大木昌の雑記帳

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安保法制案の閣議決定―うさん臭い「不戦の誓い」と自衛官の怒り―

2015-05-27 22:54:42 | 政治
安保法制案の閣議決定―うさん臭い「不戦の誓い」と自衛官の怒り―

2014年7月1日,集団的自衛権行使容認の閣議決定が行われました。

集団的自衛権の行使とは,日本が攻撃されなくても,日本の自衛隊が同盟関係にある他国(実質的にはアメリカ)の支援のために
海外で軍事行動をすることです。

この閣議決定の内容が実施されるためには,安全保障関連法案(以下「安保法案」と略す)が国会で承認される必要があります。

その安保法案が2015年5月14日に閣議決定され,19日から国会審議が始まりました。

この法案の中身については別の機会に譲るとして,今回は,まず,閣議決定された14日の夕方行われた,安倍首相の会見の中身
と,自衛官の反応を見ておきたいと思います。

まず,安倍首相の記者会見です。

会見の冒頭で,閣議決定の意義を次のように表現しています。

    70年前、私たち日本人は一つの誓いを立てた。もう二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。この不戦の誓いを将来
    にわたって守り続け、国民の命と平和な暮らしを守り抜く。この決意の下、本日、日本と世界の平和と安全を確かなもの
    とするための平和安全法制を閣議決定した。

この冒頭の,「不戦の誓い」を表明することによって,今回の安保法案が,あたかも「戦争を避けるための法案」であるかのような
印象を与えることを意図したとしたら,何と国民を馬鹿にしている発言か,というのが会見の模様をテレビでみて抱いた私の,率直
な印象でした。

法案の中身をみれば,そして従来からの発言を考えれば,どう考えても,日本の自衛隊が海外に出向いて戦争に参加することを意図
した法整備であることは明らかです。

それでも,冒頭に「不戦の誓い」を述べることで,いくらかでもそれを信じる人がいると踏んでいるからなのでしょう。

冒頭の部分に続いて,「もはや一国のみでどの国も自国の安全を守ることはできない。」と述べます。

ここは,一転して,日本が海外派兵して他国の戦争の支援をすることが必要であることの導入部に移ります。

それは,日本を取り巻く安全の環境が脅かされる事態が次々と起こっているからだ,という根拠を述べます。

そこで,ここは日米軍事同盟を強化し,アメリカの軍事力を頼みつつ,ある時はアメリカを支援しつつ日本の安全を図っていくべきだ,
という「不戦の誓い」とは逆の方向に話が進んでゆきます。

なぜなら,アメリカが他国に攻撃された場合,地球のどこであろうと日本は支援に回ることが想定されているからです(「周辺事態法」
の改正により)。

ことろが,この理屈だけを強調すると,軍事化への意志があまりにも露骨になってしまうので,少しトーンを下げます。
    
    日本の安全を脅かす脅威があるので,だから私は近隣諸国との対話を通じた外交努力を重視し、首相就任以来、地球儀を俯瞰
    (ふかん)する視点で積極的な外交を展開してきた。いかなる紛争も武力や威嚇ではなく国際法に基づいて平和的に解決すべき
    だ。この原則を繰り返し主張し、多くの国々から賛同を得てきた。外交を通じて平和を守る。今後も積極的な平和外交を展開し
    ていく。

外交により脅威を取り除くため,地球規模で積極的な平和外交を展開してきた,つまり,戦争を避けるための努力をしてきたことを強調
します。

しかし,よく考えてみると,安倍首相が積極的に外交を行った相手国を良く見れば,その大部分は,日本が経済援助をしようとしている
国が中心です。つまり,バラマキ外交だったのです。

その反面,日本の安全保障の面で,安倍首相がもっとも深刻な問題を抱え,脅威を感じている中国,対立の溝が埋まらない韓国,北朝鮮,
ロシアに行っての外交交渉は行っていません。

積極的な平和外交を展開しつつも,「同時に万が一への備えも怠ってはならない」とし,やはり,日本の武力行使を可能とする方向に話
をもってゆきます。

ただし日本の軍事力では脅威を防ぎきれないので,我が国の安全保障の基軸である日米同盟強化に努めてきた,という点が強調されます。

日本が攻撃を受ければ米軍は日本を防衛するために力を尽くしてくれる。その米軍が攻撃を受けても日本自身への攻撃がなければ、何も
できない、何もしない,ということでいいのか,という安倍首相の安保論が語られます。

