goo blog サービス終了のお知らせ 

大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

安倍首相「応援団」の暴言(1)―驚くべき幼稚さと驕り―

2015-07-04 06:08:58 | 政治
安倍首相「応援団」の暴言(1)―驚くべき幼稚さと驕り―

改憲を目指す自民党の若手議員の勉強会「文化芸術懇話会」は6月25日に自民党本部で初会合を開きました。

この会合の席上,参加者の一部とゲスト講演者の百田尚樹氏から報道機関に対する,驚くべき発言が飛び出しました。

この発言の内容に関しては後に詳しく書きますが,その前に「文化芸術懇話会」とはどんな集団で,なぜ,この時期に初会合が開かれ,
そして,そこになぜ百田氏が招かれたのかを見ておきたいと思います。

「勉強会」には加藤勝信官房副長官、萩生田光一党総裁特別補佐ら安倍首相側近を含めて37人の,いわば安倍首相「応援団」のメン
バーが出席し,自民と本部で行われました。

加藤氏と萩生田氏二人の党幹部の他は,主として当選2回の議員が中心でした。彼らは,議員経験は2年半で,実質的には1年生議員
と言えます。

このような「勉強会」には,本来の意味で政策研究を行う集団と,自分たちの勢力をアピールするための集団のとの二種類ありますが,
「文化芸術懇話会」は後者のようです。

今回の問題は,若手の「勇み足」では済まされない側面をもっていない側面もあります。

「懇話会」側は勉強会について事前に党執行部,首相官邸に開催を通知していました。

他方,先月25日にも自民党のリベラル派の勉強会が予定されていましたが、政権批判を展開する漫画家の小林よしのり氏が講師だと
知った党幹部が、「タイミングが悪い。安全保障関連法案が成立するまで待てないのか」と中止を要請し,最終的に開催を断念せざるを
得ませんでした(注1)。

首相も党幹部も「懇話会」は私的な集まりであり,党の正式な会合ではないと言い訳していますが,実際には,安倍首相の「応援団」だけ
を許可し,リベラル派の勉強会を潰しているのですから,やはり,今回の会合は安倍首相公認のものであったと言わざるを得ません。

しかも,勉強会を主宰する木原稔議員は会合後,総裁選で「首相を応援する」と記者団に明言しています(『東京新聞』2015年6月27日)。

こうした背景から,「懇話会」は安倍首相の「別働隊」とみられており,自民党内では、9月の総裁選で首相の無投票再選の流れを固めた
い官邸側の意向を受けた会合との見方もあります(注2)。

もう一つは,安保法案の審議で守勢に立たされている安倍首相を激励するという意図もあったと思われます。これは,安保法案に批判的
な報道を非難する発言にも表れています。

さらに,この「懇話会」が安倍首相の「別働隊」的性格をもっていたとすると,安倍首相が直接言えないことを代弁する役割も担っていると
考えられます。

なお,「勉強会」に講師として招かれた百田氏は安倍首相と懇意な,いわば「お友達」で『日本よ,世界の真ん中で咲き誇れ』(2013年)と
いう対談本を出版しています。

この会合での百田氏の冒頭部分は公開で,それ以後の講演はと出席議員による質疑は非公開という形をとっていました。

以上を念頭に置いて,「勉強会」での発言の内容をみてみましょう。大事なことなので,少し長くなりますが引用しておきます。

まず,勉強会の冒頭で,百田氏はマスコミに向けて次のように話します。
    マスコミの皆さんに言いたい。公正な報道は当たり前だが,日本の国をいかに良くするかという気持ちを持ってほしい。反日とか
    売国とか,日本を陥れるとしか思えない記事が多い。日本が立派な国になるかということを考えてほしい。

この挨拶に続いて百田氏は次のような話をします。
    政治家は国民に対するアピールが下手だ。難しい法解釈は通じない。気持にいかに訴えるかが大事だ。集団的自衛権は一般
    国民には分からない。自国の兵力では立ち向かえないから,集団的自衛権は必要だ。侵略戦争はしないということで改憲すべ
    きだ。攻められた場合は絶対に守るということを書けばいい。

百田氏の講演の後に,問題の質疑応答が続きました。

大西英男衆院議員(東京16区、当選2回)は,次のように発言します。
    マスコミを懲らしめるには,広告収入がなくなるのが一番だ。われわれ政治家,まして安倍首相は言えないことだ。文化人,
    あるいは民間の方々がマスコミに広告料を払うなんてとんでもないと経団連に働きかけてほしい。

これと関連して井上貴博衆院議員(福岡1区、当選2回)以下の発言をしました。
    広告収入とテレビの提供スポンサーにならないということがマスコミには一番こたえるだろう。

これに対して百田氏は次のように答えました。
    本当に難しい。広告を止めると一般企業も困るところがある。僕は新聞の影響は本当にすごく少ないと思っている。それより
    もテレビ。広告料ではなく,地上波の既得権をなくしてもらいたい。自由競争なしに五十年も六十年も続いている。自由競争
    にすれば,テレビ局の状況はかなり変わる。ここを総務省にしっかりやってほしい。

長尾敬衆院議員(比例近畿ブロック、当選2回)はさらに沖縄の具体的な新聞紙名を挙げて,以下の発言をします。
    沖縄の特殊なメディア構造を作ってしまったのは戦後保守の堕落だった。沖縄タイムス,琉球新報の牙城の中で,沖縄
    世論を正しい方向にもっていくために,どのようなことをするか。左翼勢力に乗っ取られている現状において,何とか知
    恵をいただきたい。

これに答えて百田氏は,
    沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない。沖縄県人がどう目を覚ますか。あってはいけないことだが,沖縄のどこか
    の島が中国に取られれば,目を覚ますはずだが,どうしようもない(沖縄の基地問題は)根が深い。苦労も理解できる
と述べています(注3)。

つまり,基地問題は根が深いから,(批判を抑える)苦労も理解できると言っているのです。

百田氏は後に,2紙とつぶさないといけないとは「冗談だった。2紙はほとんど読んでいない」と語っています。

百田氏の発言に対して沖縄タイムスと琉球新報の編集局長は共同で抗議文を出しています。

百田氏が,米軍普天間飛行場の成り立ちについて「(米軍普天間=普天間飛行場は)もともと田んぼの中にあった。基地の周り
に行けば商売になると住みだした」と語りました。

これに対して抗議文は,「土地は強制的に接収され,人口増加に伴い周辺に住まざるを得なかった」,「戦前の宜野湾村役場は
現在の滑走路近くにあり,琉球王国以来,地域の中心だった。沖縄の基地問題をめぐる誤解が自民党内で振りまかれたことは
重大だ。その訂正も求めたい」とも述べています(『東京新聞』2015年6月27日)。

この抗議文に見られるように,百田氏は,沖縄の実態については事実を知らなかったのです。

ところで,「マスコミを懲らしめるには・・・」の発言があった時,報道陣は会場の外にいました。

しかし,元NHKプロデューサーの永田浩三武蔵大教授は,非公開の気安さで出た発言ではないと語っています。

というのも,外に記者がいるのは出席者も分かっているからだです。「伝わるように言ったのだろう。若手議員が鉄砲玉みたいに
親分が言えないことを言う。形勢が悪くなれば,党幹部が『若手が内々で冗談言っただけ』と収める。そして,「言ったもの勝ち。
メディア側の萎縮,忖度(そんたく)につながることがある」(『東京新聞』2015年6月27日)。

実際,発言者はマイクを使っていたために,発言の多くは室外まで聞こえていました。取材記者は,扉に耳を寄せて中の様子を聞き
取ります。

これは「壁耳」と呼ばれ,中の参加者は自分たちの会話が外に聞こえることを承知の上で,むしろ,外に聞かせる場合も珍しくあり
ません。

もし本当に会話を秘密にしたい場合には,ドアの外の取材者をも排除します。それをしない場合は,事実上の「半公開」であると
みなされます。

今回の会合ではマイクを使い,講演や会話を意図的に外の取材者に聞こえるようにし,それによって圧力をかけ萎縮させる意図
さえあったのではないか,とさえ思われます。

というのも,強権を発動しないで,マスコミが自主的に制限してくれるのが(政治家側の)理想だからです。

こうした事情を全て考慮すると,今回の暴言は,たまたま起きたというより,かなり確信犯的で,最初から意図されたものだと考え
るべきでしょう。

それにしても,3人の議員の発想は,驚くほど幼稚で傲慢です。

しかも,これが安倍首相の「応援団」「別働隊」の実態であることを考えると,そのような首相をもってことに暗澹たる気持ちになります。

次回は,上に引用した発言そのもの,こうした発言が飛び出した背景と,自民党内及び野党の反応,そして世間の反応を考えてみたい
と思います。


(注1)『朝日新聞 デジタル版』2015年7月2日(同日参照)
    http://www.asahi.com/articles/ASH715T44H71UTIL03S.html?ref=nmail
(注2)『日経新聞 デジタル版』2015年6月27日(7月2日参照)
     http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS27H3I_X20C15A6PE8000/ (2015/6/27 22:03 (2015/6/27 22:57更新)
(注3)以上は『東京新聞』2015年6月27日より引用しましたが,同紙では発言者は議員A,議員B,議員Cと表記されているので,具体名は,
    これらの発言を簡略化して掲載した『毎日新聞 デジタル版』(2015年6月28日)を引用しました。(7月2日参照)
    http://mainichi.jp/select/news/20150628k0000m010056000c.html?fm=mnm


------------------------------------------------------------------------


あじさいの花(またはがく)の色は生えている土の性質(酸性かアルカリか)によって,青から紫,赤へ変わります。



白いあじさいは,純粋に品種改良してできたものです。




  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

安保法案は憲法違反(4)―「非立憲」という根源的な視点―

2015-06-28 09:08:06 | 政治
安保法案は憲法違反(4)―「非立憲」という根源的な視点―

安保法案の議論が始まったころ,国会内外では,集団的自衛権が適用される具体的な事例は,その要件などについての議論が中心でした。

政府は,どれほど批判されようと,具体的な事例が,いかに非現実的であろうと,同じ説明を繰り返して,70時間という国会審議時間をやり
過ごせば,あとは絶対多数の力で強引に法制化できると,考えていました。

しかし6月4日に開催された衆議院憲法審査会に,3人の憲法学者を参考人として招いた,衆議院憲法審査会以後,文字通り議論の「潮目」
が変わりました。

つまり,安保法案の個別的な問題より,さらに包括的・本質的な,「そもそも」安保法案は全体として憲法違反である,という視点がはっきりと
浮上したのです。

この審査会の2日後,法学や政治学の専門家などでつくる「立憲デモクラシーの会」が東大でシンポジウム「立憲主義の危機」を開き,佐藤
幸治京大名誉教授が基調講演をしました。

この時の佐藤氏の発言要旨は,このブログの「安保法案は憲法違反(1)」(6月10日)でも紹介しましたが,そこでは,安保法案は違憲であ
るという観点から佐藤氏の発言を引用しました。

ただし,このシンポジウムのテーマは「立憲主義の危機」で,佐藤氏の講演の趣旨は,日本の立憲主義の歴史をたどりつつ,現在,その立憲
主義が「非立憲」政治によって危機に陥っていることに警鐘をならすことでした。

「非立憲」という視点は,安保法案が合憲か違憲か,という問題とは別の角度から,見方によってさらに根源的な問題に踏み込んでいます。

現代の立憲主義には,ニュアンスの違いを含めてさまざまな定義があります。ただ,今回の安保法案に関していうと,最も広義には,国家権力
は憲法に基づいて統治を行わなければならない,この意味で権力は憲法によって監視・拘束されるべきである,という考え方です。

したがって,政府・権力が恣意的な解釈で憲法を歪めたりして、憲法の権威を軽んじることは立憲主義に反すること,つまり「非立憲」と言えます。
佐藤氏の基調講演は,世界と日本の立憲主義の歴史をたどる内容でした。

「戦争が立憲主義の最大の敵」であり,立憲主義を考える時に重要なのは「人類が恣意的支配を避けようと自覚し,試行錯誤を重ねてきた歴史
から何をくみ取るか」だ,と述べました。

言い換えると,人類は権力者の勝手な支配をさせないために,試行錯誤を重ね,その最終的な成果が,権力を縛る憲法という制度であり,この
ことを心に留めておくことが大切だ,と言っているのです。

この基調講演では,直接に安保法案には触れていませんでしたが,講演後の討論で,石川健治東大教授は,現在の安倍政権がやっていること
は,「非立憲的な政権運営が行われていないか,とおっしゃりたかったと思う」,と述べています。

また,同じ討論で,樋口洋一東大名誉教授は,「(関連法案の国会への)出され方そのものが(憲法を軽んじる)非立憲の典型だ」と安保法案を,
非立憲であると指摘しました(以上,『朝日新聞』2015年6月16日)。

安倍政権は,憲法は国民が,政府に勝手なことをさせないための制度である,という考え方を真正面から否定しています。

5月20日の党首討論で,安保法案の合法性について岡田民主党党首に説明が全く分からないと言われた安倍首相は,
    我々が提出する法律についての説明はまったく正しいと思いますよ。
    私は総理大臣ですから。
と答えています。

集団的自衛権の違憲性が問題視されている状況で,なお,自分は総理大臣であるから正しい,との主張を繰り返すだけで,安倍首相は,岡田氏
の質問を「はぐらかす」だけでまともに答えていません。

それにしても,総理大臣である自分が国会に提出しているのだから,「まったく正しい」と言い張る首相の頭の中では,憲法の解釈も,時の首相の
権限のもとで変更できるのだ,と考えているのでしょうか。

もし,そうだとすると,それは自分を憲法をも超越した高みに置く,恐ろしい思い上がりであり立憲主義の否定です。

恐らく,選挙に勝ち続けてきたこと,国会では絶対多数を占めているという背景が,安倍首相にこのような暴言を吐かせたのだと思います。

私はこの言葉を聞いたとき,「朕は国家なり」という17世紀フランス・ブルボン王朝のルイ14世の言葉を思いだしました。

本来なら,政府は最上位の法規範・根本原理である憲法に基づいて統治を行わなければならないのに,その時々の政府が憲法の解釈を変える
ことができるとしたら,そもそも法律の頂点に立つ憲法は,憲法としての意味を成しませんし,国家の根幹が失われてしまいます。

それでは,日本の憲法は,どのような理念に基づいているのでしょうか?

「前文」で,日本国憲法は,国民主権、平和主義、基本的人権の尊重の三大基本原理を掲げ,これらは,「人類普遍の類普遍の原理であり、この
憲法は、かかる原理に基づくものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。」と規定しています。

平和主義にかんしては,「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」,と謳っています。

「前文」の平和主義の理念・原理・原則は,憲法9条でさらに具体的に以下のように示されています。
    1. 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、
      国際紛争を解決    する手段としては、永久にこれを放棄する。
    2. 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

以上から明らかなように,政府の行政も法律も,全て,憲法に基づいていなければならず,もし,それを超える行為をしようとすれば,憲法その
ものを変えなければなりません。

それを,正面から憲法改正をせず,あたかも裏口からこっそり侵入するように,解釈によって憲法を無効化してしまうことは,立憲主義の理念
と真っ向から対立します。

行政が憲法違反しないかどうかを最終的に判断するのは最高裁判所ですが,各省庁が作成した法案の原案について,条文に問題がないか
をチェックするのが,内閣府に置かれた部署が内閣法制局です。

憲法違反と判断された法律は無効となるため,内閣法制局は「法の番人」でもあります。

『東京新聞』は,過去5人の元法制局長官から安保法案に対する見解を取材しています(『東京新聞』2015年6月2015年6月20日)

任期の古い順に,大森政輔氏(1996-99年),津野修氏(1999-2002年),秋山収氏(02-04年),阪田雅裕氏(04-06年),宮崎礼壹氏(06-10年)
の,1996年から続けて5人の歴代法制局長官です。

この5人の中で,津野氏は,「一般論とし集団的自衛権の行使は違憲だが,政府の論理は非常に抽象的。具体的条文が違憲か否かは,説明
を聞かないとよくわからない」として,「判断できず」と答えています。しかし,「合憲」とは言っていないし,「一般的には違憲」と述べています。

後の4人は明確に「違憲」である,と断定しています。

大森政輔氏は,そもそも集団的自衛権が認められないことは自民党内閣が言い続けてきたことだ,と自民党自身の自己矛盾を指摘しています。

第一次安倍内閣(2006-07年)などで長官だった宮崎礼壹氏は,「憲法をどう読んでも,武力行使が許されるのは日本に攻撃があった時のみ。
集団的自衛権が許されないのは理論の帰結。一部認められとの弁明はこじつけ」,とはっきり政府見解を「こじつけ」であるとしています。

こうしてみてくると,「憲法の番人」である法制局の見解は一貫して,集団的自衛権を「違憲」としてきたことが分かります。

ところが,現法制局長官の横畠裕介氏は,国会で「合憲論」を述べています。

つまり,宮崎氏は,横畠氏の憲法解釈について,「非常に問題のある解説をしている」と,横畠氏が72年見解を意図的に歪曲していることを
批判しています。

横畠氏は集団的自衛権をフグにたとえ、「全部食べるとあたるが、肝を外せば食べられる」など,厳密な法解釈を担う法制局のトップとして,
見識が疑われる発言をしています。

安倍首相は当初,外務省出身の小松一郎氏を法制局長官に抜擢しましたが,小松氏の体調不良で実現せず,代わりに横畠氏が長官に就任
しました。横畠氏は,安倍首相に対する「恩義」を感じているのだろうか?

