き、金委員長と直接会って交渉したことが、
最近明らかにされました。

どうやら、この会談で、非核化に関しても大筋では合意ができているようです。以下に、今後の展開に関
する私の推測を述べておきます。

文大統領と金委員長の間で了解された戦略は、まず、金委員長があえて抽象的な表現で「非核化」を打ち
上げる。これには当然、具体性がない、という非難が浴びせられるであろうことは想定されています。

そこで、トランプ大統領との会談で、非核化の時期と方法を、アメリカの要求に沿って金委員長が受け入
れる。これによって、あたかも北朝鮮がアメリカの要求に従った形をとり、北朝鮮はもはや危険をもたら
す存在ではないことが内外に示す。

こうしてトランプ大統領に「花を持たせ」、大統領は前任者が誰もなしえなかった北朝鮮の非核化を実現
した大統領として歴史に名を残し、ひょっとしたらノーベル賞の受賞もあり得るかも知れない。いずれに
してもトランプ氏は外交上の勝利・功績として内外に示すことができるし、この秋の中間選挙でも、さら
には来季の大統領の再選をも有利に戦うことができるようになる。

これは、アジア的な「知恵」なのかもしれません。

他方、金委員長としては、非核化の合意の見返りとして一刻も早く経済制裁を解除させることを強く要求
できると同時に国際社会への復帰への道を開くことができる。

以上が、私の推測です。これが当たるかどうかは、あと数週間後の米朝会談の後で明らかになるでしょう。
もし、外れるとなると、世界は一挙に緊張状態に落ち入ります。

ところで、多くのメディアによる今回の会談に関するコメントは、北朝鮮の非核化に集中していますが、私
は、それ以外にも南北朝鮮にとって重要な点がいくつもあったと思います。

「板門店宣言」は、前文と3つの分野から成っています。

前文は以下の通りです。
    両首脳は、朝鮮半島にこれ以上戦争はなく、新しい平和の時代が開かれたことを8000万のわが民族
    と全世界に厳粛に宣明した。
    両首脳は冷戦の産物である長い間の分断と対決を一日も早く終息させ、民族の和解と平和繁栄の新
    たな時代を果敢に開いていき、南北関係をより積極的に改善し発展させていかなければならないと
    いう確固たる意志を込め、歴史の地、板門店で次のように宣言した。

この前文こそが「板門店宣言」の核心部分で、格調高い文章で冷戦の産物である南北の分断を解消し、民族
の和解に向かう意思を確認している。
 
三つの分野の第一は、前文に続いて民族の融和ですが、そこでは「断たれた民族の血脈をつなぎ」という言
葉が使われており、民族自主の原則を確認し、政府間の交渉と民間交流を進めてゆくことが、書かれている。

また、2018年のアジア大会をはじめとした国際競技に共同で出場し、民族の技術と才能、団結した姿を全世
界に誇示することにした。

さらに、民族分断により発生した人道問題を早急に解決するために努力し、南北赤十字会談を開催し、離散
家族・親戚再会などの問題を協議、解決していくことを決めた。これは両国の国民の悲願でもあります。

二つ目の分野は軍事的緊張の緩和で、そこでは、「南北は、陸上と海上、空中をはじめとしたあらゆる空間
で軍事的緊張と衝突の根源となる相手に対する一切の敵対行為を全面中止することにした」とあります。

韓国にすれば、休戦ラインに張り付いている北朝鮮の軍隊と長距離砲の脅威が緩和され、偶発的な衝突を防
ぐことができるから、朝鮮半島の緊張が大きく和らぐことを意味している。

第三の分野、朝鮮半島の恒久的で強固な平和体制構築のために積極的に協力することを述べており、そこで
は次の2点が重要です。

一つは、「朝鮮半島で不正常な現在の休戦状態を終息させ、確固たる平和体制を樹立することは、これ以上
先送りできない歴史的課題だ」という点で、休戦状態を平和体制への転換(つまり休戦協定を平和協定へ転
換する)を目指すことを確認しています。

二つは、核問題で、「南北は、完全な非核化を通じて核のない朝鮮半島を実現するという共同の目標を確認
した」とある。これについては上で説明した通りです。

全体を通して強く感じたのは、冷戦という大国の身勝手な思惑で分断された民族の悲哀と、この機会をとら
えて、一挙に統一とはゆかなくても、少しも民族融和を前進させようとする、両国の切々たる思いが伝わっ
てわってきました。

これは、文大統領と金委員長が手をつないで休戦来を超えた映像を見て、涙を流している韓国市民の姿が何
よりも雄弁に語っていました。

-----------------------------------------------------------------------------------------------
桜並木前には、主役交代でツツジが満開でした。                         季節はさらに移り、庭のカキツバタが咲き始めました。

 


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トランプ大統領の本音―裏切られた安倍首相の熱い思いと忠義―

2018-04-08 14:51:52 | 国際問題
トランプ大統領の本音―裏切られた安倍首相の熱い思いと忠義―

2018年3月23日、トランプ大統領は鉄鋼とアルミニウムの輸入制限(具体的には25%と10%
の追加関税をかける)を発動しました。

その前日の22日のトランプ氏のスピーチに安倍首相は耳を疑い、内心、かなりショックを受け、
冷や汗をかいたのではないでしょうか。

というのも、この日トランプ氏はスピーチで、適用対象から除外されない日本に関連して、安倍
首相について、次のように語ったからです。

このスピーチについて、日本の新聞では『日本経済新聞 電子版』が次のように伝えています。

     日本の安倍首相らは『こんなに長い間、米国をうまくだませたなんて信じられない』
    とほくそ笑んでいる。そんな日々はもう終わりだ。

日経新聞は続けて、「さらにトランプ氏は、安倍首相を「いいやつで私の友人」と持ち上げなが
ら、特別扱いはしない、との姿勢だ、とコメントしています(注1)。

トランプ氏のこの部分の、元々の英文は以下のようになっています。

     “I’ll talk to Prime Minister Abe of Japan and others — great guy, friend
      of mine — and there will be a little smile on their face,” Trump said.
     “And the smile is, ‘I can’t believe we’ve been able to take advantage
      of the United States for so long.’ So those days are over.”(注2)
 
少し直訳ぎみではありますが、トランプ氏の言葉だけを訳すとこんな感じです。
    
     私は日本の安倍首相ほかの人物と話すことになるだろう―(安倍首相は)大した奴で、
     私の友人である―彼はすこしだけ笑みを浮かべている。そして、(その腹の中では)
     “こんなに長くアメリカをうまく利用できたなんて信じられない”とほくそ笑んでい
     る。しかし、そんな日々はもう終わった。(カッコ内は筆者が付け加えた)

安倍首相にとって、この言葉はいくつかの点で屈辱的であり、青天のヘキレキだったのではない
でしょうか。

まず、このメッセージがテレビニュースを通じて全世界に発信されてしまったからです。

安倍首相は、トランプ氏が大統領選挙で勝やいなや、まだその時の大統領はオバマ氏であったに
もかかわらず、世界の他のリーダーに先駆けてアメリカに飛び、お祝いの面会をしました。

そして、トランプ氏は信頼できる政治家である、と持ち上げました。

当時、日本では、安倍首相はトランプ氏の第一の友人のようにはやし立てられましたし、トラン
プ氏も安倍首相を厚遇するかのようなポーズをとっていました。

気の早い日本のコメンテータたちは、今や安倍首相こそがトランプ大統領に最も近いりーダーだ、
と喧伝していました。

本当のことを言えば、他のヨーロッパ主要国のリーダーたちは、トランプ氏を全く信用しておら
ず、会おうという気持ちがなかっただけでした。

この意味では、トランプ氏にとって安倍首相は、もっとも利用しがいがあったのでしょう。

安倍首相を支えているのは株価と外交だと言われます。その外交の中身は、アメリカとの親密な
関係なのです。

しかし、上記のコメントは、安倍首相がアメリカに取り入ってアメリカから利益を搾り取ってほ
くそ笑んでいる姑息な人物である、との印象を否応なく与えました。

ダメ押しに、トランプ氏は、“そんな日々は終わった”と決定的な言葉を発しました。

手のひらを返したようなトランプ氏の言葉こそが、安倍首相と日本にたいする本音なのでしょう。

それにしても、仮にも一国の首相にたいして、これほど侮辱的な言葉をメディアに向かって発す
るトランプ氏は、国際的な礼儀を著しく欠いています。

日本のメディアはなぜか、トランプ氏のこのスピーチを大々的に扱っていません。安倍首相の気
持を忖度しているのでしょうか?

トランプ氏の頭には、これほど安倍首相を侮辱的にあしらっても、安倍首相は何の文句も言えな
いだろう、という確信があるとしか思えません。

次に、日本政府にとってショックだったのは、トランプ氏の輸入制限の表向きの理由が「安全保
障のため」であったということです。

トランプ氏が、日本はもっとアメリカから武器を買うべきだと言えば、安倍政権はイージス・ア
ショアのような途方もなく高額なミサイル防衛システムの購入を即座に決めるなど、精一杯の忠
義を尽くしてきました。

河野外務大臣も米軍事同盟が深化している今日、日本は当然、制限の対象からはずれるだろう、
と楽観的に考えていました。

安倍政権は、日本を適用対象から除外するよう求めてきましたが、いともあっさりと一蹴されて
しまったのです。

これも、先のスピーチと同様、相当屈辱的な仕打ちです。あたかも、安倍首相のトランプ氏への
熱い思いが拒絶され、これまでの忠義が何の役にもたたなかったた格好です。

安倍政権は、日米同盟は盤石である、と繰り返し述べてきましたが、それが根っこから崩れてし
まったのです。

それでは、トランプ氏はどこの国を輸入制限から適用除外し、どの国に適用したのでしょうか。

今回、輸入制限の対象国となったのは日本と中国で、(暫定も含めて)適用除外となった国は
カナダ、メキシコ、韓国、EU、オーストラリア、ブラジル、アルゼンチンの七ヵ国で、いずれ
もアメリカと強い関係をもっている国です。

中国は、直ちに反応しアメリカに対する報復関税を発動しましたが、日本は今のところ具体的
な対抗措置はとっていません。

恐らく、4月末の訪米でトランプ氏と会談が予定されているので、その機会になんとか適用を
除外してもらうよう交渉するつもりなのでしょう。

安倍首相とトランプ氏の会談では鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を取引カードとして使われ、
日本はかなり厳しい条件を突きつけられるでしょう。

これがトランプ流の「取引」(ディール)のやり方なのです。

つまり、自国の利益のためには、日本の立場などかまっていられない、といことです。

日本はここで、本当に日米関係の強化一辺倒で外交をすすめていっていいのかどうか考え直す
時にきています。



(注1)『日本経済新聞 電子版(2018/3/23 21:50更新) https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28503690T20C18A3EA2000/
(注2)TOKYO BUSINES ONLINE by Toyokeizai
    Abe's Moment Of Truth: Can Japan Say No To Trump?
    https://toyokeizai.net/articles/-/214058 

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 
桜の季節が終わるとチューリップが満開です 日本の花では、野性味あふれるヤマブキも今が盛りです

         

これはオランダではありません。千葉県佐倉市がオランダから買って組み立てた風車と一面のチューリップです


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平昌オリンピックと文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領の苦悩―米・北朝鮮の挟間で―

2018-01-28 14:53:28 | 国際問題
平昌オリンピックと文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領の苦悩―米・北朝鮮の挟間で―

平昌オリンピックを間近に控えた、今年の1月1日の演説で、キム・ジョンウン(金正恩)・北朝鮮労働党委員長は突然、
2月に韓国の平昌で開催される冬季オリンピックに参加する用意がある、と述べました。

北朝鮮の参加は、もともとムン・ジェイン(文在寅)韓国大統領が呼び掛けていたことですが、それまでは北朝鮮側から何
の返事もありませんでした。

ところが、このキム・ジョンウン委員長のメッセージ以来、急速に話が進んでゆきます。

ます、それまで2年以上も遮断されていた、板門店の直通電話(ホットライン)が3日に再開されました。

北朝鮮側は、参加種目として、スキー、スケート、アイスホッケーを希望し、また韓国側もそれには異存はありませんでした。

もう一つ、ムン・ジェイン大統領は、アイスホッケーについて、南北合同チームを編成したらどうか、と提案し、北朝鮮側も
これに同意しました。

このような事態の進展を見て、国際オリンピック委員会(IOC)は20日、スイス・ローザンヌで韓国、北朝鮮、大会組織
委員会代表を含めた4者会談を開き、参加の登録申請期限を過ぎてはいるが、上記三種目の選手22名、コーチ・役員24名
の出場と参加を認めることを決定しました。