つまり,アメリカの軍事活動の「後方支援」を行う,という集団的自衛権の行使を正当化しています。

他方,日本がこれまで,ペルシャ湾での機雷掃海,東南アジアでの国連平和維持活動(PKO)などを引用して,これからはさらに積極的に
海外でも軍事活動を展開してゆくことが,述べられています。

安保法案の個々の問題については,国会の審議をみて,再度触れるとして,ここでは安倍首相の会見に見られる表現と,今回閣議決定さ
れた安保法案の文言について見てみましょう。

今回の安保法案は,大きく二つに分かれます。一つは,「平和安全法整備法案」で,これは10の法案を一つにまとめたものです。

もう一つは,新たに設ける「国際平和支援法案」で,これは,国際平和のために活動する他国軍を支援する恒久法です。

この法案には大いに問題はありますが,今回はそれには触れず,次の点だけを指摘しておきたいと思います。

上記二つの法案にはいずれにも「平和」という文言が入っています。

これらの法案が戦争への参加を可能にするものであるからこそ,ことさら「平和」という文言で,その本質を隠し薄めようとする意図が
露骨に感じられます。

それだけに,「平和」という文言が一層「うさん臭く」響きます。

これは安倍首相の会見の冒頭で,「不戦の誓い」という言葉を聞いたときに感じた「うさん臭さ」と同じです。

両方とも,本質を隠すための修辞法(レトリック)―この場合,ごまかしのテクニックというニュアンスで―です。

ところで,安倍首相の会見を聞いた自衛官はどのような印象をもったでしょうか?

もちろん,立場上,正面切って言えないこともあるでしょうし,緘口令が敷かれた職場もあるので,大半は「命令があれば行きます」と答
えてはいるものの,本心は分かりません。

10年ほど前に,イラクに派遣された陸上自衛隊の幹部は,「現場を知らない官僚や政治家が作り上げた法案。隊員が殺し,殺される,血
なまぐさい話が退けられている」,と,核心を突く点を指摘しています。

そして,現在進行している安保法案審議について,「自衛官の命の問題と向き合わない机上の議論が進んでいる」と,これまた核心を突く
批判をしています。

また,「駆けつけ警護」について,「武器の使用は必要最小限にとどめると政府は言うが,手持ちの火器でやみくもに応戦しても,犠牲が
増えかねない」と話しています(注1)。

さらに,14日に閣議決定がなされたことを受け,現役の自衛隊員からは,海外で大幅に広がる自衛隊の活動に批判と不満が聞かれました。

関東地方のある陸上自衛隊員によると,仲間内では安保法制の話題が出たとき,「海外派遣? 駆けつけ警護? ふざけんな!」と口を
そろえたという。

「復興だったら喜んで海外にも行くけど,他国の戦争にこちらから出かけて行って参加したくない」というのが若い世代の本音だという。

「すくなくとも私の周辺では,今の政府の行動に賛成している者はいません。余計なことをするな,のひと言に尽きます」

こうした,隊員の本音を聞いたら,安倍首相はどう感じるでしょうか?

政府に批判的なのは,若い隊員だけではありあせん。

航空自衛隊のベテラン隊員は「外国を守ることに使命感を持っている隊員はほとんどいない。そうした隊員が多い中で法が制定されても,
実戦に対応できるのか」との戸惑いをみせています。

元自衛官の泥憲和氏は「安倍首相は戦争の実態をよくわかっていない」と批判しています。

また泥氏は「身も知らぬ国に行って殺し殺されるのが自衛官の仕事ではない」という自身の信念をのべ,昨年から安保法制に反対する公演
を80回行ってきました(『東京新聞』2015.5月19日)

(注1)『朝日新聞 デジタル版』(2015年5月15日) 
   http://digital.asahi.com/articles/ASH5D774SH5DUTIL04K.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASH5D774SH5DUTIL04K


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【いぬゐ郷だより】ここ10日ほど,佐倉の水田の田植えをしています。機械を使わない手植えで。おまけに,
 不耕起栽培なので,去年の雑草を取り除きながらの作業なので,非常に時間がかかります。現在は2人ほどでやっているので,
 4枚の田んぼの田植えが全て終わるのは早くて6月半ばころでしょう。



去年の雑草を抜きつつ苗を植えてゆく



田植えの終わった1枚の田んぼ



里山と谷津田の風景    







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