この横畠氏の国会での発言について『京都新聞』社説 20151年6月25日,社説)は、「憲法よりも政権の意向を読み取るようになったのだろうか。
『法の番人』でなく、政府の番犬のようだ」と厳しく批判しています((注2)。

「私が総理大臣なんですから」という安倍首相の言葉の裏には,法制局は内閣の一部であり,その頂点には総理大臣であるから,法制局の見解
の適否は自分で判断できる,という意味も含まれています。

もう一度言いますが,これは,自分は,間接的にではあれ,憲法の上に立っているということを意味します。

つまり,安倍首相は,憲法に従うのではなく,憲法を自分の思い通りに従わせるという,立憲の思想とは全く逆の「非立憲」を強行しているのです。


(注1)この時の国会でのやり取りは,https://www.youtube.com/watch?v=EAfbJZi6K1E
    で動画で見ることができます(2015年月21日アクセス)
(注2)http://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20150625_5.html


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

安保法案は憲法違反(3)―「無理も通れば道理引っ込む」のか?―

2015-06-23 07:23:43 | 政治
安保法案は憲法違反(3)―「無理も通れば道理引っ込む」のか?―

前回は,衆議院憲法審査会で,参考人として呼ばれた三人の憲法学者が,安保法制は憲法違反である,との見解を述べました。

これに対して菅官房長官は,1959年の砂川裁判に対する最高裁の判決を根拠に安保法案は合憲である,と主張しました。

しかし,「砂川判決」は集団的自衛権を合法化する根拠になりえないことは前回詳しく説明したとおりです。

今回は,菅官房長官の釈明(安倍首相の釈明も同じ)以外の,政府側の見解をみてみましょう。

まずは,今回安保法案の取りまとめ役の高村正彦衆議院議員は,6月11日に行われた衆議院憲法審査会で,安保法案は合憲で
あるとの釈明しています。その要旨は以下の通りです。

少し長くなりますが,これが自民党の公式な見解なので引用しておきます

    1959年の砂川事件最高裁判決は国の存立を全うするための「必要な自衛の措置」を認め,しかも必要な措置のうち個別的
    自衛権,集団的自衛権の区分をしていない。これが大きなポイントだ。何が必要かは時代によって変化し,実際の政策は
    内閣と国会に委ねられている。(中略)
    閣議決定で認めたのは集団的自衛権の行使に該当するもののうち,あくまでお我が国を防衛するためのやむを得ない自衛
    の措置に限られる。憲法解釈の限界を超えるような意図的な解釈変更ではなく,憲法違反との批判は全く当たらない。4日
    の憲法審査会で参考人の憲法学者が違憲だと主張したが,憲法の番人は最高裁だ。憲法学者ではない。
    (『東京新聞』2015年6月12日)。

この見解には,いくつもの問題があります。

まず,冒頭に「砂川裁判」の法的な根拠を示していますが,これについての問題点は前回述べた通りです。

一つだけ補足しておくと,前回の記事で,砂川判決に関するアメリカの介入について,マスメディアはほとんど触れていない,と書き
ましたが,『東京新聞』(2015年6月10)は,「砂川判決 公平性にも疑問」というタイトルで,この問題に触れています。

それは,「半世紀が過ぎ,新事実が明るみに出た。二〇〇八年以降,機密指定が解かれた米公文書で,判決を指揮した当時の田中
耕太郎最裁判長が駐日米大使に,無罪の一審を破棄する見通しを事前に伝えていたことが分かった」というものです。

この判決は,アメリカの意向にそって下されたことがはっきりと記録されています。

高村氏は国会の質疑で,「砂川判決本体にはっきり,国連憲章は個別的自衛権と集団的自衛権を各国にあたえていると書いてある」
との発言をしています。

しかし,当時最高裁で弁護人を務めた新井章弁護士は,「確かに判決にそういう記述はあるが,それは当たり前のことをいっている
だけ」と指摘しています。

ただし,「国際社会が認めている集団的自衛権を行使するかどうかについて,日本は憲法の前文や九条で自衛のためにも武力行使を
しない定めている。 集団的自衛権を行使できるかどうか,どのように行使すべきかという議論が取り上げられたことは全くない」と強調
しています(『東京新聞』2015年6月10日)。

つまり,国連憲章は一般論として,個別的自衛権も集団的自衛権も認めているが,集団的自衛権を認めるかどうかは,それぞれの国が
決めることである,としているのです。

日本は,その部分を憲法で禁じていますから,当然,集団的自衛権は認められません。

そこで,高村氏は,「砂川判決」の「必要な自衛の措置」は,特に個別,集団の区別を明示していないから,集団的自衛権も含まれる,と
非常に無理なこじつけをします。

当時も今も,「必要な自衛の措置」は全体の「文脈」から,当然,個別的自衛権と解釈されていますが,「文脈」を意図的に曲解しています。

「何が必要かは時代によって変化し」とは,具体的には中国の脅威が増したから,安全保障の環境が変わったから,それに合わせて憲法
解釈を変えることができる,という趣旨につなげられます。

しかし,憲法とは法律の最上位に位置する法律の中の法律です。その憲法の根幹部分を一内閣が勝手に解釈し直すことは許されません。

もし憲法が,時の政権によって解釈で根幹を変えてしまうことができるなら,もはや「憲法」ではなくなってしまいます。

高村氏は,過去に言ったことを意識的に無視しているのか,すっかり忘れているようです。

高村氏が外相を務めていた1999年4月1日の「日米防衛協力のための指針に関する特別委員会」で,「集団的自衛権の概念は,その成立の
経緯から見て実力の行使を中核とした概念であることは疑いない。我が国の憲法上,禁止されていることは政府が一貫して説明してきた」と,
集団的自衛権を自ら否定しているのです(『日刊ゲンダイ』2015年6月18日)。

高村氏は弁護士出身であり,いわば法律のプロですから,今回の安保法案が憲法違反であることは十分分かっているはずです。そこを強引
に突破しようとする背景には,最終的には国会での絶対多数で採決すれば法案を通すことができる,と考えているとしか思えません。

まさに,数の「力」で押し通せば論拠や正当性の問題も吹き飛ばしてしまう,「無理も通れば道理引っ込む」の諺そのものです。

次に,自衛隊を所管する防衛省の中谷元防衛相は15日の特別委員会で,民主党の寺田学氏に,砂川判決を集団的自衛権行使が合憲である
ことの根拠にするのかとの質問に対して,「新三要件の合憲の根拠は,72年の政府見解だ。砂川判決を直接の根拠にしていない」と,答えてい
ます。

安倍首相や菅官房長官は,15日の時点でも,砂川判決を根拠にしていますが,中谷防衛相は,集団的自衛権の根拠に関して,やや異なった
発言をしています。

中谷氏が言及している「72年の政府見解」とは,1972年,砂川判決を踏まえて,田中角栄首相(当時)が,日本の個別的自衛権を認める一方,
集団的自衛権は認められないとする政府見解を指します。

したがって,72年の政府見解は,集団的自衛権を否定し個別的自衛権しか認めていないことを確認した政府見解なのです。

ここから明らかなように,中谷氏が,砂川判決を根拠にせず,72年政府見解を根拠とする,という発言は,集団的自衛権を否定した政府見解
を根拠に集団的自衛権を合憲とする,という自己矛盾に落ちいっています。

10日の衆院特別委員会で中谷氏は,他国を武力で守る集団的自衛権の行使を容認した憲法解釈について,将来的に日本を取り巻く安全保障
環境がさらに変化すれば,再び変更する可能性がある」との認識を示しました(『東京新聞』2015年6月11日)。

これは,なし崩し的に憲法を有名無実化する,もっとも危険な発想です。

中川防衛相は,首相と菅官房長官と見解が異なる点について,自ら判断したのか党内で指摘されたのか,19日の衆院平和安全法制特別委員会
で前言を翻します。

つまり,1959年の最高裁砂川事件判決について「限定容認する集団的自衛権の行使が合憲である根拠たり得る」と述べ、「直接の根拠としてい
るわけではない」という15日の答弁を事実上修正したのです(『毎日新聞』2015年6月19日 夕刊))。

次に,菅官房長官が,安保法案を合憲とする憲法学者として名前を挙げ,かつ『東京新聞』にコメントを寄せている三人の言い分をみてみましょ
う(『東京新聞』2015年6月11日)。に

まず,百地章日本大学教授
今回の政府見解は,従来の憲法解釈の基本的な論理を維持しており妥当だが,集団駅自衛権の行使が認められるかどうかは憲法に照らして
判断されるべきで,過去の見解との整合性を気にし過ぎているのではないか。集団的自衛権は主権国家に認められた固有の権利で,保持や
行使は当然だ。

百地氏は,上に述べたと同じ誤りを犯しています。集団的自衛権が一般的に認められていることと,それぞれの国がどう規定するかは別問題で,
日本は,まさに憲法で禁じているのです。

次に西修駒澤大学名誉教授
日本国憲法の成立過程や国際法上の固有の権利を考えれば,集団的自衛権も含めて自衛権の行使は否定されていない。憲法解釈の問題で
はなく政府判断だ。合憲あるいは明確な違憲はではないという学者は少なからずいる。多数か少数かが問題の本質ではなく,説得力があるか
どうかだ。(西氏は6月22日の衆院特別委員会でも同様の発言をしています)

西氏も百地氏と同じく,一般論と日本の憲法との違いを混同しています。

しかも,合憲・違憲の判断は時の政府判断だ,と憲法を曲解しています。いう基本的残念ながら,西氏の論は説得力がありません。

最後に長尾一紘中央大学名誉教授
どの独立国も個別的自衛権を集団的自衛権の療法をもつ。国連憲章にも明記されている。日本国憲法は他国との対等な立場を宣言している
以上,自衛権を半分放棄するという解釈は出る余地はない。法案を違憲という学者の意識は日本の安全保障に危機感を持つ国民の意識とず
れている。

長尾氏も他の二人の憲法学者と同じく,一般論と日本国憲法との違いを無視しています。

さらに驚くべきことに,19日の特別委員会で民主党の辻本氏の指摘で,長尾教授は「徴兵の制度と奴隷制、強制労働を同一視する国は存在
しない。徴兵制の導入を違憲とする理由はない」と,徴兵制さえも合憲だと発言していることがしていることがわかりました。同様の発言は,
百地,西氏もしています(『日刊ゲンダイ』2015年6月20,21日)。

なお,百地氏は10日,『毎日新聞』の電話取材に答えて,「日本の安全保障環境が大きく変化し、米国と手を組んでおかないと日本の安全が
守れないというのが、集団的自衛権行使容認の大きな理由だ。憲法の枠内の政府見解変更であり憲法違反ではない」と主張しました。

同じく『毎日新聞』の取材に長尾氏は,「霞が関の官僚から『国会で名前を出してもよろしいですか』と9日に連絡を受けた。以前からやり取り
があり、了承した」と語りました。菅氏の答弁は毎日新聞の電話取材で知ったという。

菅氏は,安保法制懇にいる,たった一人の憲法学者の名前を問われても,明かしませんでしたが(『東京新聞』2015年6月6日),その憲法
学者の,少なくとも一人は長尾氏であったかもしれません。


長尾氏は、安保法制を合憲とする根拠として、国連憲章が個別的自衛権も集団的自衛権も認めていることなどを挙げ、「戦後70年、まだ米国
の洗脳工作にどっぷりつかった方々が憲法を教えているのかと驚く。一般庶民の方が国家の独立とはどういうことか気づいている」と熱弁をふ
るったそうです。

安保法案を違憲だとする憲法学者を「まだ,米国の洗脳工作にどっぷりつかった方々」と断ずる感覚こそ,驚くべき時代錯誤と現状認識の欠如
ではないでしょうか?

あるいは同様の認識をもった憲法学者であったとしても,このような認識をもつ憲法学者の見解を頼って,安保法案を構想したとしたら,恐ろ
しいことです。

時事通信社の調査によれば,6月の安保法案に対する「反対」の意見は8割を超えていました(注2)

最後に,野党の安保法案と憲法との関係に関する見解を見ておこう。

野党は総じて安保法案は憲法違反であるとの立場をとっています。ただし,維新の党がどうなるは微妙です。

いずれにしても,憲法学会を代表する憲法学者三人がそろって憲法違反だと述べたことは重大であり,安保法案は,一旦引き上げるべきでしょう。

(注1)『毎日新聞』(電子版)2015年6月11日
http://mainichi.jp/select/news/20150611k0000m010129000c.html?fm=mnm
(注2)時事通信社調査 2015年6月15日アクセスhttp://www.jiji.com/jc/zc?k=201506/2015061200570&g=pol

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

安保法案は憲法違反―墓穴を掘る自民の砂川判決の引用―

2015-06-17 05:55:16 | 政治
安保法案は憲法違反(2)―墓穴を掘る自民の砂川判決の引用―

6月4日の憲法審査会において,参考人として呼ばれた三人の憲法学者が,全員,安保法案は憲法違反であることを明言したことにショックを受け,
自民と公明は,その釈明と火消しにあたふたとしています。

現在審議中の安保法案は,集団的自衛権を前提としており,その集団的自衛権そのものが憲法違反である,ということになれば,安保法案の審議
そのものが無意味になってしまうからです。

前回の記事でみたように,3人の憲法学者の見解は理路整然として,誰もが納得できる,安保法安が憲法違反であることの説明になっていました。

自民党執行部は翌5日に続き9日にも,安保法案の合憲性を訴える文書を所属議員に配布しました。

この文書も含めて,執行部はさまざまな場所で弁明におわれていますが,その弁明はほとんど支離滅裂といった感があります。

文書は,「日本を取り巻く安全保障環境が大きく変化する中,抑止力を高めて戦争を未然に防ぐ必要」を訴えています。

この種の主張の根本的な間違いは,では,安全保障環境が大きく変化した,と政府が判断すれば,憲法を逸脱して軍事行動を拡大することができ
るか,という点にあります。

日本は法治国家ですから,もし憲法を超えた軍事行動が必要なら,憲法そのものを変えなければなりません。

憲法を変えるのは大変だから,実質的に改憲と同じ効果を持つ,解釈の変更で突破してしまおう,というのが今の自民党の方針で,それを側面で
支えているのが,公明党という図式です。

今回は,安倍首相の代理を務める菅官房長官の言動を中心に見てみましょう。

4日の憲法審査会が行われた後の記者会見で,菅官房長官は,「全く違憲でないという著名な憲法学者もたくさんいる」と述べました。

翌5日。それでは合憲を主張する学者名が誰かを問われて,「憲法学者全員が今回のことに見解を発表することはない」と答えています。

当たり前です。誰も全員が見解を発表すべき,などと言ってはいません。

これほど稚拙な釈明をしなければならないほど,普段はクールな菅氏が動揺していることを示しています。

ところが,菅氏と政府にとって,事態はさらに悪化してゆきます。

10日の安保法案に関する衆議院の特別委員会で,200人を超える憲法研究者が安保法案は違憲だと表明している,との指摘を受けて,
「数(の問題)ではない」と述べた後,「私自身が知っているのは10人程度」と,合憲論者も「たくさん」から「10人程度」と言い直しました。

ようやく実名を挙げた憲法学者が,百地章日本大学教授,長尾一紘中央大学名誉教授,西修駒澤大学名誉教授の,三人でした。
(この三人の見解については次回に紹介します)

同日の記者会見では,「憲法学者のどの方が多数派で,どの方が少数派ということは重要じゃない(違憲という憲法学者は)一方の見解だ」。

ここでも,菅氏の言葉には,自分でも気が付いていないかもしれない,矛盾があります。

当初は,合憲派の憲法学者も「たくさんいる」と数を強調していたのに,後になると,200人の憲法学者が違憲であると言われると,数は問題
ではない,という風に変わってゆきます。

数の問題では不利とみて,菅氏は衆議院特別委員会では「憲法の番人は最高裁だ」とし,最高裁の砂川事件判決(1959年)を念頭に,「われ
われは最高裁の判決を含め合憲だと思っている」と弁明しています。

政府は,砂川事件判決を,集団的自衛権が合法であることの,ほとんど唯一の法的根拠としています。

しかし,ここには大きな問題があり,自ら墓穴を掘る可能性があります。

砂川判決についてはマスメディアで詳しく解説されていますが,ここではごく簡単に示しておきます。

1957年7月,東京都砂川町(現立川市)の在日米軍の基地拡張に反対する住民が,米軍基地に入り込んだとして,7人が日米安保条約に基づく
刑事犯として起訴されました。

この事件を審査した一審の東京地裁は,1959年3月,在日米軍の存在は,「戦力の不保持」と規定した憲法9条2項に違反しており,7人は無罪
としました(伊達判決)。

しかしこの事件の審査は,通常の裁判手続とは異なり,なぜか東京高裁を飛ばして,いきなり最高裁に持ち込まれ,歳の瀬も押し詰まった12月
16日,最高裁の田中耕太郎裁判長は一審の判決を破棄し,東京高裁に差し戻す判決を下しました。

最終的に,起訴された7人は1961年に有罪となります。

最高裁の判決の要点は以下の4つです。

①憲法は固有の自衛権を否定していない ②国の存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを憲法は禁じていない
③したがって,駐留米軍は違憲ではない ④安保条約のような高度な政治性をもつ案件は裁判所の判断になじまない

現在の政府は,①と②をもって,集団的自衛権は合憲であることの法的根拠にしていますが,これは,あまりにも暴論です。

国が自衛権をもつことは当たり前で,そのために必要な措置をとることも認められています。

ただ,この場合,の自衛権は個別的自衛権で,日本と同盟にある他の国の戦争に参加できる集団的自衛権を認めたものではありません。

この判決後,岸信介首相は,集団的自衛権の行使について「自国と密接な関係にある他国が侵略された場合,自国が侵害されたと同じような立場
から他国に出かけて防衛することは憲法においてできないことは当然(1960年2月10日 参院本会議で)と,集団的自衛権を,はっきり否定していま
す(『東京新聞』2015年6月11日)。