ムン・ジェイン氏の言動については後に触れるとして、その前に、登録申請の期限が過ぎていたにもかかわらず、IOCはな
ぜ北朝鮮の参加を認めたのか、を考えてみましょう。

古代ギリシアで始まったオリンピックはそもそも平和の祭典で、開催中は戦争も中断した、という平和主義がその根底にあり
ます。

近代オリンピックもその精神は受け継いでおり、オリンピック憲章にも「人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確
立を奨励すること」とあり、「平和」が基調となっています。

また、オリンピックのシンボル・マークである「5つの輪」(五輪)は五大陸の団結・融和を表わしています。

以上の経緯と精神を考えるなら、オリンピックの最高決議機関であるIOCが、北朝鮮の参加を支持することは、ごく当然の
姿勢であり、もし、これを手続き的な期限切れを理由に拒否するなら、世界からの非難を浴びるでしょう。

ところで、南北朝鮮の交渉の過程で、両国の国民の間で懸案事項となったのは、入場式に韓国国旗ではなく統一旗を掲げる、
という北朝鮮の提案です。

これにたいして韓国国民の間には、今回は韓国の開催なのだから韓国国旗を掲げるべきだ、という意見が多数を占めており、
激しい反対のデモも起こっています。

しかし、ムン大統領は統一旗を受け入れることを決めます。

次が、アイスホッケーの合同チームの問題です。

これも、韓国選手だけでなく、韓国国民の多くから強い批判が起こっています。

ムン大統領は、対北朝鮮との融和路線を掲げて大統領に当選した、という経緯があります。

当初の支持率は82%もありましたが、北朝鮮への妥協や融和が行き過ぎている、との反発から、現在は初めて60%を割
り込み、59.8%へ落ちました。

それでも60%近くの支持率は、現在の世界標準から見て、かなり高率ではあります。

ムン・ジェイン大統領の北朝鮮への譲歩、あるいは宥和政策は、アメリカや日本にも警戒感を呼んでいます。

つまり、南北対話は融和は良いことだけれど、それが、米韓にくさびを打ち込む北朝鮮の策略に乗ってしまうのではないか、
という警戒感です。

さらにムン大統領は日米から、北朝鮮はオリンピックを好機ととらえて南北友好ムードを演出して、アメリカの軍事的圧力
をそらし、北朝鮮の核開発の時間稼ぎに荷担していることになるのではないか、との警戒の目を向けられています。

こうした、内外の批判や警戒についてムン大統領は十分すぎるほど承知しているはずで、それにも関わらず、融和政策を続
けているのはなぜでしょうか?

ここで、一旦、自分が韓国の大統領になったつもりで、現状を冷静に分析してみることは無駄ではありません。きっと、当
事者の目線でみると、世界が違った風景として目に映るでしょう。

まず、一国の大統領の最大の義務は、国民の生命と財産を守ることです。これが全ての出発点です。

現在の韓国にとって、その生命と財産を危機にさらしている脅威は大きく二つあります。

一つは、北朝鮮の攻撃です。

二つは、アメリカが北朝鮮に軍事的な先制攻撃をした場合、北朝鮮が行うであろう韓国への攻撃です。

まず、一つ目の北朝鮮の攻撃から考えてみましょう。もし北朝鮮が韓国に一定の規模以上の先制攻撃を仕掛けたら、韓国軍の
反撃だけでなく、それはアメリカの軍事介入に格好の口実を与えてしまいます。これは、あまりにもリスクが大きすぎるので、
よほどのことがない限り可能性は小さいと考えられるでしょう。

なお、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)は、韓国の脅威にはならないでしょう。

というのも、北朝鮮と韓国とは国境(休戦ライン)を接しており、わざわざ貴重な長距離ミサイルを使わなくても、休戦ライ
ン近くからの攻撃であれば、長距離砲や通常兵器でも十分に大きな打撃を与えることが可能です。

北朝鮮による核兵器の使用についても可能性は小さいと思われます。というのも、北朝鮮の核兵器は、ICBMとセットで、
アメリカとの直接交渉に導くための手段だからです。

しかも、北朝鮮が国境を接している韓国に核兵器を使ったら、その放射能の影響は自国にも及ぶ危険性があるし、何よりも、
自分たちもそれを口実としてアメリカの核攻撃を受けることは確実だからです。

二つ目の脅威ですが、アメリカが北朝鮮へ軍事攻撃した場合、北朝鮮は当然、反撃して韓国の主要都市(とりわけソウル)に
対して集中的な攻撃をするでしょう。

アメリカの軍当局はこれまで何度も、この際の被害のシュミレーションをしてきました。それによれば、北朝鮮の全ての兵器
を瞬時に破壊できないかぎり、北朝鮮による韓国の主要都市、死者は数十万人という途方もない数に達することが予想されま
す。

しかも、韓国民だけでなく在韓米軍とその家族、およびアメリカ人の一般国民、在日米軍、日本の一部地域への攻撃も考えら
れます。

このため、アメリカの軍当局は、脅しに先制攻撃を口にすることはあっても、実際の軍事行動はできない、との立場をとって
きました。

しかし、トランプ政権は何をするかわからない、という不安感は残ります。というのも、トランプ大統領は、戦争になれば、
「死ぬのは向こうだ」と公然と語っているからです。

つまり、トランプ大統領は、アメリカ人にとっては何の損害もなく、他の国の国民が死ぬだけだ、と、とんでもないことを口
にしているのです。

こうなると、韓国にとって、目下の現実的な脅威は二つになります。

一つは、北朝鮮による休戦ラインを越えて陸上部隊が韓国に侵入するか、短距離ミサイル・長距離飽で韓国を攻撃する脅威。

二つは、トランプという予測不可能な大統領が、国内の支持の低下を挽回するために、北朝鮮への先制攻撃の実行です。

以上をすべて考慮して、もし自分が韓国大統領であったら、どのような対応がベストなのか考えてみましょう。

まず、北朝鮮からの脅威にかんしては、できる限り緊張を和らげる努力をすることが最重要と考えます。日米による「最大限
の圧力」キャンペーンにうっかり乗ってしまい、北朝鮮への圧力を強めて緊張を高めることは、韓国にとって何の利益もあり
ません。

次に、トランプ大統領に、軍事行動を思い止まらせる何らかの方策を講じることです。

たとえば、たとえオリンピックの政治利用(これはほとんどの国が国威発揚のため政治利用してきています)と言われようと、
北朝鮮との対話を続け、まずはオリンピックの期間だけでも米韓合同軍事演習を中止し、できるだけ中止期間を長引かせるよ
う努力するでしょう。

北朝鮮との緊張関係を悪化させず、最低でも現状維持、できれば友好関係を全身させつつ、アメリカに軍事行動を思い止まら
せる、という、二つの難問を解決するギリギリの選択が、今回、オリンピックで北朝鮮のいうことをできるだけ受け入れる、
という行動となったのではないでしょうか?

こうして考えると、ムン大統領は、北朝鮮に一方的に譲歩を強いられているようにみえて、厳しい条件のなかで、考えれ得る
最善の努力をしている、と言えるかもしれません。

もう一つ、私たちが見落としがちなのは、南北に分断されているとはいえ、もともとは一つの民族なのです。そうである以上、
どちらも同朋を傷つけることはできることならしたくないでしょう。


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鳩山由紀夫著『脱 大日本主義』への道(2)―対米従属の下で大国主義を目指す―

2017-12-17 08:26:14 | 国際問題
鳩山由紀夫著『脱 大日本主義』への道(2)―対米従属の下で大国主義を目指す―

前回は、本書の第一章、アメリカから日本が「アメリカの保護国」、つまり、平たく言えば「従属国」とみられているという、
鳩山氏の憂鬱な現状認識で終わりました。

続く第二章は「自立と共生への道―対米従属からの脱出」です。

では、対米従属から脱して自立と共生へはどのようにして達成される、と鳩山氏は考えているのでしょうか?

鳩山氏は現在の日本をアメリカの従属国家と位置付けており、その現実は沖縄に誰の目にも明らかな形で可視化されている、
としています。

それは、日本国土の0.3%の沖縄に米軍基地全体の70%強が集中しており、島の大きな部分を基地に取られているだけ
でなく、飛行場を離着陸する航空機雄の出す騒音や墜落の危険性、米兵による犯罪などの負担が住民に押し付けられている、
という現実にはっきりと現れています。

鳩山氏は、沖縄に限らず日本にある米軍基地は日米戦争の結果に基づく米国の既得権益として今日まで継続している、と言
えと述べています。

数年前、広島を訪れたアメリカの映画監督は、基地の中でも沖縄をアメリカは「戦利品」と考えている、と述べましたが、
実態としてはそのとおりだと思われます。

鳩山氏は、日本にこれだけの米軍基地が必要なのかはきわめて疑問だと言う。

というのも、「日米安保ガイドラインにより、日本の防衛は自衛隊がもっぱら当たることになっており、そのための能力も
(日本は)備えています。在日米軍は日本の防衛のために存在しているというより、米軍の世界戦略のために存在している」
からです。

鳩山氏は、周辺諸国に対する外交能力を高めることで、地域の緊張を緩和することができ、それによって、常時駐留なき安保
は米国との従属関係を弱める第一歩、つまり自立への第一歩となる、と考えています。

さらに、段階的に米軍基地の縮減を進め、最終的には米軍の日本からの完全撤退を目指すべきだと主張しています。

一国の領土に他国の軍隊が常駐する以上は完全な独立国とはいえない、だからどんなに時間をかけてもこの最終目標を達成さ
せる意思を持ち続けなければならない。これが、鳩山氏の一貫した立場です。

現在では少し考えにくいのですが、昭和44年(1969年)に出された「わが国の外交政策大綱」には、当時の外務省幹部
官僚の間に、日米安保体制に依りつつも、政治大国にむけて自立の機会をうかがう強い自立志向があったことがうかがえます。

朝鮮半島情勢についても触れているので少し長くなりますが、重要部分を引用しておきます。

当面現行の日米安保条約を継続(するが)・・・・わが国世論の動向は、基本的にはわが国国土における米国軍の顕在的
なプレゼンスを希望しない方向に向かうと予想される。(そこで)、・・・核抑止力及び西太平洋における大規模の機動
的海空攻撃力及び補給力のみを米国に依存し、他は原則としてわが自衛力をもってことに当たることを目途(とし)・・
・朝鮮半島を中心とする極東の安全については・・・若干の限定された重要基地施設を米軍へ提供するにとどめ・・・在日
米軍基地は逐次縮小・整理する・・・。(83ページ)

その後、核保有国となった中国の脅威を、田中角栄内閣は、日中国交正常化を成し遂げ、中国の核の脅威を心配する声はほぼ
無くなり、日本の核武装論も影を潜めました。

しかし、安倍内閣になって、中国の南シナ海への進出、尖閣列島周辺の中国船の航行、軍事費の増大などにより、再び中国脅威
論が高まり、自主・独立論的姿勢は急速に消えてしまい、ますます日米同盟の強化という名目で米国依存を強めつつ、日本も軍
備の増強にひた走ってゆきます。

安倍政権は2013年12月、「国家安全保障戦略」を閣議決定しました。これは、昭和32年の「国防の基本方針」に代わるもの
とされています。

「国防の基本方針」は、わずか8行の短い文章で、国連の活動を支持、国際間の協調をはかり、世界平和を実現するとの方針の
下、「外部からの侵略に対しては将来国際連合が有効にこれを阻止する機能を果たし得るにいたるまでは、米国との安全保障体
制を基調としてこれに対処する」というもので、あくまでも国連中心の国防方針でした。

ところが、平成25年(2013年)にまとめられた「国家安全保障戦略」の基本は、「国際協調主義に基づく積極的平和主義」と
表現されています。

「国際協調主義」というから、やはり国連など多国間との強調を意味するのかと思うと、そうではなく、それは米国との協調で
あり、積極的平和主義とは、米国の世界戦略に協力して積極的に行動する、という意味のようです。

それは、「国家安全保障の目標」の項で、「抑止力の強化」「日米同盟の強化」を挙げていることからもわかります。

さらに、「安全保障上の課題」として、「中国の急速な台頭と様々な領域への積極的進出」として、中国を名指して警戒感を表
明しています。

そして「戦略的アプローチ」の項で、「自由、民主主義、女性の権利を含む基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値を
共有する国々との連帯を通じてグローバルな課題に貢献する外交を展開する」と戦略を示しています。

つまり、この「国家安全保障戦略」は、社会主義・共産主義は普遍的価値を共有しないので、連帯せず、アメリカをはじめ価値
観を共有する国(資本主義国)と連帯して中国の軍事的台頭に対抗する、中国包囲網を作ることのようです。

