大木昌の雑記帳

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安保法案は憲法違反(4)―「非立憲」という根源的な視点―

2015-06-28 09:08:06 | 政治
安保法案は憲法違反(4)―「非立憲」という根源的な視点―

安保法案の議論が始まったころ,国会内外では,集団的自衛権が適用される具体的な事例は,その要件などについての議論が中心でした。

政府は,どれほど批判されようと,具体的な事例が,いかに非現実的であろうと,同じ説明を繰り返して,70時間という国会審議時間をやり
過ごせば,あとは絶対多数の力で強引に法制化できると,考えていました。

しかし6月4日に開催された衆議院憲法審査会に,3人の憲法学者を参考人として招いた,衆議院憲法審査会以後,文字通り議論の「潮目」
が変わりました。

つまり,安保法案の個別的な問題より,さらに包括的・本質的な,「そもそも」安保法案は全体として憲法違反である,という視点がはっきりと
浮上したのです。

この審査会の2日後,法学や政治学の専門家などでつくる「立憲デモクラシーの会」が東大でシンポジウム「立憲主義の危機」を開き,佐藤
幸治京大名誉教授が基調講演をしました。

この時の佐藤氏の発言要旨は,このブログの「安保法案は憲法違反(1)」(6月10日)でも紹介しましたが,そこでは,安保法案は違憲であ
るという観点から佐藤氏の発言を引用しました。

ただし,このシンポジウムのテーマは「立憲主義の危機」で,佐藤氏の講演の趣旨は,日本の立憲主義の歴史をたどりつつ,現在,その立憲
主義が「非立憲」政治によって危機に陥っていることに警鐘をならすことでした。

「非立憲」という視点は,安保法案が合憲か違憲か,という問題とは別の角度から,見方によってさらに根源的な問題に踏み込んでいます。

現代の立憲主義には,ニュアンスの違いを含めてさまざまな定義があります。ただ,今回の安保法案に関していうと,最も広義には,国家権力
は憲法に基づいて統治を行わなければならない,この意味で権力は憲法によって監視・拘束されるべきである,という考え方です。

したがって,政府・権力が恣意的な解釈で憲法を歪めたりして、憲法の権威を軽んじることは立憲主義に反すること,つまり「非立憲」と言えます。
佐藤氏の基調講演は,世界と日本の立憲主義の歴史をたどる内容でした。

「戦争が立憲主義の最大の敵」であり,立憲主義を考える時に重要なのは「人類が恣意的支配を避けようと自覚し,試行錯誤を重ねてきた歴史
から何をくみ取るか」だ,と述べました。

言い換えると,人類は権力者の勝手な支配をさせないために,試行錯誤を重ね,その最終的な成果が,権力を縛る憲法という制度であり,この
ことを心に留めておくことが大切だ,と言っているのです。

この基調講演では,直接に安保法案には触れていませんでしたが,講演後の討論で,石川健治東大教授は,現在の安倍政権がやっていること
は,「非立憲的な政権運営が行われていないか,とおっしゃりたかったと思う」,と述べています。

また,同じ討論で,樋口洋一東大名誉教授は,「(関連法案の国会への)出され方そのものが(憲法を軽んじる)非立憲の典型だ」と安保法案を,
非立憲であると指摘しました(以上,『朝日新聞』2015年6月16日)。

安倍政権は,憲法は国民が,政府に勝手なことをさせないための制度である,という考え方を真正面から否定しています。

5月20日の党首討論で,安保法案の合法性について岡田民主党党首に説明が全く分からないと言われた安倍首相は,
    我々が提出する法律についての説明はまったく正しいと思いますよ。
    私は総理大臣ですから。
と答えています。

集団的自衛権の違憲性が問題視されている状況で,なお,自分は総理大臣であるから正しい,との主張を繰り返すだけで,安倍首相は,岡田氏
の質問を「はぐらかす」だけでまともに答えていません。

それにしても,総理大臣である自分が国会に提出しているのだから,「まったく正しい」と言い張る首相の頭の中では,憲法の解釈も,時の首相の
権限のもとで変更できるのだ,と考えているのでしょうか。

もし,そうだとすると,それは自分を憲法をも超越した高みに置く,恐ろしい思い上がりであり立憲主義の否定です。

恐らく,選挙に勝ち続けてきたこと,国会では絶対多数を占めているという背景が,安倍首相にこのような暴言を吐かせたのだと思います。

私はこの言葉を聞いたとき,「朕は国家なり」という17世紀フランス・ブルボン王朝のルイ14世の言葉を思いだしました。

本来なら,政府は最上位の法規範・根本原理である憲法に基づいて統治を行わなければならないのに,その時々の政府が憲法の解釈を変える
ことができるとしたら,そもそも法律の頂点に立つ憲法は,憲法としての意味を成しませんし,国家の根幹が失われてしまいます。

それでは,日本の憲法は,どのような理念に基づいているのでしょうか?