この根本的な点を,政府は意図的に無視しています。さらに深刻なのは,「砂川判決」自体がアメリカの圧力で作り上げられたものであることがほぼ
明らかになりました。

これまで,当時の事実関係について正確な事情は分かりませんでしたが,最近,当時のアメリカの公文書が許可され,そこで砂川事件裁判の背景
を明らかにされています。

これを考える前提として,1959年12月という年月が持つ意味を確認しておく必要があります。

すなわち,翌年の1960年には安保条約の改定が予定されていたのです。

そのような背景の下で,アメリカの公文書によると,伊達判決が出るや否や,駐日アメリカ公使と最高裁の田中裁判長が非公式に会談し,田中氏は
「裁判官の意見が全員一致になるようにまとめ,世論を不安定にする少数意見を回避する」と伝えました(注1)。

また,この文書を読んだ中島岳志北海道大学準教授によると,一審の伊達判決がでるとすぐに,駐日アメリカ大使は外務省に出向き,高等裁判所を
飛び越えて,審理を直ちに最高裁に移し,駐留米軍に関して合憲判断をするよう圧力をかけことが記されています。

この経過を知れば,なぜ,一審から二審の高等裁判所を飛び越えて一気に最高裁に移したのかが理解できます。

つまり,安保条約の改定に間に合わせるために,直ちにアメリカの望む判決を出すよう圧力をかけたのです。

そして,最高裁の判決前日に田中裁判長はアメリカ当局に,駐留米軍は合憲とすることを伝えていたことも分かりました。(注2)

つまり,当時の日本では司法権の独立しておらず,1959年の最高裁判決は,アメリカの脚本と振り付けと圧力で,日本の最高裁判所の田中裁判長
(実際には日本政府)が脚本どおりに演ずる,という日米合作だったのです。

しかし,マスメディアも憲法学者も(私が知る限り中島氏を除いて)はこうした経緯には触れません。アメリカまで行って公文書を読でない
のかも知れません。

アメリカの圧力と介入という側面の他にも問題はあります。最高裁判決は,米軍の存在が合憲か違憲かだけを判定し,集団的自衛権には一切触れ
てはいません。

したがって,59年の最高裁判決集団的自衛権の法的根拠にはなりません。

そして,このように政治性を帯びた案件は裁判にはなじまない,と裁判長が判決で述べており,中島准教授がいうように,この判決はいかなる意味
でも日本政府に,何らかの「お墨付き」を与えたものではありません。

以上に述べたように,59年の最高裁判決は,どこから見ても集団的自衛権の法的根拠にはなりえません。

それどころか,アメリカの圧力で作り上げられた判決であることが明らかになってしまいました。

菅官房長官は,それでも,「最高裁判決」をもって,集団的自衛権を前提とした今回の安保法案は合憲であると言い張っています。

これにたいして,自民党内部からも木村義雄参院議員は,砂川事件の最高裁判決を集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈について「短絡的だ。
後で傷口を広げるので言わないほうがいい」と求めました(『東京新聞』2015年6月10日)。

木村議員が言うように,砂川事件の最高裁判決の正当性,公平性に疑義がでて否定されれば,自民党の主張は一気に崩れてしまいます。

その時,この最高裁判決を持ち出すことは,「傷口を広げ」自ら墓穴を掘ることになります。

『朝日新聞』6月11日の社説は,「また砂川とは驚きだ」と題して,「3人の憲法学者の指摘に、安倍政権が50年以上前の最高裁判決を持ち出して
反論しているが、その主張は牽強付会(けんきょうふかい)(注4)というしかない」と書いています。

安倍首相はG7サミット後の記者会見で、「今回の法整備にあたって憲法解釈の基本的論理は全く変わっていない。この基本的論理は、砂川事件
に関する最高裁判決の考え方と軌を一にする」と語りました。

自民党は泥沼に足を突っ込んでいっています。しかし,無理にでも,砂川判決を持ち出さなければならないほど,政府の安保法案は根拠がないこと
をはっきりと物語っています。

先の憲法審査会で自民・公明推薦の憲法学者,長谷部氏は15日にの会見で,政府が砂川判決を手段的自衛権の根拠としていることに対して「わら
にもすがる思いで砂川判決を持ち出してたが,国民を愚弄している」と痛烈に批判しました(『朝日新聞』2015年6月17日)。

これが,国民の正常な感覚というものでしょう。

(注1)Yahoo News 2015年4月8日(2015年6月11日アクセス)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/itokazuko/20130408-00024312/
このニュースで引用されている NHKニュースは現在アクセスできない。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130408/k10013746941000.html
(注2)2015年6月10日,テレビ朝日「報道ステーション」での中島氏の説明。
(注3)『朝日新聞』デジタル版(社説) 2015年6月11日
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S11801925.html
(注4)「牽強付会」とは,道理に合わないことを無理にこじつけ、理屈づけること。

---------------------------------------------------------------------------------


フランボオアーズの収穫は今が最盛期です。家の片隅に生えている木から毎日,これほどの実が採れます。


今年の収穫から最初に作ったフランボアーズ・ジャムです。今回は4ビンできました。今年中には,あとどれくらいの
ジャムができるか楽しみです。



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

安保法制は憲法違反―各論から違憲判断へ「潮目変わる」

2015-06-10 05:15:52 | 政治
安保法制は憲法違反(1)―各論から違憲判断へ「潮目変わる」―

衆院憲法審査会は6月4日、与野党が推薦した憲法学者三人を招いて参考人質疑を行いました。

三人とは,自民党、公明党、次世代の党推薦の長谷部恭男氏(早稲田大大学院法務研究科教授,東京大卒。著書に「憲法と平和を問いなおす」など),
民主党推薦の小林節氏(慶応大名誉教授。慶応大卒。著書に「白熱講義! 集団的自衛権」「憲法改正の覚悟はあるか」など),維新の党推薦の笹田
栄司氏(早稲田大政治経済学術院教授。九州大卒。著書に「司法の変容と憲法」「実効的基本権保障論」など)です。

この日の審査会の本来の趣旨は,立憲主義などをテーマに議論する予定でしたが,民主党の中川正春元文部科学相が、「先生方が裁判官なら安保
法制をどう判断するか」と各氏の見解を聞きました。

結論を言えば,立場も主義主張も違う三人ですが,全員が「違憲だ」と答えました。三人の答えは以下の通りです(注1) 

長谷部恭男氏
    集団的自衛権の行使が許されるとした点は憲法違反だ。従来の政府見解の基本的な論理の枠内では説明がつかない。法的な安定性を大きく揺る
    がす。どこまで武力行使が許されるのか不明確だ。他国軍への後方支援活動は戦闘地域と非戦闘地域の区別をなくし,現座の指揮官に判断が委
    ねられる。その結果(憲法が禁じる)外国の武力行使と一体化する恐れが極めて強い。

小林節氏
   違憲だ。憲法九条(2項)は,海外で軍事活動する法的資格を与えていない。集団的自衛権は,仲間の国を助けるために海外へ戦争に行くことだ。
   後方支援は日本の特殊概念で,戦場に後ろから参戦するだけの話だ。兵站なしに戦闘はできない。米国の部隊が最前線でドンパチやり,武器は日本
   が引き受ける,露骨な「戦争参加法案」だ。国会が多数決で法案を承認したら,国会が憲法を軽視し,立憲主義に反することになる。

笹田英司氏
   内閣法制局は自民党(の歴代)政権と共に安保法制をずっとつくってきて,「ガラズ細工」とはいわないが,ぎりぎりのところで(合憲性を)保っ
   ていると考えていた。今回は踏み越えてしまっており,違憲だ。政府が昨年に閣議決定した文章は,読めば読むほど,どうなるのだろうかとすっき
   り理解できなかった。国民の理解が高まるとは思えない。後方支援については小林名誉教授と同じく,大きな疑問を感じている。

以上の三人の趣旨は非常に明快で,今回の安保法案は明らかに,憲法違反以外には考えられません。

ここで重要な点は,まず,自民・公明・次世代の党が推薦した長谷部氏さえも,安保法案は憲法違反であると,明言していることです。

佐藤勉国対委員長は,審査会後,参考人の人選をした船田元憲法改正推進本部長から事情を聴取し,参考人は推薦政党の主張に沿った発言をする
のが当然のため,「自民党が呼んだ参考人だから問題なんだ」と注意しました。

しかも,長谷部氏は,憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を認めるのに批判的な学者として知られていたのです(『東京新聞』2015年6月5日)。

実は,当初自民党は長谷部氏ではなく,司法制度改革を通じて同党とつながりのあった佐藤幸治京都大名誉教授に要請しましたが拒否され、代わりに
長谷部恭男早稲田大教授を選んだ,という経緯があります。

審査会の自民党メンバーは「長谷部氏は立憲主義の権威でもあり、この日の議題に合うと思ったが、野党にうまく利用されてしまった」と悔やみました
(注2)。

しかし,もし,佐藤氏が出席していたら,もっと厳しいコメントをしたと思われます。

日本国憲法に関するシンポジウム「立憲主義の危機」が6日、東京都文京区の東京大学で開かれ,部屋に入り切れないほどの大盛況でした。

基調講演で佐藤氏は、憲法の個別的な修正は否定しないとしつつ、「(憲法の)本体、根幹を安易に揺るがすことはしないという賢慮が大切。土台がどう
なるか分からないところでは、政治も司法も立派な建物を建てられるはずはない」と政府を批判しました。

さらにイギリスやドイツ、米国でも憲法の根幹が変わったことはないとした上で「いつまで日本はそんなことをぐだぐだ言い続けるんですか」と強い調子で、
日本国憲法の根幹にある立憲主義を脅かすような改憲の動きを批判したのです(『毎日新聞』2015年6月7日)。

さらに,戦後作られた日本国憲法はGHQ(連合国軍総司令部)の押し付けとも言われる。しかし、佐藤氏は「日本の政府・国民がなぜ、軍国主義にかくも
簡単にからめとられたかを考えれば、自分たちの手で、日本国憲法に近いものを作っていたはずだ」と述べ,憲法はアメリカの押しつけだ,という自民党の
主張をも批判しました(注3)。

次に,政府が常に強調している「後方支援」という言葉は日本だけで通用する概念で,まやかしであること,後ろから参戦するか前から参戦するかの違いで,
どちらも戦争行為である,だから,安保法案は憲法9条違反である,と小林節氏の批判もまことに的を射ており,説得力があります。

政府が,日本の軍事活動は「後方支援」であり,直接に戦闘に加わるわけではない,と主張していますが,前線に武器弾薬を運ぶ行為は,国際常識的には,
明らかに戦争に参加していることになります。

小林氏はさらに,政府が集団的自衛権の行使例として想定するホルムズ海峡での機雷掃海や、朝鮮半島争乱の場合に日本人を輸送する米艦船への援護も
「個別的自衛権で説明がつく」との見解もしめしました。

最後に,笹田栄氏は,これまでの安保法案は,憲法を超えない,ギリギリのところで合憲性をたもってきたが,今回の安保法制は,それを踏み超えているので,
憲法違反である,と憲法との整合性を否定しました。

以上,みてみたように,三人の参考人全員が安保法案を違憲であると断定しています。

表面的には平成を装ってはいましたが,自民党執行部に動揺が広がりました。

3人の参考人がそろって安保法制を批判したことに、自民党国対幹部は「自分たちが呼んだ参考人が違憲と言ったのだから、今後の審議に影響はある」と認
めました。

審議会の主催者である船田氏は記者団に「(安保法案に)多少は話が及ぶと思ったが,ちょっと予想を超えた。参考人の発言一理あるが,現実政治はそれだけ
では済まない」と釈明しました。

菅義偉官房長官は4日の記者会見で「憲法解釈として法的安定性や論理的整合性が確保されている。違憲との指摘は全く当たらない。」としたうえで、「まったく
違憲でないという著名な憲法学者もたくさんいる」と述べました。(『東京新聞』2015年6月5日)

政府が合憲だと解釈すれば合憲になる,という子供だましの論法です。このレベルの主張をする官房長官にも絶望するしましが,もしこんな主張が通ると考えて
いるとしたら,国民はずいぶん馬鹿にされている,と憤りを感じます。

また,5日の記者会見で,「安保法制懇の中に法学者がいる,その報告を受け(集団的自衛権の行使容認を)決定した」と説明しました。

記者から,安保法制懇に憲法学者が1人しかいないことを指摘されると「憲法学者全員が今回のことに見解を発表することはない」と,的外れの返答をしています。
なお,菅氏は,安保法制懇にいる,たった一人の憲法学者の名前を問われても,明かしませんでした(『東京新聞』2015年6月6日)。

安保法制に関する与党協議会で公明党の責任者だった北側一雄副代表は「9条でどこまで自衛の措置が許されるか、(憲法解釈を変更した)昨年7月の閣議決定
に至るまで突き詰めて議論した」と反論。憲法上許される自衛の措置には集団的自衛権も一部含まれるという見解を示して、違憲ではないと強調しました。

公明党は,もはや「平和の党」の看板を降ろしてしまい,自民党の補完勢力,「自民党公明派」になった印象を受けます。

どうやら,公明党は自民党に与党から切られることに強い恐怖心をもっているようです。

いずれにしても,今回の審議会は,個別事案に関する解釈という各論から,そもそも政府が提出している安保法案全体が,憲法違反であるかどうか,という根幹の
問題に立ち返らせたという意味で,非常に意義のある審議会でした。

しかし,考えてみれば,本来なら,国の法制の根幹である憲法をベースにして安保法案の正否,合憲・違憲を検討すべきなのに,政府・与党の論理は,安保法案を
通すために,憲法の解釈を変える,という逆立ちした論になっています。

この意味で,参考人全員が安保法案を違憲であると明言したことは,ようやく議論を出発点に戻したといえます。

ところで,この審議会が行われた前日の6月3日,大学教授ら憲法の研究者グループは,安保法案を廃案にするよう求める声明を発表しました。
声明の骨子は,

1.法案策定までの手続きが立憲主義,国民主権,議会制民主主義に反する
2.歯止めのない集団的自衛権の行使につながりかねず,9条に違反する
3.地球のどこでも米軍等を支援し,一体的に戦争協力することなる,というものです。

声明への賛同者は,呼び掛けを始めて一週間後の5月末に130人,6月3日には171に達し,さらに増える見通しです。

今日本は,憲法九条を骨抜きにして,他国のためにも海外派兵ができる国にするか,憲法九条をまもるのかどうか,方向を大きく変える転換点に立っています。

一旦,海外派兵をすれば,引くに引けず,ずるずると戦争に引き込まれてしまいます。その結果,自国にもアジア諸国にも甚大な被害を与えた過去の過ちを絶対
に繰り返してはなりません。

(注1)以下は,『東京新聞』2015年6月5日の要約による。
(注2)『毎日新聞』2015年6月5日(電子版)http://mainichi.jp/select/news/20150605k0000m010125000c.html?fm=mnm
(注3)『毎日新聞』(電子版)2015年6月6日)  http://mainichi.jp/feature/news/20150606mog00m040002000c.html

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

安保法制案の閣議決定―うさん臭い「不戦の誓い」と自衛官の怒り―

2015-05-27 22:54:42 | 政治
安保法制案の閣議決定―うさん臭い「不戦の誓い」と自衛官の怒り―

2014年7月1日,集団的自衛権行使容認の閣議決定が行われました。

集団的自衛権の行使とは,日本が攻撃されなくても,日本の自衛隊が同盟関係にある他国(実質的にはアメリカ)の支援のために
海外で軍事行動をすることです。

この閣議決定の内容が実施されるためには,安全保障関連法案(以下「安保法案」と略す)が国会で承認される必要があります。

その安保法案が2015年5月14日に閣議決定され,19日から国会審議が始まりました。

この法案の中身については別の機会に譲るとして,今回は,まず,閣議決定された14日の夕方行われた,安倍首相の会見の中身
と,自衛官の反応を見ておきたいと思います。

まず,安倍首相の記者会見です。

会見の冒頭で,閣議決定の意義を次のように表現しています。

    70年前、私たち日本人は一つの誓いを立てた。もう二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。この不戦の誓いを将来
    にわたって守り続け、国民の命と平和な暮らしを守り抜く。この決意の下、本日、日本と世界の平和と安全を確かなもの
    とするための平和安全法制を閣議決定した。

この冒頭の,「不戦の誓い」を表明することによって,今回の安保法案が,あたかも「戦争を避けるための法案」であるかのような
印象を与えることを意図したとしたら,何と国民を馬鹿にしている発言か,というのが会見の模様をテレビでみて抱いた私の,率直
な印象でした。

法案の中身をみれば,そして従来からの発言を考えれば,どう考えても,日本の自衛隊が海外に出向いて戦争に参加することを意図
した法整備であることは明らかです。

それでも,冒頭に「不戦の誓い」を述べることで,いくらかでもそれを信じる人がいると踏んでいるからなのでしょう。

冒頭の部分に続いて,「もはや一国のみでどの国も自国の安全を守ることはできない。」と述べます。

ここは,一転して,日本が海外派兵して他国の戦争の支援をすることが必要であることの導入部に移ります。

それは,日本を取り巻く安全の環境が脅かされる事態が次々と起こっているからだ,という根拠を述べます。

そこで,ここは日米軍事同盟を強化し,アメリカの軍事力を頼みつつ,ある時はアメリカを支援しつつ日本の安全を図っていくべきだ,
という「不戦の誓い」とは逆の方向に話が進んでゆきます。