鳩山氏は、安倍首相は「中国嫌い外交」を基調としていると受け取られおり、外交方針の全てが中国牽制の観点から発想されす
ぎている、と危惧しています。

安倍首相の発想には、中国の軍事費の増加があるようですが、GNP非でみると、2015年の軍事費は1.3パーセント(日本は1%)
で、それほど大きくない。

それどころか、今年の11月のAPEC会議、続くASEAN会議において、安倍首相は、南シナ海への中国の進出にたいして東
南アジア諸国がこぞって非難をするよう期待しましたが、これは全くの当てが外れ、中国非難の声は聞かれませんでした。

鳩山氏は、ASEAN諸国は2002年に「南シナ海行動規範」を取り交わしており、この海域は「共通の庭」認識されていた、つま
りアセアンと中国とはすでに中国と一体化していたのです。

安倍首相が中国封じ込めで頼りにしているのはアメリカですが、アメリカは経済的にも中国なしには成り立たない構造となってお
り、政治・軍事的にも中国と対立する気は全くないことがはっきりしています。尖閣列島問題にも、アメリカは関わりたくないと
いうのが本音なのです。

こうして、安倍首相の、中国脅威論、それに基づく「中国封じ込め」は、アジア、ヨーロッパも含めて今日の世界で共感を呼ぶこ
とはない状況にあります。

安倍首相は、中国の軍事費の増大を脅威に感じているようですが、だからと言って、中国と軍事力の拡大競争を展開するのは不可
能だし無意味です。

というのも、中国の軍事費は17兆円もあるのに対して日本のそれは5兆円ほどです。中国と軍事力で対等に張り合おうとすれば、
日本の財政は破綻してしまいます。

日本は、東南アジアからも韓国、中国、台湾など東アジア諸国からも孤立していますが、国際社会の中でも孤立を深めているよう
に見えます。

アメリカ同様に北朝鮮の核とミサイル開発についても、「最高度の圧力」に同調する首脳は、現在では安倍首相の他にいません。
世界の趨勢は、対話による解決なのです。

しかも、トランプ大統領は、「北の脅威」を口実に、日本に高額の兵器(ミサイル迎撃システム)の売り込みにまんまと成功して
います。

鳩山氏は、日本の、とりわけ安倍政権は、「日米同盟を強化しつつ政治大国を目指す」「対米従属のもとで常任理事国を目指す」、
という路線を取っていますが、今や、その矛盾が拡大し、すでに破たんしていることが明らかになっている、と結論しています。

日本が、その経済力とアメリカの軍事力を頼って中国を封じ込めようとしても、それは無理です。日本の貿易構造をみると、1980
年代の対中輸出は3%&ほどでしたが、今は20%に激増しているのに対して、対米輸出は、同期に40%から12%に激減して
います。

日本の経済は中国の成長に依存してきたのが実態で、「中国封じ込め」をすればブーメランのように、日本を苦しめることになる
のです。

さらに言えば、日本のアジア全体(東南アジア ASEANと東アジア)への輸出は54%を占めており、事実上、日本とアジア
とは「運命共同体」となっているのです。

先に書いたように、ASEANも東アジアは共に中国と一体化しているし、実は、日本も中国抜きには成り立ちません。

このような状況の下で、中国の脅威に対抗するために日本だけが「中国封じ込め」を画策しても、それは成功しないどころか、ま
すます孤立を深める結果に終わってしまうことが目に見えています。

鳩山氏は、日本が進むべき方向は、アメリカの軍事力を背景に「中国封じ込め」を追求し、アジアの覇権を確立する「大日本主義」
を捨てて、自立した「中規模国家」を目指すべきである、と提唱しています。

次回は、この自立した「中規模国家」がどのようなものかを検討してみたいと思います。


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北朝鮮問題(3)―安倍政権の対応は?―

2017-09-24 08:34:13 | 国際問題
北朝鮮問題(3)―安倍政権の対応は?―

9月に入ってから、北朝鮮のミサイルと核実験は、勢いがついたように続けざまに行われました。

9月3日には6回目の核実験が強行されました。北朝鮮中央テレビでは、今回のICBMに搭載可能な大きさに小型化に成功した、
と発表しています。

韓国やアメリカによる観測結果も、周辺でマグチチュード6.3の揺れを観測しており、これは水爆であることは、ほぼ間
違いないと発表しました。

ノルウェーの核研究機関(NORSA)によれば、この規模の核爆発は、120キロトン(1キロトンは、TNT火薬の爆発エネル
ギーの1000倍)に相当し、広島の15キロトン、長崎の20キロトンと比べても、比較にならないほどの威力をもち、
水爆であることは間違いない、との見解をしめしました。

安倍首相はこれに対して、「もし北朝鮮が核実験を強行したとすれば、断じて容認できず、強く抗議をしなければならない」
と官邸で記者団に話しました。

唯一の被爆国として、日本が核実験を非難することは、当然で、強く抗議すべきところです。

ただ、その抗議も、「断じて容認できない、」という決まり文句を繰り返すだけでなく、何か被爆国としての切実な表現を考
えて欲しいと思います。

すでに、前回の記事で書いたように、9月11日(日本時間12日)の国連安全保障理事会で、北朝鮮に対する制裁決議が行われた
3日後の15日の早朝、今度は長距離ミサイルが、日本の津軽海峡の上空を通過して、推定3700キロメートル飛んで太平洋に
落下しました。

この時、テレビ画面に「J アラート」(全国瞬時警報システム)が繰り返し映し出されました。

内容は、北朝鮮からミサイルが発射されたこと、外にいる人は安全な建物の中へ、家の中では窓から離れて、頭を低くしてくだ
さい、との警告と、不審な落下物があったら直ちに警察に通報するように、という要請です。

しかし、この「Jアラート」に関しては、幾つか疑問があります。

まず、ミサイルが発射されたことを知らせることは良いとして、この放送が流れたときには、既に日本の上空を通り過ぎていま
す(北朝鮮から日本の上空を通過するまで、せいぜい6~7分です)。

それに、もし、安全な場所に隠れようとしても、各家にシェルターでも持っていない限り、通常の木造家屋の場合、ミサイル、
およびそれが搭載しているかも知れない爆発物、から身を守る安全な隠れ場所はありません。

まして、家の中で窓から離れて、頭を低くかがむ姿勢をとって、少しは安全性がたかまるのだろうか?

さらに私が疑問に思ったのは、ミサイルはとっくに日本から数千キロ離れた場所に飛んでしまっているのに、列車を止めたり、
小学校を一時休校にしたりしたことです。

ミサイルの発射が失敗して、落下部があるかも知れませんが、それも、20分以上経てば、もうその可能性はありません。

ちなみに高度500キロ以上に達したミサイルの破片が日本の上空に落ちることは現実的にはあり得ませんが、洋上にいる船舶
には警告は必要です。その場合でも、安全な建物に隠れたり、部屋の窓から離れるなどは、意味のない警告です。

こうした、現実を冷静に考えるのではなく、各テレビ局が、政府の指示通り、無批判にJアラートを、危険が去ったかなり後まで、
繰り返し流していたのは、とても違和感をもちました。テレビ局には、政府から、そのように言われているのでしょうか。

政府は、この警戒画面をできるだけ繰り返し放送することで、国民の危機感を煽っているのではないか、それによって、日本を
軍事的に強化しようとしているのではないか、とさえ感じます。

一方、北朝鮮と国境を接し、常に攻撃の危険にさらされている韓国は、北朝鮮のミサイル攻撃にどう反応しているでしょうか。

韓国の『中央日報』(日本語電子版)は8月23日に韓国で行われた、北朝鮮のミサイル攻撃などを想定した退避訓練の際にも、
「ソウル駅前広場にいた人たちは、退避要領の通りに地下に下りていこうとする人はほとんどいなかった」と報じています。

朝鮮日報東京支局長の金秀さんは、日本の対応に関して次のようにコメントしています。

危機に備え訓練するのはもちろん重要です。しかし、断言はできませんが、はるかかなたに着弾するであろうミサイルのために、
学校を休校にしたり、電車の運行を止めたりするのは過剰反応に見えてしまいます。

金さんによれば、韓国にはリアルな危機感があるからこそ冷静にふるまうのにたいして、「日本がこの問題の直接的な当事者でな
いからではないか」と分析する。
 
金さんによると、現在の韓国と北朝鮮は休戦状態。言い換えれば「戦争が継続している」ということだ。本当に危機が差し迫った
状況になれば、韓国経済は、すぐに大きな影響を受ける。韓国の男性には約2年間の兵役義務があるが、それを終えた人でも予備
役に編入され、招集される可能性が出てくる。韓国の人にとって、北朝鮮の脅威や有事はリアルな日常の一部だ。そんな現実感が
あるからこそ冷静に行動するという(以上、『毎日新聞』2017年9月1日 東京夕刊より)。

ところで、安倍首相の北朝鮮問題にたいする姿勢は一貫して、圧力、それも「異次元の圧力」を加えるというものです。

これが、もっとも端的に表現されたのは、現在行われている国連総会でもスピーチです。

9月19日の、国連総会におけるトランプ米大統領が一般討論演説で核実験などを強行した北朝鮮を世界共通の脅威と非難し、米国が
自国や日本など同盟国の防衛を迫られれば「完全に破壊」するしか選択肢がなくなると、強い調子で警告しました。

一つの主権国家を「完全に破壊する」という表現は、いくら脅迫的な表現であるとはいえ、言い過ぎでは成りだろうか。

このトランプ演説を受けて、翌ジ、安倍首相は、トランプ氏を上回る激しい口調で、北朝鮮が繰り返す核実験とミサイル発射につい
て、「(核)不拡散体制は史上最も確信的な破壊者によって深刻な打撃を受けようとしている」と批判しました。

また、「対話とは、北朝鮮にとって我々を欺き、時間を稼ぐため、むしろ最良の手段だった」、北朝鮮に対する11日の安全保障理
事会決議の採択後もミサイルが発射された事実を踏まえ、「決議はあくまで始まりにすぎない。必要なのは行動だ」とも強調しまし
た(注1)。

安倍首相は、自国と同盟国が危機にさらされれば軍事オプションも辞さない、北朝鮮を「完全に破壊する」「あらゆる手段がテーブ
ルの上にある」(つまり武力行使も辞さない)という、トランプ大統領の姿勢を支持する、とも発言しました。

つまり、安倍首相は、トランプ大統領の言葉に、完全に同調した強行路線のスピーチをしたのです。しかし、私は安倍首相のこの姿
勢に大きな危惧をいだきました。

トランプ大統領が、北朝鮮を「完全に破壊する」とまで言った、その同じ日に、国防長官のジェームズ・マティス氏は、アメリカはあ
くまでも対話による問題解決を視野に入れている、と語り、また国務省(日本の外務省)の報道官も対話による解決を示唆しています。

トランプ政権では、一方でトランプ氏が過激な発言をし、他方で、他の閣僚などが現実的な見解を示す、という方法を採っています。

しかし、安倍首相の場合、安倍首相の発言を公に修正したり、別の見解を述べる人物はいません。

このような状況で、トランプ氏の発言だけを頼りに国際社会で発言することには大きなリスクを伴います。

というのも、圧力一辺倒であると思っていたアメリカが、ある日突然、日本を飛び越して米中交渉で問題解決に向かうかも知れないの
です。

もう一つ、トランプ氏の、軍事攻撃をも示唆する圧力を強化することには、強い批判もあります。とりわけ、ドイツのメルケル首相も
フランスのマクロン大統領も、北朝鮮の核が脅威であり食い止める必要があることは認めながらも、この問題は対話によって解決すべ
きである、との姿勢を示しています。

おそらく、主要国の中でトランプ氏の姿勢を支持するのは安倍首相だけでしょう。それを象徴するように、安倍首相のスピーチの時、
席はガラガラで、カタールやイラン首脳の合うピーチよりも出席者は少なかったのです。

残念ながら、これが、国際社会における安倍首相の存在感であり評価でしょう。

韓国の文大統領は、制裁と圧力に賛成しながらも、対話をも重視する平行政策を目指しています。最近も、北朝鮮の子どもの教育のた
めに日本円で9億円の援助を与えることを発表しています。

国際関係は、非常に複雑なジクソーパズルから成っており、単純にアメリカに従っていれば安全、ということにはなりません。

首相は演説に先立つ20日昼(日本時間21日未明)、フランスのマクロン大統領と会談し、北朝鮮の行動は「これまでにない重大か
つ差し迫った脅威だ」と強調。マクロン氏は「断固として対応したい」と応じたという(注1)。