「前文」で,日本国憲法は,国民主権、平和主義、基本的人権の尊重の三大基本原理を掲げ,これらは,「人類普遍の類普遍の原理であり、この
憲法は、かかる原理に基づくものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。」と規定しています。

平和主義にかんしては,「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」,と謳っています。

「前文」の平和主義の理念・原理・原則は,憲法9条でさらに具体的に以下のように示されています。
    1. 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、
      国際紛争を解決    する手段としては、永久にこれを放棄する。
    2. 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

以上から明らかなように,政府の行政も法律も,全て,憲法に基づいていなければならず,もし,それを超える行為をしようとすれば,憲法その
ものを変えなければなりません。

それを,正面から憲法改正をせず,あたかも裏口からこっそり侵入するように,解釈によって憲法を無効化してしまうことは,立憲主義の理念
と真っ向から対立します。

行政が憲法違反しないかどうかを最終的に判断するのは最高裁判所ですが,各省庁が作成した法案の原案について,条文に問題がないか
をチェックするのが,内閣府に置かれた部署が内閣法制局です。

憲法違反と判断された法律は無効となるため,内閣法制局は「法の番人」でもあります。

『東京新聞』は,過去5人の元法制局長官から安保法案に対する見解を取材しています(『東京新聞』2015年6月2015年6月20日)

任期の古い順に,大森政輔氏(1996-99年),津野修氏(1999-2002年),秋山収氏(02-04年),阪田雅裕氏(04-06年),宮崎礼壹氏(06-10年)
の,1996年から続けて5人の歴代法制局長官です。

この5人の中で,津野氏は,「一般論とし集団的自衛権の行使は違憲だが,政府の論理は非常に抽象的。具体的条文が違憲か否かは,説明
を聞かないとよくわからない」として,「判断できず」と答えています。しかし,「合憲」とは言っていないし,「一般的には違憲」と述べています。

後の4人は明確に「違憲」である,と断定しています。

大森政輔氏は,そもそも集団的自衛権が認められないことは自民党内閣が言い続けてきたことだ,と自民党自身の自己矛盾を指摘しています。

第一次安倍内閣(2006-07年)などで長官だった宮崎礼壹氏は,「憲法をどう読んでも,武力行使が許されるのは日本に攻撃があった時のみ。
集団的自衛権が許されないのは理論の帰結。一部認められとの弁明はこじつけ」,とはっきり政府見解を「こじつけ」であるとしています。

こうしてみてくると,「憲法の番人」である法制局の見解は一貫して,集団的自衛権を「違憲」としてきたことが分かります。

ところが,現法制局長官の横畠裕介氏は,国会で「合憲論」を述べています。

つまり,宮崎氏は,横畠氏の憲法解釈について,「非常に問題のある解説をしている」と,横畠氏が72年見解を意図的に歪曲していることを
批判しています。

横畠氏は集団的自衛権をフグにたとえ、「全部食べるとあたるが、肝を外せば食べられる」など,厳密な法解釈を担う法制局のトップとして,
見識が疑われる発言をしています。

安倍首相は当初,外務省出身の小松一郎氏を法制局長官に抜擢しましたが,小松氏の体調不良で実現せず,代わりに横畠氏が長官に就任
しました。横畠氏は,安倍首相に対する「恩義」を感じているのだろうか?

この横畠氏の国会での発言について『京都新聞』社説 20151年6月25日,社説)は、「憲法よりも政権の意向を読み取るようになったのだろうか。
『法の番人』でなく、政府の番犬のようだ」と厳しく批判しています((注2)。

「私が総理大臣なんですから」という安倍首相の言葉の裏には,法制局は内閣の一部であり,その頂点には総理大臣であるから,法制局の見解
の適否は自分で判断できる,という意味も含まれています。

もう一度言いますが,これは,自分は,間接的にではあれ,憲法の上に立っているということを意味します。

つまり,安倍首相は,憲法に従うのではなく,憲法を自分の思い通りに従わせるという,立憲の思想とは全く逆の「非立憲」を強行しているのです。


(注1)この時の国会でのやり取りは,https://www.youtube.com/watch?v=EAfbJZi6K1E
    で動画で見ることができます(2015年月21日アクセス)
(注2)http://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20150625_5.html

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