なぜなら,アメリカが他国に攻撃された場合,地球のどこであろうと日本は支援に回ることが想定されているからです(「周辺事態法」
の改正により)。

ことろが,この理屈だけを強調すると,軍事化への意志があまりにも露骨になってしまうので,少しトーンを下げます。
    
    日本の安全を脅かす脅威があるので,だから私は近隣諸国との対話を通じた外交努力を重視し、首相就任以来、地球儀を俯瞰
    (ふかん)する視点で積極的な外交を展開してきた。いかなる紛争も武力や威嚇ではなく国際法に基づいて平和的に解決すべき
    だ。この原則を繰り返し主張し、多くの国々から賛同を得てきた。外交を通じて平和を守る。今後も積極的な平和外交を展開し
    ていく。

外交により脅威を取り除くため,地球規模で積極的な平和外交を展開してきた,つまり,戦争を避けるための努力をしてきたことを強調
します。

しかし,よく考えてみると,安倍首相が積極的に外交を行った相手国を良く見れば,その大部分は,日本が経済援助をしようとしている
国が中心です。つまり,バラマキ外交だったのです。

その反面,日本の安全保障の面で,安倍首相がもっとも深刻な問題を抱え,脅威を感じている中国,対立の溝が埋まらない韓国,北朝鮮,
ロシアに行っての外交交渉は行っていません。

積極的な平和外交を展開しつつも,「同時に万が一への備えも怠ってはならない」とし,やはり,日本の武力行使を可能とする方向に話
をもってゆきます。

ただし日本の軍事力では脅威を防ぎきれないので,我が国の安全保障の基軸である日米同盟強化に努めてきた,という点が強調されます。

日本が攻撃を受ければ米軍は日本を防衛するために力を尽くしてくれる。その米軍が攻撃を受けても日本自身への攻撃がなければ、何も
できない、何もしない,ということでいいのか,という安倍首相の安保論が語られます。

つまり,アメリカの軍事活動の「後方支援」を行う,という集団的自衛権の行使を正当化しています。

他方,日本がこれまで,ペルシャ湾での機雷掃海,東南アジアでの国連平和維持活動(PKO)などを引用して,これからはさらに積極的に
海外でも軍事活動を展開してゆくことが,述べられています。

安保法案の個々の問題については,国会の審議をみて,再度触れるとして,ここでは安倍首相の会見に見られる表現と,今回閣議決定さ
れた安保法案の文言について見てみましょう。

今回の安保法案は,大きく二つに分かれます。一つは,「平和安全法整備法案」で,これは10の法案を一つにまとめたものです。

もう一つは,新たに設ける「国際平和支援法案」で,これは,国際平和のために活動する他国軍を支援する恒久法です。

この法案には大いに問題はありますが,今回はそれには触れず,次の点だけを指摘しておきたいと思います。

上記二つの法案にはいずれにも「平和」という文言が入っています。

これらの法案が戦争への参加を可能にするものであるからこそ,ことさら「平和」という文言で,その本質を隠し薄めようとする意図が
露骨に感じられます。

それだけに,「平和」という文言が一層「うさん臭く」響きます。

これは安倍首相の会見の冒頭で,「不戦の誓い」という言葉を聞いたときに感じた「うさん臭さ」と同じです。

両方とも,本質を隠すための修辞法(レトリック)―この場合,ごまかしのテクニックというニュアンスで―です。

ところで,安倍首相の会見を聞いた自衛官はどのような印象をもったでしょうか?

もちろん,立場上,正面切って言えないこともあるでしょうし,緘口令が敷かれた職場もあるので,大半は「命令があれば行きます」と答
えてはいるものの,本心は分かりません。

10年ほど前に,イラクに派遣された陸上自衛隊の幹部は,「現場を知らない官僚や政治家が作り上げた法案。隊員が殺し,殺される,血
なまぐさい話が退けられている」,と,核心を突く点を指摘しています。

そして,現在進行している安保法案審議について,「自衛官の命の問題と向き合わない机上の議論が進んでいる」と,これまた核心を突く
批判をしています。

また,「駆けつけ警護」について,「武器の使用は必要最小限にとどめると政府は言うが,手持ちの火器でやみくもに応戦しても,犠牲が
増えかねない」と話しています(注1)。

さらに,14日に閣議決定がなされたことを受け,現役の自衛隊員からは,海外で大幅に広がる自衛隊の活動に批判と不満が聞かれました。

関東地方のある陸上自衛隊員によると,仲間内では安保法制の話題が出たとき,「海外派遣? 駆けつけ警護? ふざけんな!」と口を
そろえたという。

「復興だったら喜んで海外にも行くけど,他国の戦争にこちらから出かけて行って参加したくない」というのが若い世代の本音だという。

「すくなくとも私の周辺では,今の政府の行動に賛成している者はいません。余計なことをするな,のひと言に尽きます」

こうした,隊員の本音を聞いたら,安倍首相はどう感じるでしょうか?

政府に批判的なのは,若い隊員だけではありあせん。

航空自衛隊のベテラン隊員は「外国を守ることに使命感を持っている隊員はほとんどいない。そうした隊員が多い中で法が制定されても,
実戦に対応できるのか」との戸惑いをみせています。

元自衛官の泥憲和氏は「安倍首相は戦争の実態をよくわかっていない」と批判しています。

また泥氏は「身も知らぬ国に行って殺し殺されるのが自衛官の仕事ではない」という自身の信念をのべ,昨年から安保法制に反対する公演
を80回行ってきました(『東京新聞』2015.5月19日)

(注1)『朝日新聞 デジタル版』(2015年5月15日) 
   http://digital.asahi.com/articles/ASH5D774SH5DUTIL04K.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASH5D774SH5DUTIL04K


---------------------------------------------

【いぬゐ郷だより】ここ10日ほど,佐倉の水田の田植えをしています。機械を使わない手植えで。おまけに,
 不耕起栽培なので,去年の雑草を取り除きながらの作業なので,非常に時間がかかります。現在は2人ほどでやっているので,
 4枚の田んぼの田植えが全て終わるのは早くて6月半ばころでしょう。



去年の雑草を抜きつつ苗を植えてゆく



田植えの終わった1枚の田んぼ



里山と谷津田の風景    








  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「粛々と」―住民の声を無視する「上から目線」

2015-04-11 06:06:10 | 政治
「粛々と」―住民の声を無視する「上から目線」―

4月5日,菅義偉官房長官は,沖縄を訪れ,翁長雄志沖縄県知事と会見し,基地問題について会談
を行いました。

翁長県知事は,昨年11月の県知事選で仲井眞弘多前県知事を破って当選して以来,安倍首相,菅
官房長官,中谷防衛大臣との会談を申し入れていました。

しかし,安倍首相と菅官房長官は,表面的には多忙を理由に面会を拒んできましたが,中谷防衛大
臣は3月13日,政府の立場をストレートに語りました。

中谷防衛相は「(翁長知事は)工事を阻止するということしか言われていない。もう少し、沖縄県
のことや国の安全保障、そういう点を踏まえてお考えを頂きたい」と述べました。

さらに翁長知事との会談について,「会って良い結果が出れば良いと思うが、より対立が深くなる
ということでは会っても意味がない」と現段階で会う予定はないと語りました。(注1)

中谷防衛相の発言が,政府の偽らざる本音でしょう。つまり,政府の方針に反対する人間には会
わない,という傲慢な姿勢を中谷氏は語ってしまったということになります。

それでも,今回,菅官房長官が沖縄を訪れたのは,今までの姿勢の転換かと思わせますが,必ず
しもそうとは言えません。

今回の沖縄訪問は,菅官房長官が,ある評論家の表現を借りると,「練りに練った」日程だった
ようです。

会談を拒否してきた菅氏が沖縄を訪問したのは,普天間飛行場付属の米軍住宅地の返還式典に主
席することでした。

この式典に臨んだ後の公式会見で,政府も基地の負担軽減に努力している,ということを知事と
沖縄県民に印象づけることができる,と考えたからのようです。(注2)

しかし,もし,そうだとしたら,あまりにも魂胆が見え透いており,知事や沖縄県民の共感を得
るどころか,その意図のあざとさに反感を買うだけでしょう。

もう一つの理由としては,今までのように露骨な拒否態度や強権的な言動が世論の反発を招き,
4~5月に予定されている統一地方選挙に影響しかねないとの懸念が与党内に広がっていた背景
があります。

菅官房長官の沖縄訪問がようやく実現した背景にはこのような事情があったのです。

つまり住宅地の返還式典を利用し,また統一地方選挙で不利にならないように,という思惑が,
今回の訪問の,本当の理由だったようです。

予想されたことであるとはいえ,今回の会談は平行線でした。菅官房長官は,

     米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設は,日米同盟と抑止力の維持,危険性除去を
    考えた考えたとき唯一の解決策だ,・・・・,政府は承認いただいた関係法令に基づき,
    周辺環境に配慮しながら,工事を「粛々と」進めていく,

と従来の政府見解を繰り返しただけでした。

これに対して翁長知事は,

    今日まで,沖縄県が自ら基地を提供したことはない。県民に大きな苦しみを与え,世界
   で一番危険だから危険性除去のために(新たな基地を)負担しろと。こういう話がされ
  ること自体が,日本国の政治の堕落ではないか。

と強く反発しています。

ここは大切なところです。つまり,普天間基地の土地を,県民が進んで差し出したのなら,それ
を廃止する代わりに別の基地を提供せよ,というなら一応筋は通る。

しかし普天間基地は強制収容された土地であり,それを返すから,別の土地を指し出せ,という
うのは全く理屈に合わない,問題の解決を沖縄に押し付けるのは「日本国の政治の堕落だ」と
言っているのです。実に正しい,筋の通った話です。

また,菅氏が繰り返し「粛々と」という言葉を使用したことに対して翁長知
事は,
   (移設に向けた)工事では,国から「問答無用」の姿勢が感じられる。上から目線で「粛
々」との言葉を使えば使うほど,県民の心は離れ,怒りは 増幅する

と,菅官房長官と政府の強権的な姿勢に怒りをぶつけました。

「粛々と」という表現は,安倍政権では頻繁に使われますが,これは,「あ
なたが何を言おうが,私たちはやりたいことをやります」,「話し合う余地はありません」とい
う,「問答無用」の姿勢を示しています。

さすがに,県民と世間の批判を浴びて菅氏は会見で,「『上から目線』ということだったので、
そう感じられるのであれば、表現は変えていくべきだろう。不快な思いを与えたなら使うべき
ではない」と述べました。

しかし、新基地建設については「関係法令に基づいて適切に対応していく方針に変わりはない」
との表現で進める方針を強調しました。

菅官房長官は,「粛々と」という言葉が「上から目線」という印象を与える
なら表現を変えるべきだ,と弁解しました。

しかし,「そう感じられるのであれば」という弁解には,言われなければ,この言葉の強権的な
意味合いであることに気が付いていないほど,
権力に奢っている本音が表れています。

しかも,批判されているのは,言葉だけの問題ではなく,そのような言葉の背後にある,沖縄
県民の声に耳を傾けない政府の姿勢です。

この重要な点に気が付いていません。そこで,「粛々と」「適切に」
という言葉に代えて,批判をかわしたつもりでいるのです。

翁長知事の菅氏に対する怒りには,「粛々」という言葉の他に,新基地に反対する翁長氏の姿勢を,
「この期に及んで」などと批判してきた経緯もあり,一気に怒りが噴出したようです。

県幹部によると,これほど厳しい口調の翁長氏はめずらしいようです。よほど,腹に据えかねた
のでしょう。

翁長氏は会談の中で,「国民を洗脳するかのように,普天間の危険性除去のためには辺野古が唯一の政策というが,
本当か」と追及しました。これも非常に重要なポイントです。

安倍政権は,普天間の危険性を除くには,あたかも辺野古への移設が唯一の解決策であるかのごとく,
県民にも国民にも信じ込ませようとしてきました。

これを翁長氏は,「洗脳するかのように」と反論しています。

翁長氏の言葉の裏には,もしどうしても別の基地が必要なら,沖縄以外に移設する努力をすべきだし
(それは政府の責任でもある),さらに,政府は日本における米軍基地の縮小に向けた真剣な交渉を
アメリカとすべきだ,という強い主張があります。

そして翁長氏は菅氏に「辺野古の新基地は絶対に建設できないと確信している」と強く断言してい
ます。

この背後には,先の知事選で辺野古への基地新設を容認する仲井前知事にたいして,これに反対す
る翁長氏は10万票以上の大差で勝利した,つまり県民は辺野古への基地新設には反対であるという
意志がはっきり示されている,という確かな根拠があるからです。

今回の会談にたいして6日の『毎日新聞』の夕刊は「国vs沖縄県 普天間移設で緊迫:これでも民
主国家?」という特別枠で3人の識者の意見を掲載しています。

ルポライターの鎌田慧氏は,政府のやり方を,県民を分断する,まるで植民地支配だと述べています。

反対派はゲート前で座り込みを続けていますが,そのゲートを固めるガードマン,移設工事の関係者,
防衛省関係の国の出先機関の人など,
地元の人たちがたくさんいます。

つまり,政府は,同じ県民どうしを対立させることにより分断する,「分断して統治せよ」という,
かつて欧米諸国が植民地支の配際に採用して生きた常套手段をを沖縄にも適用している,と非難して
いるのです。

前滋賀県知事の嘉田由紀子氏は,国と対峙してモノ申すことがどれほど大変か,知事経験を通して骨
身に染みているだけに,基地建設作業の停止を沖縄防衛局に指示した時の会見をテレビで見て,思わ
ず拍手をしたという。

翁長氏の工事停止指示に対して横やりを入れてきたのが国で,これは地方自治の危機だと思う,との
コメントをしています。

最後に,沖縄出身の作家,目取真俊氏は,日本政府と本土の皆さんは,安保条約に基づく基地提供の
義務を沖縄に押し付けていること,先の戦争末期には米軍の爆撃と銃火器による犠牲,日本軍による
銃殺,食料強奪,暴行などを受けた歴史をみようとしない。

続けて目取氏は,「かつて沖縄が本土復帰を願ったのは,人権が保障され,9条がある日本国憲法の
下で暮らしたかったからであるのに,
今や集団的自衛権行使が容認され,9条も危うい。

「官房長官は『粛々と』と繰り返します。つまりこれは聞く耳は持たないということ。独裁国家とど
うちがうのでしょうか。」と,痛烈に政府を批判しています。

鎌田氏と目取氏はそれぞれ,今回の菅官房長官(政府)の姿勢にたいして「植民地主義」「独裁国家」
という,かなり厳しい表現で批判していますが,実態からみるとかなり本質を突いていると思います。

いずれにしても,政府はアメリカの信頼を得るために,一方で沖縄県と法廷で争いつつ,同時にガー
ドマン,警察その他あらゆる手段を使って実力で反対派を排除して辺野古基地の建設を強行するでし
ょう。

しかし,沖縄県民の圧倒的な反対の声を無視して新基地を建設しても,長期的にみて正常に機能する
保障はありません。
政府はこの点を十分考えるべきです。

(注1)「テレ朝news(デジタル版)」(2015年3月13日)
http://news.tv-asahi.co.jp
/news_politics/articles/000046267.html

(注2)この解説も含めて,翁長―菅会談の内容や背景に関しては,4月6日の『東京新聞』,『朝日
新聞』,『毎日新聞』の朝夕刊の記事を参考にしています。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2014年衆議院総選挙―誰が勝者で誰が敗者か―

2014-12-20 07:09:58 | 政治
2014年衆議院総選挙―誰が勝者で誰が敗者か―

今回の衆議院選挙は,いくつもの異常な側面がありました。

一つは,第二次安倍内閣が発足して2年で,特別な理由(大義)がないのに解散をしたことです。

これについては,このブログでもすでに何回か書いていきました。

二つは,今回のような一種の「奇襲作戦」は,ゲリラのように,勢力の小さい方が大きい方に仕掛ける
のが普通ですが,今回の選挙は逆に,圧倒的に優勢な与党(自民党と公明党)が,少数勢力の野党に仕掛けたことです。

安倍政権は,野党の準備が整う前に選挙を実施し,徹底的に野党を潰してしまおうと,奇襲的な作戦に出たのです。
圧倒的な優位をもつ政党が,なりふり構わない行動をとるのはやはりフェアではないと思います。

「安倍首相の安倍首相による安倍首相のため」の選挙に700億円もの税金を使うことに,何のためらいも感じない
安倍首相の姿勢も問題です。

三つは,今回の選挙でとても異様だったのは,安倍政権の側がメディアに対して行使した露骨な
圧力や高圧的な姿勢です。

11月18日のTBS系「NEWS23」に出演した安倍首相は,街頭インタビューに応じた町の人が,アベノミクスの恩恵は届いて
いないなど,否定的な意見を答えていた映像をみて,「(インタビューの相手を)選んでおられると思いますよ」といい,また,
賃金が上がっていないという街の声に対して,「おかしいんじゃないですか。6割の企業は賃上げをしているんですよ」
と一方的にまくし立てました。(注1)

7-9月のGDPは二期連続マイナスで,賃金も連続15か月減少していることがすでに発表されていたにも関わらず,です。
この「6割の企業」の根拠も不明です。

さらに,メディアに対する報道規制ともいえる文章が,自民党筆頭副幹事長・萩生田光一および報道局長・福井照氏の連盟で,
衆議院解散前日の11月20付で,「要望書」という形でNHKと在京のテレビ局に送られました。

それは「選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い」という文書で,「出演者の発言回数や時間」
「ゲスト出演者の選定」「テーマ選び」「街頭インタビューや資料映像の使い方」などを含んでいます。

そのような中、当初は各党の議員と政治家以外のパネリスト数人が討論するという構成であった討論番組『朝まで生テレビ!』
(テレビ朝日系/11月29日放送)が、放送日直前に議員のみの出演に変更されました。