しかし、これは『朝日新聞』か安倍首相が勝手に作り上げた話のようです。原文を忠実に訳すと、マクロン氏は、「(北朝鮮への)私
の論点は、圧力を増やすことや、言葉と言葉の応酬ではないです。 私たちがやらなければならないのは、北朝鮮との間の緊張をほぐし
て、人々を守るための適切な方法を見つけることです。」としか言っていないのです(注2)。

安倍首相がスピーチを行った5時間前、別の部屋では核兵器禁止条約の署名式が行われていましたが、河野外相は出席しませんでした。
北朝鮮の核には猛反対し、米、英、仏、中、露の核には反対しない、という。人間で言えば思想、精神の「分裂」状態にあります。

それにしても、 麻生太郎副総理兼財務相は23日、宇都宮市で講演し、北朝鮮で有事が発生すれば日本に武装難民が押し寄せる可能性
に言及し「警察で対応できるか。自衛隊、防衛出動か。じゃあ射殺か。真剣に考えた方がいい」と発言したことは問題です。

これは麻生氏の本音なのでしょうが、そもそも「武装難民」なる概念はないし、難民=武装して日本人に危害を加える存在、とみなす思
考回路はあまりにも思慮に欠けています。このような人物が副総理兼財務相であることに危惧を感じます(注3)。

 

(注1)『朝日新聞』デジタル(2017年9月21日09時55分)wwww.asahi.com/articles/ASK9N7V6DK9NUTFK01X.html
(注2)BLOGOS 2017年9月21日 http://blogos.com/article/247487/
(注3)『琉球新報』電子版(2017年9月24日)https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-582051.html





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北朝鮮問題(2)―9回目の安保制裁決議は有効か?―

2017-09-18 06:10:53 | 国際問題
北朝鮮問題(2)―9回目の安保理制裁決議は有効か?―

前回の「ヒフミン・アイで観てみよう」では書ききれませんでしたが、北朝鮮がアメリカに対して強気に出ていること、
逆に、アメリカにとって、強く出ることができない事情があります。

それは、1950年から3年続いた「朝鮮戦争」が1953年に休戦に至り、同年7月27日に休戦協定が締結されました。

その第60節には、休戦協定締結後「3か月以内にあらゆる外国軍の軍隊は撤退すること」が明記され、その上で終戦の
ための「平和協定」を結ぶことが大前提となっていました。

アメリカはこの協定を承諾し、署名までしています。

しかし、アメリカは、その実行のための予備会談を拒否し、出席しませんでした。

そして、この年の10月1日には、韓国と「米韓相互防衛条約」を結び、アメリカの軍隊だけが朝鮮半島に居続け、今日に
至っています。

北朝鮮には、「休戦協定」に違反して軍隊を駐留させ続け、「平和協定」のテーブルに着かないアメリカは、国際協定を無
視している、との言い分があります。

もしアメリカ軍の韓国駐留が認められるなら、立場を変えれば中国やロシアが、北朝鮮から依頼されたという名目で、北朝
鮮に軍隊を駐留させて、「斬首作戦」のような軍事訓練を行うことと同じです。

核の問題に関して、現在、核拡散防止条約 (NPT) で核兵器保有の資格を国際的に認められた核保有国はアメリカ、ロシア、
イギリス、フランス、中国のいわゆる「五大核大国」です。

しかし、実際にはNPTを批准していない核保有国にはインド、パキスタン、北朝鮮の3か国があり、表立っては認めていない
けれどイスラエルも核兵器を保有しているとみられています。

インドとパキスタンが核実験を行い、核兵器の開発をしている最中、その事実を知りながらアメリカを始め、「五大核大国」
は今日のように非難や制裁をしませんでした。それどころか、事実上、核保有国として認めてしまっています。

つまり、核兵器は持ってしまえば、「持ち得」、ということ国際社会でまかり通っているのです。

このため、北朝鮮が核兵器を持つことを認めない(特にアメリカ)のは、明らかなダブルスタンダードである、という点に関
して国際社会は明確な反論ができません。

最後に、金正恩委員長は、もし、生存権のための対抗手段である核兵器を持たなければ、リビアのカダフィ氏やイラクのフセ
イン氏のように殺さるだろう、というアメリカに対する強い不信と恐怖があるようです。

実際、昨年1月の朝鮮中央通信は「イラクのフセイン政権とリビアのカダフィ政権は、体制転覆を狙う米国と西側の圧力に屈し
て核を放棄した結果、破滅した」と書いています(『東京新聞』2017年9月5日)。

さて、以上を念頭に置いたうえで、今回の9回目の制裁がどれほど有効かを考えてみましょう。

9月11日の国連安全保障理事会は、アメリカが提出した北朝鮮に対する第九回制裁決議案を、中国・ロシアも含めて全会一致
で決議しました。

アメリカの提案の意図は、北朝鮮に核兵器とミサイル開発の資金をできる限り制限することでした。

決議された内容の骨子は以下の5点です。
①原油は昨年並の実績450万バレル(ただし中国からは400万バレル)
②石油精製品は年間200万バレルを上限とする
③液化天然ガス液及び天然ガス副産物の軽質原油コンデンセートの輸出禁止
④制裁委員会の許可がない場合、北朝鮮からの繊維製品の輸出禁止
⑤例外規定(既に働いている労働者)を除き、出稼ぎ労働者に対する就労許可を禁止

反対に、アメリカが兼ねて主張していた、石油の全面禁輸は撤回(部分的制限)され、金委員長と高麗航空の資産凍結、金委員
長の国外渡航禁止は盛り込まれず、公海上での貨物船の臨検(船に乗り込んで積荷を検査する)を同意なく許可するという提案
は、貴国(北朝鮮)の同意が必要、に修正されました。

臨検に関して、北朝鮮が許可することはあり得ませんので、これも事実上廃案となりました。

さて、総合的にみて、今回の制裁決議をどのように評価したらよいのでしょうか。

一部には、アメリカの制裁決議にとにかく中国とロシアが賛成し全会一致であったという点で非常に意義があった、という評価
はあります。

また、アメリカがここまで譲歩したのは、スピードを優先し中国・ロシアを引き入れたかったから、という意見もあります。

今回の制裁決議を高く評価する人は、これだけ短期間(9日間)に決議出来たことが「奇跡的」で、もしこれが有効に働かなけれ
ければ、今度こそもっと厳しい制裁を課す、という主張をする根拠ができたことは大成功だと言います。

確かに、今回の決議で北朝鮮の輸出の9割以上が制裁対象となり、石油およびその精製品供給は30%減少することになります。

ただし、それは、もし決議通り実行されればとい条件付きです

さらに強く今回の決議を評価する人は、最初に高くふっかけておいて、最終的にはしっかりとアメリカの利益を確保する、トラ
ンプ氏お得意のビジネス手法、「ディール」戦略だとも言います。

しかし私は、今回の決議内容はアメリカにとって、到底、成功とは言えないと思います。

アメリカは、石油の全面禁止、貨物船の臨検、金委員長の渡航禁止にしても、中国とロシアの反対で決議案そのものが否決される
ことを予想していました。

中でも、当事国の同意なしに「臨検」を実施するとなると、ほぼ確実に武力衝突が起き、戦争状態に突入してしまいますし、これ
を中国やロシアが認めることは考えられません。

それでも、当初の案を提出すれば、中・ロの反対で否決され、アメリカは国際社会が注目する中で、大恥をかくことになってしま
います。それを避けるための、妥協だったと言えます(注1)

今回の制裁決議が当初のアメリカの提案から大幅に後退してしまったにせよ、せめて、「もし、これらの決議が守られなければ、
さらに今度こそさらに厳しい制裁決議を課す」という一文を入れることができたなら、事態は多少、変わるかもしれません。

ただし、その場合、中国とロシアの同意を得られる見込みがなかったので、それを盛り込まなかったのでしょう。この意味では、
アメリカにとって、積極的な妥協ではなく、消極的(仕方なしの)譲歩だったと言うべきでしょう。

私は、今回の制裁決議には、実質的にはあまり有効性はないと思います。その理由は幾つかあります。

まず、今まで、八回も制裁決議を行い、金融や石炭やレアメタルの輸出禁止など、多くの制裁を課してきました。

それにもかかわらず、地上からの長距離ミサイルだけでなく、潜水艦からミサイル発射にも成功し、2006年には最初の核実験を行い、
今年の9月にはついに水爆の実験にも成功しています。

しかも、制裁決議が可決された3日後の9月15日は、太平洋に向かってミサイルの発射実験を行ったのです。

このように考えると、北朝鮮は制裁を課されるたびに、より強硬な軍事開発を進めてきて、しかも進歩させていることが分かります。

北朝鮮(とりわけ金委員長)が望んでいるのは、自分と国家の生存権の保証であり、そのためには核兵器とミサイルの保持は絶対に
必要だと考えています。

したがって、制裁が加えられれば加えられるほど、一層、生存権を確保するために、核と長距離ミサイルを手放すどころか、さらに
開発を進めるという、アメリカにとっては皮肉な結果になっています。

あるコレア・ウォッチャーは、テレビ番組で、これまで、制裁は北朝鮮の核とミサイル開発のブレーキになることを期待してきたが、
実際にはアクセルになっていると言いましたが、これが実情です。

今回の9回目の制裁が時間の経過によってどのような効果をもたらすかは、分かりません。

ただ、ロシアのカーネギー財団モスクワ・センターのアレクサンドル・ガブリエル氏は、今回の制裁決議について「石油輸出や労働者
受け入れが完全に禁止されず、中国とロシアにとって満足な結果になった」とコメントしています(『東京新聞』2017年9月13日)。

次回は、それでは、この問題にどんな解決方法が考えられるのか、そして、日本にとってどのような影響があり、どのように対応すべ
きか、を考えてみたいと思います。

(注1)『日経ビジネス』ONLIONE (2017年9月15日) 
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/122000032/091400037/?P=1

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久しぶりにマウンテンバイクでいつものコースを走りました。季節はいつしかもう秋で、彼岸花が咲き、ススキが穂を出していました。
 



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北朝鮮問題(1)―「ヒフミン・アイ」で観てみよう―

2017-09-10 08:17:40 | 国際問題
北朝鮮問題(1)―「ヒフミン・アイ」で観てみよう―

将棋の世界で、加藤一二三(ヒフミ)九段は、対局中に席を立って、相手の背後に回り込み、相手の目線で盤上を眺めて、
自分と相手の弱点や攻撃の突破口をみつける方法を実践しました。

加藤氏はこれを、「ヒフミン・アイ」(一二三の視点)と名付けています。

加藤氏は、これまで「ヒフミン・アイ」によって、何度か難局を乗り切って勝ちを収めたと言います。現在、これを採用
しているのは、おなじみの天才少年棋士の藤井聡太君です。

かつて私が留学していた時、オーストラリアを中心とした地図を見ると、日本は世界地図の最上部に、強大なシベリア大
陸の縁にへばりついているヒモのように描かれていて、ショックを受けたことを思いだします。

私は、「ヒフミン・アイ」は、将棋だけでなく、冷静で客観的に自分と相手を見る、という点で、対決や対立という状況
では常に、有効であると思います。

たとえば、現在の北朝鮮問題に、「ヒフミン・アイ」を適用してみましょう。

つまり、北朝鮮の立場に立って、問題を見つめ評価をし直すのです。

最近は、テレビを始め、メディアは連日、これでもか、というほど北朝鮮のミサイルと核開発の報道を流しています。

そして、軍事。政治評論家と称する人たちが、主に、北朝鮮のミサイル、核兵器の開発を、日本にとって脅威であり、国連
決議に反するという観点から、コメントしています。

私自身も、現在の北朝鮮の軍事拡張、軍事優先政策には反対であり、特に核開発などは、唯一の被爆国として、絶対に許し
てはならないことだと思っています。

しかし、現状では、どこに出口があり、そこにどのようにしたらたどり着けるのか、道は見えていません。

ただし、私たちが目にし、耳にするのは、アメリカ発の情報がほとんどで、北朝鮮からの直接的な情報としてはせいぜい、
北朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」の記事や、国営放送の一部の映像だけです。

このため、メディアもコメンテーター(評論家)も推測や仮定の話をするばかりです。

こうして、たとえばアメリカ発の北朝鮮関連のニュースでは、金正恩労働党委員長は、とんでもない「ならず者」で何をし
でかすか分からない危険人物、ということになってしまいます。

日本のメディアにも、アメリカという巨大な国を相手に、ワシントンを火の海にしてやる、とか地球上から消してやる、と
か、金正恩の言っていることは常軌を逸している、彼はまともな人間じゃない、などの論調が底流にあるような気がします。

確かに彼の言っていることは、とても現実的とは思えないし、なぜ、このようなことを敢えて言うのか私にも分かりません。

それでは、国際社会の反発を知りながら、そして、恐らく国民の経済的な負担と犠牲を押し付けてまで、なぜ、ミサイルや
核兵器の開発を続けるのでしょうか?