出演予定者だった評論家の荻上チキ氏のツイッターによれば、放送日2日前の27日に番組スタッフから電話があり、
「ゲストの質問によっては中立・公平性を担保できなくなるかもしれない」との理由で議員のみの出演に変えると伝えられたという。

荻上氏は「番組スタッフに『誰かが何か言ってきたりしたんですか?』と確認しましたが、あくまで局の方針と番組制作側の方針が
一致しなかったため、とのことでした。

番組スタッフも戸惑っていた模様です」とコメントしています。(注2)

大学の文化祭に,安倍内閣に批判的な孫崎享氏を講演者に予定していた大学が,直前になって断った事例もあります。

大学の中にも,安倍政権批判を自粛するムードがあります。

さらに,12月8日付の文書で自民党滋賀県連の佐野高典幹事長が,「びわこ成蹊スポーツ大学」の学長である嘉田由紀子前滋賀
県知事が民主党の公認候補の街頭演説の参加したことに対し,次のような趣旨の文書を,大阪成蹊学園の石井理事長に送りました。

それは,私学といえども私学振興という税金が交付されていること言及したうえで,一般有権者を前にして,特定の政党,
候補を大々的に応援することは,教育の「政治的中立性」を大きく損なう行為であり,大学の学長のとるべき姿とはとても
考えられない,というものです。”

これに対して嘉田氏は「教育基本法14条では『学校での政治活動』については『中立』と書いてありますが,学外や時間外での
教育関係者の(政治的)行動を禁止していません」と反論しています。(『日刊 ゲンダイ』2014年12月13日)

メディア側の萎縮は,菅原文太さんの死亡に関連した報道にも現れています。

よく知られているように,菅原さんは反戦や脱原発を訴えてきましたが,テレビの追悼番組では晩年の政治的な発言には触れず、
映画スターとしての功績だけを追うものが目立ちました。

無農薬有機農業を広めることと、再び戦争をしないよう声を上げること,の二つの「種」を世にまいた、とつづった妻文子さん
のコメントのうち、肝心の農業や不戦に触れた部分を削除して報じたテレビもあったのです。(注3)

ここには,自民党政権の言論に対する圧力と,自粛というメディア側の萎縮の姿勢がくっきりとみられます。

安倍首相の高圧的な姿勢は,テレビに出演した際の対応にも現れていました。

投票日に日本テレビのニュース番組「ZERO」に出演した際,村尾信尚キャスターがアベノミクスに対する批判的な質問
を始めると,イヤホンをはずし(つまり,相手のいうことを聞かず),自分の主張だけを一方的にまくしたてました。(注4)

安倍首相は自分に対する批判にはムキになって反論し,相手が間違っている,自分は正しいという主張を一方的に繰り返しています。

四つは,投票前に大新聞がこぞって,「自民圧勝」あるいは「自民単独で300議席超え」といった予測を
報じていたことです。

しかし結果をみると,自民党の獲得議席は291議席で安定多数を維持したものの,前回の293議席を下回っています。

また政党支持率を示す比例代表の得票を全国の有権者数を分母してみると,1770万票で,17%にすぎません。

自民党の小選挙区の得票数をみると,2005年の小泉内閣の「郵政選挙」では3200万票,2年前の2012に自民党が政権を奪回
した時には2564万票,そして今回は2530万票弱で,自民党の得票数は一貫して減少し続けています。

こうした事実にも拘わらず,多くのメディアが今回の選挙を自民党「圧勝」とか「大勝」と書き立てるのはおかしいと思います。

五つは,投票率が戦後最低で,52.66%強,つまり有権者の2人に1人ほどしか投票していないことです。

ここまで投票率が低いと,当選した議員で構成される国会の正当性も根底から疑われます。オーストラリアでは投票は義務
でもあり,投票に行かないと罰金を科せられます。

今回の選挙の低投票率については二つの背景があるように思います。

一つは,「主要紙が序盤情勢で有権者の投票意欲を失わせた結果ですよ。自民300議席超の圧勝観測をタレ流し,
『選挙に行っても,この国は変わらない』とあきらめムードを蔓延させた」という見方です(評論家の川崎泰資氏のコメント
『日刊 ゲンダイ』2014年12月16日)。

確かに,現政権が維持されることが確実視されていると,自分の投票が「死に票」になるのを嫌って,自民党に投票したという
場合もかなりあったと推測されます。

この点に関して文芸評論家の齋藤美奈子氏は「圧勝報道の害」というコラム記事で,注目ポイントは,このような低投票率
にもかかわらず,「自民党が議席を減らしたことだろう」と適格なコメントを書いています。(『東京新聞』2014年12月17日)。

つまり,投票率が低いと,組織票をもっている自民党に有利なります。それにもかかわらず,自民党が議席を減らしたこと
こそが,今回の選挙で注目すべき点だと言っているのです。

もう一つは,若者(とりわけ20代の若者)の投票率が低いことです。これは,たんなる「政治への無関心」や「あきらめ」
とはちがう,若者が日本の政治に「見切りをつけてしまった」からではないか,と私は危惧しています。

賃金は減少し続け,老後の年金も当てにできない。加えて,巨額の財政赤字も,使用済み核燃料などの厄介物の処理も自分たち
の世代に付け回されることを若者は知っています。

若者にとって,現状も将来もマイナスばかりを抱える人生になってしまいます。

慶応大学の金子勝氏は「若者が見放した日本の政治」というコラムで,今回の選挙における若者の低投票率に関連して次の
ように書いています。

   ひょっとすると,日本社会が若者を使い捨てにし,未来を奪っていることに対して,若者が政治を見捨て,この国を静かな
   ファッショに向かわせているのかもしれない。
   未来の崩壊を早めることが,20代,30代のひとつの「希望」になっている気がしてならない。(『日刊ゲンダイ』2014年12月17日)

つまり,日本に希望があるとすると,落ちる所まで落ち,崩壊を早める以外にはない,という若者の絶望的な心情が彼らの低投票率
をもたらしているという見方です。

少し極端に聞こえるかもしれませんが,私も共感するとことがあります。しかも,この心情は若者だけでなく,多くの日本人の
心の底に流れているのではないか,と私は恐れています。

この意味で,今回の選挙の「勝者」は誰もいないが,「敗者」は日本の政治構造そのもの,実質的に政治を支配している
「大人世代」なのではないか,と感じています。

(注1)https://www.youtube.com/watch?v=1N773Bii9vg でこの時の会話を映像を見ることができます。是非,実際に聞くことをお勧めします。
(注2)http://biz-journal.jp/2014/11/post_7521.html
(注3)『毎日新聞』(2014年12月17日)
     http://mainichi.jp/shimen/news/20141217dde012200002000c.html
(注4)https://www.youtube.com/watch?v=870gENf36U4 このサイトでも実際のやり取りを聞
 くことができます。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「第二の敗戦」?―戦後日本が直面する最大の危機―

2014-12-15 07:18:15 | 政治
「第二の敗戦」?―戦後日本が直面する最大の危機―

最近の2~3年,「敗戦」という言葉が私の頭をめぐっています。

もちろん,日本がどこかと戦争をして負けたという意味ではありません。そうではなくて,日本という国と社会が,
大きく崩壊しているという,漠然とした感じです。

そんな折り,たまたま,上田紀行氏の「第三の敗戦」と題する記事(上,下二回)という記事を読みました。
(『東京新聞』2014年11月8日,15日)。

第一回目の記事(上)のサブタイトルは「『支え』なくした社会 使い捨てと保身」で,第二回目のそれは
「『大人も正義感持て』心の廃墟からの復興」となっています。

上田氏は,日本が第二次世界大戦で軍事的に敗北したことを「第一の敗戦」としています。

「第一の敗戦」の後,日本は見事に復興を成し遂げ,1980年代後半には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」
と経済的勝利に酔いしれた。

ところが90年代初頭のバブル崩壊は一転して経済的敗戦という「第二の敗戦」をもたらしたという。

確かに,これは日本社会と経済に大打撃を与え,その後20年ほどは,この「敗戦」から立ち直れませんでした。

この意味で,バブルの崩壊を「第二の敗戦」と位置付けることも不可能ではありません。

上田氏が「第三の敗戦」と呼ぶのは,2006年ころの小泉政権時に,人が「使い捨て」にされる社会に日本が
行きついたことです。

上田氏は,この状況の中で,若者たち,とりわけ非正規雇用の若者,ワーキングプアと言われる若者たちは,
自分たちが「使い捨て」状態に置かれていることを痛切に感じているだけでなく,それを追認していることに怒りを
感じたと述べています。

もう一つの側面として,社会的な正義といったものに若者が無関心になり,ひたすら自分の保身を優先するように
なったことです。

上記の問題について私なりに少し補足しておきます。小泉政権時代には,新自由主義(徹底した市場原理主義)
が政策に取り込まれ,国際的にはグローバリズムの名の下で日本の企業は激しい国際競争と,国内企業間,さらに
企業内で社員間の競争が激しい競争にさらされました。

この状況は,強いものが勝つ「弱肉強食」の風潮が蔓延し,自己責任が強調されるようになりました。

強いもの,勝者はまずます強く豊かになるが,弱者や敗者はさらに不利な立場に追い込まれてゆきます。

これは格差の拡大をもたらしますが,小泉元首相はかつて国会でも,格差が拡大することは悪いことではない,
とはっきり言っていました。

この小泉路線を,現安倍政権はさらに露骨な形で引き継がれています。すなわち,残業代ゼロ政策,正規雇用を
減らし,非正規雇用をもっと増やそうとする政策は,人件費というコストをできる限り抑えたい企業の要請に
応えたものです。

第二次~三次小泉内閣に当たる2003~2006年が日本社会のあり方として大きな転換期であったことは確かです。

以上の諸点を総合的に勘案して,上記の小泉政権時代に「弱肉強食」「弱者切り捨て」という非情な世界に突入した,
という意味でなら上田氏がこの時期の変化「第三の敗戦」と命名したことは必ずしも的外れではありません。

ただし,上田氏が指摘した,バブルの崩壊による「第二の敗戦」も,小泉元首相の新自由主義がもたらした
「第三の敗戦」も,経済的な破たんと市場原理主義がもたらした,人々の「心の廃墟」をもたらし,自分の保身に
走り社会正義に対する関心が薄くなることも深刻な「敗戦」であることは確かです。

上田氏が指摘する第二,第三の敗戦という区分は,日本にとって大きな挫折・打撃であったことを十分に認めた上で私は,
これら二つの「敗戦」とは比較にならないほど深刻な「敗戦」がここ数年の日本に起きつつあると感じています。

それを,第二次世界大戦の軍事的敗戦(「第一次敗戦」)に次ぐ大きな敗戦という意味で敢て,「第二の敗戦」と
名付けたいと思います。

「第二の敗戦」

私が考える「第二の敗戦」とは,2011年「3・11」の東日本大震災・福島第一原発爆発事故と,それに続
く第二次安倍政権が発足(2012年)して以来強行している,一連の政策と法制化です。

原発事故と安倍政権の政治とは,これまで日本人が,深く疑うことなく依拠してきた「国の土台」が根底から
崩壊してしまった,あるいは崩壊しつつあるという意味で共通しています。

まず,原発事故ですが,日本は40年以上にわたって,あまり意識することなく,むしろ当たり前のこととして
原発によって作られた電力を使ってきました。

その際政府も電力会社も,原発が立地している地域の住民と,日本国民に,原発は絶対に安全で,他の発電
より安いという「安全神話」が繰り返し宣伝してきました。

国民の間には以前から,原発にたいする不信と危険性にたいする批判はありましたが,今回の事故が起こるまで,
日常生活のなかでそれらが表面化することはありませんでした。

しかし,「3・11」原発事故は「安全神話」を一挙に吹き飛ばしてしまいました。

また,原発ビジネスは「原子力村」と称される,政・官・財・学(大学・研究者)の利権集団によって推進して
いることが明らかになりました。

もう一つ大事なことは,原発事故により,近代科学にたいする信頼が揺らいだことです。つまり,一見合理的で
効率的にみえる近代技術は,必ずしも安全ではなく,むしろ大きな危険を抱えることに,国民の多くが気づいたのです。

現在でも,かつての故郷に帰ることができない避難民が23万人以上もおり,さらに使用済み核燃料や高濃度
放射性廃棄部物の最終処分場も決まらないまま,出口のない袋小路に追い込まれています。

今回の原発事故は,いわば,アメリカではなく,日本人が日本人にたいして投下した「原爆」
による敗戦
です。

以上,福島原発事故が引き起こした深刻な事態が「第二の敗戦」の第一幕です。

「第二の敗戦」の第二幕は,第一幕のすぐ後にやってきました。

それは,安倍政権は,憲法九条に象徴される平和主義,国民主権による民主主義,個人の自由と人権の尊重など,
戦後日本の根幹をなしてきた「国の形」「国の基礎」を根底から変えつつあります。

つまり,ナショナリズムの復活,戦争ができる国への転換,平和主義の放棄,国民主権による民主国家から国家主義へ,
という日本という国の形を変えようとしました。

簡単に言えば,戦前のような日本への復帰,憲法九条に縛られた平和主義から戦争のできる国へ転換することです。

もっとも,この第二幕には,途中で挫折はしましたが,それに先立つ備工作がありました。

2006年の第一次安倍内閣は自らの内閣の性格を「美しい国づくり内閣」とし,目標に「戦後レジームからの脱却」
を掲げました。

この時の安倍政権は,閣僚の不祥事や不適切な発言により辞任し,自らの病気もあって,わずか1年で首相を辞職に
追い込まれました。

それでも,防衛庁を防衛省に昇格させ,憲法改正手続きに関する法律(国民投票法)を可決させ,憲法改正への一歩を記しました。

2012年,当時自民党総裁だった安倍氏は「日本を取り戻す」というスローガンを掲げて圧勝し,民主党から政権を奪還しました。

第二次安倍政権が発足すると,まずは,国民の関心事である経済の立て直しを目指すとして,いわゆる「アベノミクス」
政策を打ち上げました。

安倍氏の「本丸」(本当の目的)が憲法九条の改定にあることは周知の事実です。第二次安倍内閣発足後の2年間は,ひたすら,
その準備を進めました。

まず,2013年11月には防衛・外交など安全保障政策の立案や提言を行う,日本版NSC「国家安全保障会議」を設置しました。

次に,同年12月には,特定秘密保護法案が強行採決され2014年12月10日に施行されました。これにより秘密を洩らした
公務員や民間人は厳罰に処せられることになりました。

しかし,政府は自分たちだけの判断で情報を「秘密」指定ができることになり,秘密の範囲があいまいで,指定の妥当性を
チェックする仕組みが十分ではありません。

しかも,最終的には政治・行政文書は廃棄まで可能ですから,後に事実を検証することさえできないのです。こうして国民の
「知る権利」が大きく奪われてしまうのです。

2014年4月には,それまでの武器輸出三原則を廃止し,新たに「防衛装備移転三原則」を決定し,それまで禁止されていた
武器の輸出と国際共同開発を可能にしました。

そして,2014年7月には,集団的自衛権の行使容認を,国会での審議をすることなく,いわば裏口から侵入するような手法で
閣議決定してしまいました。

これにより,日本の自衛隊は他国(実態はアメリカ)のために戦争を行うことができるようになるのです。

もちろん,この閣議決定を実効的にするためには関連法案を整備する必要がありますが,それも国会での圧倒的な多数をもって
すれば全てクリアできると考えているようです。

安倍首相は,武器輸出三原則の「武器輸出」の部分を「防衛装備移転」と言い換えたり,実態は戦争行為を認める集団的
自衛権の行使容認を「積極的平和主義」と表現し,「戦争」を「平和」という言葉に言い換えています。

イデオロギーの面では,2006年の教育基本法を改正し道徳教育,愛国心などが公教育で強調され,これと連動して,
教科書検定もこの考えにそって厳しく行われるようになりました。

こうした,一連の政治決定を並べてみれば分かるように,安倍政権がこの2年間で行ってきたことは,まずは集団的自衛権
によって,実質的に日本を「戦争ができる国」に変え,次に,憲法改正により名実ともに「戦争ができる国」に作り変えること
を可能にするための準備工作であったことが分かります。

第二次世界大戦で国民も周辺諸国にも多大な人的・物的は犠牲をもたらしましたが,唯一,得たものは憲法第九条だった,
という見方があります。

日本国憲法は交戦権を認めず,国際紛争を解決する手段としての戦争の放棄を謳っています。

日本が戦後,国際社会で尊敬されてきた面があるとすれば,それは技術でも驚異の戦後復興でもなく,戦争の放棄を謳った
憲法第九条をもっているという,この事実こそが根拠になっていると思いまます。

安倍首相は,この点を過小評価していますが,もし日本が憲法第九条を放棄したら,国際社会がこれまで日本に抱いていた
尊敬は失われるでしょう。

2014年12月14日の衆議院選挙で,自公合わせて326議席という圧倒的多数を獲得した現在,「第二の敗戦」はもはや
「危惧」ではなく現実のものとなりつつあります。

以上の観点から,現代の日本は戦後初めて,極めて危険で深刻な「第二の敗戦」を迎えていると感じています。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大義なき衆議院解散(3)―幻想のアベノミクスと危険な「第四の矢」―

2014-12-08 08:53:54 | 政治
大義なき衆議院解散(3)―幻想のアベノミクスと危険な「第四の矢」―

このシリーズの(1)で,安倍政権の本当の狙いは集団的自衛権行使を容易にし,憲法改正までをも視野に入れた,
政治軍事的野心であることを書きました。

今回は,第二次安倍政権の2年間に行われた経済政策を,「アベノミクス」に焦点を当てて,それがどのような結果をもたらしたのかを
検証します。

ところで,アベノミクスという言葉は,もともとは第二次安倍政権が発足した際に,大胆な金融緩和によってデフレからの脱却を目指す
政策に対してマスコミが命名した言葉でした。

それ以後いつしか安倍首相自身も,自らの経済政策を「アベノミクス」と呼ぶようになっています。

安倍政権は今回の衆議院解散を「アベノミクス解散」であると位置づけ,あたかもこの2年間の経済政策の是非を問うかのようなポーズ
をとっています。

しかし,アベノミクスという言葉頻繁に発せられてきたにもかかわらず,実際には,この2年間は,国家安全保障会議,特定秘密保護法案,
集団的自衛権の行使容認など,戦争に直接間接にかかわる案件ばかりに時間とエネルギーが注がれてきました。

目立った経済政策としては「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指し,法人税の軽減を行うなど企業の優遇政策に力をいれてきました。

これにたいして働く者に対しては,残業代ゼロ,派遣などの非正規労働の増大と固定化につながる法改正に力を入れ,経済的弱者を救済
する発想はほとんどありません。

安倍首相は,現在のアベノミクスはうまくいっているから,今後もこれを続けてゆくと述べていますが,もし,うまくいっているなら,
何も消費税を延期する必要はありません。

しかし,安倍首相も認めているように,現在の景気は良くありません。これは今年の4月に消費税を5%から8%に上げたことで,
一挙に景気が後退期に入ってしまったからです。

それでも現在の自民党は,すでに好循環がはじまっているとの主張を繰り返しています。11月27日朝の情報番組で,ある都内の自民党
候補の言葉に私は耳を疑いました。

彼は,「アベノミクス」により「デフレから脱却し」「賃金が上がり」「消費が増える」という好循環が始まっている,と述べた後,
今回の選挙は「これでいいんですね」ということを問う選挙だと言いました。

この候補のレベルがこの程度なのか,とびっくりしましたが,考えてみれば,これが自民党の公式見解なのです。

安倍首相が誇らしげに語る雇用の改善にしても,この2年間に非正規雇用は123万人増えましたが,正規雇用数は22万人減ったのです。

つまり,非正規雇用という不安定で低賃金労働者を増やし,正規雇用を減らしてきたのです。これと連動して,年収200万円以下の人は
30万人増えています。

こうした現状を反映して,実質平均賃金は今年9月には2.9%マイナスで,連続15か月下落し続けています。

一般の国民の家計は,賃金の減少に加えて円安による輸入品物価の高騰,それに消費増税よって大きく傷んでいます。(注1)

これでは消費が増えるはずはありません。

これに対して,大企業から成る一部上場企業1380社の本年度上半期(4-9月)の最終利益14兆3070憶円になり,過去最高を記録しました。

しかしその約半分は,上場企業全体の2%程度にすぎない上位30社で占めています。

安倍政権は,優良企業が利益を上げれば,やがて労働者や地方にも利益が「滴り落ちる」(トリクルダウン)という好循環が始まると主張
してきましたが,そのようなことは全く起こっていません。

それどころか,現代の日本では,格差がいままでになく拡大しつつあります。

そもそも,「トリクルダウン」は,実体経済が目覚ましく拡大している開発途上国では起こり得ますが,先進資本主義国ではほとんど
起きていません。

アメリカのレーガン政権時代もイギリスのサッチャー政権時代も,トリクルダウンが生ずるから,といいつつ自由競争と大企業優先の
政策を行いましたが,結局,トリクルダウンは起きませんでした。

日本でも実体経済が拡大していた高度経済成長期にはトリクルダウンが起きましたが,バブル崩壊以後,それは起こっていませんし,
全般的な景気後退状況にある現在の日本では起こりえません。

安倍首相自身が経済についてよく理解していないだけでなく,首相のブレーンの経済学者が時代遅れの理論を信じているのか,
あるいは事実を見誤っているとしか言えません。

安倍政権の目論見は,日銀による大規模な金融緩和で円安を引き起こし,輸出を増やして景気を回復させることにありました。

しかし,輸出企業の多くは生産拠点を海外に移しているので円安でも輸出は伸びませんでした。かつてアメリカへの自動車輸出は日本経済
をけん引してきましたが,

2014年上半期をみると,この分野も8.9%減少しています。

ただ,トヨタなどが空前の利益を得ているのは,輸出台数は減っても円安による為替差益のおかげで受取額が増えているからです。

こうしたマイナス要因が相互に影響して,経済状態全般を示すGDP(国内総生産)の値が,2期連続マイナスになっているのです。

つまり,好循環ではなく悪循環が始まっているのです。

消費増税が実施された今年の4月-6月の四半期が7.3%(年率換算)と大きく落ち込んだ時,政府は,これは想定の範囲内であり,
7月-9月四半期はV回復して少なくともプラス2%にはなる,と予測してきました。

民間の調査機関は,プラス4%くらいの上昇が見込めるという推定値さえ出されました。

しかし,実際にはプラスところか,速報値でマイナス1.6%でした。つまり政府見通しより,3.6%も悪化したのです。

さらに12月8日に発表された改定値では,7-9月期のGDPは年率でマイナス1.9%に減少し,政府見通しより3.9%も低下して
しまったのです。

ここで深刻なのは,消費増税の反動で大きく落ち込んだ4-6月四半期のGDPよりも,7-9月期の方がさらに低かったことです。

二期連続,これけGDPが減少したのは,日本経済がまぎれもなくデフレのサイクルに入っていることを示しているのです。
そして,これらの事実が示しているように,アベノミクス失敗したのです。

それでは,政府見通しのどこに読み間違いの原因があったのでしょうか。経済学者の伊東光晴氏は「本格的な経済学をやっていない
グループが首相のブレーンだから,理論上あり得ない」ことを実行しているからだ,と切り捨てています。(注2)

彼は,「第一の矢」は飛んでない;「第二の矢」は折れている;「第三の矢」は音だけの鏑矢,と表現しています。
もう少し具体的にみてみましょう。

「第一の矢」は「大胆な金融緩和政策」により消費者物価2%上昇を目標に,市中への貸出金利を下げるよう誘導しました。
そうすれば,企業の設備投資も個人の消費も増えるという目論見です。

しかし,安倍政権(およびそのブレーン)が見誤ったのは,利子率が低下すれば投資が増えるだろうという古典的な理論です。

伊東氏は,企業投資の決定要因は利子率なんかではなく利潤が期待できるかどうかである,という事実を指摘しています。

また,金融緩和で市中にお金が大量に出回って物価が上昇すれば,老後に備えて貯えた預貯金は相対的に価値がさがり,
目減りしてゆきます。したがって,人々はますますお金を使わなくなり,個人消費は増えません。

こうした,「理論上あり得ない幻想」に基づいているため,伊東氏は「第一の矢」は「飛んでいない」と結論します。

ただし,安倍首相は,日経平均株価が第二次安倍政権発足時の1万円台から6000円以上上がったことを「アベノミクス
」の効果と宣伝しています。

しかし伊東氏によれば,株価の上昇は外国のファンド資金が日本に流れ込んだためで,決してアベノミクス効果ではありません。

実際,日本の実体経済が向上しているから株価が上昇しているわけではありません。現在,日本の株式の40%は外国の
ファンドが保有しており,取引の60~65%は外国のファンドです。

これらのファンドは,リーマンショックで落ち込んでいた欧米の株価が回復し投資枠を超えたために,2012年ころから日本株
を買うようになったのです。

しかも,無制限の金融緩和(お金を無制限に刷って市場に流すこと)は,貨幣価値をさげることですから,いつかは増税か
手持ち財産の減少という形で,そのつけは,いずれを国民が払わされることになるのです。

アベノミクスの「第二の矢」は国土強靭化政策を中心とした,財政出動で,公共事業によって需要創出を図ろうとする政策です。

これは巨大地震に備えて建物や堤防などの耐震化,避難路の整備などに10年間で200兆円を投入するとされています。

しかし,2014年度の公共事業関係予算は6兆円です。

現在の国債残高を見ても,すでに1000兆円を超えており,到底,公共事業を増やす余裕はありません。

さらに悪いことに,土木事業は人手不足で予定された工事が満足に進行していません。

こうした現実から伊東市は,「第二の矢」は「折れている」と結論したのです。

最後に「第三の矢」ですが,これは規制緩和によって「民間投資を喚起する成長戦略」です。じつは,ここが最も深刻な問題で,

結局,めぼしい成長戦略はこの2年間出てきませんでした。

無理に挙げるとすると,今年の6月に一般用医薬品(市販薬)のインターネット販売を正式に解禁したことくらいです。

このように考えると,伊東氏が「第三の矢」を「音だけの鏑矢」と命名したのもうなずけます。伊東氏は,掛け声だけで実質的な
効力のない,「第三の矢」を,的を射るための矢ではなく,放つと音が鳴るだけの鏑矢にたとえているのです。

以上みたように,結局「三本の矢」はいずれも有効に放たれることなく現在に至っています。

伊東氏は結論として,この二年間,安倍政権は経済政策をはじめとして効果のあることは何もやってこなかったに等しい。
今解散したのは,それがばれる前に選挙をやってしまえば引き続き政権を担えるから,と,安倍政権の経済政策を厳しく
批判しています。

さらに伊東氏は,「三本の矢」は全て失敗に終わりましたが,「第四の矢」こそが危険性をはらんでいると警告しています。

伊東氏が言う「第四の矢」とは安倍首相が掲げる「戦後レジームからの脱却」を指しています。これは,日本を戦争が
できる国に戻し,国際紛争を武力で解決しようとすることです。

今回の選挙後には,背広脱ぎ捨て,その下に隠されていた鎧が全面的に表に出てくる可能性があります。私たちは,
この点を注視する必要があります。



(注1)http://www.nikkei.com/article/DGXZZO80100870V21C14A1000000/
(注2)以下の伊東氏の見解は,『東京新聞』2014年11月19日を参照。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大義なき衆議院解散(2)―検証:公約無視の第二次安倍内閣―

2014-12-04 05:23:44 | 政治
大義なき衆議院解散(2)―検証:公約無視の第二次安倍内閣―

“安倍首相の 安倍首相による 安倍首相のための”衆議院選挙が,財政難の日本で700億円以上もかけて行われます。

この解散・総選挙に大義がないことは前回書きましたが,今回は2年間の第二次安倍内閣が何をしてきたかを検証してみたいと思います。

まず,下に示した表は自民党が2年前の衆議院選に際して掲げた公約と,現状を対比したものです。(『東京新聞』2014年11月19日)

     

上記の問題のほとんどはこのブログでも何回か取り上げてきました。そして,経済に関しては,いわゆる「アベノミクス」の成否を中心
として次回のブログ記事で独立して扱うので,今回は,それ以外の問題について検証してみたいと思います。

まず,「特定秘密保護法」は,前回の衆議院選では公約にはまったく示されていませんでした。民主主義の大前提である
「知る権利」を根底から揺るがすこの法律を,昨年(平成25年)の秋に強行採決してしまいました。

国会で多数をもっていれば何でもできる,という安倍内閣の傲慢さがもっとも露骨に出ている案件です。

集団的自衛権の行使容認に関して,前回の選挙の公約として書かれていますが,それは「国家安全保障基本法」を
制定するという条件付きでした。

しかし,この法律を通すためには国会での審議が必要となるため,安倍首相は基本法を制定することなく,憲法解釈変更という,
いわば「裏口」からこっそり入る姑息な手法で閣議決定してしまいました。

上記の2件から見られるように,安倍首相は民主主義のルールを無視した,危険な手法を多用します。

次に,原発・エネルギー問題です。2年前の衆議院選挙の公約では,「原子力に依存しなくてもよい経済,
社会構造の確立を目指す」と同時に,
「最優先課題として再生可能エネルギーの最大限の導入を図る」としていました。

しかし,今年2月25日に発表された「エネルギー基本計画」では,原発は「ベースロード電源」(常にほぼ一定の出力で発電を行う電源,
で安定的電力供給の基盤となる)と位置付けられました。

つまり,これからも原発は最重要電源として維持してゆくことを明確に示したのです。この背景には,原発稼働を望む電力会社,
それらから多額の献金を受ける国会議員,産業界の圧力などがあります。

福島第一原発の爆発事故の本当の原因もまだ明らかにされておらず,復興庁の調べでは,今年の10月末現在でも23万9000人もの
避難民がおり(注1),さらに使用済み核燃料や放射性廃棄物の最終処理場さえ決まっていません。

それでも,まだ原発を再稼働させ,必要なら新設さえ可能な含みを持たせようとしているのです。

また,「再生可能エネルギー」の最大限の導入を図るという公約も,選挙向けの人気取り政策としか思いません。

政府は,すでに再生可能エネルギーの固定価格での買取り(FIT)を電力会社に義務図ける制度を導入しています。

これは一見,再生エネ推進の起爆剤になるように見えたのですが,現実にはそうはなっていません。この制度を活用して,
太陽光発電に投資した企業は個人も多数います。

しかし,川内原発の再稼働を申請した九州電力は,再稼働の目途がたった直後に,太陽光発電の電力買取りを中断してしまいました。

この再稼働は,基準を満たしているという原子力規制委員会の判断(当委員会は,決して安全であることを認めたわけではないと
明言しています)を受けて政府が容認したものです。

この例に見られるように,電力会社は,原発を優先する姿勢をなりふり構わず露骨にだしており,九電に続いて,他の電力会社も
次々と買取りを中断してしまいました。

東電は明確な中断こそしていませんが,送電能力の限界を理由に,実質的に大きく制限しています。

一方政府は,電力会社の買取り義務を法制化しながら,こうした電力会社の対応を黙認しており,再生エネの普及を本気で推進しようと
する姿勢がまったく見られません。

それどころか安倍首相は今年の7月,九電会長ら九州の財界人約20名が出席する会合で,「川内(原発)はなんとかしますよ」と,
政府が再稼働を後押しすることを公然と語っています。(『東京新聞』2014年11月25日)

このような一方的な措置に対して,すでに多額の投資をしている個人や団体から強い批判が寄せられたため,電力会社と経産省はようやく,
11月20頃,年内にも買取り再開の方針を固めました。

ただし,買取りは無条件ではありません。「太陽光発電設備からの送電を中断する制度の拡大など供給制限の仕組みを入れることを条件
とする」,という条件付きです。

つまり,太陽光発電の供給が増えすぎた場合,電力会社は一定期間(30日ほど),買取りを拒否できることになっているのです。

もうひとつ,従来は発電の買い取り契約だけしておいて,実際には発電をしない事業者が多数いましたが,これからはそのような業者
に対して買取り拒否できるという条件が付けられました。

これは,本来なら当初から講じておくべき措置で,むしろ遅すぎたくらいです。

次にTPPに関してですが,安倍首相は当初,「聖域なき関税撤廃」を前提とする限り,交渉参加に反対である,
と見栄を切っていました。

しかし私は,この強気の発言は,ポーズにすぎず,やがてアメリカの圧力に抵抗できず,TPPを受け入れることになると思っていました。

実際,このポーズは時間を経るに従ってトーンダウンし,今では「聖域なき関税撤廃」は前提ではない,と譲歩しています。

このブログでもすでに詳しく書いたように(注2),オバマ大統領が来日した時,日本側は,「尖閣諸島は安保の対象」という言葉を
引き出したことで満足し,アメリカへの譲歩を決定的にしてしまいました。

国民にとって非常に重大な問題は,交渉の過程が全て秘密とされていることです。条約が締結されフタを開けてみたら,とんでもない
ことになっていた可能性は十分あります。

政治改革では,2年前,当時の安倍自民党総裁の,議員定数削減を実行するという国会で確約しましたが,いざ政権を取ると,
この「身を切る改革」は完全に無視されました。

社会保障については,財政難を理由に,「弱い立場の人をしっかり援助の手を差しのべると言いながら,
実際には生活保護の日常生活費を2015年度までに670億円も削減してしまいました。

地方分権が何もすすまないまま,基地負担は,相変わらず沖縄に押し付けたままで,まったく軽減されていません。

こうしてみてくると,安倍政権の2年間は,公約違反,公約の変質,公約にないことの抜き打ち的実施など,強引だけが印象付けられます。

最後に,21日衆議院が解散したこともあり,安倍政権の目玉の一つであった「女性活躍推進法案」が廃案後なったことを
付け加えておきます。

(注1)
HTTP://WWW.RECONSTRUCTION.GO.JP/TOPICS/MAIN-CAT2/SUB-CAT2-1/20141031_HINANSHA.PDF
(注2)2014年5月4日投稿記事「オバマ大統領訪日―オバマ氏の誤算と手玉に取られた安倍首相-」。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大義なき衆議院解散(1)-消費増税延期は争点隠し?-

2014-11-30 07:22:01 | 政治
大義なき衆議院解散(1)-消費増税延期は争点隠し?-

安倍首相は2014年11月18日,首相官邸での記者会見で,来年10月に予定されていた消費税率10%への引き上げを,
2017年4月まで1年半先送りする考えでいることを表明しました。

この際,景気が悪ければ増税をしなくてもよい,という「景気条項」を来年1月の通常国会で廃止し,再延期はしないことをも述べました。

その上で,増税延期の判断の是非を国民に信を問うという名目で,21日,安倍首相は衆議院の解散を宣言しました。まだ,任期を2年残
しての解散でした。

この解散については,さまざまな推測やコメント,批判がマスメディアで伝えられてきました。

まず,この解散の理由として安倍首相が挙げているのは,消費増税を延期することを決めたことです。

しかし後に述べるように,国民の目を消費税や経済問題に向けさせるのは,安倍首相の,本当の狙いをはぐらかす,争点隠しでもあると思います。

これに対して,「景気条項」があるのだから,何も国民の信を問う必要はない,したがって解散に大義はない,という批判も多く寄せられました。

安倍首相は,税は民主主義の根幹であり,消費増税を延期するのは重要な変更だから,解散して国民の信を問う必要があると説明しています。

この理由付けは,ほとんど子供だましのようなもので,まったく正当性がないことはことは誰の目にも明らかです。

もし,この延期が,民主主義の根幹である税に関する重要な変更であるから国民の信を問う,ということであれば,安倍首相は,それ以上に重要
な変更をしてきました。

たとえば,強行採決までして特定秘密保護法案を通したことは,民主主義の根幹にかかわる,さらに重要な変更になるのだから,こちらの方こそ
国民の信を問う必要があったはずです。