彼は、無知で幼稚で、馬鹿で、妄想に取りつかれているだけの愚か者なのでしょうか?

翻って、私たちは、本当のところ、金正恩委員長と北朝鮮の実態について何をどこまで知っているのでしょうか?

もっと言えば、これまで、私たちは、金委員長および北朝鮮について、客観的に知ろうとしてきたでしょうか?

私たちは、金委員長についても北朝鮮の政治・経済・社会、とりわけ国民の生活実態、かれらの本音などについては、ほとん
ど正確な知識をもっていません。

現在の、北朝鮮をめぐる危機がどのように進展してゆくのかは、分かりません。というのも、この問題は非常に複雑なジクソ
ーパズル構造となっていて、幾つかのピースがどのようになるのか不透明だからです。

そこで、このような時には、推測に推測を重ね、思惑と思い込みに塗り込められた分析をするよりも、一度、日本やアメリカ
の目線ではなく、一旦目線を逆転させて、北朝鮮の指導者たちは、現在の世界と、自分たちの置かれた状況がどのように見て
いるのかを北朝鮮の立場から、つまり、「ヒフミン・アイ」を適用して考えることが有効だと思います。

受けました。視点をどこに置くかによって、世界観が変わるのです。

まず、北朝鮮からみると敵対する勢力が幾重にも並んでいます。

直ぐ南には戦後まもなく戦争をし、現在も「休戦」状態にある韓国と、そこに駐留する、世界最強のアメリカ軍の基地が展開し
ており、その、少し南には、かつて朝鮮半島を植民地化した日本の自衛隊と、同じくアメリカ軍の基地が日本全国に展開してい
ます。

これらに加えて、移動基地ともいえる大小さまざまな戦艦が西太平洋を巡回しており、さらにグアム、サイパン、ハワイの米軍
基地は遠くから朝鮮半島を睨んでいます。

しかも、これらの軍は最新鋭の兵器を装備しています。

これら陸・海・空の軍事的能力を北朝鮮からみると、その比率は北朝鮮1に対して「敵」勢力は100かそれ以上に感じられる
でしょう。

昨年より、通称「斬首作戦」と呼ばれる米韓合同軍事演習が北朝鮮の目の前で行われています。

北朝鮮の指導部(とりわけ金委員長)は、自分たちの殺人を目的とする軍事演習を年に2度も行っている現状に、かなりいらだち
を見せています。

もし日本の周辺で、他国が日本の要人を殺すための「斬首作戦」を展開したら、要人や一般の日本人はどう思うでしょうか?

それでは、北朝鮮の背後の政治地理的配置はどうなっていうのでしょうか?

北朝鮮は背後(北側)で、中国とロシアという大国と国境を接しています。

中国との関係は、8月29日の第六回核実験(水爆と推測されている)に、にわかに悪化していますが、本質的に中国は北朝鮮にと
って、日・米・韓連合のような「敵」勢力ではありません。

北朝鮮は、これらの大国をむしろ、いざという時の支持勢力とも考えていることでしょう。

とりわけ、中国とは1961年に「中朝友好協力相互援助条約」が結ばれており、20年ごとに更新されることになっています。

もっとも最近の更新は2001年ですから、2021年までは有効です。そこには、
    第二条  両締約国は,共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。
    いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて,それによって戦争状態に陥つたとき
    は他方の締約国は,直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える。(参戦条項)
という、いわゆる「参戦条項」が付いています(「Wikipedia 「中朝友好協力相互援助条約」)。

ただし、中国は核戦争が勃発した時には、参戦しない方向を望んでいるようです。

北朝鮮としては、実際に戦争が起こった時、どこまで中国が助けてくれるかは必ずしも確信を持っているわけではないでしょう
が少なくとも、一つの「保険」としては見なしているでしょう。

それよりも北朝鮮には、アメリカにしても日本にしても、北朝鮮に軍事的な攻撃を仕掛ける時には、北朝鮮だけでなく、中国か
らの反撃も考慮せざるを得ないだろう、そう簡単に手出しはできないだろう、という「読み」はあると思います。

中国は、軍事以外にも、北朝鮮への石油供給を行う他、北朝鮮から石炭や鉄の輸入、北朝鮮人労働者の受け入れなど、経済的な
交流や援助を通じて、実質的に助けています。

さらに、平壌と北京とは鉄道が州4便(月、水、木、土)も往き来しており、北京からは中央アジア→モスクワを経由してヨー
ロッパまで鉄道輸送が可能です(注1)

次に、ロシアとの関係ですが、1960年に中国と同様の「朝ソ友好協力相互援助条約」が締結されましたが、1980年代に、これは
解約されました。

しかし、現在のプーチン大統領が率いるロシアは、陰に陽に北朝鮮を援助しているので、北朝鮮にとっては頼りになる隣国とみ
なしているでしょう。

恐らく、中国からの石油の供給が断たれても、ロシアからの石油が入ってくることを想定し期待しているかも知れません。

私は、北朝鮮問題を解くカギは、中国とならんで、あるいはそれ以上にロシアだと思っています。

北朝鮮は世界で孤立している、と決め込んでいる人もいますが、現在、166カ国もの国が北朝鮮と国交を結んでいるのです。
とりわけ東南アジアには、北朝鮮と近い関係を維持している国があります。

北朝鮮は世界で孤立し、経済は極度の荒廃し、人心は現状に心底うんざりしており、アメリカの軍事的圧力に耐えがたい状態で、
パニックに陥っている、などなどの見方には注意が必要です。

将棋や囲碁では、相手の応手を無視して、自分に都合の良い展開だけを考えることを「勝手読み」と言います。

それは、読みが外れたとき、痛いしっぺ返しを受けます。


(注1)http://www.2427junction.com/dprkreportpb.html(2017年9月9日閲覧)
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畑の一角に蒔いた豆類(大豆、枝豆、小豆、大納言小豆、黒豆)は順調に育っています。  畑の端に植えたサトイモと隣のサツマイモは雑草と闘いながら元気に成長しています。
 




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原爆投下から72年―被爆国日本は核廃絶のリーダーシップを―

2017-08-13 07:22:09 | 国際問題
原爆投下から72年―被爆国日本は核廃絶のリーダーシップを―

1945年8月6に広島へ、3日後の9日には長崎に原爆が投下されて、今年で72年目にあたります。

既に知られていることですが、広島に投下された原爆はウラン235を濃縮したもので、長崎に投下された原爆はプルト
ニウム239を使ったものです。

アメリカは、日本の敗戦が決定的になった最終段階で、二つの違ったタイプの原爆を使用したわけですが、これは、二つ
のタイプの原爆の威力(破壊力)や、人体に対する影響などを比べるための、ある種の実験を行ったわけです。

8月6日の広島での平和祈念式典で松井一実広島市長は、「広島平和宣言」のなかで原爆を「絶対悪」、つまり、どんな
言い訳も許さない、絶対的な悪である、とし、3回も繰り返しています(以下は、『東京新聞』2017年8月7日と10日
よりの記事に基づいています)。

しかも、この「絶対悪」は決して過去のものではなく、核兵器が現実に存在し、その使用をほのめかす為政者がいるかぎり、
いつ何時、被爆者となるかわからない。

むごたらしい目に遭うのは、今生きている「あなた」かもしれない、と市長は語ります。

松井市長は、「核保有国の指導者たちは、抑止力という概念にとらわれず、一刻も早く原水爆を廃止し、後世の人たちにか
けがえのない地球を残すよう誠心誠意努力してほしい」というある被爆者の言葉を引用しています。

この被爆者がいう「核抑止力という概念にとらわれず」という言葉は、とても重要な意味をもっています。

というのも、「抑止力」というのは実態ではなく「概念」に過ぎないのです。もっと言えば、それは「幻想」であり「妄想」
かもしれないのです。

「抑止力」とは、もし、他国が核攻撃をしてくれば、自国の核兵器で相手に報復できるから、他国は攻撃してこないだろう、
だから核を持っていることが核攻撃に対する抑止力となる、という前提で組み立てられた「概念」です。

これは一見、筋の通った、合理的な「概念」に見えるかも知れません。しかし、所詮は全ての国が、この「抑止力」を信じ
ていれば、という雲をつかむような話です。

そのために、核保有国は、できるだけ多くの核兵器を持とうと、無意味な競争をしているのです。

市長は「市民社会は、既に核兵器というものが自国の安全保障にとって何の役にも立たないということを知り尽くし、核を管
理することの危うさに気付いています」、と語りかけています。これこそが、正しい認識だと思います。

市長の宣言に続いて、小学六年生の男女による「平和への誓い」が朗読されました。

この「誓い」は本当に素晴らしく感動的で、全文を引用したいくらいですが、それは皆様に新聞その他で是非、読んでいただ
きたいと思います。しかし、以下の部分だけは是非、ここで引用しておきたいと思います。

    原子爆弾が投下される前の広島には、美しい自然がありました。
    大好きな人の優しい笑顔、ぬくもりがありました。
    一緒に創るはずだった未来がありました。
    広島には当たり前の日常があったのです。
    昭和二十年八月六日午前八時十五分、広島の街は、焼け野原となりました。
    広島の街を失ったのです。
    多くの命、多くの夢を失ったのです。

安倍首相のあいさつは、長崎でのものとほとんど同じなので、後ほどまとめて紹介します。

さて、8月9日の長崎での式典では田上富久市長が「平和宣言」を行いました。

市長は冒頭部分で、「ノーモア ヒバクシャ」を願う被爆者の願いがこの夏、世界の多くの国を動かし、一つの条約を生み出し
たことを述べました。

それは、「核兵器を、使うことはもちろん、持つことも、配備することも、(実は「威嚇に使うことも」含まれている)禁止し
た「核兵器禁止条約」が国連加盟国の六割を超える122カ国の賛成で採択されたことです。

ただし、この条約を討議する会議には、核保有国と「核の傘の下にいる国々」は、参加さえしていませんでした。

田上市長は、名指して日本政府に対して強い言葉で批判します。
    核兵器のない世界を目指してリーダーシップを取り、核兵器を持つ国々と持たない国々の橋渡し役を務めると明言
    しているにもかかわらず、核兵器禁止条約の会議にさえ参加しない姿勢を、被爆地は到底理解できません。
    唯一の戦争被爆者として、核兵器禁止条約への一日も早い惨禍を目指し、核の傘に依存する政策の見直しを進めて
    ください。日本の参加を国際社会は待っています。

日本政府は、アメリカの核の傘の下にいる、という建て前で、交渉会議に参加しませんでしたが、同じくアメリカの核の傘の下に
いるオランダはこの会議に参加していたのです。

この「核の傘」も、「核抑止力」と同様、核の傘の下にいれば、安全、敵は攻撃してこないだろう、という「概念」にすぎないの
です。

そして田上市長は「世界中の全ての人に呼び掛けます。最も怖いのは無関心なこと、そして忘れていくことです」と訴えます。

だから、遠い原子雲の上からの視点でではなく、原子雲の下で何が起きたのか原爆が人間の尊厳をどれほど残酷に踏みにじった
のか、あなた自身の目で見て、耳で聞いて、心で感じてください、と世界に向かって呼びかけました。

市長に続いて、被爆者代表の深堀好敏氏は、被爆者としての実体験から、原爆の悲惨さを語った後で、やはりとても重要なことを
語っています。
    二〇一一年三月、(東京電力)福島第一原子力発電所の自己が発生し国内の原発は一斉に停止され、核の脅威にお
    びえました。しかしリスクの巨大さにあえいでいる最中、事もあろうに次々と原発が再稼動しています。地震多発
    の我が国にあっていかなる厳しい規制基準も「地震の前では無力」。原発偏重のエネルギー政策はもっと自然エネ
    ルギーに軸足を移すべきではないでしょうか。

深堀氏は、戦後「平和憲法」を持ち、唯一の被爆国として果たすべき責務を忘れてはならない、と日本が率先して核廃絶に努める
ことを訴えます。

さて、安倍首相の「あいさつ」は広島においても長崎においても、地名を変えただけで中身は同じ原稿を読んだだけです。

中身は、両地域において原爆で凄惨な破壊が行われたこと、その後人々の努力で復興したこと、これらの地域で起きた惨禍が二度
と繰り返されてはならない、当たり障りのない言葉が続き、ではどうするのか、について次のように語ります。
   
    唯一の戦争被爆国として「核兵器のない世界」の実現に向けた努力を積み重ねることが、私たちの責務だ。
    真に「核兵器のない世界」を実現するためには、核兵器国と非核兵器国双方の参画が必要だ。我が国は非核三原則
    を堅持し、双方に働き掛けることを通じ、国際社会を主導していく決意だ。

多くの被爆者や核廃絶を望む人々を大いに失望させました。というのも、長崎市長が言うように、核を持つ国々と持たない国々と橋渡
し役を務めると明言しているにもかかわらず、現実には過去四年、安倍首相は、実際には何も橋渡しの努力をしてこなかったからです。

だから、何をいっても内容のない、形だけの「あいさつ」に聞こえてしまいます。

式典後、被爆者代表に、「あなたはどこの国の首相ですか」と、本当に、魂の叫びにたいして何も言えなかった安倍首相の胸中はどんな
だったでしょうか?

ところで、冒頭で原爆にはウラン型とプルトニウム型があることを書きましたが、現在はプルトニウム型が、使用量も少なく破壊力が
大きいので主流になっています。

プルトニウムは原発の副産物としてできます。現在日本は国内外に47.9トンのプルトニウムを保有しています(2016年7月28日現在)。
これは原爆6000個分に相当します。

被爆者代表が、日本の原発に対する政府の方針に反対したのは、原発が潜在的に核兵器の製造につながるからです。

つい最近まで、原発反対を唱えていた、河野太郎衆議院議員は、今回の内閣改造で外務大臣に任命されるや、手のひらを返すように、
原発については発言しません、と宣言してしまいました。

それでは、今までの原発反対の発言は、何だったのでしょうか?はっきり言えば、河野氏の存在感は、脱原発の発言だけだったのです。

しかし、これは初めてではなく、2015年に初入閣した時も、脱原発などを発信してきたブログを閉鎖するなど、同様の行動に出ました。
つまり、彼の主張に一貫した信念を感じられません。

この点で彼の姿勢に疑問を感じます。外務大臣としても不安を感じますが、これについては別の機会に書きたいと思います。

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7月末の長野県東御市ではコクモスが咲き乱れていました。 今年は、「春ゼミ」が鳴き始めた時(6月)秋の虫も同時に鳴き始めたそうです。やはり何か変です。

 





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北朝鮮とアメリカの危険なチキンレース(2)―はしゃぐ安倍首相と世界の反応は?ー

2017-05-07 09:38:48 | 国際問題
北朝鮮とアメリカの危険なチキンレース(2)―はしゃぐ安倍首相と世界の反応は?

北朝鮮が、4月15日の金正日生誕105年に、核実験か大陸間弾道弾を発射するのではないか、と日本政府とメディアは
盛んに報道していました。

この日に何事も起こらなかったので、次は4月25日の軍創建記念日には、今度こそ何かをするのではないか、とまた日本
の政府とメディアは騒ぎ立てました。

実際に行われたのは、海岸にならんだ高射砲から海に向かって一斉に砲弾を発射した映像が配信されただけでした。(私は、
この映像自身が、かなり“作られたもの”、との印象をもっています)

秋田県のある市では、核を搭載したミサイルが飛んでくるかもしれない、との想定で、非難訓練さえ行ないました。

しかし、冷静に考えれば、北朝鮮が本当に日本に対して使うとすれば、それほど多くはもっていない、しかも一発何億円もす
る虎の子のミサイルを秋田に向けて打ち込むだろうか?

また、首都圏の一部ではコンビニに、いざといときに備えて、放射能から身を守る方法(家の中に入り、窓から離れる、地下
鉄に入るなど)を書いたコピーを配るなど、あたかも核戦争が差し迫ったかのように、危機感を煽っていました。

冷静に考えれば、これも漫画チックで、家の中の窓から離れることが、ほとんど意味がないことは誰でもわかることです。

さらに、都内の地下鉄の一部では、運行を止めたり、新幹線を一時止めたりしました。

上に書いた日本の状況が、いかに異常であったかを、世界の反応と比べて考えてみましょう。

まず、もし軍事衝突が起これば、北朝鮮の核や化学兵器の被害をもっとも受ける韓国ですが、15日も25日も、韓国では避
難の指示や、ました避難訓練もしていません。

さらに、もし軍事衝突が起こることを本気で想定していたとすれば、韓国にいるアメリカ人(軍人と民間人を含めて5万人以
上)を出国させているはずですが、一人も出国していません。

つまり、アメリカ自身も、実際には北朝鮮の核実験も大陸間弾道弾の発射が実行され、それにたいしてアメリカが軍事行動に
出ることは、想定していなかったのです。

その理由は、後で説明します。

それでは、世界の他の国はどうでしょうか? アジア諸国もヨーロッパ諸国も、ほとんど無反応です。北朝鮮の行動よりもむ
しろ、アメリカの軍事力行使を心配しているのではないでしょうか。

ジャーナリストの高野猛氏の「北朝鮮危機は回避されていた。犬猿の米中が分かり合えた複雑な事情」(注1)と題する長文
の記事の中で、次のように書いています。

    米国と北朝鮮の双方ともが不確実性・不可測性の極度に高いトップを抱えているので、断言することは出来ないが、
    米朝が軍事衝突し韓国や日本をも巻き込んだ大戦争に発展する危険は、すでに基本的に回避されたと見て差し支えあ
    るまい。
    転換点となったのは4月6~7両日の計5時間に及んだ米中首脳会談で、これを通じてトランプ大統領と習近平主席は、
    北の核・ミサイル開発問題に軍事的な解決はありえないこと、中国の北に対する影響力には限界があるけれどもまず
    は中国が北に核放棄を約束させるべく全力を尽くすことで意見の一致を見た。
    
この背景には、アメリカが全力で北朝鮮を軍事攻撃しても、以下のような事態が想定されるからです。

    全ての反撃能力が破壊されることはあり得ないので、残る総力を振り絞って韓国と日本の米軍基地に対して反撃する
    のは自明であるということである。
    かつて1993年に北が核不拡散条約(NPT)を脱退して核武装を公言した際には、米クリントン政権が核施設空爆を決
    意しかかったが、「3カ月で死傷者が米軍5万人、韓国軍50万人、韓国民間人の死者100万人以上」という試算が出て、
    断念した。これには北朝鮮の軍民犠牲者も日本のそれも含まれていないので、ひとたび戦争となれば300万や500万の
    人の命が簡単に失われるであろうことは確実である。
    カーティス・スカパロッティ元在韓米軍司令官は、昨年の米議会証言で、北に対して開戦した場合「朝鮮戦争や第2次
    世界大戦に近いものになる。非常に複雑で、相当数の死者が出る」と述べた。──その通りだが、その犠牲は何のた
    めに?
    重要なことは、死者の数だけではありません。問題は、「この数百万人は、何のために死ぬのか。何の意味もない各国
    指導者の意地の張り合いのためでしかありえず、全く馬鹿げている。こんなことは現実的な選択肢とはなり得ないとい
    うのが、世界常識です」。

まったく同感です。

つまり、アメリカが北朝鮮を軍事的に破壊したとしても、それによって得るものはなく、ただただ意味のない膨大な「死」がも
たらされるだけだという現実に、トランプも直面したのです。

高野氏の分析で、ほぼ言い尽くされていますが、一つだけ補足しておきます。

前回も書いたように、金正恩氏は、自分から攻撃を仕掛ければ、アメリカの反撃で一瞬にして国土が破壊されてしまうことは十分
承知しています。

北朝鮮は、核もミサイルも、交渉を迫る手段、あるいは攻撃された場合の反撃手段、つまり自己防衛の手段として考えています。

したがって、もし、軍事衝突があるとすれば、アメリカによる先制攻撃しかありません。

これには、アメリカ国内、国連、韓国、中国、ロシアが猛反対するでしょうし、アメリカは軍事行動を正当化できません。

習近平との5時間にわたる会談で、トランプは「北をやっつける」というのがそれほど単純な課題ではないと知ったかもしれない、
と高野氏は想像しています。おそらく、これが真実でしょう。

最後に、高野氏は、トランプは、「内外のすべての事柄について、自分が思っていたほど世の中は単純ではなくて相当に複雑なのだ
ということを、日々学習しつつある。北朝鮮問題もその1つだったということである」と結んでいます。

さて、もう一度、異常ともいえる日本における政府とメディアの反応について、高野氏は、「米中協調で進む北朝鮮危機の外交的・
平和解決の模索―宙に浮く安倍政権の『戦争ごっこ』のはしゃぎぶり」と、皮肉っています。

実際、4月中旬以降、安倍政権は、アメリカの艦隊と日本の海上自衛隊との合同訓練、アメリカの空軍と日本の航空自衛隊との合同
訓練を実施し、気分的にはかなり高揚しているように見えますが、やはり「はしゃぎすぎ」の感はぬぐえません。

ところで、どうやら、北朝鮮とアメリカ、アメリカと中国との間では、かなり密で頻繁な交渉が行われているようです。

4月12日に、両首脳は緊迫化する朝鮮半島情勢をめぐって電話で協議しています。習氏は北朝鮮問題について「対話を通じた解決」
というこれまでとは異なる表現を使いました。これまでは「すべての側による自制と状況の激化回避」と表現していました(注2)。

この時点で事実上、アメリカと中国との間で、軍事的解決はしないことがほぼ確定しました。

安倍首相が、アメリカとの軍事同盟が強化されたことを世界にアピールしている間に、世界は安倍首相抜きの方向で、どんどん進ん
でいるようです。

最近、トランプ大統領は、もし、「金委員長と直接会談できれば名誉なことだ」とまで踏み込んだ発言をしています。そして、実際、
3月から北朝鮮とアメリカで直接会談にむけて交渉が始まり、5月7日には北朝鮮代表団が会談に向けて出発しました


再び高野氏は、『朝鮮日報』の記事を引用して、安倍首相の異常さを厳しく批判しています。

    日本がこの局面でなすべきことは、戦争になって何万・何十万・何百万の北朝鮮・韓国・日本・米国そして中国の人々が命
    を失うようなことにならないよう、全力を尽くすことであるというのに、安倍首相は戦争になるのを期待しているかのよう
    にはしゃぎ回っている。韓国の朝鮮日報は18日の社説で、日本の公職者たちは「まるで隣国の不幸を願い、楽しむような言
    動」をしていると非難している。

悲しいことですが、これが、世界の目からみた、安倍首相の客観的な姿ですが、当の安倍首相は、この事にまったく気が付いていな
いどころか、この緊張に乗じて憲法改正、共謀罪の早期法制化に利用しようとしています。

さて、最後に、前回の記事で予測しておいた、ロシアについて書いておきます。

最近、トランプはロシアのプーチンと電話会談を行いました。これについてロシア政府は、「朝鮮半島の危険な状況を詳細に話し合
った。ウラジーミル・プーチンは抑制を呼びかけ、緊張レベルの軽減を求めた」と明らかにしました。(注3)

具体的な内容は明かされていませんが、ロシア政府の発表を翻訳すると、武力攻撃にたいしてロシアは反対であり、外交的な方法で
問題の解決を図るべきである、との方向を目指すことを確認したと思われます。

ジャーナリストの高濱賛氏が「『トランプの拳』、落としどころは視界ゼロ」との記事で書いているように、トランプ氏は、一般の
印象とは異なり、今や、打つ手がなくなった、とのジレンマに陥っているのが実情です。(注4)

トランプ氏を、信用できる政治家で、どこまでもついて行くことを内外に誇示している安倍首相は、どうするのでしょうか?


(注1)Mag2NEWS (2017年5月2日) http://www.mag2.com/p/news/248352
(注2)『日経ビジネス ONLINE』(2017年5月2日)http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/261004/050100041/?P
(注3)BBC NEWS Japan(2017年5月3日)http://www.bbc.com/japanese/39790426
(注4)『日経ビジネス ONLINE』(2017年5月2日)
    http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/261004/050100041/?P

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北朝鮮とアメリカの危険なチキンレース(1)―実態は?―

2017-04-30 10:15:03 | 国際問題
北朝鮮とアメリカの危険なチキンレース(1)―実態は?―

4月6日、アメリカのトランプ大統領はアサド政権が、化学兵器を使用したとの理由で、シリアへミサイル攻撃を行った
ことについては前回と前前回の記事で書いた通りです。

実は、この攻撃には、北朝鮮への警告という狙いも込められていました。

つまり、オバマ政権では軍事力を行使することなく、話し合いを基調とした「戦略的忍耐」を外交の指針としていました
が、トランプ氏は、北朝鮮が限度を越えたらシリアと同様、アメリカは攻撃を実行する、とのメッセージを送ったのです。

では、トランプ氏はなぜ、4月の段階で、このようなメッセージを発する必要があると考えたのでしょうか。

4月は北朝鮮にとって、重要な記念式典が二つ控えており、これまで、このような式典に合わせるようにミサイルの発射
や核実験を行ってきました。

特に今年の4月15日は、北朝鮮の神格化された「建国の父」「偉大な指導者」である金日成主席の生誕105年にあた
る、非常にお目出たい日です。

そして、25日は北朝鮮軍の創建85年目にあたる記念日(建軍節)です。これも、北朝鮮にとっては非常に重要な日で、
国民の休日になっています。

このように見てくると、確かにこの二つの記念日は、大きな節目にあたっています。金正恩朝鮮労働党委員長(1984年1
月生まれ。33歳)が、世界が驚くようなことをする誘惑を抱いていることは十分に想像できます。

それを見越して、トランプ大統領は一方で、「全ての選択肢はテーブルの上にある」と言い、武力攻撃が選択肢にあるこ
とを強調しています。他方、当然のことですが、外交交渉による問題解決の選択肢もある、ということです。

また、スパイサー米大統領報道官は17日の記者会見で、「シリアでの行動をみれば分かるように、適切であれば大統領は
決定的な行動をとる」とも強調し、軍事行動に移る可能性は否定しませんでした。

メディアでは、アメリカが軍事行動を起こすのは、北朝鮮が「一線(レッドライン)を越えたとき」とし、それは核実験
を行ったか、大陸間弾道弾(ICBM)の開発した時であるとしています。

こうした外交的ブラフ(脅し)を発する一方、空母、巡洋艦、原子力潜水艦を朝鮮半島近辺に呼び寄せるなど、古典的な
「砲艦外交」を絵に書いたような軍事的圧力をかけています。

同時に、平壌上陸も想定した、大規模な米韓合同演習(金委員長の「斬首作戦」)をも暗に想定した、「フォール・イー
グル作戦」を4月末まで実施しています。

そして、北朝鮮には開発を止めるよう圧力をかける傍らで、今回の緊張状況の只中でアメリカ本国で大陸間弾道弾の実験
をしています。これで説得力はあるでしょうか?
 
では、4月15日と25日に何が起こったのでしょうか?

実際には、脅威になるような深刻ななにも起こらなかったのです。

実際には、25日には、通常兵器の長距離砲を海岸線に並べて一斉に海に向かって発砲するパフォーマンスの映像を発信
しただけでした。

安倍首相は、北朝鮮の脅威と挑発を強調しますが、ここまでのところ、北朝鮮は何も行動を起こしていません。挑発して
いるのは北朝鮮ではなく、アメリカのような印象さえ受けます。

一部の人たちは、これはアメリカの軍事圧力と、中国の説得があったから、金委員長は何もできなかったからだ、と評価
しています。

果たして、本当にそうでしょうか?

4月29日の早朝、北朝鮮は何らかのミサイルの発射実験を行いました。このミサイルは50キロほど飛行し、北朝鮮内
陸部に落下しました。

これに対してトランプ氏はツイッターで、「北朝鮮は中国と非常に尊敬されている(習近平)国家主席を尊重せず、今日
ミサイルを発射したが、失敗した。“悪いことだ”」と書きこんでいます。
(North Korea disrespected the wishes of China & its highly respected President when it launched,
though unsuccessfully, a missile today. Bad!)

この場合、Bad! とは、ミサイルと発射したことが“悪いことだ”と言う意味なのか、あるいは、さらに深読みすると、
中国は説得したはずなのに、それが無視されたじゃないか、と暗に中国の無力さを皮肉っているのか、分かりません。

北朝鮮問題がどのように落ち着くのか分かりませんが、ここで、いたずらに脅威を煽り立てることは控え、一旦、冷静に
事態を見て、解決の方向を探ることが必要です。

この際、アメリカとそれに追随する安倍政権の側だけではなく、北朝鮮側から見ると、現状はどう映るのかを考えてみる
べきでしょう。

大国を自任するなら、それくらいの余裕が必要です。

まず、北朝鮮は最終的に何を求めているのでしょうか?

この点は一貫しています。つまり、アメリカとの直接対話を通じて、北朝鮮の生存権を保証させること、です。

しかし、アメリカは直接対話を拒否しているので、核兵器を開発し、ミサイル開発をして自分の方に目を向けさせようと
しているのです。

その際、北朝鮮を核保有国として認めた上で、対等に話し合うことを要求していますが、アメリカはこれまでそれを拒否
しています。

アメリカは北朝鮮が核兵器を持っていることは事実として承知していて、それが核弾頭に搭載できるほど小型化できてい
るかどうか、そして、それを運搬できる大陸間弾道弾を開発しているかどか、を問題視しているのです。

アメリカの議会でも、北朝鮮が核保有国であること(これは秘密でも何でもありません)を認めるべきだ、という意見が
出ています。

さらに、インド、パキスタンについては認めており、公式には認めていませんが、おそらくイスラエルの核保有を容認な
いしサポートしていると思われます。

このような状況で、北朝鮮を核保有国と認めないのは、二重基準だ、というのが北朝鮮の言い分です。

北朝鮮問題に関して、私たちが注意しなければならないことが、まだまだたくさんありますが、今回は、一つだけ挙げて
おきます。

日本のメディアを見ていると、北朝鮮の宣伝映像や、ワシントンが火の海になるとか、核攻撃には核攻撃で反撃する、日
本の米軍基地を破壊する、というような激しい言葉をとらえて、金委員長は何をするか分からない、といった印象を受け
ます。

しかし、ここでも冷静に考えてみましょう。

金委員長は、もし自分の方から例えばアメリカに核を含む先制攻撃をすれば、ほとんど瞬時に北朝鮮が破壊されてしまう
ことは十分に認識しているはずです。

彼は、それが分からないほど馬鹿ではない、と私は思っています。それを前提として、なぜ、彼が強硬姿勢を取り続けて
いるのかを冷静に考える必要があります。

他方、トランプ氏も何をするか分からない、との評もあります。

万が一、トランプ氏が北朝鮮の攻撃を実行して、物理的に完膚なきまで破壊し、金委員長を殺害したとして、その後に起
こる混乱をどのように収拾するのかの明確なプランをもっているかどうか、かなり疑問です。

イラクを軍事的に破壊しフセインを排除したけれど、後は混乱だけが残り、ISを生み出してしまったことを忘れてはな
りません。

次回は、日本も含めて、世界各国は北朝鮮問題をどのようにとらえ、どんな解決方法を見出そうとしているのかを考えて
見たいと思います。私は、現在のところ主要なプレイヤーとして全く登場していないロシアがこの問題の行く末に重要な
役割を果たすことになるのではないか、との予感をもっています。

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刀匠 宮入法廣氏  鍜治場で話を聞く


宮入氏に日本刀の見方を教えてもらう




                               
                                         




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アメリカのシリアミサイル攻撃(2)―その意義と結果は?―

2017-04-23 08:52:30 | 国際問題
アメリカのシリアミサイル攻撃(2)―その意義と結果は?―

トランプ大統領の軍事への傾斜は、最近の北朝鮮に対する対応にはっきり現れています。

北朝鮮に向けて空母を向かわせ、いつでも攻撃するぞ、と脅して相手を屈服させようとするやり方は、近代以前に大国が競って採用
した時代錯誤の「砲艦外交」を、この21世紀でみる思いです。

今回の、北朝鮮への軍事的攻勢は、実は今月6日に行われたシリアへのミサイル攻撃に端を発していまいた。

この攻撃は、長期的影響や、アラブ世界を含むイスラム社会の感情を無視した軍事冒険主義的な行動だったと言わざるをえません。

トランプ氏は、シリア攻撃を中国が了解したことは大成功だった、と感じているようだ。まず、夕食中に、突然、シリアへのミサイ
ル攻撃を打ち明けられた習近平主席が、その場では反対しなかったことです。

また、西側諸国から強い反対の声が上がらなかったことをも、トランプ氏にミサイル攻撃は成功したと思わせた一つの要因でしょう。

こうした背景のなかで、シリア攻撃はアサド政権に打撃を与え、「強いアメリカ」を世界にアピールでき、そして、シリア攻撃をため
らった、宿敵のオバマ元大統領をあざ笑うことができ、トランプ氏は得意の絶頂にあるかに見えます。

今回のミサイル攻撃は一見、アメリカにとって大成功に見えますが、はたしてそうでしょうか?

トランプ大統領は、就任以来、これまで100日と少し経ちますが、内政ではことごとくつまずいています。

彼の主な選挙公約の一つ、外国人(とりわけイスラム教徒)の入国禁止(ないしは制限)は裁判所の違憲判決でとん挫しています。

次に、オバマ前大統領が、苦労の末導入した保険制度(いわゆる「オバマケア」)を破棄するとの公約は、国民的反対もあって、不発
に終わりました。

企業にたいする大型減税を導入して景気浮揚を目論みましたが、財政危機を懸念する共和党内の反対で、これも不発に終わりました。

選挙期間を続けて、最大の目玉とされた、企業をもう一度呼び戻して雇用を増やし、グローバル化によって没落した中・下層の国民の
所得を増やす、としていましたが、今のところ、成果は上がっていません。

メキシコに工場を移すことをやめさせようと圧力をかけました。最初のうち企業も思い止まる振りをしていましたが、現在では結局、
メキシコへの進出の動きは止まっていません。

メキシコとの国境に塀を張り巡らす、と豪語していましたが、巨額の費用がかかるため、当初の計画は実現しそうもありません。

こうしてみるとはっきりするように、トランプ氏の公約や政策はほとんどが場当たり的で、現実性をもつ、練りに練ったものではあり
ません。やはり、不動産ビジネスと国家の運営とはちがうのです。

これは、トランプ大統領の人事が議会で拒否されたり、要請された人物に断わられたりしているため、トランプ内閣はいまだに閣僚が
そろっていないことが大きく影響しているからです。とりわけ国際法などに知識と経験があるスタッフが不在です。

現在、トランプ政権は、勇ましい軍人によって引っ張られているようです。

さて、このような事情を考えると、トランプ大統領が人気と支持を内政で得ることは、非常に難しいことがはっきりしています。

ここでトランプ氏が、「強いアメリカ」を見せつけるために打って出た起死回生の軍事行動が、シリアへのミサイル攻撃だったのでは
ないでしょうか?

アメリカにとって、この攻撃は有効な効果をもたらしたのでしょうか?

ミサイル攻撃がどのような効果をもたらしたのかを、今の段階で正しく評価することはできません。

あえて言えば、アメリカはいざとなったら軍事力を行使することを世界に示した、とは言えるでしょう。

他にはどんな効果があってでしょうか?このミサイル攻撃でアサド政権は従来の方針を変更するでしょうか? 今のところ、その兆候
は全くありません。

何より問題なのは、いまだにアメリカは、アサド政権が化学兵器を使ったことの証拠を示していないことです。

日本のメディアは、今回のミサイル攻撃を、アメリカの側から見る傾向がありますが、それでは、中東諸国の側からみるとどのように
映ったのでしょうか?

中東の専門家である酒井啓子氏(千葉大学教授)は、「米軍シリア空爆は、イスラム社会の反米感情を煽るだけ」と題する論考で、事
態を冷静に次のように分析しています(注1)。

    化学兵器の非人道性、などというオバマ的「人道主義」は、トランプ大統領が一番考えそうもないことだ。・・・・空爆を決
    断したとはいえ、それでトランプ政権が、アサド政権を倒し反アサド派を推す方向に政策転換した、とは言えないだろう。多
    くの識者が指摘するように、ロシアやイランに主役の場を奪われている現状に、なんとか米国のプレゼンスを示したいという
    以上の、本格的な意味は見いだせない。

学界からは、他にも二人の専門家が、やはり違法で展望のない行為だと批判しています(注2)。

まず最上敏樹(早稲田大学教授)は今回の攻撃を、「違法なな武力行使、効果も疑問」と述べています。

    トランプ政権の攻撃は正義の武力行使とは、とてもいえません。人道的介入が許される かどうかの議論の入り口にすら至る
    ことがない、これ見よがしの誇示に近い。シリアの人道的な危機が本当によくなるのかという効果の面でも非常に疑わしいも
    のです。・・・・
    武力行使は様々な方策が尽くされた後の最後の手段で、国連安全保障理事会の決議を踏まえるべきだとされています。今回の
    攻撃は十分な手続きがなされておらず、国際法上、違法な軍事行動といえます。

また、青山弘之教授(東京外国語大学教授)は、今回のシリア攻撃は失敗に終わるだろうと述べています。

    今回の米国のミサイル攻撃は、アサド政権の化学兵器使用に対する懲罰行動なのでしょ うが、長期的には米国にとって失敗
    に終わる可能性が高いといえます。
    米国は1991年の湾岸戦争以降、自国の経済安全保障を保つため、中東に関わり続けてきました。石油を安定供給させるた
    め、中東の政治的秩序を保つ必要があったからです。
    シリアのアサド大統領は、イラクでフセイン政権が崩壊したあと、米国に盾突くことの できる唯一の統治者になりました。
    米国にとっては目の上のコブです。・・・シリアで民主化を求めるデモが強まり、国内が混乱に陥ったことを、米国はアサド
    政権弱体化のいいチャンスだと考えていたはずです。ただ、米国は、仮にアサド政権が崩れる場合にその後のシリアを誰がど
    う統治するのか、青写真を描けずにいました。

中東を専門とするジャーナリスト、川上泰徳氏は「シリア攻撃 トランプ政権の危険なミリタリズム」と題する論考で次のように書い
ています(注3)。

    安保理の協議がまだ終わったわけではないのに、米国が性急に武力行使を行ったこと は、「真相究明を行い、責任を明らか
    にする」という米国自身が参加した提案を裏切ることになる。このような一方的な手法は、安保理の協議だけでなく、ロシア
    との間の政治的、外交的な交渉の可能性をつぶすものである。
    そして、結論として、トランプは、「決断力がある」対応だと言いたいのだろうが、「今 回の米国の性急な武力行使は、ト
    ランプ政権の危険なミリタリズム(武断主義)としてみる必要がある」と警告しています。

川上氏が指摘しているように、実際、シリアで米国が率いる有志連合の空爆による民間人の死者は今年1月にトランプ政権になって急増
しています。シリア人権ネットワークの集計によると、3月の市民の死者は計1134人で、うちアサド政権軍の攻撃による死者は417人
(37%)。ロシア軍による224人(20%)に対して有志連合の空爆による死者は260人(23%)と、ロシア軍による死者を上回り、民間
人の死者の4分の1近くを占めている。「イスラム国」(IS)による死者119人(10%)の倍にたっしているのです。

以上の問題の他、私が懸念しているのは、今回のシリア攻撃でアメリカと、アサド政権を支持するロシアとの関係が一挙に険悪となり、
IS問題の解決が一層難しくなってしまったことです。

これは、北朝鮮問題にも好ましくない影を落としています。つまり、中国とともに北朝鮮にたいして影響力のあるロシアが、北朝鮮の核
開発やミサイル開発の抑止にまったく協力していないのです。

トランプ氏を「信頼できる政治家」と絶賛し、アメリカのシリア攻撃にいち早く支持を表明した安倍首相も、アメリカの立場に立ってみ
るだけでなく、もう少し世界的な視野で、相手側の立場からもみる必要があると思います。


(注1)NEWSWEEK (2017年04月10日13時00分)http://www.newsweekjapan.jp/sakai/2017/04/post-5.php
(注2)『朝日新聞』(デジタル2017年4月8日05時00分)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12882097.html?ref=sp_con_mailm_0411_11
(注3)NEWSWEEK(2017年04月08日12時20分)
http://www.newsweekjapan.jp/kawakami/2017/04/post-30.php




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アメリカのシリア・ミサイル攻撃(1)―国連無視で正当性をもつか?―

2017-04-15 20:20:18 | 国際問題
アメリカのシリア・ミサイル攻撃(1)―国連無視で正当性をもつか?―

4月6日(日本時間)、アメリカは突如、地中海に展開していが艦船から、シリアのシャイラート空軍基地に、59発の巡航
ミサイルを発射しました。

名目は、アサド政権が、同基地から発進した航空機が化学兵器を投下し一般市民を70人以上殺したから、というものです。

安倍首相は7日、直ちに「化学兵器の拡散と使用は絶対に許さないとの米政府の決意を日本政府は支持する」と表明しました。

ただ、国連決議などの国際法上の手続きを経ない先制攻撃については、「これ以上の事態の深刻化を防ぐための措置と理解し
ている」と述べました(注1)。

化学兵器を使用したのがアサド政権だと断定するのは避けてはいたが、アサド政権が実行したと明言しているアメリカの行動
を「理解している」と言っているので、実質、安倍首相はアサド政権の仕業であると、非難しているのです。

ところで、誰が使ったのかに関する国連安保理の調査が始まろうとしている段階で、事件発生から60時間後にミサイル攻撃
を行うということには、国際法上大きな問題があります。

さらに言えば、この問題が起こるまでのアサド政権にとって、今まででもっとも理想的な状況にあったのです。

トランプ大統領は選挙運動時から、アサド大統領の排除を目的としないと明言していたし、反政府勢力も、ISやヌスラ戦線
などのイスラム勢力もほぼ制圧しており、アメリカはロシアと協力してISを壊滅させるとの姿勢も明らかにしています。

このような状況で、あえて国際的な非難を浴びることが分かっているのに、化学兵器を使用することには合理性がありません。

いずれにしても、60時間という短時間のうちにミサイルを発射するというのは、やはり異常で、さまざまな問題を熟慮した
結果とは考えられません。

これについてNEWSWEEKは「トランプのシリア攻撃は長女イバンカの『泣き落とし』のため?」と題する記事でつぎのよう
に書いています。

    トランプ氏の娘のイバンカ氏の弟のエリック氏が英テレグラフ紙に語った話によれば、イバンカは3人の子供を持つ
    母親で、大きな影響力を持っている。彼女はきっと「聞いて、こんなのひどすぎる」という具合に言ったと思う。
    父(トランプ)は、そういう時には動く人だ。父は2年前にはシリアとは一切関係したがらなかった。だがアサド政
    権が自国の女性や子供を毒ガスで襲撃し、ある時点で、アメリカは世界のリーダーとして行動を取る必要があった。
    そうしたのは、素晴らしいことだと思う(注2)。

もし、これが本当だとすると、トランプ氏は身内の意見に感情的・情緒的に反応したことになり、トランプ氏の政治姿勢に危
うさを感じます。

トランプ政権に対するもう一つの懸念は、現在、トランプ氏の外交戦略には、元軍人が大きな影響力をもっていることです。

特に、国防相のジェームズ・マティス氏は、湾岸戦争(1991年)、アフガン戦争(2001年)、イラク戦争(2003年)の際、指揮
官として活躍した、対ロシア強硬派の人物です。どうやら、冷戦期お世界観をもった元軍人のようです。

この影響があったかどうか分かりませんが、ロシアと融和的であったトランプ氏が急速にロシアへの対決姿勢をあらわにして
います。

トランプ米大統領は12日、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長とワシントンで会談した。トランプ氏
は会談後の記者会見で、米国やNATOとロシアの関係は「史上最低かもしれない」と述べるほどです(注3)。

ところで、今回の化学兵器の使用によって人々が苦しんでいる悲惨な映像が繰り返し放送され、アメリカだけでなく、世界の
多くの人がアサド大統領はけしからん、と感じたかもしれません。

しかし、私はアサド犯人説には、直ちに納得できない理由があります。一つは、既に述べたように、アサド大統領には、化学
兵器を用いる合理的な動機が見つからないからです。

次に、以前にも、アメリカ側からのニセの映像で強引に戦争に巻き込んだことが鮮明に思いだされるからです。

古い事例としては、1964年の「トンキン湾事件」があります。北ベトナム沖のトンキン湾で北ベトナム軍の哨戒艇がアメリカ
海軍の駆逐艦に2発の魚雷を発射したとされる事件です。これを口実にアメリカは北ベトナムへの爆撃を開始し、ベトナム戦争
に深く関わるきっかけとなりましたが、実は、この事件もアメリカが仕組んだ「やらせ」であることを、ニューヨークタイム
ス紙が「ペンタゴン・ペーパー」を入手して明らかにしました。

近年には、イラクがクウェートに侵攻した直後にアメリカや世界中である映像が繰り返し放送されました。

この時、クウェートから脱出してきた難民の少女がアメリカの下院議会にて「イラク兵はクウェートの病院まで攻めてきて赤ち
ゃんを保育器から出し殺すところを見ました」と涙ながらにクウェートでの現状を訴える映像です。

また油まみれになった水鳥の映像も繰り返し放送されます。これは、イラク軍がペルシャ湾に原油を流出させたためにこのよう
な状態になっている世界中に訴えかけられたのです。

これらはアメリカや世界の世論を大きく動かし湾岸戦争へ突入する一因となりました。

しかし!実は、この映像は後に完全なる「やらせ」であったことが発覚しました。

まず、クウェートの難民の少女。彼女は本当のところクウェート駐米大使の娘だったことが発覚!しかも、クウェートに一度も
行ったことすらなくずっとアメリカに住んでいたのです。

水鳥の映像もアメリカ軍が誘導爆弾にてゲッティ・オイル・カンパニーの原油貯蔵施設から流出させたことが明らかになります。

誰が?なぜ?こんな事を仕掛けたのか?それは、分かっておりません。しかし、昔から言われているように「戦争は儲かる」と
いうのは事実のようです。

ただ、はっきりしているのは、1989年の冷戦終結で破綻寸前にまで追い込まれたアメリカの軍事産業は湾岸戦争によってて多く
の利益を得ている有名会社もありますし、コンピュータ会社や石油会社も高利益を稼いでいます。また、戦後は破壊された建物
などの復興のために整備事業を行う必要がありますが、湾岸戦争終結時にこれを請け負った多くはアメリカの企業でした(注4)。

さらに記憶に新しいところでは、2003年にアメリカ軍が侵攻した大義名分は、イラクのフセイン政権が「大量破壊兵器」(つま
り核兵器)を保有している、ということだった。

この時も、あらゆる情報から、これは確かなことだと断定していました。いわゆる「イラク戦争」の勃発です。

イラクへの攻撃が始まると、当時の小泉首相は、世界に先駆けてアメリカの行動を「支持する」との声明をだしました。

しかし、イランを占領して徹底的に調査しましたが、「大量破壊兵器」は存在しなかったことをアメリカ自身も認めました。

以上見てきたように、アメリカは戦争や攻撃を開始する際に、ウソの事件や情報をでっちあげてきた「実績」が幾つもあります。

今回の化学兵器の使用に関してアサド大統領は、きっぱりと否定しており、国連の安保理の調査もこれからです。

こうした状況での国連の了解もなく一方的にシリアを攻撃したことに対してロシア、ボリビア、ウルグアイ、イランは「主権国
家に対する侵略である」とアメリカを非難しています。

国連のフェルトマン事務次長(政治局長)はシリア民間人の保護が最優先課題だとした上で、必要なのは「国連の諸原則に根差
した緊急の行動だ」と強調し、国連の安保理の承認決議がないまま行った米国の軍事行動を暗に批判しました。

またスウェーデンのスコーダ国連大使も、「国際法との整合性に疑問が残る」と、いかなる行動も国際法に基づく必要がある、
アメリカの単独行動を批判しています。しかも、今回はシリア国内で起こったことで、直接アメリカの脅威なるとは考えられず
、従ってアメリカの安全が脅かされての自衛権の発動、という理屈も成り立ちません(『東京新聞』2017年4月11日)。

いずれにしても、アメリカがアサド政権が化学兵器を使用した証拠を示さなければ、今回の爆撃に対する批判は必至となります
(『東京新聞』2017年4月8日)。

さて、アメリカは、アサド政権が化学兵器を使用した確実な証拠を示すことができるでしょう?
次回は、今回のアメリカの軍事行動がどのような意味をもち、中東情勢に影響を与えるのかを、専門家の意見も紹介しつつ検討
します。

---------------------------------------------------------------------

(注1)『朝日新聞』(デジタル版2017年4月8日05時00分)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12882097.html?ref=sp_con_mai lm_0411_11
(注2)NEWSWEEK(2017年4月10日) http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/04/post-7390.php
(注3)『日本経済新聞』電子版(2017年4月14日))http://www.nikkei.com/article/DGXLAS0040001_T10C17A4000000/
(注4)『歴史』http://www12.plala.or.jp/rekisi/wangann.html(2017年4月14日閲覧);
     NEWSDAY (1992,July 3)(2017年4月14日閲覧)
    http://pqasb.pqarchiver.com/newsday/doc/278520531.html? FMT=ABS&FMTS=ABS:FT&type=current&date=&author=&pub=&edition=&startpage=&desc=
    (2017年4月14日閲覧)この時の証言は「ナイラ証言」と呼ばれます。



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