また,集団的自衛権行使容認の閣議決定も,やはり安全保障にかんする重要な変更ですから,当然,衆議院を解散して信を問うべき問題です。

このように考えると,今回の解散には,国会の審議を中断して政治の空白をつくり,700億円の費用をかけて行う大義はありません。

しかし,安倍首相にとっては,こうした批判は織り込み済みで,国会で絶対多数をもっている現状を背景に,理屈にならない理屈でも押し通して
しまうという強権的な姿勢が前面に出ています。

解散の是非とは別に,なぜ今,このタイミングで解散か,という疑問も多く出されてきました。

自民党議員の中でも,テレビ局のインタビューに答えて「増税延期は解散の大義にはならない」という幹部もいました。

自民党の高村正福総裁は11月14日の党役員連絡会で,「万,万が一,選挙をやるとすればアベノミクスでデフレ脱却,これでいいのかどうか
再確認するための念のため選挙』になるのではないか」と述べています。(『朝日新聞』11月15日,朝刊)

「念のため」の選挙に700億円以上の国費をつかうことに何の道義的な後ろめたさ感じていないところが,自民党の傲慢さと倫理的頽廃を端的に
表しています。

ところで,マスメディアでは,今回の解散が,あたかも突然浮上したかのように報じられていますが,少なくとも安倍首相と菅官房長官との間で,
夏から綿密に計画された,練りに練った解散時期だったようです。(『東京新聞』2014年11月20日)

もちろん,内閣改造直後に,閣僚2人が辞任せざるを得なかったことが,時期を多少早めたことはあるでしょう。しかし,大筋では,
今回の解散時期は安倍首相の心の中では計画どおりのタイミングでした。

それは,すでに多くの人が指摘しているように,安倍内閣の支持率が高いうちに解散し,自公で過半数は間違いなくとれるだろうから,政権は
維持できるという読みです。

それでは何も,今,解散しなくても2年後の衆議院選挙まで待ってもよさそうですが,今解散することには,少なくとも四つの利点があると
考えられます。

これら四つの利点を総合的に考えると,今回の解散総選挙が,「安倍首相の,安倍首相による,安倍首相のための解散総選挙」
であることがわかります。

あるコメンテータがテレビの情報番組で言っていたように,今回の解散劇は,「政治で飯を食っている政治家のあざとさ(きたなさ,ずるさ)」
が突出している安倍首相の政治手法です。

以下に,これら四つの利点についてみてゆきましょう。

一つは,もしここで解散しないと,来年の10月からの消費増税,集団的自衛権の法制化,原発の再稼働などこれから先には,
国民にとって不人気な案件が待ち構えており,安倍政権にとって不利になることはあっても有利に働く状況にはありません。

安倍首相には,選挙をすれば多少,議席は減るかもしれないけれど,その打撃も今なら最小限に留まるだろとの読みがあります。

特に重要なのは,今年の12月に消費税率の引き上げを発表すると,来年4月に行われる全国統一地方選挙において不利になります。
したがって,消費税率の引き上げを先延ばしにすることによって,このマイナスを避けることができます。

さらに10%への増税を2017年4月まで延期すると,2016年夏の参院選で,国民に不人気な増税が選挙の争点にならないで済む,という利点
があります。

つまり,来年の統一地方選挙と再来年の参院選挙において,消費増税を争点からはずすことができるという,自民党にとって有利な状況が
うまれるのです。

安倍首相個人の問題で言えば,今回の選挙で与党が過半数をとれば,来年の総裁選で安倍首相が優位に立ち,今後さらに四年間の政権維持が
約束されます。

二つは,今,電撃的に解散すれば野党各党は選挙への対応ができにくいし,野党間の選挙協力体制も短期間では無理だろう,
という読みです。

事実,野党にとって,この2週間と少しで候補者を選出し,選挙態勢を整えるのは大変でしょう。まして,野党間の協力となれば,
なおさら時間がかかります。

三つは,最初から意図していたのか,付随的に生じたのかは分かりませんが,選挙戦術的なメリットです。

つまり,野党も国民も反対できない消費増税の延期を理由に解散・総選挙をおこなうと,争点がぼけてしまい,有権者としては何を根拠に
投票してよいか分からなくなっています。

こうなると,かなり多くの有権者は棄権する可能性があります。その結果,組織票をもつ自民党と公明党にとって非常に有利になります。

ここまで計算していたとすれば,テレビのあるコメンテータが言っていいたように,「政治で飯を食っている政治家のあざとさ」
ということになります。

四つは,今,選挙をやれば自公で過半数は取れるとうい計算のもとに,安倍政権は今後4年間,国民の信任を得たこと
になります。

今後4年間に集団的自衛権の拡充,集団的安全保障への参加,さらには憲法改正まで視野に入れた安全保障体制の確立,
そして,その前提となる憲法改正(というより憲法改悪)などの政策課題を実現する展望が開けるということです。

安倍首相は,アベノミクスの是非を問うというようなこともしきりに言っていますが,彼のこれまでの言動から判断すると,
本心では,経済はむしろ国民の目を引くための手段で,本心は政治・軍事の面で,戦前の日本への回帰することへの願望の方が重要だと
思われます。

原発の維持と推進は,財界からの資金援助を含む支持を得るという意味があります。しかも,原発を稼働させることによって精製される
プルトニウムは核兵器の材料となるので,その潜在的能力を保持するという隠れた軍事的意味もあります。

今回の選挙については,まず,これまでの2年間に安倍政権がおこなってきた政策・政治の評価が最重要の争点になるべきです。

これらについては,次回に検討したいと思います。

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
【いぬゐ郷だより10】


11月29日には,里山の田んぼにバイオマス・トイレを作るために,雨の中,竹切り作業をしました。
里山で竹を切る作業


里山の秋の風景


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

女性閣僚の辞任について―本当に女性活用なのか―

2014-10-29 07:50:27 | 政治
女性閣僚の辞任について―本当に女性活用なのか?―

2014年10月20日,第二次安倍内閣の看板ともいえる女性5閣僚のうち,小渕優子経済産業相と,松島みどり
法務相の2閣僚が,就任1か月半で同日に辞任をしました。

とりわけ,小渕氏に関しては,将来の初の女性総理とまで,持ち上げられてきた目玉人事であり看板閣僚でした。

したがって,彼女の辞任は,任命権者の安倍首相の人事における大きな失敗であり,9月の内閣改造で政権浮揚を狙っていた
首相の思惑が外れたことを意味しています。

今回の一連の問題に関してはすでに多くの報道があるので,ここではまず,経緯だけを整理しておきます。

最初に問題となったのは,10月7日に国会で追及されたた松島みどり氏の「うちわ」問題でした。以来,松島氏は最後まで
「違法性はない」と主張し,続投にこだわっていました。

しかし自民党関係者が「辞めなさい」と強く諭すなど、先に外堀を埋められたのは松島氏の方だったようです。

そこへ急浮上したのが『週刊新潮』(2014年10月23日号,16日発売)で発覚した小渕氏の政治資金問題でした。

この間の生々しいやり取りを『朝日新聞』は次のように伝えています。
 
  「自分から辞職するお気持ちはありませんか。総理から聞いて欲しいと頼まれました」
  首相官邸は当初、松島の辞任までは想定せず、首相の安倍晋三は「『うちわ』で辞めさせていいのか」と考えていた。
  だが、小渕の辞任が既定路線になると状況は一変した。勢いづいた野党の矛先が松島に向くと予想され、
  国会運営や内閣支持率への影響が必至だったからだ。
  18日に安倍が外遊から帰国すると、菅と首相秘書官の今井尚哉は「小渕さんと松島さんの一緒の辞任がいい」と進言。
  安倍も腹を決め、事態は急展開した。(注1)

首相官邸は自民、公明両党幹部に、「松島さんは辞めさせます」と時機を見て松島氏を,事実上、更迭する方針を秘密裏に連絡しています。

野党から追及された松島氏の「うちわ」配布問題では、自民党内に同情論もあったようですが,松島氏は民主党から刑事告訴をされており,
さらに別の問題もあったようです。

9月の入閣以降、松島氏の言動は法務省幹部らとの軋轢を招いており、政府内では「刑事告発された法相が今後の国会でどう答弁すれば
いいのか」(同省関係者)と悲鳴も漏れていたといいます。

一方,小渕氏に関して首相周辺は当初、「清廉なイメージの小渕氏が『単純ミスだった』と丁寧に説明すれば、乗り切れるのではないか」
「政治家・小渕優子を殺してはいけない」と訴え、自民党幹部も小渕氏を擁護する姿勢を見せていました。

事態が変わるのは、小渕氏側の調査が進むにつれ、多額の不明朗な会計処理が深刻なことが判明したからでした。10月17~18日の
週末にかけて「辞任しかない」(閣僚経験者)との共通認識が、政府・与党内で支配的になりました。『毎日新聞』
(2014年10月21日 東京朝刊)

17日に小渕氏が菅官房長官と会った時には,すでに小渕との間で辞任の方向が決まったようです。

安倍首相は、第1次政権時代に、日を置いて閣僚が辞める「辞任ドミノ」が支持率の低下を招いた苦い経験をもっています。

小渕氏と松島氏が時間をおいて続けざまに辞任すればその悪夢が再現されかねない,との強い危惧がありました。

こうして,官邸は週末のうちに「ドミノ」ではなく、一気に決着を図る「同時辞任」を選択していたのです。
(『毎日新聞』2014年10月21日)

あるコメンテーターは,今回の辞任劇を官邸主導の「管理された辞任」と評していますが,全く官邸主導の辞任劇です。

ところで,今回辞任した2人を含めて,5人の女性閣僚を任命したことに関して,自民党内からも疑問の声が上がっていました。

伊吹文明衆議院議長は,自身のフェイスブックで,
   単に女性だから、能力の有無にかかわらずポストに就けるというパフォーマンスだけは避けなければならなりません。
これは女性に対する逆差別であり,   ポストに就いた女性が結果的に苦しむだけではないでしょうか。

と苦言を呈しています。(注2)

小渕氏が担当する経産省は原発の再稼働に責任を負っていますが,これまで原発について専門知識をもっているわけでなはいし,
また勉強してきたわけではありません。

就任後の記者会見でも,原発を動かさないと石油・天然ガスの輸入増えるから原発を動かすべきだ,という官僚の作文を
読み上げただけでした。

しかし小渕氏は,個人的には原発に危機感も抱いていたようです。9月25日に福島県を訪れたとき,福島第二原発1~4号機
の再稼働は困難との認識を示しました。

さらに10月8日の参院予算委員会では,事故が起こった時の対応を含めると原発は割高になる,と発言しています。

小渕氏は「原子力村」にとって,はなはだ迷惑な存在と映っていたのです。(孫崎 享「日本外交と政治の正体」
『日刊ゲンダイ』2014年10月25日)

他方,松島法務相は経済学部の出身で法律について詳しいわけではありません。特定秘密穂保護法案も担当する法務相に
彼女を選んだ安倍首相の意図が不明です。

こうした,いわば素人の女性議員を閣僚に抜擢する背後には,官邸側に,どうせ実際の政治は男性の政治家が取り
仕切るのだから,との思惑があったように思えます。

評論家の荻原博子氏は「一見,女性に優しい男ほど陰で何を考えているかわかりません。安倍首相も基本は『女は家庭
を守り,男は外で働く』という考え方の持ち主に見える。

その本質を隠すために女性の活用を言いだしたのでしょう」と見透かされています。『日刊ゲンダイ』(2014年10月22日)

安倍首相が鳴り物入りで登用した女性閣僚ですが,世間の風当たりが強いとみると,保身のため,あっさりと更迭して
しまいました。

こうしてみてみると,安倍首相は女性閣僚を,女性の活用というより,集団的自衛権などの問題で失った女性の支持を
挽回するための,政権宣伝のために利用しようとしたと言えそうです。

さて,以上の経過を念頭に置いて,本題の松島氏と小渕氏の問題も整理しておきましょう。

松島氏は,国会に対して,2012-14年にうちわを計2万1980本製作し,174万円支払ったと報告しています。

もっとも松島氏は,「うちわの形はしている」が「うちわ」ではなく「討議資料」で,しかもイベントの後捨てられる
もので経済価値はない,と主張しています。

しかし,あれはどう見ても,「うちわ」以外考えられません。しかも,うちわには「働かせてください もう一度」
と投票を依頼しており,これが「討議資料」とはとうてい言えません。(『日刊ゲンダイ』(2014年10月22日)

「うちわ」は一つ当たり80円の少額のものだから,違法性はない,という意見もあるようですが,何しろ枚数が二万枚を超えて
おり,違法性がないとは言えないでしょう。

いずれにしても,東大の経済学部まで出た松島氏が「うちわの形はしている」が「うちわ」ではない,というばかばかしい
言い訳をする姿は,見ていて見苦しく痛々しい限りです。

国会議員なのですからもう少しプライドを持ってほしいと思います。

次に,小渕氏の問題ですが,ここに自民党の古い体質が見事に出ています。

指摘を受けた小渕氏が調査したところ,例年約2000人が観劇会に参加し,政治資金収支報告書に「(年に)約2400万円の
収入が計上されていなければならない」のに,2010年,11年とも約370万円しか計上されていません。

さらに,2012年にいたっては,記載そのものがありません。観劇会は2009年以前にも2013年以降も模様されていますが,
それについての説明がありません。

差額を補てんしていたとしたら公職選挙法違反だし,記載漏れなら政治資金規正法違反になります。いずれの場合も,
差額がどこから出て何に使われたかが不明で,これが疑惑の本質です。

このほか,資金管理団体がベビー用品や地元の名産「下仁田ネギ」の購入問題では,「県外の支援者らへの贈答品。
政治活動の経費として認められる。会社や団体が関係者に経費で社交辞令するのと同じ」と正当性を主張しました。

しかし,会社というビジネス界の行為と,国民の税金で活動する国会議員の行為とを一緒にしている小渕氏は,
国会議員というものの本質が分かっていません。

実姉がデザインした服飾品の購入に関しても「公私の区別はしっかりつけている」と釈明していましたが,実姉から
服飾品を購入した時点ですでに公私の区別がついていないことに気づいていません。

さらに深刻なのは,小渕氏の写真のラベルが貼ってあるワインのボトルを送ったことに関して,選挙区の人ではない
と答えていたのに,選挙区の住民がこのワインボトル2本をもらったことを証言しています。

もし,これが事実なら,小渕氏の弁明は嘘ということになり,連座制の原則から小渕氏は公民権停止で,現在の
議員資格だけでなく,これから5年間の立候補もできなくなります。

自民党議員の間では,観劇会や野球観戦のようなイベントは,業者を通して実施することが普通なのに,小渕氏は
後援会が直接行っていたために,今回のような問題が起きたようです。

しかし,いまだに,このような票田固め,選挙対策が「政治活動」として一般化しているところに,小渕氏も
自民党も古い体質を引きずっていることを示しています。

国会は立法府であり,国会議員の本来の政治活動は法律を作ること,立法活動であり,そのために高額の報酬と
活動費が税金から支払われているのです。

観劇や野球観戦が,どんな点で立法活動と関係しているのでしょうか。私の知る限り,先進国の中で,国会議員が
このように選挙民を接待することは日本の自民党を除いて考えられません。

小渕氏は,親の地盤・カンバン・カバンを引き継いだ二世議員で,全て周りがお膳立てしてくれる「お嬢様」
という印象です。

このような時,地元の秘書である折田中之条町長が全ての罪を一身に引き受けるパターンも自民党のお家芸で,
またか,という思いです。

現状を見る限り,彼女が日本初の首相という評価はどこから出てくるのか私には理解できません。

(注1)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11425209.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11425209
(注2)https://www.facebook.com/pages/%E4%BC%8A%E5%90%B9-%E6%96%87%E6%98%8E/306388919504640?fref=photo

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第2次安倍改造内閣に思う(2)―総合評価と問題点―

2014-09-11 09:03:51 | 政治
第2次安倍改造内閣に思う(2)―総合評価と問題点―

前回は,9月3日に行われた内閣改造による安倍内閣に対する支持率を中心にみてきました。

今回は,内閣改造に対するもう少し一般的な反応や,閣僚の顔ぶれから見えてくる安倍内閣の方針などを総合的に見てみようと思います。

経済界からは, 日本経済団体連合会(経団連)榊原定征会長が9月3日,第2次安倍内閣の改造人事について、記者団に対し,
「主要閣僚が留任するとともに、政策通の閣僚が多数加わった。

党人事も含め、重厚かつ強力な布陣で、政策の迅速な実行が期待できる」と述べ、歓迎の意向を表明しました。た。

そして新内閣が取り組むべき課題として,東日本大震災からの復興の加速,法人実効税率の引き下げ、エネルギーの安定供給と経済性の確保、
消費税率の着実な引き上げと財政の健全化、地域経済の活性化などを挙げています。(注1)

日本商工会議所の三村明夫会頭は「成長戦略の重要な柱である『女性の活躍』を促進すべく、女性閣僚を増やしたことも時宜を得た」と,
女性の活躍・活用に閣僚を新たに置いたことを評価しています。(『産経新聞』2014年9月4日)

経済同友会の長谷川閑史代表幹事は,「農業・医療・エネルギー分野の抜本的な改革断行による新たな市場創出や、成長産業への失業なき
労働移動を実現する雇用制度改革などは日本経済の自立的成長に不可欠」,「政府の構造改革の加速と、民間企業の変革への挑戦により、
デフレ脱却と経済成長の実現を確かなものに」との要望を強調しました。『日本経済新聞』2014年9月8日)

経団連の要望のうち,エネルギーの安定供給は実質的には原発の稼働を維持することを意味しています。そして消費税を値上して政府が使える
予算を増やし,他方で法人実効税率を下げることで,生活の負担は重くなり,企業の税負担を軽くし,企業にとってのみ都合の良い要望です。

これら経済界の要望をみていると,安倍政権がこれから実行しようとしている政策そのものであることが分かります。安倍政権の実態は,
企業の要望に沿って政策を実行していることがはからずも露呈しています。

今回内閣改造では「女性の活躍相」と「地方再生相」が新設されました。これらのうち,「女性の活躍相」は所管の省庁をもたない無任所大臣で,
具体的な方向性もプランもないので,このポストの有効性は未定です。

しかも,任命された有村治子大臣が,男女共同参画条例を「男らしさや女らしさ否定する」と批判する政治団体「国民会議」のメンバーであるのは
皮肉としか言いようがありません。

女性閣僚で言えば,原発再稼働など厳しい問題が山積みの経産省の大臣として,これまで原発問題に関わってこなかった小渕氏を大臣に任命した
意図が不明です。

鳴り物入りで新設された「地方再生相」ですが,これは,自民・公明党が来年春の統一地方選挙を有利に戦うために新設されたポストで,
地方へのバラマキが行われる口実となることは確実です。

実際,地方再生を口実に各省庁が2兆5000億円以上もの予算を請求しています(うち1兆8000億円が国交省)。(注2)

今回の改造内閣をおおざっぱに総括すると,極めてタカ派的な色彩の濃い,「お友達」を集めた内閣で,女性閣僚5人したことは,実際に仕事の
適正よりも,とにかく人数をそろえただけの感じがします。

安倍首相からすると,首相の地位のライバルとなりうる石破氏と,党内の不満分子を抑える谷垣氏を取り込み,来年の総裁選挙での再選を盤石に
する内閣改造であった,ということになります。

ところで,今回の内閣改造に関して,海外メディアの反応はあまり報じられていないので,以下に二つの新聞だけを取り上げてやや詳しく紹介します。
まず,イギリスの日刊経済紙『フィナンシャルタイムス』を見てみましょう。(注3)

同紙は9月4日付の記事で,新内閣の布陣を,「安倍氏の内閣改造は女性を活用するも保守主義を維持」との見出しで,「安倍氏は女性閣僚の数を
増やしつつ、文化的保守主義が多数を占める内閣の性質は維持した」ともコメントしています。

ここで「文化的保守派」とは安倍首相の価値観と一致するナショナリズム色の強い人を指すものと思われます。

女性閣僚を増やした理由として「安倍政権はこれまで女性有権者の支持獲得に苦労してきただけに(男性の支持率に比べ女性の支持率は10~
15ポイント低い)、女性5人の起用は女性票獲得のための動きと見られている」と分析しています。

同紙はさらに,重要閣僚6人を留任させたが,年金基金を管理する厚労相に,積極運営派の塩崎恭久氏を起用したこと,自民党の新しい幹事長
(安倍総裁に次ぐナンバー2のポストだ)には、元財務相で前自民党総裁の谷垣禎一氏が選ばれたことを重視しています。

谷垣氏は消費税を来年10%に上げることを主張している中心人物なので,これは来年の消費税値上げの布石と見なされています。

ただし,今年4月の増税第1弾は、政府予測を上回る打撃を経済に与えたので,第2弾の増税は延期あるいは中止すべきという声も上がって
いること,また「基本は法律に書かれた通りに進めていくということだが、同時に景気情勢もよく見ていかなければならない」という
谷垣氏の言葉を引用しています。

以上は,日本の大手新聞やメディアがコメントしてきた内容ですが,新内閣の性格について,『ファイナンシャルタイムズ』さらに突っ込んだ
コメントを載せています。

まず,女性閣僚が5人に増えたとはいっても,「欧米流のフェミニストだと勘違いされるような人は女性閣僚5人の中にほとんどいない。
あるいは全くいない。

女性活躍担当相に新しく選ばれた有村治子氏は、・・・・皇位継承資格を男系男子に限る日本の皇室のルール変更には反対している。
また、選択的別姓などの進歩的な動きに反対する保守的政治ロビー団体『日本会議』に所属している」ことを指摘していきしています。

また,「男女を問わず新閣僚のほとんどは『日本会議』をはじめ、伝統主義的あるいはナショナリスト的な主義主張を推進する団体に所属
している。

特に目立つのが、政治家に靖国神社参拝を促す諸団体だ。東京の靖国神社は一般兵士と一緒に戦犯を合祀しており、20世紀初頭の日本の軍国主義
を象徴する場所だと、韓国や中国で多くの人に嫌悪されている」ともコメントしています。

露骨な批判ではありませんが,安倍内閣の右翼的性格にたいしる警戒感がうかがえます。
 
補足しておくと,現閣僚のうち,「日本会議」か「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」のいずれにも属していない閣僚は,
公明党の太田国交相,小渕経産相,松島法相だけです。
 
なかでも高市総務大臣は安倍氏と同じナショナリズム的発言をすることで知られており,最近では従軍慰安婦に関する「河野談話」の見直し
(実質的な否定)や,ヘイトスピーチ禁止を法制化する「ついでに」国会周辺のデモも取り締まる必要があると発言した人物です。

次にアメリカの日刊経済紙『ウォールストリートジャ-ナル』(2014年9月4日)(注4)を見てみましょう。この新聞は内閣改造による
経済的な影響に集中してコメントしています。

安倍晋三首相が3日発表した内閣改造は、一般国民や市場から前向きの反応を受けたが,今回の変更は、約束された「第3の矢」、つまり
構造改革が,近く果敢に実施されると示唆するには十分ではない,と経済効果には疑問符をつけている。

アメリカにとっての朗報として、塩崎恭久氏が厚生労働相になったことを挙げています。それは,塩崎氏は,年金積立金管理運用独立行政法人
(GPIF)がその基金の投資先として,従来よりも多くの割合を株式投資に振り向けることを積極的に進めてきたからです。

これはアメリカの金融業者にとっては歓迎すべきことなのです。

その一方で塩崎氏は,社会保障面で一層広範な改革を支持し、給付削減や拠出金引き上げを提唱している。また,同氏は,労働市場の柔軟化
のための規制撤廃を強く支持するかもしれない。

言い換えると,アメリカは社会保障費を削減し,労働市場で規制緩和(具体的には解雇や残業代のカットをしやすくする)という,
塩崎氏の新自由主義的考え方を歓迎しているのです。

西川公也氏の農林水産相就任も、環太平洋連携協定(TPP)の自由貿易交渉にとって「良いニュース」だとしています。西川氏はTPPの党対策委員長
として活躍してきたから,農水相就任によって、TPP交渉の最終段階を指揮できるかもしれない,と米側は期待しています。

これに対してアメリカにとって「悪い兆候」として,4-6月のGDPは年率で6.8%下落し,可処分所得が6%減少している現状にもかかわらず,
消費税を10%に上げることに熱心な谷垣氏が幹事長になったことを挙げています。

要約すると,イギリスの『ファイナンシャルタイムズ』は改造内閣にみる安倍首相のナショナリズム的性格に警戒色を示しているのに対して,
アメリカの『ウォ-ルストリートジャーナル』は,アメリカの経済にとってどんな影響があるかを重要視していることが分かります。

(注1)『産経ニュース』(電子版 9月3日18時2分) http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140903/biz14090318010016-n1.htm
(注2)『朝日新聞』(電子版 2014年9月10日)
    http://www.asahi.com/articles/DA3S11342512.html?ref=nmail_20140910mo&ref=pcviewpage


(注3)注)『フィナンシャルタイムス』(2014年9月4日)日本語版は
    http://news.goo.ne.jp/article/ft/politics/ft-20140210-01.html.

(注4)『ウォールストリートジャーナル』(9月4日12:03分)
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052970203736504580132792815766962 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第二次安倍改造内閣に思う(1)―支持率47%と64%の不思議―

2014-09-06 21:31:28 | 政治
第二次安倍改造内閣に思う(1)―支持率47%と64%の不思議―

9月3日,安倍首相は内閣改造人事と自民党役員人事を発表し,第2次安倍内閣が発足しました。

今回の内閣改造が,何のために,なぜ,このタイミングで,といった通常の疑問に対してさまざまな解釈がマスメディアで報じ
られています。

たとえば,安倍内閣発足以来,大臣が一人も変わっていないので,有資格者で大臣熱望議員の不満がたまっているので,内閣改造
によってその不満をある程度解消し,合わせて安倍首相の求心力を高めるという内向きの理由のほか,今後想定される難題を乗り
切るために,安倍政権に対する国民的な支持率を上げておくといった狙いなどです。

狙いやタイミングとは別に,今回の改造が国民にどのように評価されたのでしょうか。

新内閣の布陣全体,あるいは個々の閣僚や自民党役員に対する評価は重要ですが,
これらについては別の機会に譲るとして,今回は,内閣改造によって安倍内閣と,問題となっている人事への支持率がどのように
なったかに焦点をあてて考えてみたいと思います。

新内閣の組閣や内閣改造が行われると,新聞各社は内閣の支持率の世論調査を行います。

現在まで新聞社としては『毎日新聞』と『読売新聞』とが内閣改造直後に行った世論調査の結果を,新聞紙面で発表しています。

しかし,いつものことながら,「世論調査」の結果を見ると,その数字に大きな違いがあることに驚かされます。

まず,『毎日新聞』の結果をみてみましょう。毎日新聞社が3日と4日に行った緊急の世論調査によれば,安倍政権を支持するは47%で,
前回調査(8月23,24日実施)と同じです。

(『毎日新聞』2014年09月05日 東京朝刊;毎日新聞電子版)(注1),安倍政権で前回調査(8月23、24日実施)と同じです。

そして,「支持しない」が32%(8月の調査は34%),「関心がない」が18%(同17%)でした。

毎日新聞社の調査では,安倍内閣に対する支持率は2013年9月には60%あったのに,その後,特定秘密保護法案や集団的自衛権の問題
などで一貫して低下し続け,8月の調査ではついに47%にまで落ち込んでしまっていました。

この理由について『毎日新聞』は,「新内閣には歴代最多と並ぶ女性閣僚5人が就任し、地方創生担当相などの新設で新鮮さをアピール。

一方で菅義偉官房長官ら主要閣僚を留任させ、政策の継続性も重視したため、内閣改造が支持率に与える影響が小さかった可能性がある」
と述べています。

内閣を「支持する」と答えた人に理由を尋ねたところ「指導力に期待できるから」が30%で最多。「政策に期待できるから」と
「政治のあり方が変わりそうだから」がともに24%で続いています。

今回の内閣改造と自民党の役員人事で事前に注目されていたのは,幹事長ポストと,幹事長の留任希望を公言していていた石破前幹事長
の処遇でした。

結果は,幹事長には自民党総裁経験者の谷垣禎一氏が,石破前幹事長は「地方創生担当相」に任命されました。

谷垣氏を幹事長に起用した人事について「評価する」と答えた人が47%、「評価しない」の35%を上回わりました。

これにたいして,石破茂前幹事長を地方創生担当相に充てた人事について,「評価する」は全体で35%にとどまり、「評価しない」が43%でした。

自民党支持層だけをみると石破氏の新ポストを「評価する」が55%に対し「評価しない」は28%でしたが,「支持政党なし」と答えた層では,
石破氏の人事を「評価する」は25%、「評価しない」は51%でした。

『毎日新聞』の調査結果から見る限り,谷垣氏の幹事長に対する支持は,まあまあですが,石破氏の新ポストへ評価は,自民党支持層以外では
かなり低いことが分かります。

この背景には,石破氏が当初,自分は幹事長を望む,と公言していたことが影響していたことは確かです。

次に,読売新聞社による世論調査の結果をみてみましょう(『読売新聞』2014年9月5日朝刊;読売電子版,2014年9月4日22時時15分)(注2)。
読売新聞社も3日から4日にかけて緊急全国世論調査を実施し,

その果によれば,安倍内閣の支持率は64%で、改造前の前回調査の51%(8月1~3日実施)から13ポイント上昇しています。

その理由として,『読売新聞』は「女性の閣僚への積極登用や主要閣僚、党役員人事で重厚な布陣としたことへの評価が支持率を大きく
押し上げたとみられる。支持率回復は、経済再生や安全保障法制の整備、「地方創生」など重要課題に取り組む安倍首相にとって追い風
となりそうだ」と指摘しています。

さらに,「支持率が60%台を記録するのは今年5月の60%以来で、13ポイントもの上昇幅は、本社が毎月の世論調査を始めた1978年3月
以降の内閣改造直後としては最大となった。

安倍内閣の支持率は、2012年12月の内閣発足直後の65%から緩やかに上昇し、13年4月には最高の74%に達した。
しかし、集団的自衛権の行使を限定容認した閣議決定直後の今年7月には48%となった」とこれまでの経緯を書いています。

石破地方創生相の起用を「評価する」は54%でした。また,自民党の役員人事では、谷垣幹事長の起用を評価する人は59%でした。

以上,今回の改造に関する評価の一部をおおざっぱに見てきましたが,どうしても気になるのは,新聞社によって,支持率(特に内閣支持率)
に関する世論調査の結果が突出して大きく異なっています。

日本の5大全国紙と言われる,読売,日経,産経,朝日,毎日各紙の一般的な傾向として,保守系新聞といわれる読売,日経,産経の
3新聞は自民党政権支持の傾向があり,
世論調査の結果も自民党への支持率が高い数字を発表しています。

これに対して朝日,毎日新聞は一応,中道・リベラル紙と見なされ,世論調査の結果も保守系3紙ほど自民党に高い数字を示していません。

それにしても,今回の調査に示されて安倍内閣支持率が47%対64%と,その差は17ポイントもあります。

上に書いたように,今年の4月の内閣支持率では47%対74%と,両者の差はさらに大きく27ポイントにも達しています。

これほどの差があると,そもそも世論調査の客観的数字としてどれを信じてよいか迷います。

『読売新聞』の購読者は,自民党政権は日本国民の絶対的支持を得ており,それは今回の改造内閣でも示されている,と感じるでしょう。

しかし,『毎日新聞』の購読者は,内閣改造をしても,結局,内閣支持率は変わらず,半数に満たなかった,という印象を受けるでしょう。

同じ調査をしているのに,なぜこれほどの差が出てしまうのでしょうか。私は,これには二つの可能性があると思います。

一つは,調査対象とした人たちが,どんな方法で何人選ばれ,たかの違いです。まず,『毎日新聞』の場合,調査結果一覧表の横に,
この調査が9月3,4日の二日間,コンピュータで無作為に数字を組み合わせて作った電話番号に調査員が電話をかける,という
無作為抽出法で対象が選ばれ,有権者のいる1754世帯から1037人の回答を得た(回答率59%)と注意書きがあります。

また,福島原発事故で帰還困難となった人と土砂災害を受けた広島の二地区の人の電話番号は除いた,という点も補足されています。

これにたいして『読売新聞』の場合,紙面に緊急世論調査を電話で行ったことの記載はあるが,結果一覧表には,どのような人を何人,
どのようにして選んだかが示されていません。

これが明記されていないと,統計的な数値の信ぴょう性が著しく低くなります。

世論調査で客観的な結果を得るためには,まずは最低でも無作為抽出で調査対象を選んだことを明記し,『毎日新聞』のように付帯的な
条件も示す必要があります。

そうでないと,調査対象者が特定の傾向をもつグループから選ばれたり,統計的に意味のある人数(母集団)ではなく,ごく少数の人を
対象にしているかもしれません。

私は,読売新聞社も,紙面に書いていないだけで,無作為抽出で調査対象者を選んだと思いますが,もしそうだとすると,毎日新聞社の
調査結果が,誤差の範囲をはるかに超えてこれほど大きく異なるのも不思議です。

もう一つの可能性は,毎日新聞社の貯砂では,「支持する」,「支持しない」の他に「関心がない」という項目を入れているのに,
読売新聞社の場合,「支持する」「支持しない」の二つしか選択肢がありません。

このような場合,特に不支持を強く持っていない人が,ムードで「支持する」を選択してしまう可能性があります。

安倍政権に好意的な調査結果であるにもかかわらず,読売新聞社の今回の調査結果でも,安倍内閣のもとで景気回復を「実感していない」
との回答は76%も占めていました。

景気の回復こそが,これまでの安倍内閣の支持率を高く保ってきた最大の理由ですが,それでも76%の人が実感していないというのは,
本音では安倍政権をそれほど評価していない可能性を示唆しています。
ちなみに,毎日新聞社の調査では,暮らし向きが「良くなった」と答えた人は5%,「変わらない」が62%,「悪くなった」が30%でした。

こうした調査の方法も含めて,今回の内閣支持率の数字を見る必要があります。次回は,もう少し細かく,今回の改造に対する評価と
今後の日本にとっての影響を考えてみたいと思います。

(注1) 『毎日新聞 電子版』(2014年9月5日) は    http://mainichi.jp/shimen/news/m20140905ddm001010156000c.html
(注2) 『読売新聞電子版』(2014年9月4日)は,   http://www.yomiuri.co.jp/politics/20140904-OYT1T50106.html 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする